毎年新作が公開されている映画クレヨンしんちゃん。
今年で29年目になる人気シリーズですが、「子どもの頃に見たけど、あんまり覚えてない」「最近のは全然見てない」という人も多いのではないでしょうか。
「クレヨンしんちゃんはもう卒業したよ」なんてもったいないこと言わないで、久しぶりに見返してみませんか?
あなたもきっと「クレヨンしんちゃんってこんなに面白かったんだ」と思い出すはずです!
※この記事は、映画クレヨンしんちゃん大好きライターが、オススメのクレしん映画を本気で紹介する記事です。
ー目次ー
※2020年3月19日に公開したものを順次更新しています。
【ジャンル別】クレしん映画の選び方
独断と偏見でまとめた早見表
これまでに公開された映画クレヨンしんちゃんは全部で29作(本記事執筆時点)。
「クレしん映画見てみようかな」と思っても、さすがにこれだけあったら、まずどれを見るかで迷うことでしょう。なんせ、全部見ようと思ったら丸2日かかるので。
ということで、まずは「あなたにぴったりのクレしん映画」を見つけましょう。
「初めての人向け」に加え、映画クレヨンしんちゃんの醍醐味である四大要素「感動」「アクション」「ホラー」「ギャグ」を加えた5つのジャンルから、それぞれイチオシの作品を選びました。
初めてクレヨンしんちゃんの映画を見るなら…
嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲がオススメです!
クレしん映画No.1に選ぶ人も多い名作。思いきり笑えて思いきり泣ける最高のエンタメ映画です。
シリーズ史上でもずば抜けた傑作なので、その後のスタッフはこの作品の影響に縛られるという『オトナ帝国症候群』に陥っていたんだとか。
一度見たことのある人も、久しぶりに見返してみてはいかがでしょうか。ビックリするくらい面白いです。
泣ける感動作が見たいなら…
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃんがオススメです!
日常系アニメの世界において、理論上最大級の感動作です。
クレしん映画シリーズが今後何年続こうとも、これ以上に泣けるシーンは絶対に作れません。
見逃している人がいたら絶対に見てください。もちろん、泣けるだけでなく面白さも折り紙付きです。
カッコいいアクションが見たいなら…
嵐を呼ぶジャングルがオススメです!
拳と拳がぶつかり合う肉弾戦から、手に汗握る空中戦まで、激アツのアクションが楽しめます。
観ているだけで気持ちの良い痛快なアニメーションにはもうメロメロ。
ヒーロー映画としても見応え十分! 日曜の朝に特撮ヒーローを応援したことのある人は悩殺されると思います。
怖い作品が見たいなら…
伝説を呼ぶ 踊れ! アミーゴ! がオススメです!
「ホラー」をテーマにしている唯一の作品です。
クレしん映画におけるホラーの醍醐味といえば、人を強制的に驚かせるような演出ではなく、日常が徐々に非日常に塗りつぶされていく不気味な空気感。
子どもたちにトラウマを植えつけた問題作。見逃しているあなたは是非この機会にチェック!
とにかく笑える作品が見たいなら…
嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロードがオススメです!
クレしん映画の中でも群を抜いて笑えます。
最初から最後まで、映画を構成する全ての要素が観客を笑わせるためにあると言っても過言ではありません。
映画史上最もくだらない理由で『必ず二度観たくなる』作品です。
この他にも面白い作品はありますが、まずはジャンル別オススメとして、以上の5作品を挙げさせていただきます。
【全27作】クレしん映画おすすめランキング!
過去シリーズを全て見返した上で、僕の独断と偏見でランキングを作りました。
クレしん映画選びの参考になれば幸いです。
〜ランキング目次〜
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【29位】襲来!宇宙人シリリ
【28位】ちょー嵐を呼ぶ!金矛の勇者
【27位】伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃
【26位】嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス
【25位】オタケベ!カスカベ野生王国
【24位】新婚旅行ハリケーン〜失われたひろし〜
【23位】超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁
【22位】嵐を呼ぶ 黄金のスパイ大作戦
【21位】アクション仮面VSハイグレ魔王
【20位】激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者
【19位】嵐を呼ぶ!歌うケツだけ爆弾
【18位】ブリブリ王国の秘宝
【17位】嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ
【16位】爆睡!ユメミーワールド大突撃
【15位】バカうまっ!B級グルメサバイバル
【14位】電撃!ブタのヒヅメ大作戦
【13位】爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜
【12位】雲黒斎の野望
【11位】爆発!温泉わくわく大決戦
【10位】オラの引越し物語〜サボテン大襲撃〜
【9位】嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード
【8位】嵐を呼ぶジャングル
【7位】嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦
【6位】嵐を呼ぶ! モーレツ!オトナ帝国の逆襲
【5位】伝説を呼ぶ!踊れアミーゴ!
