残り時間もあと半分となりました。
原宿
2人がバトルを繰り広げていた頃、原宿は引き続きマイペースで前進し、「社会」エリアに。
『推し、燃ゆ』
[宇佐見りん(著)・河出書房新社] 逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。
最近、この本の校閲を担当した大西寿男さんって方が、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演されていて。
どんな内容だったんですか?
これが、めちゃくちゃすごかったんです。
校閲って、誤字脱字の訂正とか、ファクトチェックとか、そういうイメージがあったんです。でも、大西さんは、小説の一文を丸ごと削ったりするんですよ。「この一文がない方が、説明的にならなくていいんじゃないか」とか言う。そんなに内容に踏み込んでいいの!?ってびっくりした。
このキャラクターならこういう時にこのような言い方はしないんじゃないか、とか、それくらい作品に深く入っていくんです。で、作家の宇佐美さんの方も、削った方が説明的じゃなくてよくなった、と感謝していたり。もはや編集者に近いというか、共著じゃん、って。
他にも大西さんは、図書館とか行ったりして、徹夜で言葉を調べたりするんです。そこまでやっても校閲の単価や報酬は変わらないのに、「自分は言葉に対して責任を負ってるから」と。すごいな、マジでプロフェッショナルじゃん、って。大西さんのような人に、言葉というのは日々支えられているんだと思いました。
ところで、さっきから誰も見かけないんだけど、本当に今、本屋ダンジョンってやってる?
みくのしん
バトルに負け、その場で5分間停止中のみくのしん。
やべえとこに停められたな。
「精神世界」と、
「論理学」に挟まれてる。
きいいいいいいいいい
おかしくなっちゃった。
停止中でも、その場にある本棚は見られますよ。
怖いけど、なんか見てみようかな…
え!?
この本、変だよ。こっちから開くの?
左開きになってますね。
普通、国語ってこっち開きじゃない?
国語の教科書は確かに右開き。
これは算数ってこと?
そういうことではない。
この本は、横書きだからですね。横書きだと、左から文章が始まるから、本は左開きになるんです。
はあ〜!
本って深いな。
開き方ひとつでも印象変わりますよね。
いや、ほんと本ってすげえよ。この一冊の中に、作者が考え続けたいろんなことが、全部詰まってるわけでしょ。それが千円とかで読める。好きなところで、自分のタイミングで読める。これはやべえこと。
本の魅力を伝える力がすごい。
本の良さは、かなりわかってるんだよ。ただ読めないだけ。
もう、こうやって本を吸いたいもん。
吸う?
情報をさ、本の。で、この本はこうで…みたいな話をしてみたいね。恐山さんとかよくやってんじゃん。あれ、憧れるんですよ。
みくのしんさん、向いてると思いますよ。
恐山
その恐山は、バトルで増えた所持金を抱え、さらなる本を求めて「文庫」コーナーにいました。
前回の反省として、もっと文庫を見ればよかったと思って。価格的にも手に入りやすいから、一冊ぐらい入れておきたいなと。
『ケガレ』
[波平恵美子 (著)・講談社学術文庫] 様々な民俗事例にあらわれたケガレ観念を追い、信仰行為の背後にあるものを明らかにする。
いいタイトルだ。1000円で買えるし、民俗学って全然わからないけど、そういうわからない分野の本を買うのもいいんですよね。
『えーえんとくちから』
[笹井宏之 (著) ・ちくま文庫] 惜しまれながら二十六年の生涯を閉じた夭折の歌人のベスト歌集が待望の文庫化。
笹井さんの歌集だ。これはまだ持ってなかったから買おうかな。
文庫は躊躇なく入れられるからいい。文庫で刻んでいく戦略はありですね。
でもこうして油断すると、知ってる作家ばかりが目に入っちゃうな。意識的に知らない作家を見てみないと…
あ。
やっと人に会えた。
バトル発生!
先攻:恐山
私はこの一冊を…
『統合失調症の一族』
[ロバート・コルカー (著), 柴田 裕之 (翻訳)・早川書房]精神医療史の画期をなした一家の驚きの記録。
あ、これネットで話題になってた!
統合失調症って病気があるんですが。実は発症の原因が未だによくわかってなくて、 100 人 1人がなるって言われている割に、遺伝なのか環境なのかがわかってないんです。で、この本で出てくる家庭では、12 人のうち6人がその病気にかかってしまう。
原因はなんなの?
