この記事は、本が読めなかったWEBライターが初めて「山月記」を読むだけの記事です。
<この記事に出てくる人>
WEBライター。本を読むのが苦手だった。
友だち。みくのしんが本を読む手伝いをする。
はじめに
以前、「32年間の人生で、一度も本を読んだことがない」というみくのしんが、初めて「走れメロス」を読む……という記事が公開されました。
始めは慣れない読書に悪戦苦闘しつつも、いつのまにか本の世界に没頭。
爆笑したり号泣したり、いろんな感情を爆発させながら、体全身を使って「走れメロス」を読み進み、ついに人生で初めて本を読み切ることができました。
こうして、本を読んだことがない一人の男が、本を読めるようになった……という記事です。
今からお送りするは、そんなみくのしんが人生2冊目の読書に挑戦したときの話です。
2022年12月撮影
人生で2冊目の読書かぁ〜! 次はどんな話なんだろ?
楽しそうだなぁ。前と比べて「本が読めない」という緊張はなくなったみたいだね
走れメロスを読んだから、自信がついたのかもね。読書への苦手意識はだいぶなくなったと思う!
それはよかった
あれからいろんな人に「次はこの本を読んでみて!」ってオススメしてもらったんだよな
みんな優しいね。まあ、みくのしんって本のすすめがいがあるもんな
で、今日はその中で一番オススメされてた本を読もうと思って!
なるほど……
それで選んだのが山月記か……
え? なに? あんまり良くない本なの?
いや、そんなことはないよ。俺も好きな話だし
数ヶ月前まで本が読めなかったのに、今や読みたい本を自分で選んできたというみくのしん。それくらい「走れメロス」が楽しかったのでしょう。
しかし、後述するとある理由で、この「山月記」はみくのしんにオススメしづらいのではないかと思っています。
考えすぎかもしれませんが、彼はまた本嫌いに戻るかもしれません。
これって有名なの? たくさんの人がこれ読んでほしいって言ってたんだけど
知ってる人は多いと思うよ。高校生の教科書にも載ってるくらいだし
へえ〜。俺は読んだことないけどなぁ
まあ、そういう人もいるんじゃないかな
でも、前ほどの拒否感はないかもな。俺はもう読書初めてじゃないからね!
そっか。俺も心配しすぎだったかも。みくのしんが読みたいと思ったならそれが一番だよ
ただ、読むのにめっちゃ時間かかると思うけど大丈夫?
それは覚悟の上だから
▼編集部注
予め申し上げておきますが、この記事はとても長いです。
普通に「山月記」を読むより長いです。何卒ご了承ください。
あ、でも今回はそんなに時間かからないかも!
そう? まあ、「山月記」は「走れメロス」と比べると短い作品だしね
だってさ……
見て。「山月記」って16ページしかないんだって!
そうだけど、前のみくのしんだったら「そんなに読めねえよ!」って言ってたと思うよ
そう? 16ページなんてあっという間だと思うけどなあ
人って変わるもんだな。それだけ本が読めるようになったってことだろうね
俺も成長してるんだ……! まさか自分の人生が、「本が読める人生」になるとはね。これはすごいことだよ
気分もノッてるね。この調子で本を好きになってくれたら嬉しいよ
よ〜し! じゃあ、「山月記」読んでいきますか!
さてさて……
隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。
……。
???
何? どうした?
え…? ちょ……
うそだろ?
落ち着いて。まだ1行目だから
そうだよね。落ち着いてもう一回読むわ。いくらなんでもそんなわけないもん
隴西の李徴は博学才穎、
……。
天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、
……。
ついで江南尉に補せられたが、
……。
性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、
……。
賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。
うわああああああああああ!!!!!
みくのしんがダメになっちゃった
お経読んでんのか俺は!!
そうなっちゃったか。まあしょうがないよ
何これ??!??! マジで言ってんのか??!!
隴西の李徴は博学才穎、
1文字目から読めない。何が起きてんの???
難しい単語多いよね。でも、ニュアンスが分かれば正確に理解しなくてもいいからさ
そういう問題じゃないだろコレ
隴西の李徴は
今、俺は「の」と「は」しか分かってない。隴西って何? 李徴って何?
落ち着いて。初見でそれが分かる人いないから安心して
じゃあどうやって読むんだよ!! 漢字が分からないからスマホで検索すらできないんだぞ!!
巻末に「注釈」があるから。それを読みながら意味を把握するんだよ
なるほど……裏に答えが書いてあるのか
そうそう。さすがにこんな単語を解説ナシで理解できる人いないって
そりゃそうだよな。え〜っと隴西は……
え? え? え?
やばいかも
注釈だけで4ページあるんだけど?!
あ〜……。まあ、山月記は難しい単語多いからな〜
注釈だけで本になってんじゃねえか! 俺、今日2冊読むって聞いてないぞ!!
「16ページなんてあっという間」って言ってただろ
ごちゃごちゃ言ってても進まないし、とりあえず意味を知るところから始めるか……
大丈夫大丈夫。本って読み始めが一番ダルいものだから。もうちょっと頑張ってみよう
え〜っと…。隴西←これの意味は……
【隴西】
いまの中国甘粛省の臨洮府から鞏昌府の西境にいたる地域で西城に近かった。
俺に読めるはずがない!!!
読書中に怒声をあげないで
何だこれは。読めない文字を読めない文字で説明すんなよ!!!
パニックに陥るみくのしん
ということで、みくのしんの人生2度目の読書ですが、最初の1文字が読めずに破綻しました。
それもそのはず、山月記は「漢文調で書かれた文学」であり、物語の舞台も我々には馴染みのうすい古代中国。読書初心者には最難関なのです。
これ、誰が読むものなの? 教授?
