ハンドアウト・作曲家

あなたは定命の者ではない。あなたは生まれついての不死者だ。

あなたの正体は奇跡の細胞を持つ「人魚の末裔」である。

 

【表の顔】

「ワタクシは……まあ、名乗るまでもないでしょうが、世界的大スタァの◯◯と申します。天命は作曲家兼歌手です。「不死の秘術」……それはそれは魅力的な響きですわね。そのような奇跡が存在するのなら、ワタクシのような“優れた者”を生かすために使うべきでしょう? ワタクシの死はそこらの凡人とは比較にならない世界の損失なのですから。」(外見の年齢:25歳〜35歳)

 

【裏の顔】

あなたは100年以上生きる不死者。「人魚の末裔」である。魔性の歌声と永遠の寿命を持つ海の霊長。その肉体は30歳前後で成長を止める。本来の下半身は魚だが、人間の姿にも変身できる。

そして「人魚の肉」を食らった人間もまた永遠の寿命を得られる。ゆえに人魚は乱獲され、今や滅びを待つだけの種族だ。あなたの妹もまた、50年前に人間に捕らえられ、5年前に海へと逃げ帰ってきた。よほど恐ろしい目にあったのだろう。妹は陸地での出来事を決して話そうとしない。ただ、あなたにもらった「手作りのペンダント」をお守りとして肌身離さず持っていたことだけは教えてくれた。

妹が帰ってきてすぐ(つまり今から5年前)、あなたは作曲家・歌手として地上で活動を始めた。妹のような目に遭っている人魚を救い出すためだ。そんなあなたに、妹はお守りのペンダントを譲ってくれた。「お姉ちゃんをきっと助けてくれるから」。妹の願いが通じたのか、あなたの才能は世界で高く評価され、得られた巨万の富を使って何人かの人魚を解放できた。

この神社にやってきた理由は、「不死の秘術」が「人魚の肉」ではないかと疑っているからだ。神社には乳白色の美しい湖がある。あなたは海で生まれた人魚だが、湖のような淡水で暮らす人魚もいる。もしも本当に囚われの人魚がいるならば、どうにかして救い出してあげたい。もちろん神社の関係者は許さない。必ず皆殺しにしなければ。

 

 

儀式前日の行動・作曲家

儀式前日:13時

S県の山間部。道なき樹海を歩くこと数時間。目の前に人工的な広場が現れた。広場入り口の鳥居をくぐると、立派な本殿に向かって石畳が続いている。ここが「旧荒鬼神社(ぐあらきじんじゃ)」に違いない。本殿の隣には離れの建物があり、こちらは神主たちの住居として使われているようだ。

疲れ切ったあなたは泥まみれの体で鳥居の下にへたりこむ。仲間の人魚を助けるためとはいえ、後悔せずにはいられない悪路だった。すると、どこからともなく巫女が駆け寄ってきた。歳は20歳前後だろうか。美しい黒髪をまっすぐ伸ばしている。

「儀式の見学にいらした参拝者の方ですか?」。巫女は優しい表情であなたに話しかける。「あちらの離れに客室がございます。明日までゆっくり疲れを癒してください」

どうやら離れには既に他の参拝者がいるようだ。薄汚い人間どもと同じ空間で寝泊まりするなんて虫酸が走る。……が、背に腹は変えられない。あなたは案内された部屋に荷物を下ろした。

 

儀式前日:14時

ゆっくりしている暇はない。人魚が地上で過ごすためには、1日1回は水浴びを行う必要がある。前回の入浴からもう30時間ほど経っているから、そろそろ下半身が魚に戻ってしまう頃合いだ。

あなたは巫女に案内させ、本殿の裏に広がるへとやってきた。乳白色の水面が静かに波打っている。外からでは水中の様子が全く伺えず、人魚が隠れ住むにはぴったりの場所に思えた。

湖には先客がいた。民俗学者を名乗る紳士風の男だ。ついさっき神社に到着したところらしい。彼は巫女に連れられて離れへ向かった。

これで湖にいるのはあなた一人だ。周囲を警戒しながら服を脱ぎ、水に飛び込む。人の気配も無いし、少しくらいなら人魚の姿に戻っても平気だろう。あなたは仲間を探しながら数十分の遊泳を楽しんだ。

 

儀式前日:19時

夕食の時間。5人の参拝者は簡単な自己紹介を済ませた後、揃って巫女が出した食事を取っていた。ただし、医師だけは「ベジタリアンなんだ」と言って、自分で用意した弁当を食べるために自室へ戻った。

