エントリーNo.6 リックェ(初代、五代目王者・二代目イベント王者)
ぎゃっ!! バイオハザード!!
のワンシーンかと思ったら、この企画で3度の優勝を誇る実力者・リックェでした。
どうやら予算300円以内のところを、299円まで使い切ったのが嬉しくて自慢したかったようです。離脱率の高まる画像で申し訳ございません。
顔の造形はともかく、過去の菓子盆選手権で優れた盆を数多く作ってきたリックェ。
「駄菓子屋での即興」という泥臭いファイトにおいても、そのデザインセンスを発揮できるのでしょうか? 注目の一盆です!
●レモンヨーグルトドーナツ 85円
●ポテトフライじゃが塩バター 38円
●カプリコミニ 35円
●にんじん 32円
●青りんご餅 餅飴 32円
●チョコチップクッキー 22円
●バタークッキー 22円
●プチプチ占いチョコ 22円
●ラーメン屋さん太郎 11円
計 299円
え?
「テーマはズバリ『しっとり』です。駄菓子ってサクサク・パサパサ系が多いじゃないですか。今回の菓子の大半はそうなってしまうはず。となると『しっとり』系を食べたいのが世の常人の常。今回、洋菓子と呼べるものを入れた盆二ストが他にいたでしょうか?」
「メインはまるまるドーナツをひとつと、バニラとチョコのクッキー。うーんしっとり。ボロは着てても心は錦。300円でも大満足。
ここにGODIVAのチョコレートを入れれば、コンツェルンの御曹司盆にできるのですが、それはさすがに予算オーバーなので、赤みとカカオを兼ねてプチプチ占いチョコで代替。青リンゴ餅は春の芽吹き」
「春霞たなびきにけり 久方の月の桂も花や咲くらむ(貫之・後撰集18)
脇を固めるのはポテトフライ。春霞に見え隠れする月を象徴するとともに塩味の守り人です。
最後に、カプリコとにんじんは、豊かさの象徴『コルヌコピア』を表現しています。ゼウスを育てたアマルティアにその返礼として渡されたコルヌコピア。一説によるとエジプトのファラオ、ナポレオン、ロマノフ王朝……、所有者に莫大な富をもたらしてきたと言われています。あなたのもとにもほら、コルヌコピアが!」
~ 会場の反応 ~
「それ以上、口を開くな。殺すぞ」
「畑泥棒の昼メシ盆じゃねぇか」
「リックェのこれまで培ってきた実績が、この盆ひとつで一気に吹き飛んだ」
確かにこれまでの大会で洗練された盆を作ってきたリックェにしては、かなり凡庸な作品に見えます。しかし審査員である恐山が、この盆に隠された意図を見破っている可能性も捨てきれません。果たして!?
今回は、野外・雨・強風・飛び交うハトやスズメ・さらに使用できる菓子が駄菓子のみという、異例のコンディションで行われた菓子盆です。普段とはまったく異なる条件によって体勢を崩す盆師がいなければいいが……と密かに心配していたのですが、まさかのリックェさんが「それ」だったようです。
今までの静謐な佇まいはこの盆において影を潜め、妙なズッコケ感が残ってしまいました。無礼講の宴会で本当に全裸になってしまった人を取り巻く空気が盆から漂っています。スポーツ漫画には「コントロールは正確だが、突風などのアクシデントに極端に弱いキャラクター」が必ずいますが、リックェさんはそのタイプだったのかもしれません。
このズッコケ感の正体はなにかと考えてみたのですが、ひとつ思い当たりました。リックェさんは駄菓子を本当は信じていないのでは? お菓子の価値と価格は比例すると思っていて、だからその不安を掻き消すために比較的高価で高級感のある「レモンドーナツ」を入れたのではないでしょうか。そこが決定的なほころびになり、この盆のようなバランス崩壊を引き起こしてしまったのでは……。
「菓子を信頼できるかを試すのに一番良い方法は、菓子を信頼してみることだ」という言葉もあります。リックェさんには是非、駄菓子のポテンシャルを信じて欲しいものです。
なんと……実力者と目されたリックェが駄菓子盆ルールの前に崩れ去るとは。リックェのセンスは「金を出せば手に入るシャレオツな菓子」に依存した力だったのかもしれません。今後は成金キャラとして生きていってもらいましょう。思わぬ波乱が起こりましたが、次がいよいよ最後の盆となります!
