ラーメン。中国にルーツを持ちながら、日本独自の発展を遂げ、もはや国民食となって久しい料理。

 

当然、日本においてもラーメンの歴史があり、記録上の「日本初」も存在します。

 


画像は新横浜ラーメン博物館様の「来々軒」再現レプリカ

例えば日本初のラーメン屋であり、同時に日本初のラーメンブームを起こした「来々軒」

 

日本、いや世界初の即席麺「チキンラーメン」と、同じく世界初のカップラーメン「カップヌードル」

 

そして「日本初のラーメン」

今日は色々あってそれを自作します。

 

こんにちは。ストーム叉焼です。こう見えて意外な事にラーメンが好物です。

 

皆さんは「日本初のラーメンは水戸黄門が食べた」という話を聞いたことがないでしょうか。

水戸黄門こと徳川光圀は非常に好奇心が強い人物だったらしく、舶来の文化をいち早く味わったという逸話がいくつもあります。例えばチーズ餃子日本で一番最初に食べたのは彼とされ、さらに「ラーメンを日本で初めて食べた」のも徳川光圀と長らく伝えられてきています。

それも「何かの機会に食べた」などではないのです。

明から亡命してきた儒学者・朱舜水(シュシュンスイ)より中華麺の製法、出汁の取り方を教えてもらい、これを「後楽うどん」と名付けて客人や家臣らにふるまったとの記録が残っています。


「後楽うどん」の再現模型。以下、資料に関しては新横浜ラーメン博物館様の展示品より引用

つまり、ラーメンは徳川光圀の得意料理であったというのです。

この逸話自体はかなり有名なものでして、水戸ではそれにあやかり、一部を再現した「水戸藩ラーメン」なるものを出す店もあります。

 

 

徳川光圀の作ったラーメン、気になる。

食べてみたい。日本初のラーメン

しかし、水戸はちょっとばかし遠い。そして水戸藩ラーメンを出す店も減ってきている。

 

自分で作ったほうが早いな。

 

という訳でバーグハンバーグバーグの本社に突入し、キッチンスタジオをお借りしました。

 

登場人物紹介

ストーム叉焼……筆者。こう見えて麺の手打ちからラーメンを作った事は数回しかない。

みくのしん……オモコロ編集部員。カメラマンとして引っ張り出された。自炊の一環でうどんを打ってた時期がある。

 

まずスープの仕込みから始めますね。水戸藩ラーメンでは店舗の裁量に任せられているようで、鶏ガラベースの他に豚骨を加えたり、煮干しを加えたりと様々なようです。

 

今回は鶏ガラから。血や汚れを洗い流し……

 

鍋にin

 

それから俺が自宅で仕込んできた塩豚を使います。

 

塩豚?水戸黄門のラーメンにそんなの入ってるの?

いえ。これは俺のオリジナル要素です。

 

元ネタの「後楽うどん」では、中国から持ち込まれた豚肉を塩漬けして乾燥させたものである火腿(中華ハム)……いわゆる「金華ハム」で出汁を取ったという記述があります。

金華ハム!聞いた事はある!なんか高級なやつだよね?

そうですね。300gで4~5000円とか……あと禁輸?みたいな話もあったり……?そういう事で、現代でそれを再現すると金銭面で商売どころではなくなるので、おそらくですけど水戸藩ラーメンでは使われてないと思います。

 

なので、今回は熟成された豚肉の出汁と塩気気持ちだけでも再現する為、鶏ガラに加えて自家製の塩豚を用いるという事ですね。ついでにこれをチャーシューに流用します。

 

 

後は臭み消しに生姜やネギ頭をちょいと入れて……

 

アクを取りながら30分煮込みます。鶏ガラって爆裂にアクが出ますよね。

ストチャーはアクをしっかり取る派なんだ。

みくのしんさんはアク気にしない派でしたっけ。最初に出るアクはやっぱり臭いが気になるし、スープを濁らせたくないのと、鍋肌にくっつくとそこから焦げて風味が変わるらしいのと、後は食感のザラつきが気になるので取っちゃいますね。

(アクも旨味に繋がる為、取らない方がいいとされるラーメンもあります。二郎系とか)

考え方全然違うな……

ちなみに大根の皮も厚めに剥きますし人参の皮も剥きます。人参のアレは皮じゃないっていいますけど食感にノイズが入るのが嫌いなので。

うわー!相容れねー!

互いに自炊を積極的にするからこその軋轢が生じ始めた所で……

 

さて、徳川光圀の時代、時の将軍は徳川綱吉です。

うん。まぁ……聞いたことはある気がする。

徳川綱吉といえば……?

……?