【4位】ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん
【3位】ヘンダーランドの大冒険
【2位】謎メキ!花の天カス学園
【1位】暗黒タマタマ大追跡
※各作品の感想は↑の目次のように折りたたんで非表示にしています。
29位:襲来!! 宇宙人シリリ(2017年)
【あらすじ】
しんのすけ ー オシリ、封印!! 宇宙人シリリの謎のビームで子どもになってしまったとーちゃんかーちゃんを元に戻すため、オシリに宇宙人シリリを隠して日本縦断!
(公式ポータルサイトより引用)
一番最後に見るべきクレしん映画
最下位としましたが、決して「一番面白くない作品」という意味ではありません。
この「襲来!! 宇宙人シリリ」はクレしん映画25周年を記念して作られており、歴代クレしん映画の要素が総登場するアニバーサリー的な作品となっています。
過去作を見ていると思わず笑ってしまうような小ネタが満載なので、せっかくなら一番最後に観た方が…という意味でこの順位とさせていただきました。
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もちろん小ネタがわからなくても、なんの問題もなく面白い映画です。
“宇宙人の怪光線でひろしとみさえが子どもになってしまう”という子どもにもわかりやすいツカミから、子どもの姿になってもなお一家を守ろうとするクレしん映画らしい家族愛のストーリーが展開されます。
その一方で、子ども化してしまった無力な野原一家の寄る辺ないロードムービー感や、思わずツバを飲み込むようなホラー描写など、大人が見ても十分楽しめる作品です。
特に僕が好きなのは、物語中盤で見られるカメラを使ったホラー演出。
初めて見たときは怖いどころか「うおおー!! カッケー!!」と思ったので、皆さんもぜひ観てみてください。
ただ、やっぱり。せめて過去24作を見終えてから鑑賞した方が、この作品の魅力を十二分に感じられるのではないでしょうか?
ごく個人的な感想ですが、劇中に過去作の小ネタが登場すると「今までの物語はちゃんとクレしんの世界に活きているんだな」という感じがして、いいんですよね。
【好きなシーン】
見た目は子どもでも、俺はこいつらの父親だ!
(野原ひろし)
28位:ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者(2008年)
たちあがれ勇者しんのすけ。 開かれた闇の扉…魔の手に気づいているのは、しんのすけただ一人。 伝説の神器・金矛(キンポコ)を手に、地球をお守りするのだ!
(公式ポータルサイトより引用)
ある意味一番怖いクレしん映画
正直に言うと、歴代シリーズの中で一番評判が悪い作品です。めちゃくちゃ酷評されています。
そもそも、クレしん映画に期待するポイントは観る人によって様々だと思うんです。人によっては笑えるおバカな映画を、人によっては泣ける感動作を、人によっては痛快なアクション描写を…という感じで。
ただ、この『ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者』はそれらの要素を脇に置いているような印象を受けます。その代わりに、「奇妙で不気味な異世界の描写」に重心を据えているんですが、ここが賛否が分かれる要因なのかもしれません。
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「不気味な異世界表現」はクレしん映画の重要な要素でもあります。
日常系アニメであるクレヨンしんちゃんの世界が、映画的な世界観が支配する”非日常”に徐々に飲み込まれていく…。
そんな不気味で怖い演出はシリーズを通して描かれてはいますが、この「ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者」はその描写が強めです。
しんちゃんが一人で迷い込む異世界の描写もゾッとするんですが、個人的に一番効いたのが、しんちゃんのおなじみのギャグに対してトオルくんたちが「そういうの面白くないから。滑ってるよ」と吐き捨てるシーン。
ある意味掟破りに近いこの場面を見ると、見た目はいつもの春日部なのに決定的に日常が失われているとギクリとします。
【好きなシーン】
オラはすごい冒険をしました。
