今年もこの季節がやってきた。

読書の秋、すなわち、

 

 

こんにちは。ライターの岡田悠です。

光あるところ、影あり。
読書あるところ、積ん読あり。

みなさん、積ん読してますか?

いつもは罪悪感がつきまとう積ん読ですが、たまには光を当て、むしろ自慢してみようというこの企画。

昨年秋に開催された第一回では、「読んでない本を話し合って盛り上がるか?」と懸念されましたが、思いのほかヒートアップして味をしめたので第二回を開催します。

ルールは簡単。それぞれ自慢の積ん読本を語ってもらい、一番魅力的な積ん読が優勝です

今回の参加者はこちら。

岡田悠:企画者。学生時代は図書館にしか居場所がなかった。

原宿:編集長。最近本棚が壊れたが、本棚を買い直すという作業の途方も無さの前に放置している。

ダ・ヴィンチ・恐山:小説家。ブックオフに通いすぎて、店員より在庫に詳しくなるという青春時代を送った。

寺田大熊猫楠:漫画家。風呂で本を読むことが多いので、ほとんどの本がちょっとシワシワになっている。

 

そして審査員は、前回大会で見事優勝した「現・積ん読王」がつとめます。
本は置いてあるだけでプラスの影響を与える磁場を生む、という「積ん読磁場論」を展開するなど、その鋭い積ん読観が注目を集めました。

 

それでは、

 

積ん読王決定戦の、始まりだあああああ!

 

まずは現・積ん読王のお手本から

まずは例として、こちらを。『わが人生の幽霊たち――うつ病、憑在論、失われた未来』です。

こわっ。

いきなりすごいタイトルだ。

マーク・フィッシャーという思想家が書いた本です。「資本主義リアリズム」っていう本でも有名な人ですね。どっちも読んでないけど。

哲学書ですか?

半分エッセイで、半分思想が語られています。新反動主義とか、加速主義とか、そういう最近の思想に加えて、音楽とかポップカルチャーも併せて論じられているんです。

面白そう。どういう主義なの?

 

いまのはWikipedia情報なので、そこまではわかりません。

難しい本ってまずWikipediaで読みますよね。

普通に読めばいいのに。

でもこれすごいですよ。目次がめちゃくちゃかっこいい。

 

「失われた未来」、「ゆるやかな未来の消去」、「我が人生の幽霊たち」。

オモコロ記事のタイトルにしたい。

「憑在論的ブルース」。

引用したい…。

思想家が「幽霊」って言うと、だいたいかっこいい。

本文も適当にめくってみましょうか。えーと…

 

「もはや失われたということが失われた。」

え、俺、そういうテーマめちゃくちゃ興味あるよ。インターネットの普及によって、全てが記録されるようになってしまった。忘れられる権利とか、デジタルタトゥーとか、そういう話じゃないの!?

 

あ、たぶん。

読まないと具体例がわからない。

あとこの本がすごいのは、背表紙が…。

 

 

横書きになっている…!

積みやすい…!

もう積むための本じゃん。

今回は積ん読の風景も審査対象になるということで、写真を持ってきました。

 

 

右上のか。やっぱり横置きなんですね。

積ん読映えしますね。

本棚は二列になっていて。見せたい本を手前に持ってきてます。

あー、僕もそれやります。奥には見せたくない本を置くやつ。

奥の列には何が入ってんの?

「ビジネスマンは筋トレやろう」みたいな本。

「憑在論的ブルース」と雲泥の差だな。

という感じで、いま一番積んでいる本をみんなで見せ合いましょう。

とても積みたくなりました。

王者にふさわしい一冊ですね。

 

寺田大熊猫楠の積ん読本

そういえば寺田さんは漫画を出版されてますよね。自分の漫画が積ん読されたら、どう思うんですか?

どうだろう、考えたことなかったな。

積ん読の罪悪感の根元って、作者や編集者など、いろんな人の「読んで欲しい」という期待に応えられていないことだと思うんです。だから作ってる側はどう思うのかなって。

 

自分の場合は、たぶんどうも思わないですね。むしろお金を出して買ってくれてるぶん、ありがとうという感じ。

日本の読書人口ってたかが知れていて、ベストセラーになるには「読まない人」が買う必要があるって話を聞いたことがあります。

積ん読が書籍市場を支えている?

読まない人が欲しくなるのが重要なんだ。

買った本を全て読むという前提こそを直すべきなのかもしれない。

どんどん自信が湧いてきたな。

今日持ってきたのはどんな積ん読本ですか?

これです。『黒死館殺人事件』。

 

あ〜出た!