一応、高校生の教科書に載ってるんだけどね
どの教科書に載ってんだよ。歴史? 考古学?
国語だよ
さっきから本編と注釈をいったりきたりしてるね
どっち見ても分からないからすごい。「?」と「?」を反復横とびしてるだけ
まあまあ。俺もなるだけアシストするから、読めるところまで読んでみようぜ
ありがとう。でも、読めるところがゼロなのはどうしたらいい?
……頑張ろう
隴西(ろうさい)の
とりあえず、これが地域の名前だってことはわかった
おっいいじゃん! それだけ分かれば大丈夫よ。そこが具体的にどんな場所かまでは理解しなくていいから
よかった…。こんなの初見殺しにもほどがあるだろ
李徴(りちょう)は
で、これは人の名前ね。主人公が李徴さんっていうのか
昔の中国が舞台だからね。これも初見で人名だとは分からないよな
まあ、これはしょうがないか。封神演義とかもキャラの名前覚えられなかったし
博学才穎(さいえい)、
あーすごい。本ってこんなに難しいの?
こんな単語、俺も読めんよ
みんなはなんで俺にこの本を読んでほしいって言ってたの?
嫌がらせ?
嫌がらせか…!?
自分ができることを言え!!!
できるからオススメしてくれたんだろ。みんな高校生の時に読んでるからさ
それ本当なの??? 信じられないんだけど???
高校生でこれが読めるなら、この国はもっと豊かになってるはずだろ
それは国に言えよ
東京にも、もっと木とか緑とか多いはずだろ
みくのしんのイメージする豊かってそんな感じなんだ
天宝の末年、
あたまがあちい
若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、
脳みそがミミズ腫れしそう
ついで江南尉(こうなんい)に補せられたが、
いつまでこの調子!?
性、狷介(けんかい)、自(みずか)ら恃(たの)むところ頗(すこぶ)る厚く、
ゲームで言語選択ミスったときみたいだ……
日本語で書かれてるはずなんだけどな
再起動してえ……
再起動してもこの調子だよ
賤吏(せんり)に甘んずるを潔(いさぎよ)しとしなかった。
きゃあーーーーーオ!!
大人のキレイな奇声が聞けるとはね
隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。
一行目でこれってないよ。俺、泣きそうなんだけど
どうする? さすがにギブアップしとく?
でも……せっかく人がオススメしてくれたものだからな……
誰か日本語に訳してくれ
元から日本語だよ
この後もかまどに翻訳してもらいながらどうにか読み進めていたものの、さすがに難しすぎたようで楽しく読み切ることはできず。
こうして、みくのしんの人生2冊目の読書は、彼にとって苦い思い出として刻み込まれてしまいました。
山月記こそ読めませんでしたが、あれから何冊も読書を重ねてきたみくのしん。
芥川龍之介や宮沢賢治、梶井基次郎など名だたる文豪の作品を読み切ってきました。
もはや「本を読んだことがない男」は卒業し、最近では「本が読めるようになった!」と喜んでいます。
……ですが、「山月記」だけは読破できずに、ずっとそのままになっていました。
人生2冊目の読書で挫折したせいか、あれから新しく本を読もうとするたびに「また山月記みたいになるかも……」という思いが拭えないそうです。
ということで、今日は1年半越しに「山月記」を読んでもらおうと思います。
初めて読んだときは、完全にブチキレていたみくのしんですが、今なら、また違う読み方ができるかもしれません。
2024年6月撮影
読みたくねえ〜!!
そんな高らかに宣言しないでよ
いや、そりゃいつかは読んでやろうとは思ってたけどさぁ! こんなに早いとは思ってなかったんだよ!
あれから1年以上経ってるだろ
内容も完全に忘れてるから、またゼロからのスタートなのも緊張するわ
そう? あのとき、途中までは自力で読んでたし、ちょっとは覚えてるんじゃない?
覚えてねえよ。俺は自分が書いたブログですらロクに覚えてねえんだから
でもほら。みくのしんはあれから、難しめの作品も読んできたじゃん。今なら太刀打ちできるかもよ?
そうなんだけど……山月記はレベルが違うだろ。いっぺん水でふやかさないと、とても食べられないと思う
? まあ、無理はしなくていいんだけどさ
でもな〜! 読めなかったのが、ずっとひっかかってたんだよな〜! まあ、やるだけやってみるか!
何かに気付いたみくのしん
あれ? 山月記ってこんな本だったっけ? 表紙が変わってる?
今回の撮影のために、また買い直したからね
以前、読んだときの表紙はこれ
ロングセラーの作品だと、表紙のデザインが変わることはよくあるよ
あ〜、それは俺もなんとなく知ってるかも。なぜか夏に衣替えするイメージがあるな
分かる。あれ、何でなんだろうね
なんにしろ、陽気な色の表紙で嬉しいです! 俺、黄色好き!
読む前から気持ちがアガってるようで何よりだよ
せっかくだし、中身も明るくて楽しい話に変わってないかな〜!
内容に影響が及ぶことはない
ということで、今からみくのしんが1年半越しに山月記を読んでいきます。
これまでの読書経験を活かし、無事読み切ることができるのか? それとも、再びその文章の前に挫折するのか?
33歳の男による読書が始まります。
よしよし! 一本集中!
サーブ打つんじゃねえんだぞ
負けねえかんな!!
▼編集部注
次ページからみくのしんの読書が始まりますが、もう一度言います。とても長いです。何卒ご了承ください。
普通に「山月記」を読みたい方は、青空文庫で全文読めますので、そちらをどうぞ。
「俺 vs 山月記の写真を撮って!」
と言われて撮らされた写真