こんにちは。ダ・ヴィンチ・恐山と申します。剣(つるぎ)を持っています。

 

それにしてもアレ、最近すごい流行ってますよね…

 

アレですよ、アレ。

 

「最近流行ってますよね」って言われだしてからもう何年も流行り続けてますよね……?

 


『転生賢者の異世界ライフ ~第二の職業を得て、世界最強になりました~』(原作:進行諸島/ 漫画:彭傑(Friendly Land)/キャラクター原案:風花風花)

 

異世界ファンタジーもの!!

 

本屋さんに行けば「異世界」という独立の棚ができているほど。異世界ファンタジーはここ数年でジャンルとして確立しました。

 

異世界ファンタジーものとは……
おもに2010年代から流行した、中世ヨーロッパ風のファンタジー異世界にやってきた主人公がチート能力で活躍する痛快な物語を描いたジャンル。しかし「現代の主人公が死んで異世界に生まれ変われば異世界転生だ」とか「死なずに異世界に来れば異世界転移だ」とか「最初から異世界出身のパターンも多い」とか「学校ごと異世界に行く『クラス転移』もある」とか「必ずしもチート能力を貰うわけじゃない」とか「活躍せずスローライフを送ることも多い」とか「むしろ主人公が大変な目に遭うシビアな作品も多い」とか「エンデの『はてしない物語』だって異世界ファンタジーだ」といった異論が絶えず、一言で特徴をくくるのが困難なジャンルでもある。素人の考える逆張りアイデアはすでに先例が絶対にあるといわれる創作界隈の魔境

 

「小説家になろう」のような小説投稿サイトを中心に人気が爆発して以来、書籍化、コミック化、アニメ化と、実に景気がよさそうです。

 

 

 

ここはひとつ、私も異世界モノの小説を書いて小説家になろう! と思ったのですが……

 

 

 

 

書けない。

 

 

ぜんっぜん書けない。

数時間かけても一行たりとも進みやしません。

 

 

「俺は」と書いたきり、カーソルの点滅を見るだけです。作文が書けなくて居残りしてる小学生かよ。

 

どうしてこんなに書けないのか考えてみたところ、ひとつ思い当たることが。

 

そもそも中世ヨーロッパのことをぜんぜんわかってない。

思い起こせば私は歴史科目が苦手でした。世界史の授業では早々に理解を放棄して「民衆の不満、高まりがちだな~」と解像度の低い感想を抱いていたのを覚えています。

 

 

上のリストに共感したら私と同レベルです。

 

こんな不真面目な学生だったせいか、主人公がどうやって中世で生きていくのか、ぜんぜん想像つきません

もちろん、現実の中世ヨーロッパと創作の「中世ヨーロッパ風世界」が別物なのはわかっています。最近ではこのような中世ヨーロッパ風世界は「ナーロッパ」などと呼ばれ、現実とは違う文字通りの「ファンタジー」であることも周知されてきています。

 

でも、チート能力で主人公を無双させる前に、実際の中世でのリアルな生きざまを知っておいたほうがいいのでは?

 

 

 

そこで、Twitterで「中世ヨーロッパ」に詳しい人に呼びかけ、一般人が中世ヨーロッパ世界で生き残る方法について話を伺うことにしました!

 

 

 

 

この記事はスクウェア・エニックスの名作・新作マンガが300作品以上読めるアプリ『マンガUP!』の提供でお送りします。

 

詳しい人に話を聞いてみよう!

今回、話を聞かせてくださるのはこちらのおふたりです。

 

宮永忠将さん

ライター、編集者。TRPG雑誌「RPGamer」やシミュレーションゲーム専門誌『コマンドマガジン』などの制作に携わる。軍事や歴史をメインとして執筆業を営んでいる。著書に『空想世界構築教典』など多数。

しのさん

文化史学科 西洋史専攻。中世イングランドの肉食文化や酒、調理器具、食器などについて詳しい。

 

私は世界史全般が苦手で中世のことも全く詳しくなく、この機会に理解を深めたいなと。好きな歴史用語は「線文字B」と「海の民」です。

どっちも最初のほうで習う言葉なので、初期に力尽きたのがわかりますね。

 

そもそも中世っていつからいつまでなの?

さっそくですが、中世ヨーロッパに詳しいお二人に、中世ヨーロッパで生き残る方法について教えていただきたいです! 