エントリーNo.7 原宿
最後の挑戦者はオモコロ編集長の原宿。予算300円以内と言ってるのに、1000円出して「スナイパーライフルのおもちゃ」を個人的に買っていました。いつも意味のわからない悪趣味な盆しか作りませんが、今回は“即興”ですので、そこまで素っ頓狂なことをする余裕もないはず。ついにまともな菓子盆を作る日がきたのでしょうか!
「菓子盆は、常に社会の空気を映す鏡であらねばいけません。僕らの暮らす社会の歪みは、そのまま盆の歪みとなってこの場に現れるのです。今回は利便性の影で進行する、物流業界の歪みが僕を突き動かしました」
●JR特急マーブルチョコ 32円
●宅配カーパックチョコ 22円
●メガトン味のし 54円
●ドラム缶スライミ 108円
●イカメン 32円
●干し梅 32円計 280円
「ネット通販隆盛の影で、過酷な労働にさらされる宅配ドライバーの現場。末端へのしわ寄せの実態は、いつの時代も悲劇という形で白日の下に晒されます。便利になった世の中の裏側で、今日も誰かが疲れて泣いている」
「それでも僕ら人間は、大量消費社会という暴走特急に運ばれる荷物と同じです。何の感情もなく、立ち止まることも許されず、すべてをなぎ倒して前に進むしかない。この装置に乗った時から、もっと言えば生まれた時から、そうなることは決まっていたんです。菓子盆の上に広がる血は、運転手の血でしょうか? それとも僕らの血でしょうか?」
~ 会場の反応 ~
「しーん」
「何なの?」
「マジで何?」
破門です。
7回目の破門でした。この空気、どうにかしてくれ。
優勝者決定!
さて、これで第八回菓子盆選手権「予算300円以内で作る即興駄菓子盆」のすべてが出揃いました。
果たして駄菓子王の栄冠は誰の頭上に輝いたのか?
審査員のダ・ヴィンチ・恐山から、優勝者を発表いたします!
今回の菓子盆選手権の優勝者は……
山下ラジ男さんです!!
桜の季節にラジ男が満開! 第八回大会、なんと初出場の山下ラジ男が優勝をかっさらっていきました! 果たして勝利のポイントはどこだったのでしょうか? 審査員の総評をいただきましょう。
何度も言っているように、菓子盆は決して「お菓子の質」を競う競技ではありません。菓子と向き合いそこから何を引き出すか、さらに言えば、菓子に映した自分をどう表現するかを競う競技なのです。今回の駄菓子盆というテーマによって、その本質がさらに浮き彫りになったと感じました。
ある人は駄菓子の「おつまみ」としての性能の高さに目を付け、またある人は駄菓子が「模倣品」として高い批評精神を備えていることに気づきました。このように、駄菓子というジャンルをとっても多面的な楽しみかたを見いだせるのが、菓子盆選手権の特質なのです。
山下ラジ男さんの菓子盆は、一見すると稚拙です。しかしその構成は実に堅実で、開催当日の悪天候を忘れさせるような安定感がありました。彼は盆をしっかりとコントロールしつつも、己の稚気を引き出すことに成功していたのだと思います。よって、今回の優勝作品とさせていただきました。
そして山ラジさんの就職は失敗する気がします。就活中にこんなことをやってる場合じゃないから。
就活を投げ打って菓子盆選手権に参加した若き獅子が優勝…! 菓子盆選手権にまた一人、新たなヒーローが誕生しました。経験者が即興と予算制限という縛りに盆感を狂わせる中、初出場の思い切りのよさが呼んだ勝利と言えるかもしれません。
思えば第七回でも初出場のチャンピオンが誕生していますし、経験者が回を重ねれば重ねるほど盆の引き出しを使い切っていく中で、経験の無さは菓子盆においては逆にアドバンテージとなのでしょうか? 山下ラジ男の菓子盆の真価は、次回以降の大会で検証されることでしょう。
オモコロ恒例企画とさせていただいる菓子盆選手権ですが、今後もハリウッドでの映画化を目指して活動の幅を広げて参ります。
今後のテーマとして、「重量限定菓子盆」、「外国からの旅行者にうけるお・も・て・な・し菓子盆」、「菓子盆バトルロワイヤル ~今日は皆さんにちょっと菓子盆を作ってもらいます~」などの企画も検討中です。
それでは皆さん、第九回の菓子盆選手権でお会いしましょう!
(おしまい)