このことはずっと覚えておこうと思います。
大人になっても覚えておこうと思います。
(野原しんのすけ)
27位:伝説を呼ぶブリブリ 3分ポッキリ大進撃(2005年)
3分後の未来に行って怪獣を倒さないと世界が滅んじゃう!? 地球を守る大役をまかされた野原一家。 3分ポッキリの戦いを繰り返すうちに、じわじわピンチが訪れて…
(公式ポータルサイトより引用)
史上最もわかりやすいストーリー
歴代シリーズの中で一番わかりやすい作品だと思います。監督曰く、「ストーリーがなくてもいいや」という気持ちでシンプルに作り上げたとか。
簡単にいうと、未来の世界に行って3分間で怪獣を倒すというヒーローに野原一家が選ばれるというもの。
彼らが様々なコスチュームに変身していろんな怪獣と戦う様は、童心をくすぐられる楽しさがあります。
その分、「怪獣を倒して現実世界に返ってくる」を繰り返しているだけに見えてしまうと、やや物足りなく感じちゃうのも事実。
シリーズ中でも、厳しめの評価をされている作品ではあります。
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ただ、特撮ヒーローものを逆手にとったようなシニカルな展開や、「正義の心」をしんちゃん本人が見出すラストシーンなど、クレしんらしい見所は健在。
特に、冒頭に描かれる「野原一家の慌ただしい朝の風景」のシークエンスは必見です。
軽やかなBGMとともに、目覚ましが鳴ってから家族を送り出すまでのお母さんの奮闘劇が描かれているんですが、これが本当にすごい。
このドタバタシーンの描写は時間にして3分間。ヒーローが変身できる時間と対比させているんだとしたら…と考えると、途端にグッときます。
それを踏まえて見直すと味わい深い映画なので是非観てみてください。
【好きなシーン】
あ…そうだ…。私朝ごはんもまだだったじゃない…。
(野原みさえ)
26位:嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス(2012年)
ひまわりが、宇宙の星のお姫さまに選ばれた! 姫にならなければ、地球が消滅するって!? 家族をとるか、地球の平和をとるか…。 はたして、しんのすけの選択は?
(公式ポータルサイトより引用)
野原一家が悪役になる映画
この『嵐を呼ぶ! オラと宇宙のプリンセス』には悪役や敵が存在しません。かなり挑戦的な舞台設定で、こんなアプローチはシリーズ通してもこの作品だけです。
本作は、「異星人に連れ去られたひまわりを取り戻すため、野原一家が奮闘する」というストーリー。
一見すると単純なプリンセス奪還ものにも思えますが、この異星人たちが悪者ではないので、観ている方の感情整理も一筋縄ではいきません。
ともするとシリーズ史上一番込み入った話かもしれません。
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・しんちゃん本人がこの件の契約書にサインをした
・お姫様として、ひまわりも高待遇を受ける
・ひまわりがお姫様にならないと地球が消滅する
など、相手側を悪役に見せないための理由づけが徹底されています。
とりあえず相手側を露悪的なキャラにしてしまえば、観客も安心して野原一家を応援できるのですが、一貫して善人しか登場せずそこも手抜かりがありません。
明らかに異星人サイドに理があるので、「家族と一緒に暮らしたい」という理屈しか持ち得ない野原一家の方こそ、自分たちのわがままで地球を脅かそうとする悪役に見えます。
こういった具合に、野原一家はおろか観ている我々にも、純粋に「世界平和か家族か」の二者択一を迫る構成になっています。
とはいえ、そこまで難しく考えなくても、『しんちゃんが自分がやらかした事態に自分でけじめをつける』という結構珍しい物語の締め方なので、そこに注目するだけでもいいと思います。反省するしんちゃんってレアですよね。
【好きなシーン】
空間転移装置に突入したしんのすけの精神がバラバラになるシーン。
(※これ本当にすごいので是非観てほしいです)
25位:オタケベ!カスカベ野生王国(2009年)
ゆきすぎたエコで、人類を動物にしようとする過激組織「スケッベ」。 いちど動物にされると、人としての記憶を失ってしまう… オラのことわかんないの?かーちゃーん!!
(公式ポータルサイトより引用)
オトナ帝国のみさえver. を観よう!
