パンズッ
今回はタイトル通りのことをやる企画です。
「なぜそんなことを?」
順を追って説明していきますね。
また、この挑戦は現在も継続中です。よろしくお願いします。
~遡ること半年前~
祖母との想い出
2024年8月末。祖母が亡くなった。
朝6時、実家の母から連絡が届く。
僕と祖父と祖母(数年前に実家で撮影)
僕の両親から「まぁ、歳も歳だし、いつそうなってもおかしくないなぁ」と言われていたので、ある程度の覚悟は決まっていたけど…。
それでも、自分は身内を亡くす経験は初めてだ。
母からのLINEを開きながら、「あ~……」と呆けながら、さすがにしばらくの間、布団から起き上がれずにいた。
祖母はとにかく優しい人だった。
非常におっとりした性格ながらも、しかしよく笑い、よく泣く。
たまにの帰省で祖父母の家を訪れたら感激のあまり泣き出す。
「はぁるかぶりだなぁ。よく来てくれたなぁ。およよ(泣)」
※はぁるかぶり……長野県南部の方言で『久しぶり』の意味
そしてみんなでご飯を食べているときにもまた泣く。
「こんな嬉しいことはねぇ。ご先祖様に感謝しなきゃなんねぇ。俺は幸せだよ。およよよよ(泣)」
※祖母は一人称が「俺」のタイプ
極めつけは祖母との別れ際。祖母の涙はフィーバータイムを迎える。
「本当に…およよ。来てくれて…およよ…。ありがとうなぁ…およよ。東京でもおよよ(泣)気をおよよよよよ(泣)」
よく泣く人であると同時に、「もっと食べなんよぉ」が口癖の人でもあった。
祖母は幼い頃から決して裕福な暮らしを送れてなかったようで、そんな経験もあってか、子供や孫にはとにかくたくさんご飯を食べてほしいが願いだったらしい。
なので、祖父母の家ではたらふくご飯を食べた。
どんぶりいっぱいの白米に……大量の山の幸……これでもかと言うほどの料理が食卓に並んでいた。
限界なのをなんとか顔に出さず完食しても、祖母は最後に「デザートだよぉ」とニコニコしながら握りこぶし大のぼた餅を出してくる。
デザートで??? ぼた餅???
嘘だろ???
パンクしちゃう。お腹パンクしちゃう。
大人になった僕が30歳を超えてもいまだに食欲旺盛なのも、間違いなくこの体験があったからだろう。
それでも、祖母のそれらは100%の善意から来ていることを、僕たちは子どもながらに理解していた。
それが僕の祖母。だから僕はそんな祖母のことが本当に大好きだった。
実家へ
バスの車窓
そんな祖母との想い出を回想しながら、高速バスに乗って実家・長野県へ。
道中、僕は「葬儀 孫 やること」みたいなことをめちゃくちゃ調べていた。
あれ…? 孫って、葬式でなにすんだっけ?
今回は祖母の息子…つまり、僕の父が喪主をやることは事前に聞いていた。
でも、じゃあ、孫の僕は?
なんか…手紙とか…読むの…? 弔辞ってやつ? あ、あと受付とかも? やばい。わかんね。
先ほども書いた通り、僕にとって身内を亡くすのは今回が初めて。通夜の知識なんて刃牙コラでしか知らない。
間に合わせの知識を頭に叩き込みながら、実家に向かった。
この時の写真これしか撮ってなかった
(実家のご飯って小鉢が多いからすごいよね)
夜。実家に到着。
居間に敷かれた布団には病院から帰ってきた祖母が寝ている。すでに葬儀屋さんによって化粧を施されていた。
家族みんなで祖母を囲みながら、
「おばあちゃん、頑張ったなぁ」
「まぁ、89歳だし、大往生だわ」
みたいなことを語り合った。
そして、僕は先ほどの「自分はなにすれば?」を父に聞いてみる。
葬儀は親族だけでこじんまりと執り行うらしく「とくになにもしなくて大丈夫だよ」と言われた。
あっ、そうなのね。心配は杞憂に変わる。
それでも、祖母のために、自分にもなにかできることはないのだろうか…。ううむ…。
通夜
翌日。通夜
斎場には、「祖母と僕たちの写真」がたくさん飾られていた。
これらの写真は、僕の妹が用意してくれたらしい。
………あんじゃん。孫のやること。
妹「いいよいいよ。あんちゃも忙しかっただろうし」
妹「東京から来てくれるだけでおばあちゃんも喜ぶに~」
うぐううううう(泣)
ふううぐうううううううううううう(泣)
妹が用意してくれてた写真
僕よりも早くに地元で就職を決めて、僕よりも早くに結婚をした妹は、僕よりもはるかに大人をやっている。お前は本当にすごいよ。
もちろん、葬儀とは故人を偲ぶための儀式。
誰がどんな役割を果たしたから偉いとかはないけど、さ……。
でも、それでも…。本来ならこういうの、長男である僕の役目だもんね……。
ごめん…。任せっぱなしでほんとごめん……。
前日になってようやく葬儀の知識を調べた自分が恥ずかしい。
その後も、どことなくバツが悪い気持ちに包まれながら時間が進む。
通夜が始まるまで、両親や妹は親戚の方々に挨拶をされたりしていた。
僕は、お茶菓子として出されていたバウムクーヘンの裏側に書かれてる原材料名を眺めるぐらいしかやることが無かった。
しかし、原材料名ばかり眺めてると、親戚の方々から「あの子、弔辞の代わりにバウムクーヘンの原材料名でも読むのかしら」と思われそうだったので、なんとなく席を立ってなんとなく腕を組んで意味ありげに外を眺めたりもしていた。
…情けない。
18で地元を離れて、ロクに帰省しない自分にとって、こういった親族が集まる催しでの肩身は狭い。正直、親戚の名前ほとんど覚えてないし(親戚の方々がこの記事を読みませんように)。
それでもモリモリ食べた通夜振る舞い
告別式
告別式の写真はなにも撮ってない
そして翌日。告別式。
人生で初めてお焼香をした。
祖母が眠る棺の中に、花や愛用品を入れた。
棺のフタを閉めるときに、参列者が順番に釘を打つことを初めて知った。
斎場という独特な空気感を持つ場所のせいなのか、どこか現実味の無いまま時間が流れていった。
祖母と祖父と僕の父(数年前に撮影)
正直、僕は祖母の訃報を聞いたときも、祖母が出棺されるときも、涙を流すことは無かった。
それでも、喪主である父が弔辞を涙交じりの声で読んでいたときには、僕もつられて泣いてしまった。
当たり前だけど、僕が孫として祖母と過ごした時間よりも、父が息子として過ごした時間のほうが長い。
改めて、葬儀のアレコレ、ほんとお疲れ様でした…ッ!
