「ぼくたちはビートルズをあまりよくしらない【前編】」はこちら。
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ジョンとヨーコの出会い
思えば、音楽ばかりの人生だった。一旦、音楽から離れてみるのもいいかもしれない。そう思ったジョンは、二度目の日本公演が終わったあと、空き時間を利用して、何の目的もなしに東京を散策することにした。
表参道を歩いているときに、とある日本人女性の個展が目に止まり、中に入ることにした。
そこは画家・オノヨーコの絵画展だった。
「アメージング」
絵画に興味のないジョンだったが、ヨーコの絵はまるで母親の胎内にいるかのような心地よさがあり、食い入るように見つめたという。
会場の隅っこに、やたら高いところに展示されている絵があり、その下には脚立と虫眼鏡が置かれていた。どうやら、これを使って絵を見るというコンセプトのようだ。
ジョンは虫眼鏡を握りしめ、脚立の上に立った。
「アメージング」
シンプルながらもパワーを感じさせる絵だった。ジョンは隅から隅まで舐め回すように鑑賞したという。そしてジョンはあるものを発見する。
そこには電話番号が書かれていた。ジョンはその番号をメモし、個展を後にした。
近くの電話ボックスに入り、メモした電話番号にさっそくかけてみた。
「もしもし。突然ですが、君がオノ・ヨーコかい?」
「そうだけど。どちらさま?」
「誰だっていいじゃないか。さっき、表参道の個展に行ったんだ。僕の言いたいことがわかるかな?」
「ええ、あの絵を見たのね」
「とってもアメージングな絵だった。最近思い悩んでたんだけど、あの絵を見ていたら、自分の悩みなんかちっぽけに思えてきたよ」
「そういってもらえると画家冥利に尽きるわ。何を悩んでいるのかしらないけれど、それはきっと愛が解決してくれるはず」
「愛……か。どうしたら心から人を愛せる? たとえば僕は、君を愛せるのかな?」
「おかしな人」
「会えないかな?」
こうしてジョンは、オノヨーコと会う約束を取り付けた。
「驚いた。まさか、ビートルズが来るとは思わなかったわ」
「いや、今の僕はビートルズじゃない。ただのしがない男さ」
「会えてとても光栄よ」
「僕もさ。さぁ、行こう」
初対面とは思えぬほど、ふたりは急速に距離を縮めていった。
こうして、ジョンとヨーコの交際がスタートしたのである。3日後、2人は結婚した。
後日、ジョンはレコーディングスタジオにヨーコを連れて行き、メンバーに紹介した。
突然の結婚にメンバーは面食らったが、「ジョンはそういうヤツだから」と妙に納得したという。
その日からヨーコは、毎日のようにレコーディングやミーティングに参加するようになる。それだけに留まらず、曲のアレンジやバンドの方向性について持論を展開するようになっていった。
困惑したメンバーは「もうヨーコを連れてくるな」と抗議する。しかしジョンは「ヨーコがこれないなら僕もこない」の一点張りだったという。
こうして、メンバーの間に軋轢が生まれていった。