「悪役がエコ活動家」というかなり挑戦的な立ち上がりを見せる映画です。
敵の思想を簡単に「悪」と片付けられないので、初めて見たときは「これ本当に決着つけられんの!?」と驚きました。
劇中では「春日部の人々が動物になる」という展開を見せます。
動物化したキャラクターたちが可愛いというのはもちろんですが、動物になっていく怖さや動物ならではのアクションなど、その設定下で楽しめる演出をこれでもかと詰め込んでいるのも心憎いです。
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この映画の一番の見所は、「母が子に向ける愛情」を描いたある感動のシーン。
かなり無粋な例え方をすると、「オトナ帝国で描かれた泣けるシーンのみさえバージョン」みたいなイメージです。
また、個人的な見所でいうと、皆さんにぜひ観てほしいのが、映画オリジナルキャラ「ビクトリア」の入浴シーン。
シャワーを浴びる美女が、浴室の外にいるしんちゃんに石鹸をとってくるようお願いする…という、映画のシナリオにはなんの関係もないちょっとしたお色気シーンです。
ここでしんちゃんは言われた通りに石鹸を持っていくんですが、その石鹸を手渡す際、入浴中の彼女の体を見ないように後ろを向いたまま「ほい…」と渡すんです。
これがめちゃくちゃカッコいい!
僕の勝手なイメージでは、こういう場面ならしんちゃんは喜んで女性の裸体を拝みにいきそう(そして、みさえから「げんこつ」をくらいそう)だと思っていましたが、ちゃんとシャイでフェアで紳士なんですね。
何気ないシーンのようでありながら、”現代”のしんちゃんを象徴する印象的な名シーンでもあると思います。
ふとした時に、しんちゃんがこういう人間っぽさを見せるとドキッとしませんか?
【好きなシーン】
「しんちゃんも一緒に入る?」
「え…あ…オラはいいです」
「紳士なのね」
(ビクトリア&しんのすけ)
24位:新婚旅行ハリケーン〜失われたひろし〜(2019年)
まさかの”ひろし=お宝のカギ”!! 伝説の秘境で、謎の仮面族VS世界中のトレジャーハンターVS野原一家の、三つ巴のひろし争奪戦が勃発!!! 大冒険の先に、野原一家が見つけたものとは…!?
(公式ポータルサイトより引用)
しんちゃん声変わり一作目!
タイトルめっちゃバカじゃないですか?
なんですか『〜失われたひろし〜』って。タイトルで笑っちゃうクレしん映画、久しぶりに見たかもしれません。
あと、野原一家が新婚旅行でオーストラリアに行くんですが、目的地の名前が「グレードババァブリーフ」です。面白すぎやしませんか。
シリーズ最新作にして初めて”夫婦”にスポットが当たった作品。なので、親子はもちろん、カップルや夫婦で観ても楽しめる映画だと思います。
クレしん映画でこのスタンスはだいぶ珍しいので、ぜひ一度観てみてください。
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連れ去られたひろしを取り返すという動機も分かりやすいし、三つ巴のひろし争奪戦や遺跡の罠をくぐり抜けるシーンなど、随所でみられるアクションシーンも楽しいです。
とにかく子どもが一番に楽しめるようデザインされているのを感じます。
それでいながら、すれ違い〜離別〜奪還〜再会という展開を通して夫婦愛をアツく描いており、大人目線でも楽しめる作りにもなっていると思います。
特に印象的なのが娘ひまわりの位置付け。
いつものクレしん映画なら0歳児とは思えない活躍を見せるひまわりですが、本作では完全に無力化されています。
敵地に潜入する最中に突然オムツ替えが必要になったり、みさえもひまわりのために重い荷物を持って冒険しなきゃいけなかったり。
今にして思えば、クレしん映画において、奔放に動き回るひまわり&しんのすけに振り回されることはあっても、「育児」が冒険の枷になるという展開は少なかったように思います。
みさえにとっては、ひろし奪還が「母としての責務」も抱えながらの過酷なミッションになっているので、家族の絆というよりは『母の強さ』の方が強調されています。とても今風です。
みさえが主役といってもいい作品ですが、僕は鑑賞後、みさえは…ではなく『お母さんは』すごいなという感想を抱きました。
【好きなシーン】
バカすぎる。どういう気持ちが高揚したらこんなダンスになるんだ。
23位:超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁(2010年)
オラの結婚相手が、時空を超えて、目の前にあらわれた! 大人になったしんのすけを助けるために、5歳のしんのすけの力が必要だというが…急げ、未来のネオトキオへ!