再び実家へ
再び実家へ
実家へ戻ってきた。これで、祖母の葬儀は終わった。
……………あぁ、これですべて終わった。
…………………あぁ。
俺、なにもしてないなぁ………。
祖母の葬儀を取り仕切った両親。
大人としての世間体のアレコレをやってた妹。
もちろん葬儀は故人を偲ぶことこそが本義。
しかし、それでも……気にしてしまう。俺は、この葬儀でなにもやってない。
俺って…俺の役目って……!
祖父との想い出
さて話は変わって……。
冒頭からちょこちょこ登場していたこちらが僕の祖父。
約60年。
祖父が祖母と連れ添った期間だ。
僕の年齢の倍にも近い年月を過ごしてきた妻に先立たれた心境。
自分ごときには想像もつかない。
祖父との想い出も数えきれないほどあるけど……。
僕は、なによりも強烈に印象に残っている祖父とのエピソードがある…。
それは……
??????
パンを??? トラックいっぱい???
どゆこと???
いや、例えば
「妻に先立たれた。じゃあ俺は、妻との想い出の地を巡る」
みたいなことをするならまだ理解できる。ドラマティックだし。
あるいは、祖父が大のパン嫌いで
「妻に先立たれた。じゃあ俺は、大嫌いなパンを山ほど食う」
みたいな自暴自棄に走るのもまだ分かる。
でも、別にじいちゃん、パンが嫌いでは無かったはず。
あまりにも、理解不能。
実際その場でも、「ま~た、じいちゃんがトンチンカンなこと言ってら」の空気になってた。
ただ同時に、あのときの僕は「かっけェ…」とも感じた。
いま思えば、あの発言は祖父なりの「傾(かぶ)き」だったんだと思う。
「カミさんが先に逝ったら、俺はこんだけ馬鹿やってやるよ」のイキり行為。
すごいな。人って、その歳になってもまだイキれるんだ。……いや、ジジイほどイキるか。それはそういうもんか。
「パン たくさん フリー写真」
だとしても、パンて!
ッくう~~~~!!! 馬鹿だな~!!!
たまんねぇ。
あまりにも一人よがり。どうしようもなく照れ隠し。
伴侶を見送った老人が、一人で大量にパンを食べる姿!
おいおいおい。そんなん、全ッ然、劇的じゃない! 映画じゃない!
でも!だからこそ!
そっちのほうが、なんか良い!
そういうの、どうしようもなくインターネット!
小学生の僕は、まだ「粋(いき)」という言葉の意味も知らなかったけど……。
それでも、あのときたしかに、祖父のイキり発言から「粋」を感じたのだ。
僕は昔から、祖父の謎に見栄を張る部分が愛おしくて大好きだった。
祖父と祖母と僕(数年前に撮影)
あの発言から約20年が経った。
祖父があのときの発言を覚えているのか分からない。
その場の勢いで口走っただけかもしれないし。
そもそも、祖父だってもう90歳を超えている。
トラックいっぱいのパンを食べる気力も無いだろうし……。
…………あっ
コレだ。
祖母が亡くなった。祖父よりも先に。
祖父のあの発言から約20年が経った。祖父はもう90歳を超えている。
ならば、あのイキり発言の肩代わり、誰ができる?
俺だ。
孫として、祖母に恩返ししたい。
孫として、祖父のあのときのイキりを本当にさせてあげたい。
……え、「やれんのか?」って?
大丈夫!!!
だって、俺には!!!
祖母のぼた餅で鍛えられた胃袋があるから!!!
やるやるやるやるやるやるやる!!!
俺やる俺やる俺やる俺やる!!!
やったれやったれゴーゴーゴー!!
いくんぜいくんぜゴーゴーゴー!!
ばあちゃんじいちゃん、見ててくれ!!
かかってこいや!パン!
そう! !!これは!!!
祭り!!!
春の!!!俺の!!!
俺のパン祭り!!!!!!