ハンドアウト・グラビアアイドル

あなたは定命の者ではない。あなたは神社に来る前から不死者だった。

あなたの正体は、何者かに体を作り変えられた「吸血鬼」である。

 

【表の顔】

「私、◯◯です。グラビアアイドルやってます。まあ、今は『アンチエイジングYouTuber』って肩書きの方が有名かも。ここに来た目的ですか? 世間では『15年見た目が変わらない奇跡の女』なんて言われてますけど、注射と整形で誤魔化すのも限界で……。あ、これオフレコでお願いしますよ! 怒られるので!」(外見の年齢:15歳〜25歳)

 

【裏の顔】

あなたは不死者。何者かによって体を作り変えられた「吸血鬼」である。以来、あなたは老いから解放され、40歳を目前に控えた今もグラビアアイドルとして現役で活動している。

20年前の満月の夜。ある地方の村で巫女をしていたあなたは、何者かに後ろから首筋を噛まれて吸血鬼と化した。村には街灯のひとつもなく、自分を噛んだ者の顔は闇に覆われて見えなかった。

あなたを不死に変えた何者か——すなわち吸血鬼の真祖(しんそ)は、夜の闇へと消える前に、あなたに1つの命令を下した。※吸血鬼の真祖:人間から吸血鬼になったのではなく、生まれついての吸血鬼。真祖だけが人間を吸血鬼に変える力を持つ。

「私の素性を探るな」その声は若い男のようにも、老婆のようにも、あるいは小さな子供のようにも聞こえた。真祖の言葉は逆らえない魔性と共にあなたの脳に刷り込まれ……なかった。あなたに芽生えた1つの感情が、主の命令に打ち勝ったのである。

それは愛。あなたは、自分に永遠の美を与えてくれた真祖を心から愛しているあなたの目的は彼(彼女)を探し出し、忠実な眷属として永遠に仕えることだ。

あなたは確信している。旧荒鬼神社に伝わる「不死の秘術」とは吸血鬼の神秘に違いない。予感がする。あの方はこの神社にいる。2人の幸せのためなら、誰が何人死のうと構わない。

 

 

儀式前日の行動・グラビアアイドル

 

儀式前日:14時

S県の山間部。道なき樹海を歩くこと数時間。目の前に人工的な広場が現れた。広場入り口の鳥居をくぐると、立派な本殿に向かって石畳が続いている。ここが「旧荒鬼神社(ぐあらきじんじゃ)」に違いない。本殿の隣には離れの建物があり、こちらは神主たちの住居として使われているようだ。本殿の後ろには乳白色の湖が広がっている。

あなたは「吸血鬼の真祖」を探してここに来た。顔も声も霞がかかったように思い出せないけど、きっと素敵な人。だってあなたに永遠の若さをくれたのだから。

「私の素性を探るな」。真祖は言ったが、それは愛の試練に違いない。愛の大きさを試しているのだ。もし真祖様を探し出すことができれば、きっと彼(彼女?)はあなたを永遠に側に置いてくれる。あなたは盲目的に信じている。

あなたは手がかりを求めて、まずは本殿を参拝してみる。作りは一般的な神社と同じ。賽銭箱があり、鈴があり、しめ縄があり……。ただ、その奥にある本殿の扉は固く閉ざされていて、中に何が祀られているのかは分からなかった

そういえば、あなたが真祖に噛まれたのも、巫女のアルバイトをしていた神社だった。感傷に浸っていると、ふいに背後に人の気配を感じた。

「儀式の見学にいらした参拝者の方ですか?」。振り返ると美しい巫女が立っていた。20歳前後だろうか。やわらかな笑顔であなたに話しかける。「離れの建物に客間がございます。明日まで宿泊されてはいかがですか?」

申し出を受け入れて巫女の後についていく。この娘ならば真祖様について何か知っているだろうか。あなたは「儀式の見学。そうですね、吸血鬼さまを探しに来たんです」とカマをかけてみる。

「吸血鬼ですか……?」。巫女は困惑したような笑みを浮かべる。とぼけているのか、それとも本当に知らないのか。まあいい、儀式が始まれば全て明らかになるだろう。

 

儀式前日:15時

離れの自室に荷物を置いたあなたは、さらに手がかりを探そうと再び外に出る。すると、境内で他の参拝者と話す巫女の姿が見えた。会話に聞き耳をたてると、どうやらその男は海洋研究者らしい。遠かったので断片的な言葉しか聞き取れなかったが、「人魚を探しに来た」とかなんとか言っていた。湖まで足を伸ばしたが、特に何も見つからなかった。

 

儀式前日:19時

夕食の時間。5人の参拝者は簡単な自己紹介を済ませた後、揃って巫女が出した食事を取っていた。ただし、医師だけは「ベジタリアンなんだ」と言って、自分で用意した弁当を食べるために自室へ戻った。