いやー、これ、ある程度歴史に興味のある人からしたらかなり大それたオファーですよ(笑)。まともな歴史研究家ほど、こんな案件怖いから関わりたくないと思うはず。

あ、確かに。私も思いました。

え? どういうことですか?

 

「中世ヨーロッパに詳しい人」と簡単に言うけれども、西欧の「中世」は一般には5世紀の西ローマ帝国の滅亡から15世紀ごろのルネサンス到来まで、約1000年ほどを指すことが多い。つまり、めちゃくちゃ長い期間を指すんです。

 

私の頭の中の世界史年表の解像度こんなんですよ!

さらにその範囲がヨーロッパ全域に及び、国や地域ごとに環境が大きく変わります。とんでもない深さと広さですよ! 

 


日本だと古墳時代の終わりくらいから、室町の応仁の乱の頃までの幅ですからね。これら全てに「詳しい人」なんてどこにもいないんじゃないかな。

そうそう。もし大学の歴史学科でうかつに「中世ヨーロッパの……」と言ったら「それ、中世前期? 後期?」「どこの話? イングランド? ドイツ?」って鬼のように詰められます。

なるほど……!

しかも「いつから中世が始まり終わったのか?」という定義にも議論が無数にあるんです。

区切り方に学者の歴史観とかセンスが滲み出ますよね。

歴史書を読んでいても「この著者、ここで中世と近世を区切るのか……クセ強いな」って思ったりします。

北海道の人に「旅行で知床と札幌と函館に行くんだけどプラン考えて」って言うようなものだったんですね。

詳細を伺い「このテーマなら協力できることはあるかもしれない」と思って話を受けましたが、あくまで個人の史観であることは強調させてください。怖いので……。

 

 

中世ヨーロッパ風ファンタジー世界の元ネタはどこ?

 

まず知りたいのですが、緑豊かで、壁に囲まれた城下町が栄えていて、貴族や商人がいて、冒険者がいて、ギルドがあって……みたいな、日本人が持ってる「中世ヨーロッパ」の元ネタって歴史上のどこなんでしょうか?

あれは、いろんな中世のキメラ。いいとこ取りなんですよね。いろんな地域と時代にごくわずかに存在した安定期をつまんで一つにした世界です。
国家同士の信頼がある程度成り立っていて、貨幣制度が行き渡っていて、ひどい飢餓や疫病や戦争がなくて、宗教がありつつ個人の自由も保障されていて……なんて時代は中世にないですから。

 

 

実際の中世は、古代や近世よりも悲惨なんですよ。「暗黒時代」とも言われているので。

じゃあ、中世ヨーロッパのどの時代のどの国に行けば、現代の一般人でも生き延びられますかね? ややこしいので言葉は通じると仮定して。

いつどこでも一週間以内に死んでると思います。

 

死、死~!

 

強いていえば、カール大帝が統治していたフランク王国に行くとか……? でも、現代人にとってはどの時代でも過酷なはずです。

 

 

中世と近世の違いは?

あと、歴史に興味がない人が「中世っぽいよね」と言うときは、だいたい近世です。みんな「むかしのヨーロッパ」という曖昧なイメージで「中世」を使ってるのかな、と思います。

この部屋は中世風……?

近世です! ロココ調の建築やお姫様ドレスなど、キラキラした装飾はだいたいルネサンス以降の近世文化です。近世だとしてもこの部屋の考証はかなりめちゃくちゃだと思いますけど……。

このシャンデリアの趣味はむしろアメリカっぽいなあ。

では、ファンタジーラノベやマンガにはよく登場する執事やメイドさんは……?

 

『俺はまだ、本気を出していない』(漫画:リキタケ/原作:三木なずな/キャラクター原案:さくらねこ)

 

みんながイメージする従者は、どちらかといえば産業革命以降の「近代」です。

中世ファンタジーってほぼ近代ファンタジーなのでは?

そうかもしれません。中世ファンタジーの何が実際の中世っぽいかといえば「国家はあるが守ってはくれない。自分の身は自分で守る」という世界観なのかなと僕は思います。

シビアな生活環境だけでいえば確かにRPGっぽい……!

 

 

価値観も時代によって全く違います。王道ファンタジー的な装いでも、18世紀くらいの価値観を持つ人が、15世紀くらいの箱庭で自由に活躍する作品が多い印象です。年代の差でいえば「現代人が江戸時代で生きている」くらいのギャップはあります。

15世紀と18世紀の人の価値観ってそんなに違うんですか?

