「エビピラフ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

だいたいの方は、スーパーでよく見る冷凍ピラフを思い浮かべるのではないかと推測する。そうでないあなたは、多分収入が高い。おめでとうございます。

僕もエビピラフと言えば冷凍だった。週末の昼ごはんなど、調理するのがめんどくさいときに重宝していた。

だが先日ひょんなことで、ちょっと良いレストランで、エビピラフを注文する機会があった。出されたそれを一口食べたとき…

なんだこれ。うますぎる。

バターの濃厚なうまみがありながら、しつこさはない絶妙な味付け。エビから出る旨味や、玉ねぎとピーマンのシャキシャキ感が口の中で奏でる美しいハーモニー。冷凍ピラフは確かに美味しいが、これは全く別の食べ物だ。なぜ今の今までこの美味しさを知らずに生きてこれたのだろう。

値段はいくらだ。

2400円。プラス税。たっけ。

たとえ自分のお誕生日だったとしても注文するのが憚られる金額だ。これではとても普段使いはできない。そこで僕は、「東京都内で」「手ごろな値段で」「本格的なピラフ」を食べられる店を探すことにした。

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ところで皆さんは、特定の料理を出す店を探すとき、どのような行動をとるだろうか?

おそらくメジャーな方法としては「(地名)+(料理名)」で検索するのではないだろうか。(例:「東京 オムライス」「函館 海鮮丼」「ホグズミード バタービール」など)

そうすると、「東京で食べられるオムライス20選!」みたいなサイトが雨後の筍のようにわらわらと出てくる。それらのサイトでお目当ての情報が見つけられることもあれば、「東京 オムライス -まとめ -ランキング -人気 -一覧」ぐらいまで検索結果を絞ってやっと本質的な情報にめぐりあえることもある。

今回も同じような手段をとった。しかしここで壁にあたる。

まったくヒットしないのだ。

不思議なことに、「エビピラフ 東京」で検索しても、あの手のまとめ記事が全くと言っていいほど出てこない。大手グルメサイトの自動生成と思われるページは数件ヒットするが、真っ先にチェーンのファミリーレストランが出てくるような精度のページだった。

 

彫刻家・高村光太郎は言った。「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る」と。

某ビールメーカーはCMで高らかに歌った。「無いものは、作るしかない」と。

オモコロ編集部は語った。「食べ物の記事は読んでもらいやすい傾向があるぞ」と。

 

というわけで今回は、

東京 エビピラフ

という企画をお届けします。

 

選考方法

まずは食べログで範囲を「東京都」にして、「エビピラフ」と検索。

ヒットした300件以上のレストランから、大手チェーン店や、価格帯が高い店を除く。またこの検索では、レビュー内に「海老炒飯はエビピラフみたいで~」などの文言が含まれるだけのものも拾ってしまうので、それも除く。

残った中から100件程度をリストアップし、「ここぞ!」という23店舗を訪問。(本当はもっと行くつもりだったが、何店舗か廻るうちに「これぞ!」という店を見分ける勘所をつかんできて、最終的に23店舗に収束した)

さらにそこから、自信をもって薦められる7店をピックアップした。

 

まとめると、こうだ。

・食べログに載ってる店で、

・1皿、1500円以下で、

・めちゃくちゃ美味しいエビピラフが食べられる店を探す!

では、見ていこう。

海老ピラフ 東京

※紹介する店舗の営業情報、価格などは取材当時(2021年4月時点)のものです。昨今は飲食店の営業時間が流動的なため、正確な情報は各店の公式サイトなどをご参照ください。
※取材はすべて緊急事態宣言発令前に行いました。

 

1店目 銀座シシリア(内幸町)

まず1番に挙げたいのは、銀座シシリア。

内幸町駅(都営三田線)、新橋駅(JR、東京メトロ銀座線など)から徒歩4分。銀座駅(丸ノ内線など)からも徒歩7分ほどという好立地の、洋食レストランだ。

お店は銀座の大通り沿いに面したオフィスビルの地下にある。外から店内が見えず若干入りづらいが、入ってみると、内装は意外とカジュアルだった。レンガ調の壁やノスタルジックな赤いチェックのテーブルクロスが可愛らしい。

平日の昼時に訪問したこともあり、店内は会社員でにぎわっていた。大衆食堂のような気安さと、レトロな雰囲気が醸し出す上品さがちょうどよく合わさって居心地が良い。

事前に電話で確認したところ、エビピラフはディナーだけのメニューとのことだった。ただこの日は比較的混んでいないからという理由で、特別にランチにも出してもらえることに。ありがたい。塩味、レモン味、ガーリック味から選べるとのことで、塩を選択した。

「少し時間がかかりますけど、大丈夫ですか?」注文時にはそう断りが入ったが、ものの数分で運ばれてきた。

 

シーフードピラフ (1080円)

一見かわいい量に見えるが、写真左下の100円玉と比較していただければ、皿がデカいだけということが伝わるだろう。

塩味で整えられた、シンプルな白ピラフだ。具は少し大きめにカットされた、ピーマン、玉ねぎ、マッシュルーム。ピラフ三銃士である。たいていここに人参が加わり彩りを添えてくれるのだが…

 

人参はここにいた。

付属のスープは、ペコペコのお腹を優しく癒してくれるコンソメ味だ。

 

ピラフを口に運ぶと、「調和」という言葉が浮かんだ。

さっぱりした、ほどよい塩気。ほんのりと香るバター。主張し過ぎない小ぶりなエビ。野菜やごはんも含め、そのすべてが完璧に調和して、包み込むような優しい味を生み出している。リラックスできるお店の雰囲気と相まって、一口食べるごとに心が安らいでいく。