奇書ですね。

そうです。三大奇書の1つ。

『ドグラマグラ』と『虚無への供物』は挑戦したけど、それは読んでないな…。

本好きは大体その2冊はチャレンジするんです。僕もそうでした。でも、黒死館殺人事件になかなかたどり着けない。

装丁がかなり古いですね。いつから積んでるんですか?

だいたい……16年くらい。

16年!?

歴史的積ん読だ。

ミステリー小説にハマった時期があって。その時に買ったんですけど、これは読めなかった。めちゃくちゃ難しいんですよね。

帯にもう、

 

読了しただけで、他人に誇れるミステリって、そうはない!!

って書いてあるもん。帯が積ん読を公認している。

実際、読んだら誇れると思います。暗号解読とか、占星術とか、精神分析とか。とにかくどんどん本筋から逸れた話が展開されるんですよ。それがあまりに難しくて、奇書と呼ばれています。

適当にめくってみたら、確かに星座の図があるな。

そんなページあったのか。

なんで16年間持ち続けてるんですか?

なんか愛着が湧いちゃって。

愛着積み。

本が溜まったら実家に送ったりするんですけど、これだけは手元に残しておきたい。ちょっと捨てられないなと。

全く読んでないんですか?

2行くらい読んだかな。

16年で2行。

もはや読むのがもったいない。

ネタバレになっちゃうかもしれませんが、最後のページの単語だけみてみましょうよ。

たぶん読んでもわからないので、大丈夫だと思います。

最後の単語は…

 

閉幕(カーテンフォール)。

閉幕(カーテンフォール)…!

どこかで使いたい。

ちなみに家ではこうやって積んでいます。

『ウンコな議論』のとなりにある。

背の高さが均一で、きれいな並べ方ですね。

これは芸術点が高い。

16年も一緒だからか、やっぱり収まりがいいな。

 

の評価

本のセレクションとしては王道なんですが、なにより16年間という年月の長さが素晴らしい。もはや人生の一部とも呼べる一冊。すぐに読んで捨てた人より、寺田さんの方がある意味「読んでいる」とも言えるのではないでしょうか。

 

原宿の積ん読本

僕はこの一冊を。『謎のチェス指し人形 ターク』。

 

またすごいタイトルだ。

これ、実は本自体がどうこうというより、4年くらい前にオモコロライターの「みくのしん」にもらったんだよね。

欲しいと言ったんですか?

一言も言ってない。突然渡された。

なんでそんな本を。

もっと無難な本があっただろ。

そもそもみくのしんさんって本読まないんですよね?

もう10年くらい読んでいないと言ってました。

だからこの本も読んでないらしい。

ますます謎だな。

小説ですか?

 

小説なんだけど、歴史物語でもあり、ノンフィクションでもある。「ターク」というチェスを指すカラクリ人形が18世紀に実在したんです。

実際にあったんですね。

そのタークが、数多くのチェスの名人に勝利した。もちろんそこにはトリックがあるんですが、その謎を解き明かすようなミステリーにもなってるんですよ。それでいて、現代のスーパーコンピューターまで歴史がつながっていくという側面もある。

すごい面白そうじゃないですか。

評判も良くて、面白そうなんだけどね。でも読めない。

もらったから?

そう。人からもらった本って、読まながちじゃないですか?僕も奥さんにたまに本をあげるけど、全然読まれない。

強制されてるというか、ちょっとプレッシャーを感じてしまいます。

課題図書になった途端、読まなくなるみたいな。

本って出会い方が大事なんですよ。気持ちが整った状態で出会わないと、読めない。

わかります。本を読むってそもそもが難しい行為だから、一番高まった瞬間に触れないと、そのまま読まなくなる。

だから僕は逆に、みくのしんに、

 

この本を読む機会を奪われたと思っています。

そこまで言う?

読めばいいじゃん。

だって、本を見つける喜びみたいなのもあるから。

ありますね。人からもらうと、本へのエロスがなくなる。出会いの情動がなくなるんです。

積ん読を詩的に語っている。

でも、本ってあげたくなりますけどね。あげるの気持ちいいから。

それが同時に、恐ろしくもある。仲のいいみくのしんさんだからこうやって冗談にできるけど、例えば上司にもらったと思うと。

ハラスメントになりかねないですね。

積ませハラ。

タークをあげる上司なら、好きになっちゃいそうだけどな。

あげる方としても、「別に積んでもいいよ」って気持ちであげるべきということか。

この本をもらったあと、読んだかどうかは聞かれたんですか?

聞かれた。読んでいないって言ったら、もう本をくれなくなった。

今回ぜひ読んでみて、みくのしんさんに感想を伝えて欲しいですね。

ちなみに家ではこういう風に積んでます。

 

 

傾いてる。

中段が積み専用スペースです。

その上段にあるのは…。

あまり人には見せたくないスペースです。

『人を動かす』、『影響力の武器』、『7つの習慣』…。

売れた自己啓発書を全部買ってる?

