しょう‐しょく ‥【小食・少食】
〘名〙食事の量が少ないこと。また、そのさまやその人。
【出典 精選版 日本国語大辞典】
あなたの身の回りに、少食の人はいるだろうか。
ランチをちっせえパン1つで済ませている人
飲み会で料理に全然手を付けない人
回転ずしで5皿くらい食べて帰る人――
地上波テレビには大食い番組が溢れる飽食の時代で、胃の小さい人間たちは何を思い、何に苦しんでいるのか。
今日は、普段なかなか声を上げることができない「少食」たちが一同に会し、各々が普段感じていることを語る。
参加者はこちら。
原宿:オモコロ編集長。少食。
室木おすし:漫画家。少食。
加味條:ライター。少食
ただ少食だけで話し合っても傷をなめ合うだけで終わりそうなので、真逆の存在である大食漢にも来てもらった。
ストーム叉焼:ライター。ランチに蕎麦4人前を食ってから来た快男児。
この4人でお送りしていく。
少食の人はお手元にお配りした「わかる~」ボタンを押す準備をしながら、
非少食の人は「そうなんだ~」と思いながら、読み進めていただければ幸いだ。
それでは、「少食座談会」スタート!
まずはどれぐらい少食か。
話を始める前に、まずは皆さんがどれくらい少食かを聞いてみましょう。少食と言ってもいろいろいますからね。では、原宿さんからいいですか?
そもそも、世の中の「全てのメシは多い」と思ってます。例外なく。
ずいぶんハッキリと言い切ったな。
一人前のメシを出されたら、それを全部食べ切る前に、僕の中では一回許容量に達してるんです。完全にゴールテープを切ってる。
そうなの!?
でも、自分がゴールしたからって、残りは食べずに残すわけにはいかないじゃないですか。だから、そこからは「食べる」というより「片付ける」作業になってます。
:わかる……。
わかるんだ。
僕の場合は、少食と言っても「食に対してあまり興味がないタイプ」だと思ってます。好きなものだったらまあまあ食べられるけど、そもそも食べようという気にあまりならない。
食べられる量で言ったら、どのぐらいいけますか?
ラーメンだったら並1杯で十分かな……。大盛でも頑張って食べればいけるかもしれないけど、頑張りたくないです。
大盛って頑張るものなんだ……。
人生で1回も大盛頼んだことないかも。
僕は牛丼並1杯でしっかり満腹になって、それに味噌汁つけちゃうとちょっとキツイときがあります。
それは結構だね……。
そのうえで、満腹になるとシンプルに体調不良になります。呼吸が浅くなって、吐き気がして……僕はその状態を「けぷけぷ状態」と呼んでます。
けぷけぷ? 何それ、森の精霊?
あ、でもちょっとわかります。食べたものが喉元まで来てる感じですよね。
そうですそうです。なので、外食すると体調不良になりがちです。
かわいそう。
「食べる前から満腹になる」?
さて、ここからは、事前に用意した参加者の「言いたいこと」が書かれたパネルを使って座談会を進めていく。
じゃあ僕から出していいですか?
ホテルや旅館を予約するときに、公式サイトの写真とか見るじゃないですか。そこで豪勢な食事の写真を見ると、シンプルに「食えないかもな」って心配になっちゃう。
それは、予約もしてない段階からってことですよね?
そうそう。「良い旅館だから泊まりたい」よりも「食えないんじゃないか」という心配要素が1個入ってきてしまう。
みんなそんな食べるの?って思うよね。
僕は旅館を予約するときに「量を減らしてほしい」と頼んだことがあるんですが、「減らせない」って言われたんですよ。
なぜ!?
量を出すことも”おもてなし”の一環だから、とかですかね……? 「残してくださっても大丈夫ですよ」なんて言われたんですが、そう言われたからといって気持ちよく残せるわけないじゃないですか。だから悩んだ末、食事なしプランに変えました。
まあでも、料理の見栄えとしての最低単位はありますよね。刺身1切れだけ乗った皿とか、出しづらいじゃないですか。
たしかに……。
一気にドンって出されるとその時点で食傷気味になっちゃうんですよね。視覚情報で腹が満たされるというか。
まさにこれですね。
ラーメンとか、箸を入れた瞬間に「あっ、これダメかも」ってなることがあるんですよね。そうなると一口目から、「片付ける」モードになっちゃってキツイんですよ。
生きづらそう。
なんなら、注文した時点で満腹になることもあります。注文し終わったタイミングで「あれ?食べたっけ?」ってなる。
そんなわけないでしょ。
いや、でも結構わかるかも。「ご飯行きたい」と思ったときのテンションは、注文した時点ではもうなくなってる。
そうそう。注文した瞬間、食べ終わった気分になってる。
さっきから一つも共感できないです。
あと食べ物の種類が多いと疲れません? いろんなものを食べると、いろんなお酒をまとめて飲んだときの「ちゃんぽん状態」みたいになって具合悪くなるんですよね。
それはちょっとわからない。
僕もわからないです。
あ、別にそこは一枚岩じゃないんだ。
ここで僕も一つ言わせてください。
さっきおっしゃっていたような見た瞬間に「食えねえ」ってなったとき、周りに我々のような”食える人間”がいたら先に言って欲しいです。我々は助けられるので。
なんて頼もしい……。最初に頼めばいいんですね。
そうですね。めっちゃ食った後で言われても、食いさしを食べるわけにもいかないですし。料理に手を付ける前なら、取り分けたりできますから。
でも、手を付ける前にいきなり頼むのはプライドが許さないかもなぁ。「こいつ胃が小せえんだな」って思われそうで……。
そこは本当にそうなんだから受け入れましょうよ。
いやいや、そもそもこっちは「食えないやつはダサい」とは1ミリも思っていないですからね。
嘘だッ!