食事が終わった頃、入り口の扉から巫女が現れる。巫女の後ろには40歳前後と思しき神主の男が立っていた。

「この神社は私たち親子2人だけで守っておりまして、ろくなおもてなしもできずに申し訳ない」。そう言って神主が頭を下げる。

「代わりと言ってはなんですが……みなさまの求める不死の秘術はたしかに存在します」

巫女と神主は交互に説明を続けた。「ですが、不死の秘術——ぐあらきさまの寵愛を受けられる方は1人だけです」「みなさまには不死者となる方を投票で決めていただきます」「儀式は明日の夕刻。満月が昇ると共に開始いたします

不死の秘術……十中八九、人魚の肉に違いない。愚かにもこの邪教の親子は、人魚の肉を参拝者に食わせることで信者を増やしているのだろう。絶対に許せない。まずは娘、お前から殺す。その薄汚い臓物を引き摺り出してやる。あなたは静かに殺意を高ぶらせた。

 

儀式前日:20時

解散して自室に戻った。

 

儀式前日:26時(午前2時)

皆が寝静まった頃、あなたは布団から体を起こし、忍び足で自室を出た。部屋と廊下を仕切る扉は全てふすまになっていて、鍵はかけられない作りだ。

巫女の寝室へ向かい、ゆっくりとふすまを開ける。部屋は真っ暗でよく見えないが、巫女はぐっすり眠っているようで動かない。あなたは懐からサバイバルナイフを取り出すと、掛け布団の上から手探りで心臓の位置を探り当て、思い切り刃を突き立てた。布団が血でにじむ。巫女は悲鳴のひとつも上げなかった。

あなたは巫女に刺さったナイフを再び握り締め、肋骨の隙間を縫うように腹の側に引き裂いた。布団と衣服、そして腹部に1本の赤い筋が走る。それを両手で開くと、腸を引きずり出して部屋中にばらまいた。

やった。ざまあみろ。あなたは自分の体に返り血が付いていないことだけ確認すると、巫女の部屋の窓からナイフを放り捨て、トイレで手を洗った。あんなナイフだけで私を特定できるはずがないし、たとえ特定できたとしても明日は満月だ。満月の夜、純潔の人魚の歌声は耳にした者を呪い殺す。「死ね。死ね。みんな死んでしまえ」

 

儀式前日:27時(午前3時)

部屋に戻る途中、巫女の部屋がある方へ向かう海洋研究者とすれ違った。数歩だけ進んだ後、もういちど彼の方を振り返ってみる。背中に鉈(なた)のような大振りの刃物を背負っているのが見えた。

あなたは疑問に思いながらも自室に入り、就寝した。

 

儀式当日の朝

泣き叫ぶ神主の声が建物中に反響し、あなたは目を覚ました。巫女の無残な姿を発見したのだろう。ざまあみろ。あなたは恍惚の表情を浮かべながら、悲しみに歪む神主の顔を見るため部屋を出る。

ふすまを開けた瞬間、1枚の紙切れがひらりと落ちた。誰かが扉に挟んだのだろうか。紙には「あなたは吸血鬼ですか?」と書かれていた。

 

あなたの目標・作曲家

・「人魚の肉」を口にした者を皆殺しにする。20pt

定命の者から自分の正体を隠し通す。あるいは自分の正体を知った定命の者を全員殺害する。15pt

不死者の体はどんな大怪我を負っても念じるだけで再生する。ただし、腕力は定命の者と変わらない。もしも正体がバレたら捕らえられ、不死の秘密を探る被験体にされてしまうだろう。

・生きた人魚を連れ帰る。あるいは「人魚の肉」を手に入れる。10pt

 

あなたのスキル・作曲家

満月の夜。純潔の人魚であるあなたの歌声は魔力を帯び、耳にした者を瞬時に呪い殺す。エンディング時、あなたはその場にいる人物を(たとえ相手が不死でも)殺害できる。

※相手があなたの正体に気付いている場合は、警戒して耳を塞いでしまうかもしれない。

 

 

あなたの弱点・作曲家

地上に長く止まることができず、1日に1回は大量の水で体を清めなければならない。さもなくば下半身が魚に戻ってしまう。

 

あなたの持ち物・作曲家

ペンダント:安っぽい手作りの首飾り。深海にしか存在しない貴重な石が使われている。

ナイフケース:サバイバルナイフを仕舞うケース。ナイフは入っていない。高級アウトドアブランドの特注品だ。

ハイブランドの衣服:魚の鱗が何枚か付着している。

 

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