ここで「ピラフ」の定義について軽く触れてみよう。

ピラフ、ピラフと繰り返し言ってきたが、炒飯との違いを正確に言えるだろうか?僕は正直よくわかっていなかったので、調べてみた。

デジタル大辞泉では、ピラフをこう表している。

ピラフ:米をバターでいため、タマネギ・肉・エビ・香辛料などを加え、スープストックで炊き上げた洋風の飯。元来はトルコ料理。 『デジタル大辞泉』小学館より

それに対して、炒飯はこうなる。

炒飯:中国料理で、豚肉・卵・野菜などをまぜて油でいため、塩や醤油で味つけした飯。焼き飯。 『デジタル大辞泉』小学館より

おわかりいただけただろうか?

すごくざっくりまとめると、生米を炒めてから炊いたものがピラフ、炊きあがったご飯を炒めたものが炒飯というわけだ。

厳密な言い方をすれば、炊きあがったご飯を炒めている料理は、ピラフではなく「洋風炒飯」ということになるだろう。

 

4店目 スリスティ(勝どき)

続いての店舗は、インド料理屋だ。

 

「えっ」と思われるかもしれないが、インド料理だ。「そんなところにエビピラフなんてあるのか?」と思う方のために、メニューの写真を載せておこう。

あったでしょ?

調べてみたところ、インド料理屋にエビピラフがあるケースはちらほら見つかった。インドの米料理と言えば、最近はビリヤニが人気を集めているが、その延長線だろうか。軽く調べてみたところ、インドには「プラオ」と呼ばれるピラフによく似た炊き込みご飯があり、おそらくプラオを日本で提供する際に日本で広く受け入れられた「ピラフ」という言葉に変換しているのではないかと推測される。違ったらごめんなさい。

 

訪れたのは都営大江戸線勝どき駅から徒歩1分(駅直結!)のスリスティ勝どき店。新富町と辰巳にも店舗を出している、本格的なインド・ネパール料理を楽しめるお店だ。

店内はいたって一般的なインド料理屋、といった内装で、こぢんまりとしているが明るくて清潔だ。様々なカレーが並ぶメニューから迷わずにエビピラフを注文したところ、「辛さはどうしますか?」と聞かれた。「辛くできるんですか!?」とワクワクしながら聞き返すと、カレーを頼んだときに聞くお決まりのフレーズを思わず言ってしまっただけとのことだった。この店でカレーを頼まずにピラフだけ頼む客はレアなのだろう。

ちなみに残念ながら、カレーとピラフをセットにすることはできなかった。カレーも食べたい場合はそれぞれ単品で注文しよう。

 

エビピラフ(970円)

やってきたピラフがこちら。茶色い。圧倒的に茶色い。無造作に乗ったキュウリに異国情緒を感じる。

食べてみれば、案の定のカレー味だ。しかし喫茶店や洋食屋で出るドライカレーとは違い、本格的なスパイスの香りが鼻腔を抜けて、インド料理屋ならではのおいしさを感じられる。かといって特段辛いわけではないので、スパイシーな料理が苦手な人でも安心して楽しめる。また、ドライカレー独特のボソボソ感はなく、ピラフの名を冠しただけあるしっかりとした食べ応えが嬉しい。

 

具は、人参、玉ねぎ、ピーマン、パプリカで、非常にカラフルだ。一般的なピラフの野菜はみじん切りになっていることが多いが、細切りにしてシャキシャキ感を残すのがインド流なのだろうか。そしてエビは歯ごたえがしっかりな固ゆでタイプ。ゴロゴロ入っていてカレー味のライスによくマッチしている。

三国志の武将で例えるなら、南中の王・孟獲だろう。エキゾチックなスパイスの香りをかぐと、南中の密林が目の前に広がるような錯覚を覚える。蜀の宰相・諸葛亮孔明が彼を七回打ち破り”七縦七擒”で服従させたように、七回は通いたくなるピラフだった。

 

インド料理屋のピラフ、アリである。メニューにエビピラフを掲げるインド料理屋はなかなかレアだが、もし見つけたら要チェックだ。

 

5店目 キッチンたか(四谷三丁目)

続いて訪れたのは、東京メトロ丸ノ内線四谷三丁目駅から徒歩4分の洋食屋「キッチンたか」。大通りから一本折れた、飲食店が並ぶ路地に佇む。初見では入りにくそうな店構えだが、2020年には洋食分野で食べログ100名店にも選ばれた人気店である。

