積んで終わるのも人生だし、読んでみるのもまた人生。
というわけで今回紹介した積ん読本から、実際に2冊を読んでみました。
原宿の積ん読を読んでみる
まずは「もらったから読めない」と主張していた、この本から。
読めましたか?
読んだよ。
…どうでした?
いやどうもこうも…
の読書レビュー
特にさしたる理由もなく、4年ほど積んでしまった本だったが、思い切って読んでみるとこれがめちゃくちゃ面白い。なんでもっと早く読まなかったんだ!?
18世紀に実在したトルコ人の姿をしたチェス指し人形・「ターク」を巡る冒険小説であり、「彼がどういう仕組みで動いていたのか?」を検証する謎解きミステリでもあり、ナポレオンやエドガー・アラン・ポーなど実在した偉人たちの人生がタークと絡む歴史ドラマでもあり、タークの存在が現在のAIと人間を巡る論争の先駆けになったというサイエンス・ノンフィクションでもあり、一冊で何度も美味しい、多面的に楽しめる非常に面白い本だった。Netflixで映像化されてもおかしくないよこれは!
「ターク」はハンガリー生まれの発明家であり、ヤマっ気の強い興行師でもあったヴォルフガング・フォン・ケンペレンという人によって作られた機械人形で、昔から「人形がチェスなんて指せるわけがない。どうせ中に人が入っているんだろう」と言われ続けていた。しかし9割は「そうだろうなあ…」と思っていても、1割の「もしも…」があれば惹きつけられてしまうのが人間というもの。「トルコ人の姿をしたチェス指し人形」というのが、18世紀ヨーロッパの社交界に仕掛けられた「プロレス」そのものだったというのがこの物語の非常に興奮するところだ。「異種格闘技戦」という常識を覆すドリームマッチを興行として成功させてしまったアントニオ猪木のように、荒唐無稽に思えた幻想を出世のために現実にしてしまったケンペレンの「ヤマっ気魂」に、200年後の世界からまずは称賛を送りたい(ケンペレンのwikipediaを見てしまうと、一瞬でタークのネタが割れてしまうのでご注意ください)。
そして改めて現在という地点に立ってみると、「ロボットが人にチェスで勝つ」というのは不可能どころかありふれた光景にすらなっている。「機械にもチェスが指せるかもしれない」というかつての観客たちが見た幻想が、今や現実に追い抜かれているという不思議さを感じずにはいられない。人間とは、何と多くの「夢物語」を叶えてきたのだろう。やはり未来に向けて、注目すべきは「与太話」だなと思う。周りに与太話をしている人がいたら、「こいつはケンペレンかも!?」と思って少し注目してあげるのがいいと思う(そういう詐欺もたくさんあるけど)。
度を越した熱いレビューだ…。
めちゃくちゃ面白かった。
読んでみるもんですね。この本をくれた、みくのしんさんには伝えたんですか?
伝えました。そしたら、
結局なんだったんだ。
本をもらうというのも、悪くないかもしれません。
最後はこちら。
岡田悠の積ん読を読んでみる
僕が読んだのはもちろんゾミア、
ではなく、
こちらです。
スレイヤーズ。全巻買いました。
合本版は反発力がすごいので、紙本でのチャレンジです。これが全部一冊になっている合本版、恐ろしすぎる。
ほお…。
うん…?
これは…。
の読書レビュー
ライトノベルの金字塔とされる本作品。古臭さとか癖があるんじゃないかと恐れていましたが、いざ読み始めると主人公リナの1人称で書かれる語り口は実に軽快でテンポよく、グイグイと引き込まれて全巻一気に読んでしまいました。漫画のように読みやすいし、自由奔放で面白い!ライトノベル自体をあまり読んだことがなかったんですが、こういう感覚なんですね。爆発音が鳴るシーンでは急に文字の大きさが変わったりと、そういうラノベっぽい表現もこの作品で確立されたのかなと想像を膨らませました。
設定自体は魔法やドラゴン、エルフなど典型的なファンタジーながら、登場人物がどれも強烈で惹きつけられます。読み進めるほどにリナやガウリイ、ナーガたちが走り回る映像がはっきりと脳内で再生される感覚はとても新鮮で、30年前とは思わないほどに色あせない、躍動感のある作品でした。
文体は非常にポップで自由、これでもかというくらいギャグが繰り返される一方で、その展開は意外なまでにシリアス。常に死と隣り合わせの殺伐とした世界観が、その表現手法と対照的でとても印象に残りました。調べてみると、タイトルにもなっている英語の「Slay」は「殺害する」という意味に加えて、「人を笑わせる」という意味も持っているようです。死と笑い、まさにその二面性がこの作品の魅力なのかなと思いました。
そしてなにより、主人公で「美少女天才魔道士」のリナ=インバース。彼女の個性的で型破りなキャラクターがあってこそ、これだけ長い文量を軽やかに読み続けることができたのだと思います。「悪人に人権はない」をモットーとし、盗賊のアジトを襲撃しては小銭稼ぎを繰り返すという破天荒ぶりに、最初は「こんなやつを主人公にしていいのか?」と思ったものですが、いつしかその芯のまっすぐ通った強い自我に引っ張られて、彼女の背中を必死で追いかけるようにしてページをめくっていました。仲間思いで食いしん坊で自己中心的ながら、一方で非常に現実主義的な側面を持つリナ。そんな彼女の性格がこの作品の持つ二面的な魅力を際立たせており、まさに彼女自身が「Slayer」そのものなのだと感じ入りました。
結論:積ん読本は、読んでも面白い。