こんにちは。ライターのたかやです。
各地でイベント事も多くなってくる時期ですね。先日、僕 たかやとオモコロライター・みくのしんの2人で「たかやとみくのしん 第一回使えない夜」というイベントを開きました。
「たかやとみくのしん 使えない夜」イベント終了後の2人
イベントのテーマは「webライターとしてパッとしない2人が、なんとか売れるためにいろんな企画案を発表する」というものでした。
さまざまな企画案をお客さんの前でプレゼンしていったのですが、その中の一つに
「たかや・みくのしんマンガ家計画」という企画がありました。
昨今、SNSではカワイイ動物マンガや面白体験を綴ったエッセイマンガなど…マンガがヒットしやすい傾向にあります。
「ならば俺たちも」と、マンガなんて一度も描いたことのない2人がマンガ製作に挑んでみた企画です。「職業はライターです」より「漫画家やってます」の方がモテそうだし。
今回は、そんな「話も作れない、絵も描けない素人が、ゼロからマンガを描いてみた」話をさせてください。
ネーム作り
今回は
原作=みくのしん
作画=たかや(僕)と、完全分業制で作業をしていくことに決めていた。
ストーリーの構成や題名、ネームはみくのしんの担当。キャラクターのヴィジュアル作りやペン入れ…絵に関わる全ての作業はたかやの担当。
スタートする前から「ギャラの分配はどうするか?」とプロ気取りだった。完全にクソバカの素人だ。
2018年4月某日、原作担当みくのしんからネームが書かれたノートが渡された。
『ネーム』
漫画を描く際のコマ割りやセリフ、構図を大まかに記した「設計図」のようなもの。漫画製作においては骨となる部分。
いくら素人2人でも「ネーム」の存在は知っていたし、これがないと何も始まらないことは理解していた。
早速、みくのしん渾身のネームを拝見させてもらう。
彼曰く「サブカル層にも受けるオシャレな漫画にしてみました!」とのこと…
恋に
コガレテ
『恋に焦がれて』
タイトルから推察する限り恋愛物だろうか。なんだろう、嫌な予感がする。
あらすじはこうだ。
深夜の公園。
カップル2人がベンチで他愛のない会話をしている。
話題も尽きたあたりで、唐突に男がある秘密を打ち明ける。
「俺…癌なんだよね…」
突然の告白に驚く女。男は愛情がガンという形になって身体を蝕み、やがて死に至る病に侵されているらしい。
病気を治す方法はただ一つ。
「彼女のことを嫌いになること」
“死”を前にした、男女2人のラブストーリー。
きっつ~~~~~~。
なんていうか…塩ッ辛い。2000年代のケータイ小説を麹漬けにしたかのような塩っ辛さ。
「君を嫌いになれば癌は消える」
のっけからトンデモ理論の病気が登場して、物語が全然頭に入ってこない。
あと、やたらとモノローグが多い。絶対ネーム描く前に浅野いにお読んでただろ。
浅野いにお
漫画家。陰鬱さを秘めた世界観、繊細かつ緻密な画力が若者からの支持を得る。
代表作に『ソラニン』『おやすみプンプン』『デッドデッドデーモンズデデデデデトラクション』
浅野いにお「おやすみプンプン」10巻 68-69p
もちろん僕だって人様に偉そうなことは言えない。事前に「ネームは自由に書いてください」と彼にも言った。それでも、想像の斜め下のストーリがあがってきてどうしても突っ込んでしまう。
これからこのストーリーを形にしていくのか…。
いざ作画。…の前に絵の練習
作画の僕だって絵の専門学校に通ったわけでもない素人だ。漫画制作経験も小学生のころ流行っていた『絶対絶命でんじゃらすじーさん』や『消しカスくん』の二次創作をノートに描いていただけ。。RPGならレベル1の状態だ。
肩慣らしに『DRAGON BALL』の悟空、ベジータ、ピッコロを何も見ない状態で描いてみた。
キャラから“生命”を感じられない。漫画化を目指す小学生が初期に描きがちなやつだ。
開いた口をどうやって描けばいいかわからず閉じてごまかしたら、全員変なおすまし顔になってしまってムカつく。描いたの僕だけど。
あと利き手と同じ方向の顔の向きを描くのが難しいことに気づいた(僕は右利きなので、この場合は右を向いてる顔が描けない)。
調べたところ、左右を同じように描くのは手首の構造上どうしても難しいんだとか。これはプロでもわりと苦手としているらしい。
そんなことを、ズブの素人の僕ができるわけない。
それでも画力を向上させるただ一つの方法、それは…
模写だ
そう、ひたすら模写(もしゃ)するしかない。プロの先生方も「上達するには描いて描いて、描きまくるしかありません」と言っている。
僕は部屋にあった漫画の中から適当なシーンを選び、模写しまくった(半日で飽きた)。
原作者に「浅野いにお臭するネームだな」と非難しておきながら、作画も浅野いにお作品ばっか模写した。俺たち、浅野いにお先生が大好きなんだ。
それでも模写の過程で
「目はただ黒く塗り潰すんじゃなく斜線を引いて濃淡を表現するといい」
「横顔は顎を尖らせるとしゃくれてるみたいになる」
など、素人なりに気付きも得た。
自分の中で「僕でもここまで描けたんだ」と自信がついたことが一番の収穫だったのかもしれない。一歩踏み出すための勇気、模写は僕にそのことを教えてくれた。
描けば描くほど上達するので、この時の僕には「漫画作りって楽勝じゃん」と思っていた。
ここからが地獄だとも知らずに…
締切まであと10日
道具を揃えよう
模写をしただけで満足した僕は、なかなか次の作業に移らなかった。「読むのも勉強のうちだから」と自分に言い訳をして、ネットカフェで漫画を読んだだけで一日が潰れた日もあった。
オモコロ編集長から「そろそろ締切だけど、漫画の進捗はどう?」と催促の連絡が来たところで、残されている時間が僅かなことに気付いた。
次のステップに移らなければ。絵の練習もしたし、次はなんだっけ?
