ハンドアウト・海洋研究者
あなたは定命の者ではない。あなたは神社に来る前から不死者だった。
あなたの正体は、人魚の肉を口にした「不老不死の男」である。
【表の顔】
「海洋研究者の◯◯ってモンだ。漁村で生まれ育った俺は、海の怖さも、偉大さも、神秘性もよぉく知ってる。俺は母なる海の研究を通じて「生命のロマン」を感じたい。べつに長生きしたいとは思わねえけど「不死の秘術」には興味あるぜ。だってめちゃくちゃロマンだろ?」(外見の年齢:20歳〜30歳)
【裏の顔】
あなたは不死者。かつて人魚の肉を口にした「不老不死の男」である。あなたの細胞は老化を止め、若々しい体を保っている。
50年前、あなたが生まれ育った漁村に幼い人魚が流れ着いた。人魚の肉は不老長寿をもたらすとされる。永遠の命に目が眩んだ漁村の民は、人魚を捕らえ、犯し、監禁した。
人魚は小さな子どもだ。食える肉の量はそう多くない。村人全員の腹には収まらないだろう。不老不死になる権利を巡り、村人は殺し合った。その生き残りがあなたである。
あなたは喜んで人魚の腕を切り落とし、肉を口にした。嬉しい誤算は、どれだけ血を流しても人魚は死なず、念じさせれば新しい腕が生えてきたことだ。それから何十年もの間、あなたは人魚を切り刻み、全身を貪り続けた。満月の夜、人魚は安っぽい手作りのペンダントを握りしめて祈るように歌う。あなたはそれを聞きがら酒を飲むのが好きだった。
ぐうたらな神にようやく祈りが通じたのだろうか? 今から5年前、あなたの隠れ家は津波に襲われ、その隙に乗じて人魚は海へと逃げてしまった。あなたが海洋研究者になったのは、人魚を見つけ出し、再びその肉を味わうためだ。それほどにあの肉は美味だった。
そして現在。旧荒鬼神社の伝承を知ったあなたは、「不死の秘術」とは人魚の肉に違いないと確信している。あなたが神社にやってきた目的は、人魚の肉を手に入れることだ。そのためならば、50年前と同じように、邪魔者を皆殺しにしても構わない。
儀式前日の行動・海洋研究者
儀式前日:15時
S県の山間部。道なき樹海を歩くこと数時間。あなたの目の前に人工的な広場が現れた。広場入り口の鳥居をくぐると、立派な本殿に向かって石畳が続いている。ここが「旧荒鬼神社(ぐあらきじんじゃ)」に違いない。本殿の隣には離れの建物があり、こちらは神主たちの住居として使われているようだ。
本殿の後ろには乳白色の湖が広がっている。やはり人魚がいるとしたら湖だろうか。あなたは声なき声に誘われるように湖畔へ足を運んだ。ふと水際に目を向けると何かがキラキラ光っている。
それは大きな魚の鱗だった。このサイズの鱗なら、全長は1メートル50センチから2メートルほどだろう。予感が確信に変わる。人魚はこの神社にいる。
興奮冷めやらぬまま広場に戻ると、20歳前後と思われる美しい巫女が立っている。まさかとは思うが、こいつが人魚か? 巫女は優しい表情で話しかけてきた。「不死を求めていらした参拝者の方ですか?」。
「ああ、そうだ。俺は人魚を探しに来た」。カマをかけてみる。が、巫女は動揺するそぶりを一切見せずに微笑んだ。「あちらの方にも似たことを言われました」。巫女が指し示した方向には、テレビか何かで見た女性が立っている。確か……グラビアアイドルだ。
離れの建物は宿泊施設になっていて、すでに(あなた以外に)4人の参拝者が到着しているらしい。あなたも客室に案内され、荷物を置いてしばし休んだ。
儀式前日:19時
夕食の時間。5人の参拝者は簡単な自己紹介を済ませた後、揃って巫女が出した食事を取っていた。ただし、医師だけは「ベジタリアンなんだ」と言って、自分で用意した弁当を食べるために自室へ戻った。
食事が終わった頃、入り口の扉から巫女が現れる。巫女の後ろには40歳前後と思しき神主の男が立っていた。
「この神社は私たち親子2人だけで守っておりまして、ろくなおもてなしもできずに申し訳ない」。そう言って神主が頭を下げる。
「代わりと言ってはなんですが、みなさまの求める不死の秘術はたしかに存在します」