やべ、クイズ作ってきたのに破綻した。

 

前提が崩壊したので読者に出題。

徳川綱吉の時代、つまり、言わずと知れた「生類憐れみの令」が発令されていた時期。
動物の肉食が禁止されていた時代の料理に、何故後楽うどん、及びそれの一部を再現した水戸藩ラーメンには肉が使われているのでしょうか。

 

実は当時、煮汁は肉食として見做されなかったのでセーフだった……とか抜け道がある訳ではなく、答えは「徳川光圀が生類憐れみの令をガン無視していたから」らしいです。普通に豚肉も鶏肉も羊肉も食べていたらしい。

 

だからトッピングにも躊躇なく肉を載せます。その為のチャーシューを作ります。

 

鍋に昆布をポイ、

 

醤油、

酒、みりんを

 

鍋で沸かしてカエシを作りまして……

 

30分煮込んだ塩豚を取り出して……

 

塩豚なんでこの時点で食べても美味かったり。

 

フリーザーバッグに肉とタレを入れて……

 

30分漬け込みます。味を染み込ませるのと同時に豚の旨味をカエシにも移していく。

 

漬かりすぎないように時間が経ったらタレを分けて

 

後はほどほどの厚みに切っていき……

美味そ!

 

チャーシューの完成!「叉焼」として正しいかは別として。

 

一切れ味見。

 

……

どう?

 

……試作の段階で嫌な予感はしてたんだよな……

え!?嘘!?

……みくのしんさんも食べてみて下さい。

なんか怖!でもうまそー!

 

……

!?

 

ズサーッ!!!

原宿さん!?

原宿……当メディア編集長。別件の撮影の為不在だったが、試食の気配を嗅ぎつけて滑り込んできた。

 

では改めて……

 

うっま!

うわー!めっちゃ美味いじゃんこれ!

……まずいですね……

 

みっしりしていて、それでいてぱさつかないしっとり感。身の内側に浸透した強めの塩気とさっくり歯切れのいい脂身の甘さのコントラスト。そして主張し過ぎない醤油の香ばしさが全体に香る。

このチャーシューは美味い。いや、美味すぎる。

……『チャーシューが美味いラーメン屋は流行らない』って古い迷信を聞いた事ありますか?

いや、知らない。

なんでも、チャーシューの美味さばかりに目が行って、肝心のラーメンの味の印象がぼやけるから……らしいですが、俺はそれを危惧しています。

……このチャーシュー、多分ラーメン本体を喰う勢いの美味さですね。水戸藩ラーメンを作るって記事なのに、これが美味すぎて記事の趣旨がブレる気がします。

 

確かに、これちょっと美味すぎるかも。

「このチャーシューに辛子つけて白飯食べたいな」って思ってた。

一抹の不安を抱えながらも、スープ作りは続きます。

 

塩豚を取り出した後も、適時水を足しながら鶏ガラを煮込み続ける事1時間程度。

 

……どーすっかな……煮干し……入れたほうが絶対美味いんだけど……

何で悩んでるの?

いや、後楽うどんには「火腿で出汁をとる」という記述しかなくて、煮干しを入れるとそこから逸脱し過ぎないかな、と……もう鶏ガラ入れちゃってる時点で後楽うどんからは離れてそうなんですが……

お店で出てる方には入ってたりするの?

水戸藩ラーメンの方には煮干しを入れてるお店もあるらしいんですが……

じゃあ入れちゃいなよ。せっかくなら美味しく作ろう!

 

……入れるか。

 

煮干しの頭と内臓をもぎって

 

出汁パックに入れ、

 

投入。

 

そして水で戻した干し椎茸も投入。

 

これは単なる出汁ではなくて別の役割もあります。後で説明しますね。

へー。

このまま30分程煮込み、

 

煮干しと椎茸を取り出してスープの完成。

 

味見。

 

……これに関しては普通のラーメンとあまり変わりません。

 

 

次に麺。機材とかないので手打ち。ぐるぐる回す製麺機も使ってみたい。

 

 

麺に関してですが、後楽うどんには「小麦粉にれんこんの粉を混ぜている」との記載が文献にあります。

 

それ以外は「うんどん(うどん)のようなもの」との事で、それ以外の分量であるとか何をどう使ったかわからないようです。

水戸藩ラーメンの麺を作っている川崎製麺所様でも「見たことも食べたこともないラーメンの再現は非常に難しく、文献をもとにレシピを作り、何度も試作と試食をくりかえしました」とあり、手探りの製麺が行われた事が伺われます。

上記製麺所で販売されている水戸藩ラーメンの麺には小麦粉、れんこん粉は当然として、中華麺によく使用される食塩とかん水も使われている為、いわゆる「普通の中華麺」れんこん粉を混ぜたものであるようです。

なので今回は「中華麺の材料+れんこん粉」の形式で麺を打ちます。

 

ではまず分量の計測から。

グルテン含有量が強力粉寄りの中力粉をイメージして、薄力粉20gに強力粉75g。

 

そしてここにれんこん粉5g

 

なんか香ばしい香りがする。これってどういう粉なの?