食事が終わった頃、入り口の扉から巫女が現れる。巫女の後ろには40歳前後と思しき神主の男が立っていた。

「この神社は私たち親子2人だけで守っておりまして、ろくなおもてなしもできずに申し訳ない」。そう言って神主が頭を下げる。

「代わりと言ってはなんですが……みなさまの求める不死の秘術はたしかに存在します」

巫女と神主は交互に説明を続けた。

「ですが、不死の秘術——ぐあらきさまの寵愛を受けられる方は1人だけです」「みなさまには不死者となる方を投票で決めていただきます」「儀式は明日の夕刻。満月が昇ると共に開始いたします

……ぐあらきさま。それが真祖様の名前なのだろうか?

 

儀式前日:20時

解散して自室に戻った。

 

儀式前日:21時

どうしても「ぐあらきさま」が気になったあなたは、巫女と神主に話を聞こうと思い立った。2人を探して歩き回っていると、本殿の傍に人影を見つける。巫女と神主だ。ちょうどいい。そう思って近づくと、2人の会話の内容がうっすら聞こえてきた。

「参拝者の中に、既にぐあらきさまの寵愛を受けた者がいる」と巫女が言う。神主は「では母様と同じ体の……」と驚いた様子だった。

「ぐあらきさま」が真祖様だとすれば、「寵愛を受けた者」はあなたのような吸血鬼のことだろうか。巫女はあなたの正体に気付いている?

あなたが動揺していると、巫女は信じられない言葉を続けた。

「ぐあらきさまに愛されるのは私だけでいいのに」

あいされるのはわたしだけでいいのに?

激昂で視界が真っ赤になる。「あいつ。殺す。絶対に殺してやる」。あなたは殺意で牙を噛み締めた。

 

儀式前日:25時(午前1時)

皆が寝静まった頃、あなたは布団から体を起こし、忍び足で自室を出た。部屋と廊下を仕切る扉は全てふすまになっていて、鍵はかけられない作りだ。

巫女の寝室へ向かう途中、前方からやってくる民俗学者とすれ違った。こんな時間に何をしているのだろうか? かすかに血の匂いを感じた気がした。

巫女の寝室に到着すると、あなたはゆっくりふすまを開ける。巫女はぐっすり眠っているようで動かない。あなたは巫女に近づくと、首の肉を食いちぎったむき出しになった気管がこひゅう、こひゅうと聞き苦しい音を奏で、数秒すると何も聞こえなくなった。

ふいに強烈な吐き気を催す。原因は口の中の肉だ。腐ったような味がする。あなたは自分の口元を拭うと、巫女の顔に血混じりの唾を吐き捨てた。

 

儀式前日:26時(午前2時)

自室に戻る。これで邪魔者は消えたはず。あとは他の参拝者を蹴落として、自分がぐあらきさまに会うだけだ……。安らかな気持ちで就寝した。

 

儀式前日:28時(午前4時)

あなたは不吉な夢を見て目が覚めた。ふと、ひとつの不安が頭をよぎる。

巫女は「参拝者の中に、既にぐあらきさまの寵愛を受けた者がいる」と言っていた。だが、それが1人とは言っていない。自分以外の吸血鬼がまぎれ込んでいる可能性もあるのでは……? あなたの頭は脅迫的な思考に支配されていく。

「そいつも殺すか」

あなたはそう呟くと、5枚の紙に「あなたは吸血鬼ですか」と書き記し、自分も含めた参拝者全員の部屋のふすまに1枚ずつ挟んだ。もし吸血鬼が潜んでいるならば、これで炙り出せるかもしれない。

 

儀式当日の朝

泣き叫ぶ神主の声が建物中に轟いた。

 

 

あなたの目標・グラビアアイドル

・自分を吸血鬼に変えた「真祖」に告白する。 20pt

定命の者から自分の正体を隠し通す。あるいは自分の正体を知った定命の者を全員殺害する。15pt

不死者の体はどんな大怪我を負っても念じるだけで再生する。ただし、腕力は定命の者と変わらない。もしも正体がバレたら捕らえられ、不死の秘密を探る被験体にされてしまうだろう。

・「真祖」の正体を知る。10pt

・「血が付着したもの」を2つ以上手に入れる。5pt

 

あなたの持ち物・グラビアアイドル

免許証グラビアアイドルの免許証。今年で39歳になります。

ラブレター:封筒に「ぐあらきさまへ」と書かれたラブレター。差出人はグラビアアイドルだ。※あなたの目標を達成するために必要かもしれない。

血濡れのシャツ:儀式の前日にグラビアアイドルが着ていたシャツ。前面だけに血がべったりと付着している。

 

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