オモコロの運営に活かしている?

ライターに影響力を行使している?

だから見せたくなかった。

 

の評価

本自体よりも、シチュエーションを重視した積ん読でした。「コミュニケーションにおける積ん読」を明示したという点で、新しい切り口を開いた点が評価に値します。本棚は怖かったです。

 

ダ・ヴィンチ・恐山の積ん読本

私は、最近全てこのiPadで読んでます。

 

 

きた!電子積み!

トップにあるのは読んだ本?

そうです。

『らーめん才遊記』と『大食い甲子園』は読んでるんですね。

食い物漫画は大体読んでいます。

何冊あるんですか?

一覧からフィルタをかけると、未読の蔵書数が確認できます。

748冊!?

桁が違う…。

スクロールしきれない。

 

しかしこうして眺めると、知らない本がいっぱいあるな。

買ったことも覚えてないんだ。

何割くらい読んでるんですか?

既読も含めると1000冊ちょっとあるので、読める確率は3割程度と計算されます。

野球だと好打者ですね。

電子だと読まなきゃというプレッシャーも感じないからね。知らず知らずのうちにどんどん積まれてしまう。

にしても多すぎないですか?

セールになった時に一気買いしちゃうんですよね。『なかよし』が10円セールだったことがあって、それも大量に積んでいます。

 

 

なかよしを積むことなんてある?

こういうのって、電子ならではだなあ。1000冊は家には置けないもん。

でも私はこの買い方を完全に肯定しています。このiPadを、ただの本屋だと思ってるから。自分が読みたい本だけが揃った本屋。

わかります。自分だけのミニ本屋を作りたい。

そこまでいくと、読むということが奇跡ですね。

『らーめん才遊記』は奇跡。

その中でも今回お伝えしたいのが、『スレイヤーズ 合本版』です。

 

合本版!複数巻が1冊にまとまってる本ですね。

合本版はよくKindleでセールやってるんですよね。ただ、ほとんど読めない。

合本版は重いからなあ。

この合本版も、15冊が1冊になってます。

その量で、748冊のうちの1冊カウントなのか…。

スレイヤーズって、漫画ですか?

いや、小説です。90年代に人気のあった、ライトノベルの走りとされている作品です。

それだけ聞くと、読みやすそう。これまで未読の合本版を読んだことはあるんですか?

かつて一度もありません。

じゃあもう読まないじゃん。

でも買ったことは全く無駄だとは思っていません。スレイヤーズ合本版が積ん読にあるおかげで、読める本があるから。

どういうこと?

スレイヤーズ合本版が、積ん読の地層の底で反発力を作っているんです。

反発力?

「くっ」っていうエネルギーが生まれる。

くっ?

図にしてみましょう。

ここにスレイヤーズ合本版があります。

 

そこから反発力が生まれている。

 

だから反発力ってなに?

この反発力を利用して、他の本に手が届くんです。

 

他の積ん読を読もうか、スレイヤーズ合本版を読もうかって比べたときに、「合本版」という重さがそこに立ちはだかる。そうすると代わりに他の積ん読に手が出るんです。

ハードルの高い合本版があることで、他の本のハードルが下がるということ?

そういうことです。合本版の反発力の勢いで、新しい本が読める。これまで手が届かなかった本に手が届く。そういう物理学です。

そう言われると、本棚に合本版があることで、安定力が増す気はするな。

これが合本版反発理論です。

老後になったら700冊を読むのかな?

一日一冊買ってるから、永遠に追いつくことはないでしょう。

獄中だったら読むんじゃないかな。

確かに獄中が一番集中できそう。

積ん読刑務所を作りましょう。

でも必ずしも読む必要はないと思ってます。蔵書って、薬箱と同じなんですよ。

薬箱?

病気になったりして、必要になったときに取り出せばいい。

 

 

それで読まずにすんだのなら、それもまたいい人生なのかと。

 

 

ほお…。

確かに..。

いや、

詭弁では?

危ない、いま納得しかけた。

なるほどと思ってしまった。

 

 

の評価

積ん読とは「読む」と「読まない」の間で揺らぐものですが、この量と合本版という組み合わせは、ああ、この人はもう読まないんだろうなと思わされました。電子ですがある意味男らしい、べらんめえな積ん読だったと思います。

 

岡田悠の積ん読本

僕の中の、渾身の積ん読本を持ってきました。

 

 

なにこれ!?

『ゾミア』です。

ゾミア!?

ああもう肌触りがいい。

思わず触っちゃう…。

なんて禍々しい装丁だ。

これはかっこいい…。

まあ落ち着いて。とりあえずページをめくってみましょう。

あ〜でた〜!