本当ですって。
今までの経験から言って、少食=雑魚という考え方の大食いの人、いると思います。
それは大食いとか関係なく、その人自身に問題があるんじゃないですか。何も思わないから遠慮なく頼ってほしいです。
「少食=雑魚」で「大食い=えらい」?
まあでも、「少食=雑魚」かは置いておいて、「大食い=良いこと」っていう風潮はある気がする。つまり……
テレビとかでもそうだけど、大盛・デカ盛りの店って持ち上げられすぎじゃないですか? 「たくさん食べ物を出す=良いこと」という風潮、違うんじゃないかと世に問いたい。
ああいう店の店主って、たくさん盛ることを「サービス」と表現しますけど、少食民にとっては全くサービスではないです。
むしろ真逆かもしれない。
いやいやいや! それが嬉しい人もここにいますよ!!
もちろんこっちが悪いことはわかってます。そこはゾーニングの問題だと思うんで、間違えて入らないように気を付けてるんですよ。でも、得てしてそういう店って普通の外見に擬態してるじゃないですか。
老舗っぽい定食屋とか町中華には、一定の確率でデカ盛りの店が紛れてますね。料理が来た時点で気付いて、絶望したことあります。
老夫婦がニコニコしながら「若いから食べられるでしょ!」って言ってくるんだよね。
すごく悪いことのように言ってますけど、100%の善意ですからね?
「食べ物を”たくさん”出すこと」にとどまらず、そもそも「食べ物を出すこと」自体が良いこととして捉えられてる風潮も気になりますよね。ラーメン屋でお店側に何かミスがあったときに「味玉乗せといたから!」って付けられちゃったり。
付けられ「ちゃったり」?
杏仁豆腐とか付けられがちだよね。
ああいうときって「こいつ要らないと思ってないかな?」っていう怖さは感じないんだろうか、って思う。
そうそう。こっちは最初に注文した時点で最適な量になるようにデッキを組んでるんです。「勝手に足さないでくれー!」と声を大にして言いたい。
いやいや、お店側も味玉や杏仁豆腐ごときで限界を超えるなんて思ってないですから。
まあでも、これを言いすぎると世の中からサービスが消えることになるんだよね。こっちもそんな息苦しい世の中にはしたくない。
出す前に「杏仁豆腐いる?」って聞いてほしいですね。出されちゃったらどうしようもないですから。
それか『デスノート』の死神の目みたいに、顔を見ただけで少食か大食かわかる目を店主に実装してほしい。
じゃあこの流れで、1個出させてください。
出す側だけじゃなくて食べる側にも、「よく食べる=善」っていう社会の共通認識がありますよね。
もっと食料が少なかったころに根付いた考え方かもしれないですね。
残さず食べるのが偉いという教育を受けてきたし、それ自体は間違ってないと思うけど、転じて「気持ちよくたくさん食べたら偉い」、「飯を残すやつはダサい」っていう概念をすりこまれてきたんですよ。
『忍たま乱太郎』の食堂のおばちゃんとかね。「お残しは許しまへんでェ!」ってやつ。あれがプレッシャーになる人もいるだろうなって思う。
残す・残さないについては、皆さん勘違いしてませんか……?