店内はカウンター6席のみのストロングスタイルだ。回転率をあげるためか、予約はできない。時間帯によっては多少並ぶ覚悟をもっていくのが良いかもしれない。席につくと目の前の厨房で、店主が手際よく注文をさばく様を見られる。

 

エビピラフ(940円)

皿が目の前に置かれると同時に、湯気と共に濃密なバターの香りがむわっと広がる。鼻腔にバターを直接つっこまれたんじゃないかと思うほどの、濃厚な芳ばしさだ。この時点で美味しさが確約された贅沢な香りである。

取り囲む付け合わせも豪華だ。黄身がトロっとした目玉焼き、甘いポテトサラダ、千切りキャベツ、味噌汁。定食のようなデラックス仕様である。

 

これを…

 

こうじゃ!

半熟トロトロの黄身を崩す瞬間は、なぜこうも幸福感を伴うのか。ずっとこれだけやってればいい仕事に就きたい。

食べてみると、香りどおりになかなか濃厚な味だ。バターの強い風味に加えて、塩味も結構しっかり利いていて、かなりガッツリ系のピラフである。

「そんなに味が濃いと食べ疲れてしまうのではないか?」という不安を吹き飛ばしてくれるのが、周囲を固める付け合わせ軍団だ。目玉焼きや千切りキャベツは、あえて調味料をかけずにピラフと一緒に食べるとより豊かな美味しさを作り出してくれる。

具はピーマン、赤黄のパプリカ、ベーコン、マッシュルームがそれぞれ大きめにカットされていて、万国旗のように華やかだ。海老もひとつひとつが大きくて弾力があり、食べ応えばっちりである。

三国志の武将で例えるなら、バターだけに馬岱、といきたいところだが、曹操孟徳だろう。自身も抜きんでた能力を持ちながら、荀彧、郭嘉ら優れた部下たちを従えた曹操のように、単体でも美味しいピラフを優秀な付け合わせたちが一部の隙も無い一皿に昇華させている。このピラフになら、青州100万人の黄巾賊も屈服するに違いない。

 

並のピラフはもう飽きた、今日はガッツリ行きたい!というときは、ぜひ四谷三丁目に足を向けてみてほしい。

 

6店目 タカセ 池袋本店(池袋)

続いては大都市、池袋からこちらのお店。東口を出てすぐの場所にあるので、前を通ったことがある人は多いのではないだろうか。

 

入り口はこちら。1階、2階、3階、9階がタカセの店舗だが、ピラフが食べられるのは3階の「タカセ グリル」だ。階段かエレベーターで3階に上ろう。

平日の13:30頃に訪れたのだが、そのタイミングでも3階のエレベーターホールで3組ほどが待っていた。付近のオフィス街のランチタイムからは少し外れているはずだが、なかなかの盛況ぶりだ。かなり待つことになるかと覚悟したが、意外と15分もしないうちに名前を呼ばれた。

建物やエレベーターホールは古めかしいが、店内は窓が大きく開放感があった。ホテルのラウンジを思わせるような品の良さもあり、客層は老若男女さまざまだ。若い快活なウェイターさんがてきぱきと動き回る様子を眺めながらピラフを待つ。外で待つ間に注文を聞かれていたので、そう待たずにピラフがやってきた。

 

エビピラフ(サラダ付き)(930円)

これは…チキンライス!?

運ばれてきたピラフは完全に赤い。オムライスに使われるケチャップライスの見た目である。

 

寄ってみる。やはりチキンライス然としている。恐る恐る、口に運んでみたところ…。

ピラフだ。口の中で優しくフワッと広がるバターの風味と、ご飯に染み出したエビのうま味が、今まで食べてきたピラフのそれと重なる。それらを包み込むケチャップの味はどこか懐かしさを感じさせる。ケチャップピラフ、これはこれでありだ。実家のような安心感と少しの高級感が優しく同居している不思議な味である。

 

エビは大きめのプリっと系だ。掘れば掘るほどエビがごろごろ出てきて、序盤セーブして食べていたら終盤エビだらけになってしまった。贅沢だ。具は玉ねぎ、ピーマン、コーン、マッシュルーム、卵。見ての通りゆで卵もついている。コーンの甘さとシャキッと感がいいアクセントになっている。