中世の人は、半径3キロメートルの内側で一生を終えるのが当たり前、というくらい世界が狭かったんです。近世になると科学技術が発達し、大航海時代も始まって、どんどん世界を開拓する機運が生まれたんです。ベンチャー起業ブームに似てるかも。

ゲームに出てくる「冒険者」がいっぱいいたのは近世以降なんですね。なんで中世ではみんな小さくまとまってたんですかね?

ヘタに村や町の外へ出たら死ぬからですね……。

 

死~!

そもそも中世は紙が圧倒的に貴重でしたし、文字の読み書きができる人も一部でしたから、生活史があまり書物で残っていないんです。近世のほうが圧倒的に多くの文献が残っているので、中世と混ざりやすい。

 

中世ヨーロッパに食べ物を持ち込むなら?

しのさんは大学で中世の食文化を調べていたんですよね。

もともと食べることが好きだったので、イングランドの食文化について調べていました。

中世の人は何を食べてたんですか?

それこそ地域によって千差万別で、飲まれているお酒からその国の風土もわかります。たとえば中世のイングランドではリンゴを発酵させてサイダーにした「シードル」というお酒がよく飲まれてたのですが、寒い地域で育たないブドウで作るワインは高級品でした。

 

だから中世イングランドっぽい世界観でワインを飲んでるキャラがいると「苦労してブドウを輸入したんだろうなあ……高かっただろうなあ……」としみじみしちゃいますね。

映画などを観ても「こんなところにリンゴの木が生えるの?」と気になったりしますね。

ここにある果物の盛り合わせも、時代と地域によってはとんでもない贅沢品……。

 

 

食べ物でいうと、パンの他には「ポリッジ」というお粥みたいなものをよく食べていたみたいですね。あとは野菜を適当に煮たものを、具材を継ぎ足しながら食べたり。肉は貴重だから、肉が食べられる富裕層以外は野菜と穀物ばかりの生活ですね。

では、食の貧しい時代で現代風の美味しい食べ物を振る舞ったらチート無双できますね!

そうとも言い切れないですね……。この頃は「食べられれば幸せ」くらいの価値観の人が大半だったと思います。

貪り食う=貪食(どんしょく)がキリスト教の罪源に加えられているように、グルメが悪徳だった時代でもあるんですよ。欲張ってガツガツ食べるのはみっともないから、余裕のある貴族ほど断食をするし、余計にものを口に入れない。

「食事」がダサい時代……!

 

 

キリスト教徒は「断食」を行うことで信仰を証明していました。朝食は英語で「breakfast」ですが、あれは「断食を破る(break)」というのが由来なんですよ。

 

 

「悪魔のおにぎり」を出したら死刑になるかもしれないな……。

テーブルマナーも今とは全然違って、当時は貴族ですらディナーを手づかみで食べていたみたいですよ。自前の「マイ・ナイフ」を腰に差して持ち歩き、食事はだいたいそれ一本でどうにかしていたとか。横になったら腰のナイフが刺さっちゃった人の記録とかもあって。

忠実に映像化したら絵面が汚くて感情移入しにくそうですね。フォークとかスプーンはなかったんですか?

スプーンは液体を飲むときに使っていたようですが、フォークはイタリア以外ではなかなか普及しなかったようで、フォークを使った人が変な目で見られたり怒られたりしたという記述もあります。一説には「悪魔の槍みたいだから」とか。

 

 

異世界ものだと新しい道具を「これは便利だ!」ってすぐ受け入れてくれることが多いけど、実際はそうすぐにライフスタイルを変えることってないですよね……。

後になって振り返るとわけのわからないローカルルール、現代でもいっぱいありますからね。

 

未来アイテムを持ち込んだら火あぶり?

では中世ヨーロッパ世界に突然来てしまったとして、現代人は生きていけますかね?

 

現地人にとっては言葉も通じないし変な顔つきの東洋人なので、強烈に差別されて死ぬのではないでしょうか。

死……。その問題にこだわると話が進まなそうなので、度外視させてください!