別にたくさん食べろとは誰も言ってないので、盛られた量を食べ切ればそれでいいんですよ。人の1/3盛って食べ切れば「えらい」ってなりますし、大食いのやつが人の3倍盛って1/3残したら「ダサい」ってなるんです。
なるほど。
それで言うと、残さなくていいように常に工夫してます。小盛を頼んだり、減らしてもらうようにお願いしたり……。でも、その網の目をかいくぐって食べ切れない量が出されちゃうんです。この世は多く食べる人用に設計されてるから。
そうなのか……。
そういうとき、無理してキャパ以上に食べると、待っているのは純然たる体調不良なんです。次の予定があれば、その予定が飛びます。なので、どうしても食べ切れず残してしまうことはあるんです……。だからこれは言っておきたい。
おすしさんが言ってたように、我々も「米粒1つ残すな」という教育をしっかり受けて育ってるんですよ。ですからどうしても残してしまうときは、断腸の思いで残してるんだということを言っておきたいです。
そう。我々はそういう十字架を背負って生きてる。
「少食のやつ、当たり前のようにメシ残すよな」って思われてるかもしれないですが、残してしまうときには強い葛藤があるということを知ってほしいです。
ちなみに、さっき「常に工夫してる」って言ってましたが、加味條さんは愛用しているチェーン店とかあるんですか?
「餃子の王将」ですね。
ほう。
王将って食べてる途中で「もう無理!」ってなったら、そこで持ち帰りに切り替えられるんですよ。20円ぐらい払うと容器がもらえて、自分で詰めて帰れるんです。
少食でも安心だ。
あと、王将にはジャストサイズってメニューがあるんですよ。あれは神。
ある!! 炒飯とか麻婆豆腐とか、小皿で300円くらいで出してくれるんですよね。
ジャストサイズ1皿とご飯小で結構ちょうどいいので、重宝してます。
【餃子の王将 公式サイトより引用】
あれって結構、大食い側にも嬉しいんですよ。餃子定食に、チンジャオロースも付けたいなってなったとき、多分フルサイズでも食えちゃうんですけど「それは流石にまずいかな」って思ってジャストサイズを頼みます。
「まずいかな」っていうのはカロリー的なことですか?
というよりむしろ、「そんなに食べたら人として良くないかな」みたいな気持ちです。たくさん食うことをダサいと思ってる人もいるんですよ。
そうなの!?
大食い側との歩み寄り
例えば、弁当2つ買って「箸一膳でいいです」って言うのが恥ずかしいとか、マックでハンバーガー大量に買って「店内で食べます」って言いづらいとか。
はしたない、みたいなこと?
「7つの大罪の一つである欲望にまみれている、どうしようもないがめつい人間なんだな」って思われそうってこと?
そこまでは言ってないです。……が、まあ遠からずかもしれないですね。
たくさん食べられていいな、としか思ってなかったです。
快男児としか思ってなかった。
「いっぱい食べる=良いこと」って話がありましたけど、その「いっぱい食べる」にも限度があると思うんですよ。相手の思うラインを超えないように、気を付けて食べてます。
そんなタイプの悩みもあるのか……。
僕らも、人間のふりをしなきゃいけないので。
もう少し身近な例で言うと、飲み会で皿にいっぱい料理が残ってたとして、僕はまだお腹が空いているとします。でもその残ってる料理を僕がかっさらって食べたら、みんな嫌な気持ちになるだろうなと思って手が出せないんですよ。
そういうとき我々は、普通にお腹いっぱいになってます。
そんなわけないと思ってました。僕が自分のペースで食べちゃうと周りと釣り合わなくなるので、意識的に食事量をセーブしてるんですよ。
ああ、なるほど!!
だから飲み会の後にラーメンとか行くんだ! 〆のラーメン、正直意味が分からなかったから謎が解けた。
遠慮の末の帳尻合わせだったんですね。
居酒屋といえば、これも言っておきたい。
わかる。
あるある。
2軒目で食べ物も頼まなきゃいけない、ってなったときに、こっちはもう何も食べたくないんですよ。そんなとき、冷やしトマトに頼る。
ほぼ水ですからね。
メニュー見たとき、載ってるもの全部「重いな」って思うんだけど、冷やしトマトだけが光ってる。
他にモロキュウ、エイヒレもありです。冷やっこはギリギリ。
「2軒目で頼む料理のしょぼさ」ってそういうことだったんですね。こちらも謎が一つ解けました。
少食と大食いの歩み寄りが生まれてる!
居酒屋の例で言えば、もう1つ言わせてください。
あ、加味條さんはお酒も飲まない?
そうなんです。だから飲み会に行くと、ウーロン茶とわずかなツマミで5,000円ぐらいかかるわけですよ。いつも釈然としない思いで会計してます。
人生通算300万円くらい損してそう。
会計に傾斜つければいいのでは?……って言おうと思ったんですけど、これで僕だけ1万円とかになったら恥ずかしいですね。「そんなに食ったのかよ!」って思われそうで。
今の話を総合すると、大食い側は遠慮して自由に食えないし、少食は食べた量に見合わない金額を払ってるし、飲み会誰も幸せになってないのでは!?
AIが自動でそれぞれが食べた量を計算して、こっそり電子マネーで払えるようになればみんな幸せ。これ見てる企業の方、実装お願いします。