れんこん粉は健康食品的に扱われてるみたいですね。薬効の部分をあえて横に置いとくと、でんぷんが多く、片栗粉の代わりに使用出来る食品らしいです。

片栗粉を使用する麺といえば盛岡冷麺があります。盛岡冷麺は強力粉(orそば粉):でん粉をだいたい1:1という割合で混ぜる事で、ゴムのような独特の食感を生み出しているそう。

それを考えるとれんこん粉も恐らく特有の食感に寄与するのですが、入れすぎると中華麺から逸脱する可能性があるので、今回は重量比5%の混合としました。

10%で試作した事もあるんですが、見た目が十割蕎麦クラスに黒くなるので5%がちょうどいいかな、と。

 

 

後は普通に打ちます。普通と言っても中華麺を打った経験は数回しかないので戦々恐々だ。先人の知恵という名のネット情報で戦っていくしかありません。

ライターの玉置標本さんが特別な道具なしでラーメンを手打ちする方法を書かれていたので参考にしました。この人が言ってるならガッツリ体重を預けても安心。

 

 

今回は機械を使わない手打ちなので……というか、俺の熟練度が低いので加水率は45%と高めにします。試作の時は40%で打ってたけど生地が全然全然伸びてくれないしバリバリひび割れるんですよね……

 

あああ!0.6gはみ出した!!!やり直しだ!!!

そんなに細かくやる必要ある……?

 

ありますよ!加水率40%と45%の差って、粉100gに対して5cc、小さじ一杯ですよ!数%の差でもメチャクチャ生地の性質変わるんですから!

そ、そうなんだ……

※固くなるのはれんこん粉を入れた影響も考えられるので、普通に打つ分には40~42%とかでいい気がします。

 

計量した水に炭酸ナトリウムと塩を加えかん水を作り、いよいよ「水回し」という作業に入ります。

 

かん水を少しずつ加え、

かき混ぜていきます。

 

水をまた少し加え……

 

混ぜる、を続けると、だんだんおから状になっていきます。

 

水を加え終わったら、グルテンの生成を促す為にほぐすように混ぜ続けるとこんな感じに。

 

10分程混ぜ続けたら、後はフリーザーバッグの中に入れ、

 

長方形になるよう押し固めていきます。

押し固める際は俺のように手でやってもいいですし、踏んでコシを出すならこのタイミングです。

 

一応出来ましたね。

おお!

 

ただ……ちょっと生地の色がまばらなのが気になるかな……水分量が不均等な事の現れなので。まだまだ未熟っすね

本当のラーメン屋になろうとしてる?

 

あとは生地の寝かせですね。

……もしかして結構時間かかる?

 

最低30分。本当は1時間くらい寝かせたい所ですけど……

時間かかり過ぎ!というか、寝かせると何かいい事ある?

時間を置く事でグルテンの生成が進んだり、ちぎれたグルテンが再成形される事でコシが強くなるとか……あと、俺みたいな素人が打つ時の一番大きなメリットは「水分が均等になる」って事ですかね。

 

ちょっと待って下さいね……こういう時の為に作っておいたのが……

 

これ、昨日打って一晩寝かせたものなんですけど、今日打ったのに比べて色のムラが少ない気がしませんか?

 


上が昨晩作った生地、下が今作った生地(分量は全く同じ)

そうかも……?というか色全然違わない?

色が変わる理由はよくわかりません。使ってる素材も量も手順も全く同じなので、多分れんこん粉がカン水と何か反応してるんだと思うんですが……

という訳で、麺の生地を寝かせるのは相応のメリットがある、という事です。

 

というか、前日に作って寝かせた生地があるならそっちでやれば良いんじゃない?

 

……?

 

……

 

それもそうか。

白々しい小芝居だなぁ

では一晩寝かせた生地を麺にしていきます。

さて、と……

 

シュル……

麺棒と麺打ち用のシリコン製クッキングパッドです。

マイ麺打ちセット持ち歩いてるの?