それはまだ読んでないからわかりません。
でも、あのオバマが年間ベストブックって言ってますから。
オバマの力を借りようとしてない?
This is the best book.
そんな簡単な言い方してないだろ。
表紙の写真も、力があっていいでしょう。
すごいよね。まあでも、話題の本だからなあ。
「話題の本」で牽制してる?
後攻:原宿
恐山は博学だけど、やっぱりまだまだ知らない世界がある。そこにもっと飛び込んで欲しいなと思って、これです。
『実戦で使える!エルモ囲いの手筋』
[渡辺和史 (著) ・マイナビ出版] エルモ囲いの手筋を紹介する戦術書。
エルモ囲い!?
すごくない?将棋の戦術だってことはわかるんだけど、なんでエルモなんだろなって。なんでセサミストリートが関係してるんだろうって。
そのエルモなの?
それはわからない。なんでエルモなんですか?
「elmo」という将棋 AI がありまして、そのAIが編み出した戦術なんです。
すごいな。今はもう人間が、AI の作った技術を学ぶ段階なんだ…。恐山ってAI好きでしょ?
確かにエルモ囲いは知らなかったけども。
ジャッジ!
審議の結果…
勝者は原宿さんです!
っしゃあああ!
新しい世界を広げる、という観点のプレゼンが良かったです。
あと、僕らも将棋が好きなので。
審議に私情が入ってる。
これで原宿、恐山の2人の所持金が6,000円になりました。
そしいよいよ、終了時刻が近づいてきます。
みくのしん
未だ勝利のないみくのしんは、写真集コーナーに滞在していました。
画像がいっぱいあって落ち着く。
写真集もいろんな種類がありますね。
最近篠山紀信の写真展に行って、写真好きかも…と気づいたんだよね。
あ、これいいかも!
『レトロ家電デザイン ’60s~’80sのライフスタイルをのぞく』
[ジェロ・ジーレンス (著), 海野 桂 (翻訳)・グラフィック社] 1960~80年代の優れたデザインの家電製品を紹介する。
これも本ですか?
はい、本です。
本って言っても色々なんだなあ〜。文字だけじゃない。
これ、昔のいろんな家電が載ってててすごいかっこいい。一周回ってかっけえな。
このコーナーの本、かなり気になるかも。でも、気にならされてるかも。もしかして、本棚の置き方がなんか違う!?
特に見せたい本は「面陳」と言って、表紙が目立つように陳列していますね。
ほら!なんか、悔しいよ。
何と戦ってるんだ。
これ、厚さもすごくいいなあ!いいパンみたい。ふかふかのパン。
でも、ちょっと高いんだよな。お金が足りない。
パンみたいな本は、高い。
さっきバトル勝っときゃなあ〜。
あ。
原宿さんじゃん!
バトルしましょう!
おい!!!
逃げんな!!!!
なんで逃げんだよ!!!
はあ、はあ、はあ….
撒かれた…。
本屋で撒かれるってあんの?
撒いた…。
なんで逃げたんですか?
もう時間ないから、色んな本を見たくて…。
あ〜人文コーナーって落ち着く。この本とか気になるなあ。
『自己啓発の罠』
[マーク クーケルバーク (著), 田畑 暁生 (翻訳) ・青土社] 自己啓発の罠から抜け出すための新しい自己の概念と社会変革がなぜ必要なのかを示す。
確かに、自己啓発や成長って罠だなあと思うことがあるんですよね。能力や数字を高めていくのって、果たして誰にとっての「良い」なのか?と。良くするつもりで良くなっていないことっていうのを、自分もやっちゃってるかもな~って思いますね。
あ! この本は僕がめちゃくちゃ影響を受けたやつだ!
『断片的なものの社会学』
[岸 政彦 (著)・朝日出版社] 小石も、ブログも、犬の死も、すぐに私の解釈や理解をすり抜けてしまう。それらはただそこにある。
人生は、断片でできている。
さっきも『ストーナー』で言ってましたね。
やっぱり、こういう話が好きなんだろうな~。この本は感銘を受けすぎて、なかなかうまく言葉にできないのですが…
生きていると「無意味なのにかけがえがない」「無意味だからこそかけがえがない」ってことが多々ある気がして、この本を読んでいると「小さく見えることほど実はとんでもない」という感覚に段々なってくるんですよね。オモコロに載っているような記事も一見小さい話が多いんですけど、小さくて断片的だけど、確実に自分の記憶や人生だったと言える出来事っていうのは誰にもあるのかなと。必ずしも「大勢にウケる」って内容じゃなくても、その断片の一つ一つが世の中にあったってことのとんでもなさ……
とんでもなさ!