このピラフを三国志の武将で例えるなら、孫権仲謀だろう。呉の皇帝として長きにわたり君臨した孫権は、碧眼に紫色のヒゲという異様な風貌をしていたという。ケチャップピラフという、ピラフ界では異彩を放つ「タカセ」のピラフだが、その実力は折り紙付きだ。この赤いエビピラフなら、赤壁の戦いにも勝利できるだろう。

 

本業は洋菓子屋なので、ぜひケーキも味わってみようと思う。

 

7店目 テラス・ドルチェ(蒲田)

最後にやってきたのは、大田区蒲田。JR蒲田駅から徒歩3分ほどのアーケード街にある「テラス・ドルチェ」を紹介したい。

店内はレトロな調度品で統一されていて、昭和にタイムスリップしたような錯覚に陥る。古めかしさはあっても、清掃が隅々まで行き届いていて居心地がいい。地元にあったら入り浸ってしまうタイプの店だ。

まだ若そうなマスターの丁寧な接客が気持ちいい。店内には軽快なジャズが流れている。掲出されたポスターを見ると、休日には店内でジャズのライブも行われているらしかった。

 

ピラフセット(エビピラフ)(960円)

注文してすぐに運ばれてきたピラフがこちら。「ピラフセット」の「セット」たる部分がたくさんあって嬉しい。

胡麻ドレッシングとゆで卵の乗ったサラダに、わかめたっぷりのスープ、そして甘辛いひき肉の乗った豆腐まで付き、見た目も美しい豪華セットだ。写真には写っていないが、ドリンクもついてくる。お値段以上だ。

 

肝心のピラフはこんな感じだ。具は、みじん切りになった人参とピーマン。エビは小ぶりで、ぎゅっと身の詰まった歯ごたえしっかりのタイプだ。

味付けは塩コショウのシンプルなものかと思いきや、食べてみると意外にもガーリック風味が利いている。決してガツンとくるわけではなく、あくまで上品さを欠かない範囲でガーリックの香ばしさを楽しめる。喫茶店の「軽食」にとどまらないクオリティをそなえた、なんともハンサムなピラフである。

三国志の武将で例えるなら、周瑜公瑾だろう。”美周郎”という二つ名で呼ばれ、眉目秀麗な人物であったと語られる周瑜のように、このピラフセットは目にも嬉しい一皿だ。ジャズ喫茶店というのも、音楽の才能を兼ね備えていたという周瑜を思い起こさせる。

 

ジャズライブの有無等は、事前に確認して訪れるのがいいかもしれない。

 

わかったこと

ここまで7店のエビピラフを見てきた。

前述のとおり、この1か月で紹介した7店にとどまらず多くのピラフを食べてきた。そのなかで気づいたことをまとめ、結びとさせていただきたい。

まず1番に感じたのは、これだ。

 

カレーやラーメンならまだしも、1か月ピラフばかり食べ続けていたら流石に飽きが来るのではないか?と最初は思っていた。しかしその不安は、かなり早いタイミングで打ち消された。紹介してきたものだけでも、塩、ガーリック、カレー、ケチャップなど様々な味が存在する。そして具やエビも、似ているようで多種多様だ。

ピラフには、ピラフという言葉1つでは括れない奥深さがあることに気づかされた。

 

記事の途中でピラフの定義について触れ、「炒める⇒炊く」がピラフ、「炊く⇒炒める」が炒飯という話をした。訪れた店の9割は、既に炊けている白米を炒めてピラフを作っていたので、定義上では洋風炒飯ということになるだろう。

しかしこれは、いちいち注文を受けてから炊きこんでいたのでは提供に時間がかかりすぎるため、ある程度しかたのないことなのだろう。きちんと炊く工程を踏んでいたとある店では「ピラフの提供には30分ほどお時間をいただきます」とメニュー上で明言されていた。

 

ランチのピークタイムを意図的に避けた、などの理由もあるだろうが、訪れた店はどこも客席に空席が目立った。(2021年4月時点)

悲しいことに新型コロナウイルスの流行に伴い、飲食店はどこも苦戦を強いられている。

しかし、少なくとも僕が訪れた店はどこも徹底した感染対策を行っており、一人で訪れたり、同居する家族と訪れる分には安心して食事を楽しめるだろう。十分に注意しながら、そして国や自治体の要請に従いながらにはなるが、イチオシの飲食店には積極的にお金を落としたいものだ。事態が落ち着いたときにまだその味が楽しめるかどうかは、誰にもわからない。

というわけで……

 

(加味條)