巫女と神主は交互に説明を続けた。「ですが、不死の秘術——ぐあらきさまの寵愛を受けられる方は1人だけです」「みなさまには不死者となる方を投票で決めていただきます」「儀式は明日の夕刻。満月が昇ると共に開始いたします」
不死の秘術……十中八九、人魚の肉に違いない。この邪教の親子は、人魚の肉を参拝者に食わせることで信者を増やしているのだろう。人魚の居場所を探るには投票で選ばれるのが一番楽そうだ。
だが、「ぐあらきさま」とやらの話はブラフで、やはりあの巫女が人魚という可能性もある。それならわざわざ儀式を待つ必要もない。今晩、味を確かめておこう。
儀式前日:20時
解散して自室に戻った。
儀式前日:27時(午前3時)
皆が寝静まった頃、あなたは布団から体を起こし、忍び足で自室を出た。部屋と廊下を仕切る扉は全てふすまになっていて、鍵はかけられない作りだ。
巫女の寝室へ向かう途中、前方からやってくる作曲家とすれ違った。こんな時間に何をしているのだろうか? かすかに血の匂いを感じた気がした。
巫女の寝室に到着し、ゆっくりとふすまを開けたあなたは、驚くべき光景を目にする。あなたが手を下すまでもなく、巫女の腹は大きく引き裂かれ、部屋中に内臓が散乱している。
さらによく見ると、首の一部がごっそりと噛みちぎられたように欠損している。自分と同じく巫女を人魚だと疑った誰かの犯行だろうか?
あまりに凄惨な姿。普通の人間であればまず間違いなく死んでいるだろうが、不死の人魚ならこの状態でも生きていられる。それは45年間の実験で実証済みだった。
あなたは背中に背負っていた鉈(なた)を取り出すと、巫女の両手の指を切断し、シガレット(葉巻)ケースに閉まった。
儀式前日:28時(午前4時)
自室に戻ったあなたは、シガレットケースから華奢な指を取り出した。巫女こそがこの地に潜む人魚なのかもしれない。だとすれば、5年ぶりに至高の味にありつける……。
その期待は、指を口に入れた瞬間に砕け散った。
まずい。これは人魚の肉ではない。腐ったような味。残飯以下の代物だ。巫女は人魚ではなかったのだ。
だとすれば、本物の人魚に近づく手立ては、やはり明日の儀式しかないだろう。だが、巫女があんなことになって本当に儀式が行われるだろうか。それに巫女を襲って内臓を引きずり出した犯人は誰なのか。
まあ、考えても仕方がない。あなたは指の入ったシガレットケースをリュックへ放り込み、就寝した。
儀式当日の朝
目を覚ましたあなたは、入り口のふすまに何か紙切れが挟まれているのに気付く。紙には「あなたは吸血鬼ですか?」と書かれていた。
誰かが部屋に入ったのだろうか? 念のためリュックを確認するが、荒らされた痕跡はない。が、そこであなたはあることに気がつく。鉈が無い。巫女の部屋に忘れたのだ。取りに行かなくては……。だが、もう遅い。泣き叫ぶ神主の声が建物中に轟いた。
あなたの目標・海洋研究者
・ゲーム終了までに「人魚の肉」を手に入れる。20pt
・定命の者から自分の正体を隠し通す。あるいは自分の正体を知った定命の者を全員殺害する。15pt
不死者の体はどんな大怪我を負っても念じるだけで再生する。ただし、腕力は定命の者と変わらない。もしも正体がバレたら捕らえられ、不死の秘密を探る被験体にされてしまうだろう。
・「人魚」の持ち物を手に入れる。10pt
・「人魚」について記された文献を手に入れる。5pt
あなたのスキル・海洋研究者
①あなたは最初の「個人調査」でカードを2枚獲得できる。②あなたの投票は1.5票分の価値を持つ。
あなたの持ち物・海洋研究者
・研究ノート:ある生き物についての研究ノート。海洋研究者の名前が記されている。海に生息する「不死の生き物」を調べているようだ。
・新聞記事:50年前と5年前の新聞記事。50年前、ある漁村で「村人全員が殺し合う事件」が起きた。5年前、その漁村の跡地が「津波で跡形もなく流された」。
・シガレットケース:葉巻用のケース。女性の指が9本入っている。