 

ちなみにこれトレカのプレイマット入れです。サイズ的に麺打ちセットの携帯に丁度いいんですよ!お困りの際は是非。

ないよそんな機会。

 

別に特別なスキルを身に着けてるとかではないので、特に変わった事もなく打ち粉をしてから

 

均一に伸ばして……

 

結構硬い生地だからしんどいんだこれが。

 

いい感じに伸びたら、

 

畳んで

 

切ります。「うどんのような麺」との事なので、ラーメンとしては気持ち太めに。

 

切れたらほぐしておきます。

 

まぁこんなもんですかね。素人なんでまばらさとか短さはご了承下さい。

 

あとは仕上げ作業。

 

まずはスープを作ります。どんぶりにチャーシューを漬けていたカエシを入れ、

 

スープで割ります。

 

それから先程切った麺を茹でます。

 

茹で時間は感覚ですね。

すっごい黒くなってない!?蕎麦茹でてるみたい!

 

実際のお店の麺はこんなに黒くないんですけど、黒っぽくなる事自体はれんこん粉を入れた麺として正常みたいです。

 

まぁ……大体こんなもんかな……という所でザルに取り、

 

湯切りしてスープにイン!

 

 

そして具材の盛り付けですが、後楽うどんのトッピングに関しては2つの要素がわかっています。

そのうちの一つが「肉を乗せる時は必ず椎茸を乗せる」というもの。

 

チャーシューを盛り付けて、合わせて先程煮た椎茸も乗せます。

ちなみにこれは陰陽五行説が由来となっているそうです。火とか木とか相克とか相生のアレ。これによると肉に対して椎茸が兄弟分になっているから、との事です。

兄弟だと何か良いことあるの?

ちょっと五行には疎くて……セットボーナスとかあるんじゃないですか?

じゃあ、チャーシューと椎茸が乗ったこれで水戸藩ラーメンの完成?

 

どうぞ食べてみて下さい。

 

おお!ちゃんとラーメンじゃん!あっさり系のスープで、麺がなんかぷりぷりしてるちょっと香ばしいかも?

 

おっとみくのしんさん。焦っちゃ駄目ですよ。その水戸藩ラーメンはまだ完成してません。もう一つのトッピングが残されてるんですから。

「どうぞ食べて下さい」って言ったろ。

後楽うどんでは「五辛(ゴシン)」と呼ばれる香味野菜がセットだったといいます。もちろん、その再現である水戸藩ラーメンでも五辛は必ず添えられています。

 

実際に何が使われていたのかは不明との事ですが、水戸藩ラーメンでは「にんにく、しょうが、ねぎ、ニラ、らっきょう」を使っているとの事です。

 

なお、新横浜ラーメン博物館様の研究によると、当時用いられた五辛は「山椒、葉ニンニク、黄ニラ(遮光栽培のニラ)、白からし、香菜(シャンツァイ。パクチーの事)だったのでは、との推測がなされています。

 

では今回は水戸藩ラーメン基準五辛を刻んで……(時期的に生のらっきょうが手に入らない為、近似種のエシャレットを使っています)

 

2つ目のトッピング「五辛」が完成。

 

ラーメンの上にトッピング。今度こそ水戸藩ラーメンの完成です。

 

これを全体にかき混ぜて食べるそうです。

 

では頂きます。

五辛の香りが強いな……

 

ズゾ……

 

あはははは!!!

どうした!?

いきなりパワー系のラーメンになった!

 

じゃあもう一回……

チュル……

うわ!薬味の刺激すご!さっきまであっさり系だったのに急にガツンときた!

ニンニクのせいかな……二郎系っていうか、今風のラーメンの風味がありますね。

初めて行ったラーメン屋の限定メニューでこれ出てきたらそういうものだと思って食べるかも

 

「日本初のラーメン」という響きからイメージするラーメンはあっさりとした醤油味でした。(それこそ冒頭の写真にある来々軒の再現ラーメンのような)

勿論、後楽うどん水戸藩ラーメンもベース自体はあっさり系なのですが、五辛の存在感がノスタルジーを吹き飛ばして現代のラーメンに繋がる息吹を感じさせます。ラーメン博物館の考察とは別種ですがそちらもかなり刺激的な構成である事は間違いないでしょう。パクチー入ってるんだぜ。

 

さっき兄弟って言ってたしいたけとチャーシューもセットで食べよ。

 

そんでチャーシューうっま。

全然水戸藩ラーメン要素ねぇのに。全く関係ない所で勝手に美味い。

水戸藩ラーメンは美味しかったです。終わり。

 

 

……と締める事は出来ません。

実は、この記事には一つ「致命的な欠陥」があるのです。

 

……みくのしんさん、大事な話なのですが……

実は、「水戸黄門が作っていたラーメン」……

 

 

「日本初のラーメン」ではありません。

 

>>「後楽うどん」は”日本初”じゃない<<

 

>>じゃあこの記事ここまでなんだったの?<<