そうですね。それがいいと思います。

素人考えですが、現代のテクノロジーを見せつければ崇拝されませんか? 懐中電灯で照らしたり、カメラで撮影したり……。

「魔術を使った」と告発されて捕まっちゃうかもしれないですね。

よく考えたら異世界ものでもよくある展開だった…。キリスト教が席巻してるわけですからそりゃ魔術を使ったら火あぶりですよね。

 

 

でも、必ずしも死刑になるとは限らないですよ。キリスト教的に魔法は悪だし、民衆は得体の知れない術を操る者を恐れていました。けれども、いざとなったら魔術使いを頼ることもあるんです。病気になったら、森に住んでいる魔女に薬草をもらったり。

え! 魔術→即刻火あぶりだと思ってました。

有名な「魔女狩り」が盛んになったのは近世になってからです。ヨーロッパにキリスト教が流布していたといっても、みんな文字が読めないから教義はほとんど口頭で伝わってました。だから多神教の土着宗教と混ざってグレーゾーンが生まれていたんですよ。

黒魔術や白魔術という区分けもあるくらいですからね。

あれ、ゲームとかのために作られた「ない言葉」じゃないんですか?

ある言葉ですよ。白魔術は精霊や古来の神などの力を借りる「いい魔術」で、黒魔術は悪魔と契約する「悪い魔術」です。その次代と場所のさじ加減で、魔術の扱いはコロコロ変わっていました。かれらは現代の視点で見れば科学者や薬剤師だったんだと思いますが。

 

 

じゃあ、人々の役に立てば生き残れるかもしれないですね。森に小屋を立てて、たまに来る依頼をこなしながらスローライフを生きるか……。

余談ですが、中世ヨーロッパの「森」は、現代では想像がつかないほど恐ろしい場所なんですよ。魔女や幽霊がいると信じられていたし、実際に猛獣や盗賊がウヨウヨといました。入ったら死にます。

 

またしても死……。それを知ってると、「赤ずきんちゃん」が森を抜けるシーンの緊張感とんでもないですね。

 

中世ヨーロッパに道具を持ち込むなら?

もし中世で生きていくとなったら、事前に何を持ち込みますか?

 

やっぱり治安の悪い時期だし、ピストルが自衛できていいんじゃないかなと思うんですが。

銃を持ち込むにしてもリボルバー式のピストルは悪手ですね。撃ちきっちゃったら終わりだし、技術が高すぎて修理できないから。

 

だったら僕は近世以後に発明されたフリントロック式の銃を持っていきます。構造と原材料のことをしっかり勉強しておけば、中世の技術でもギリギリ直せる可能性があります。

「目先の利益につられて自滅する雑魚キャラ」みたいなことをやってしまった……。

私が持っていくなら抗生物質かな。疫病や感染症で亡くなる人がすごく多かったので。

 

 

でも、そもそも行きたくないです……。

前提を。

もともと世界史に興味を持って大学でも学びたいと思ったきっかけが、某「国をキャラクター化した漫画」だったんですけど……。

オタク趣味が進路を左右してしまったタイプのオタク!

夢小説とかを書くために史実を調べれば調べるほど「絶対自分は行きたくないな~」って思ってました。

それはそうですよね。当時はミニ氷河期と言われていて、現代よりだいぶ寒かったそうです。なのでフリースジャケットも持っていきたいですね。

 

あ、あとジャガイモ! 種芋を増やして、栽培しながら生きていきます。

中世ヨーロッパにジャガイモないんですか?

大航海時代までヨーロッパにイモはありませんでした。ジャガイモは南米原産なので。

あ! インカのめざめってそういうことだったんですね!

無性生殖で増えるジャガイモに頼りすぎるのも怖いですよねえ。食料をほとんどジャガイモに頼ってた19世紀のアイルランドは、疫病で作物が全滅して壊滅的打撃を受けてますから。飢饉で100万人くらい死にました。

また、死……。

 

ああ、あと、中世に行くなら「靴」を持っていきますね。

ああー、靴!

 

たぶん現代人が中世に行っても、荒れた大地を歩けないと思うんですよ。だから頑丈な靴をたくさん持っていって、2年くらいかけて足を中世に馴染ませるでしょうね。

たしかに、転生してすぐ枝とか踏んで足を傷つけて動けなくなって衰弱死する結末が一番ありそう……。中世人はシビアな環境を生き抜いてたわけですね。これはチートどころではない。

そう。中世の人々が現代人に比べて劣っているかといえばまったくそんなことはないですよ。現代人は電気に生かされているだけじゃないですか。もし文明の利器がなかったら、私たちなんて彼らにとってはきっとサル以下ですから。

 

 

 

 

 

>次ページ:中世ヨーロッパで役立つスキルとは!?

 

『マンガUP!』好評配信中!