あなたの家に菓子盆はあるでしょうか? ない人も、ひょっとしたら実家で見かけたことがあるかもしれません。
親がスーパーで買ってきた聞いたこともないお菓子が、誰にも食べられず永遠に盆の上に残り続けるのを見て、「一体何のためにこのお菓子を買ってきたんだ?」と疑問を抱いた人も多いことかと思います。
自分の好きなお菓子を自由な配分で載せ、好きな時にそれをつまみ食いすることのできる菓子盆は、インテリアであると同時に「個人の菓子センスが問われる小さき戦場」でもあります。
どんなお菓子を載せれば人は菓子盆に手を伸ばすのか?
その時の盛り方、配色は?
味のバランスにも気をつけるべき?
「本棚を見れば、その人が分かる」という言葉がありますが、その小さき空間の中におもてなし力と生活センスが凝縮される菓子盆も、その人自身を表すと言っても過言ではないでしょう。
今回オモコロでは、有志を募って「第一回 菓子盆選手権」を開催。誰が一番ハイセンスな菓子盆を作れるか、菓子盆王の座をめぐり仁義なき戦いを繰り広げました。
比類なき強権を持つ審査員には、品田遊名義で作家としても活躍するダ・ヴィンチ・恐山が務めます。特にお菓子の権威というわけじゃないけど、なんか文化人っぽいし、みんな納得するんじゃない? 何の説明もしてないのに快く来てくれたし、いいかなって。
ちなみにエキシビジョンマッチとして、オモコロの運営会社であるバーグハンバーグバーグの女性社員に作ってもらった菓子盆がこちら。「一人で家でアニメを見る時用の菓子盆」とのことで、チョイスしたお菓子は、
●ポテトチップスのり塩(カルビー)
●ヨックモック
●えび満月
●いかくんさき
●明太子マヨネーズディップ
でした。
審査員は果たしてこの菓子盆をどう見るのか? 一番最初に手を伸ばす「初手(しょて)」の菓子が気になります。
さぁ、どこから攻める……? どこからでも行けそうな気配はありますが……あっ
「初手、えび満月!」
そんな大きな声を出すことは何もないんですが、何となく盛り上がってしまいました。審査員の寸評はこちらです。
全体的に若干くたびれた大人の感性が光るチョイスだと思います。
エキシビジョンマッチにもかかわらず、「明太マヨディップ」が飛び道具的で驚きました。ですが残念ながらディップがじゅうぶんに力を発揮していたとは言いがたい。正直「ふつうに食べたほうがおいしいかも」と思ってしまいました。
凝ったギミックは菓子盆から「気安さ」を奪ってしまうリスクがあるんですね。あくまで日常に溶け込むべき菓子盆のデリケートさを感じさせてくれる作品でした。
はい、こういう風にすすめていきます。ちなみにそんなダ・ヴィンチ・恐山の好きなお菓子は「いかせんべい」とのことです。そんなジジイみたいな好みの奴に「くたびれた大人」って言われたくないですね。
エントリーNo.1 加藤
ここからが菓子盆選手権の本戦出場者となります。まずは何故か川谷絵音さんの宣伝素材と同じポーズをしている加藤。今大会への意気込みを聞いてみます。
加藤
「ぼくが目指したのは、長期間置いておける“放置菓子盆”です。1日で食べ切るというより、居間に置いて1週間はそのままでも大丈夫なよう、袋詰めされたもの(シケったり、ホコリが乗らないような配慮されたもの)ばかりをセレクトしています。
また、袋詰めされていても味と触感、色合いのバランスを考え、甘さとからさ、サクっとしたものとモチっとしたもので揃えることで、『いつ食べてもいい』ものだからこそ、『いつ何時でも手が出せる』ような心配りをしました」
どうやらスピードよりも持続力を重視したというコンセプトがあるようです。そんな加藤の創りだしし菓子盆(しが多い)はこちら!!