道具だ。
専用の用紙、ペン軸、インクなど、うろ覚えの知識だけどそこら辺の画材を調達しなければならない。みくのしんは「え? 紙ってコピー用紙じゃダメなの?」と言っていたが、流石にそれじゃダメな気がする。僕たちは早速画材屋に向かった。
都内でも有数の品揃えを誇る画材店の『世界堂』にやってきた。今の時代はネット通販で注文できるのでそっちの方が早いかもしれない。
用紙はアイシーの漫画専用用紙(40枚入り500円)を購入。
ペン関係はありがたいことに、ペン先と3種類のペン軸(Gペン、丸ペン、サジペン)セットになった「お試し入門キット」が売っていたのでこれを使うことにした。
それぞれのペン先の違いを説明すると…
Gペンは線の太さの強弱がつけやすく主に人物の輪郭を描くのに適していて、丸ペンは細い線が引けるので髪の毛を描くのに使われる。
そしてサジペンは線の太さが均一に書けるのが特徴で建物などの直線を描くのに向いているんだとか。
僕の技術がクソすぎてどれもおなじ線に見えるけど実際に描いてみると違うんです。
他にもインクやトーンなど必要最低限な物を購入した。
一緒に来ていたみくのしんはずっと「女の子のパンツの描き方参考書」を読んでいた。何しに来たんだよコイツ。
これで画材は揃った。RPGでいえばやっと装備を身に付けた状態。あとはラスボス(作画)に挑むだけだ!
下書き&オリジナルキャラを作ろう
さぁ、いよいよ原稿にペン入れ(ペンで清書すること)…とはならない。まずはネームを基に「下書き」だ。下書きといっても、この段階である程度しっかりした絵にしなければいけない。かなり重要な工程になる。
さっそくネームを見返すのだが…いきなり難しい構図がきた。
皆さんも、このネームの要望通りの構図で「腕時計を確認している女性」を描いてみてほしい。…クソ難くない? 僕だけ?
「絵のことはよくわかんないけど作画担当なら描けるっしょ?」と高いハードルを用意してきたみくのしんに対して段々殺意が湧いてきた。
仕方ないので実際にポーズを取って写真で確認することに。自分の頭の中でうだうだと想像するより、この方法なら一発だ。
写真を基に線画。「腕時計を確認している女性」っぽくなってますか?
想像しにくいポーズは写真にして確認していった。
いちいち写真を撮って確認して描いて…を繰り返すのはかなり疲れる。
あとで調べたら普通に漫画用のポーズ集も売っているし、ネット上には3Dモデルで人体の動きを確認できるサイトもゴロゴロあった。
しかしここで重要なことに気付いた。キャラデザインが決まってない。ていうか気づくのが遅すぎた。
「男の頭」「女の頭」の文字で済ませられるみくのしんが憎い。
人物の髪型は? 服装は? …課題を1個クリアしてもすぐ次の課題がやってくる。マンガ、こなさなきゃいけいないタスクが多すぎる。
特に今回は、男女2人の物語。男のビジュアルは…まぁ自分を参考にすればいい(恥ずかしいけど)。しかし女はどうすれば…。
苦肉の策で、女のモデルは自分のお母さんにすることにした。自分にとって一番身近な女性といったら母親しかいない。
つまり、僕と母親の恋愛マンガを自分で描くってこと。
なんの拷問?
それでも他の方法も見つからないし、家族LINEのアルバムを漁り母の服装や髪形を参考にする。
キャラクターの見た目が完成した。
『厨二が考えたストーリー』+『浅野いにおをパクった作風』+『人物のモデルは自分と母親』
問題だらけのマンガだ。僕が読者だったら絶対に読まない。