このピラフを三国志の武将で例えると、劉備玄徳だろう。「仁」を掲げて乱世を渡ろうとした彼のように、銀座シシリアのピラフはあなたの舌や胃を抱きしめてくれる。十数万の荊州の民も、このピラフになら付いていくに違いない。

 

前述の通り、通常ランチメニューには含まれていないので、ディナーで訪れるか、事前に提供可能か確認してから店を訪れていただければと思う。

 

2店目 はしぐち亭(経堂)

続いてのお店は、小田急線経堂駅から徒歩4分ほどにある。経堂駅前の商店街からひとつ曲がった、閑静な住宅街に位置する洋食レストランだ。

「ちとかライス」こと、ちと辛口なライスで有名な「はしぐち亭」。ひさしには「ハンバーグ、スパゲッティ、オムライス」と人気料理の名前が並び、ピラフのピの字も無いが、安心されたい。ここのピラフが美味い。

 

入り口にはこんな看板も。「はい、今まさにそんな気分です!」と返事がしたくなる。

店内は淡いグリーンに塗られた壁が明るく照らされ、開放的だった。2016年にオープンしたというだけあって、内装も当世風である。住宅街にあるためか、客層は家族連れが多く、アットホームな雰囲気が漂っていた。

エビピラフはハーフサイズにもできる。せっかくなので、ピラフはハーフにして別の料理も注文してみた。

 

ロールキャベツ(715円)とミニ大根サラダ(358円)を食べながらピラフを待つ。ロールキャベツはソースにトマトの酸味が利いていておいしい。はしぐち亭は「箸で食べれる洋食屋」を標榜している。ロールキャベツを箸で食べると、実家で出されたご飯のようで不思議と親近感がわく。

箸を進めていると厨房からフライパンを軽快に振るう音が聞こえてきて、何だか頼もしい。それからそう待たずに、エビピラフがきた。

 

海老ピラフ ハーフサイズ (825円 ※フルサイズは1408円)

具は、細かく刻まれた人参、パプリカ、椎茸。散らされたパセリも相まって彩り豊かな一皿だ。ワクワクしながら食べてみると、意外や意外、ガツンとくるガーリックピラフだった。脳を刺激する香ばしさに、食べれば食べるほど食欲が増す。

もうすっかり聞かなくなった表現だが、「草食系男子」に見せかけて実は「肉食男子」な男性を「ロールキャベツ男子」と呼ぶらしい。はしぐち亭も、アットホームな店の雰囲気から一転、ガッツリ系なガーリック味のギャップがすごい。さしずめロールキャベツレストランといったところか。いや、それだとロールキャベツ専門店みたいになっちゃうな。

 

エビも大きめのものがゴロゴロ入っていて食べ応えたっぷりだ。

このピラフを三国志の武将で例えるなら、甘寧興覇だろう。元海賊である呉将のようなワイルドさと切れ味を、はしぐち亭の海老ピラフはたたえている。三国時代、敵兵は甘寧の持つ鈴の音で彼の到来を知ったらしいが、ここではシェフが軽快に振るうフライパンの音が海老ピラフの訪れを知らせてくれる。

 

別の料理を食べたあとなのに、ハーフではやや物足りない。次に来るときはフルサイズを頼もうと硬く心に誓った。

 

3店目 やまぐちさん(青砥)

3店目は京成本線青砥駅から徒歩6分の場所にある。青砥といえば、葛飾のいわゆる「下町」だ。

駅を出て、大きな通りを少し進むとすぐに現れるのがこちらの「やまぐちさん」。いかにも老舗という店構えだ。老舗あるある、看板の電話番号に市外局番がない。

しかし、店に入ると外見からは予想のつかないスタイリッシュな内装で驚かされた。壁は黒で統一され、天井が高い。照明も絞られていて、秘密基地のようだ。カウンター席の向こうに見える厨房では、トックブランシュと呼ばれる長い帽子をかぶったシェフが手際よく料理を支度している。平日の昼時に訪れたので、店内は会社員風の人たちでにぎわっていた。

注文してすぐに、ピラフが運ばれてきた。

 

エビピラフ(1,300円)

具だくさんの大盛りピラフだ。立ち込める湯気の香りが、すでに美味しい。

具は大きめにカットされた玉ねぎ、ピーマン、マッシュルームに加えて、卵も入っている。

 

なんと、頭と尻尾の付いた立派なエビが三尾も乗っている。海からは15km以上も離れているというのに、磯の香りすら漂ってくるから不思議だ。

肝心の味はというと、「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」と並んで5つの基本味の1つに数えられる「旨味」が半端ない。「旨味」という言葉を初めて聞いたときは「なんじゃそりゃ」と思ったものだが、このピラフを出されて「これが旨味ですよ」と言われれば一発でわかるだろう。旨味の模範解答である。

というのもこのピラフ、さっきまでステーキを焼いていた鉄板で作られたピラフなのだ。残り香ならぬ残り風味が、ピラフの味に芳醇な奥行きを与えている。

 

襲い来る旨味に飲み込まれないように、箸休めの準備も万全だ。ついてくるのはコンソメスープなどではなく、大根の味噌汁というのが嬉しい。ガシガシとピラフを食べる合間合間で、ほっとする味とぬくもりで安心感をもたらしてくれる。

このエビピラフを三国志の武将で例えるなら、後漢の大将軍・何進だろう。肉屋の出身ながら、妹が時の皇帝に見初められたことで大将軍まで上り詰めた何進。彼のように、ステーキ=肉をバックグラウンドに持ち圧倒的な旨味を手にしているこのピラフは、ピラフ界の出世頭といえるかもしれない。

 

下町と侮るなかれ、このリッチなピラフをぜひご賞味いただきたい。

 

 

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