●歌舞伎揚げ
●チロルチョコ
●ハッピーターン
●たけのこの里
●ベビースターラーメン しお味
●どら焼き
●草大福
●ヨックモック
~ 会場の反応 ~
「確かにホコリはかぶらない」
「その分、気安さがないというか、重たい印象があるね」
「町内会で、お神輿をかついだ後にもらえるご褒美っぽくない?」
「確かに日持ちはするけれど……」と言った反応が多数を示しましたが、審査員のダ・ヴィンチ・恐山はこの菓子盆をどう評価したのでしょうか?
雑多な菓子を「保存性」というテーマで貫いた、非常にコンセプチュアルな菓子盆です。菓子のチョイスも評価が定まったものばかりで安定感がありますね。草大福が余る未来がちょっと見えるので、そこは不安要素ですが……
「長持ちする菓子盆」という目論見はたしかに成功しているので、あえて言うべきことはありません。指摘するとすれば、保存性を優先した結果、スリリングさを失っていることでしょうか。その場限りの楽しさを追求することも菓子盆では重要なテーマだと思います。
いきなり呼んだとは思えないほど、それっぽいコメントを返してくれる恐山。実は菓子盆評論家の才能があるのでは? めちゃめちゃ助かるので、どんどん行きましょう!
エントリーNo.2 永田
二人目は一児の父でもある永田です。家族を持つ男は、菓子盆の中に一体どんな世界を表現するのか!
●なぎさあられ
●マイクポップコーン(バター醤油)
●とうがらしの種
●ホワイトロリータ
●ロッテのチョコパイ
●わさびのり太郎
永田
「まず菓子盆に菓子を直接乗せるのは衛生的にどうかなと思い、キッチンペーパーを敷きました。上品な友達の家に行った時は大体こうだった気がします。また、菓子盆においては手を伸ばしやすい『気安さ』、危険ドラッグで例えると『ゲートウェイドラッグ』(他の薬物の使用を誘導するための入り口になる薬物)の存在が不可欠だと思いました」
「そのため、手前ゾーンの小粒感にこだわりました。渚あられはサークルKサンクスで売っているものだと、ちょっと長くて大粒なので、小粒バージョンの物を探し求めました。大盛りで入っているのは、僕がめっちゃ食べたいからというのもありますが、少量入れて、なくなったらその都度パッケージの袋から追加するような行為は菓子盆において、僕はあまり美しいと思わないからです」
「わさびのり太郎は賛否あると思いますが、ここは僕のエゴです。もちろん制作者の好みを押し売りするようなエゴだらけの盆は見るに堪えないものでしょう。しかし、エゴなき盆にもまた魅力はないと僕は考えます。なので、非難を覚悟して個人的に大好きだから入れたものです」
~ 会場の反応 ~
「キッチンペーパーは確かに! ちょっと手を拭けるのも便利」
「話は長いけど、バランスはいい気がする」
「桃鉄がはかどりそうな菓子盆だと思いました」
なんか理屈っぽかったけど、なかなかの高評価でした。審査員のコメントは果たして!
なんでしょう、この安心感。それでいて野心をも感じさせる構成は。
僕はこの盆を見た瞬間に「オートロックのマンションに住んでる友達の上品なお母さん(口の脇にほくろがある)」の姿が浮かびました。すぐれた菓子盆は「ヴィジョン」を見せるんですね。
ポップコーンやあられに自然に手が伸びた結果、比較的重いチョコパイへとシフトできる構成も見事。多用すると実家のお母さんみたいになるブルボン製のお菓子も使いこなす器用さには舌を巻きます。わさびのりには賛否あるでしょうが、こういうヤンチャ感もまた菓子盆の醍醐味です。
なんかよくわからない幻まで見るほどの高評価! これは今のところ優勝候補かもしれません。この先、永田の菓子盆を越える存在が出てくるかどうかに注目です。