とんでもないですね。
恐山
終了時刻が迫ってきました。原宿とのバトルに負けた恐山は、そのまま文庫コーナーで、静かに最後の時を過ごしています。
いい棚だ。ここで終わってしまうのも悪くない。
『人生をいじくり回してはいけない 』
[水木 しげる (著)・ちくま文庫] 水木サンが見たこの世の天国と地獄をユーモアたっぷりに綴ったエッセイ。
人生をいじくり回してはいけない。なんていいタイトルなんだ。
こう言われると、確かに自分は人生をいじくり回してしまっているなあと感じる。
水木先生の言葉は素晴らしい。
みくのしん
あ〜!
気になる本が…
いっぱいあんなあ!
金が足りねえなあ!
時間もねえなあ!
どこだよ!
見つけたあああ!!!
バトルしようぜ!!!!!
なんで嫌そうなんだよ。
不意打ちで2000円をとりにきてるじゃん。
そういう企画でしょ。
ビブリオ盗賊めが。
もっと人文書を見たかったのに…
バトル発生!
まもなく終了というところで、人文エリアで最後のバトルが発生しました!
先攻:原宿
全然準備してなかったな。もう、今見てたこの本でいくか。
『したいけど、めんどくさい』
[パッハー・アリス (著)・晃洋書房]現代日本において、男女はどのような性意識・性行動によって、セックスレスになっていくのか。
これ、セックスについての本なんだけど。
うん。
前回もセックスの本を選んだんだけど、セックスが無ければみんな生まれてないのに、やっぱりどこか大っぴらに語れない雰囲気があると思うんだよね。
そうだね。
で、この本には、「セックスしたい気がするけど、めんどくささが勝っちゃう」という人のインタビューが載っている……らしい。
なるほど。
これを読んだら、どうやってその悩みを乗り越えられるか、がわかるかもしれない……のかな? 多分。
めちゃくちゃふわっと紹介したな。
後攻:みくのしん
『太宰治 創作の舞台裏』
[日本近代文学館 (編)・春陽堂書店] これまで紹介されることの少なかったノート・原稿・草稿・写真など、貴重な資料をフルカラーで掲載。
太宰治だ!
これ、太宰治が書いた本じゃなくて、太宰治についての本なんです。
みくのしんが太宰を持ってくるって、もうめちゃくちゃバトルのための用意じゃん。
用意とかないから。
太宰治が、メロスをどういうふうに創ったのか…気になりませんか?
まぁ……。そういう創作論的なことが書いてあるってこと?
わかりません、でもこれ、イラストがたくさん載ってる。
見やすい。
え、太宰治ってこんな絵描いてたの!? でもこんな出すつもりのないもん出されたら、本人は恥ずかしいんじゃない?
太宰治としては恥ずかしいかもしれないけど、すごい貴重ではあるはず。
帯もすごいから。
「太宰治の文学は、どのように生み出されたのかー」
この「ど」のフォントがすごい。イカしすぎの「ど」。
そこ?
やっぱりメロスがすごかったから。その人が何を考えながらあれを書いたのかって、知りたいんですよね。だからこの本。
ジャッジ!
審議の結果…
みくのしんさんの勝ちです!
よっしゃあああ!
本もそうですけど、最初よりもみくのしんさんが自信を持って、自分の言葉で勧めている感じがしました。
一生懸命に魅力を伝えようとしている姿勢が響きました。
「頑張ったで賞」みたいで、ちょっと恥ずかしい。
みくのしん、初勝利!これで全員の予算が6,000円になりました。
そしてここで….
ダンジョン終了です!
やっぱり時間足りなすぎる…。
カゴにキープした本の中から、予算内で本を買ってください。
選ぶのむずっ!全部欲しい。
絶対に欲しい、という本に絞るしかないですね。
それぞれ6,000円(税抜)以内で買う本を厳選し…
買いました!