二段組みだ〜!

やった〜!

どんな本なんですか?

実は、あとがきだけ読んだんですけど。

あとがきだけ?

人類学者が書いた本で、ゾミアっていうのは東南アジアのとある山岳地域を指しています。そこに実は、「国家に属していない」人が大勢住んでいる。そして彼らは国家に支配されないよう、意図的にそういう生活を送っているというんです。

流浪の民みたいな?

狩猟と焼畑で暮らしています。稲作をしていない。

稲作すると、定住しなくちゃいけないから?

そうです。あと、稲作は支配システムと相性が良いですから。

すぐ税金を計算できるもんね。

ポイントは、そういう人たちは従来の世界史観だとある種「文明に遅れた存在」だとされていたんです。でもこの本が主張しているのはその逆で、彼らは国家の支配を拒否している。戦略的に文明から逃げているんだと。という本らしい。

めちゃくちゃ面白そうですね。

あとがきだけでそこまで語れるんだ。

かなり充実したあとがきでした。

興味は湧くな。

ただ、この本は賛否両論を巻き起こしたようです。批判も大きいらしい。Wikipediaの情報ですが。

またWikipediaか。

試しに適当なところを読んでみましょう。

 

 

「ブドウを育ててはいけない。お前も縛られてしまうから。」

なんかかっこいいな。

ブドウを育てると、定住する必要があるってことか。余剰を産むなって思想なんだろうな。

それは読書メーターに書いてあった気がする。

今度は読書メーター?

とにかく税金が嫌なのかな。

確定申告とか大嫌いだろうな。

これから確定申告の度に、ゾミアを思い出すかもしれない。

それにしても、文量がすごいですね。

フィールドワークをゴリゴリやる研究者らしいので、現地の生活なんかが詳細に書かれているんだと思います。たぶん。

読んでないと、やっぱり具体例がわからない。

あと、翻訳者が6人もいるんですよね。

そんな本を読めるはずがない。

そして値段が、6,400円。

するな〜!よく買ったね。

結構迷いました。でも欲しかった。読めないだろうな、と薄々感づいていたけど、買ってしまいました。

やっぱ、名前だな。ゾミア。

ゾミアじゃなくて、「東アジアにおける人類の〜」みたいなタイトルだったら手に取らない。

漫画でわかるゾミアが欲しい。

新入社員が仕事でつまづいている時に、上司が「君、ゾミア読んでみないか?」って勧める漫画。

普通に面白そう。

でもそれは電子で買うかな。漫画でわかろうとしてると思われたくないから。

ちなみに家では、こうやって積んでいます。

 

 

『HUNTER×HUNTER』の横じゃん。

36巻、2冊ないですか?

これは普通に間違えて買ってしまった。

すぐ目に入るところに置いておくということですかね。

そうですね。HUNTER×HUNTERを読み直すたびに、ゾミアが常にチラつく。国家の枠組みに囚われない人々がいることに、思いを馳せるんです。

積んでおくことで、想像が広がる。ポジティブな積ん読ですね。

あとは有名な漫画の横に置いておくことで、さも読んでいるかのように見えるという効果もあります。

誰に?

たしかに、よく読む本と積ん読本を同じ場所に置いておくと、飼育されて読めるようになるかもしれません。

飼育?

だんだん馴染んでいくというか。身体の延長線上にある気がして読めるようになる。

ゾミアを読める日まで、この赤い装丁を飼育します。

 

の評価

ゾミア。とにかく言いたくなる。装丁に一気に惹きつけられました。積んでいる理由もポジティブですし、積ん読道のど真ん中を行っている感じがして非常によかったです。

 

果たして新・積ん読王に選ばれたのは …?

以上、4人の積ん読が出揃いました。

この中から、現・積ん読王にベスト積ん読を選んでもらいます。

 

いや、迷いますねこれは。

 

 

まじで迷うぞ…

 

 

決めました。

 

 

ダ・ヴィンチ・恐山さんです!!!

やった〜!

 

の総評

今回ポジティブなものから消極的なものまで、タイプの違う積ん読が勢ぞろいして非常に迷いました。しかし恐山さんの「合本版反発理論」については、本を積むという行為に対してポジティブでもなくネガティブでもなく、第三の道を示しました。その革新性を評価して、積ん読王の称号を引継ぎたいと思います。

 

ゾミアが電子本に負けるなんて…。

 

 

秋が深まる。本が積まれる。読む人生は素晴らしいが、読まない人生もまた素晴らしい。

こうして積ん読王の座は引き継がれ、第二回積ん読王決定戦は幕を閉じたのである。

 

そう、

 

 

またいつかの積ん読の季節にお会いしましょう。

 

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