(公式ポータルサイトより引用)
クレヨンしんちゃんは死なない
しんちゃんが未来の世界へ行き大人の自分と未来の花嫁を救うという、わかりやすいタイムスリップもの。
時空を超える展開は過去作にもありましたが、未来を舞台にしたのはこの映画が初。
しんちゃんを始め、あらゆるキャラの未来の姿が見られるので、ファンサービス的な意味でもおトクな作品です。
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本作でよく印象的なシーンとして挙げられるのが、大人しんのすけを爆破しトドメを刺した悪党に、5歳児のしんちゃんが「死んでない!! オラは死なない!!」と真っ向から挑む場面です。
いつものおバカなしんちゃんらしからぬ決意めいた表情やこってりした演出もあいまって、作中でもひときわ粒立っている印象的なシーンです。
この映画は原作者の臼井儀人が不慮の死を遂げた後に公開された初めての作品。エンドクレジットにも、先生へのメッセージが捧げられています。
それを踏まえて観れば、劇中でしんちゃんが高らかに叫ぶ「オラは死なない」というセリフが意味が強いものに思えてきます。おそらく製作陣もそれを強く意識していると思うのですが。
無粋を承知で言うなら、これは「先生が作ったクレヨンしんちゃんの世界は、これからも終わらない」という宣言。
メタ的な浪漫も込みですが、クレしん映画を語る上で必ず思い出す名シーンです。
【好きなシーン】
「お前が過去の野原しんのすけだとしても、もうこれ以上の未来はない! 終わりだ!」
「終わってない!」
(金有増蔵・野原しんのすけ)
22位:嵐を呼ぶ 黄金のスパイ大作戦(2011年)
謎の少女レモンが見せたのは、アクション仮面からのメッセージ。 「しんのすけくん、君も今日からアクションスパイだ」…謎と裏切りを秘めた、スパイ作戦が始まる!
(公式ポータルサイトより引用)
この映画の主役はしんちゃんではない!
しんちゃんがスパイになるという時点で、もう面白さは保証されているようなもの。スパイグッズを駆使した潜入ミッションなど、童心を直接くすぐられる楽しさが満載の映画です。
作品のキーテーマがド直球の下ネタなので、眉をしかめる大人もいるかもしれませんが、子どもたちは無邪気に楽しめる映画なのではないでしょうか。
特に、本作のラストシーンはいい意味で本当にサイテーなので、そこだけでも一見の価値あり!
個人的にはクレしん映画史上一番笑ったシーンです。
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本作は、カスカベ防衛隊・ひろし・みさえが活躍するシーンがかなり少なく、印象としては、ほぼしんちゃんしか物語に参加していないように見える珍しい構成です。
それどころか、映画オリジナルキャラ「レモンちゃん」の視点でストーリーが進むので、本作の主人公はしんちゃんではなくこの女の子であるとすら言えます。
スパイとして育てられたレモンちゃんが、しんちゃんとの日々を通して心が変わっていく…という点が見所。
ですが、その間しんちゃんは常に彼女の言いなりになって、物語に振り回され続けるので、しんちゃん贔屓の人が本作を見ると、だいぶ気の毒な印象を受けたりはします。
周囲を引っかき回してゴリゴリ物語を進めていくようないつものパワフルなしんちゃんを期待して見ると、肩透かしを食うかもしれません。
過去作を見て、クレしん映画のお約束を楽しんだ上で本作を楽しんでみるのがいいと思います。
【好きなシーン】
いいか、屁をするときは音出して堂々としろ! すかしっ屁ってのは卑怯者のする屁だ。覚えとけ!
(野原ひろし)
21位:アクション仮面VSハイグレ魔王(1993年)
記念すべき映画第1作だゾ。 ハイグレ魔王のせいで、み〜んなハイグレになっちゃった!
戦え、我らがヒーロー、アクション仮面。 がんばれ、戦士しんのすけ!(公式ポータルサイトより引用)
臼井儀人節が色濃く反映されたシリーズ一作目
シリーズ一作目にして、その後の映画クレヨンしんちゃんの運命を決定づけたマスターピース。
もともと、クレヨンしんちゃんが初めて映画化されるにあたり、オムニバス形式の作品にしようという意見もあったそうな。
そんな中、監督がどうせ一回きりだから長編映画にしようと舵を切って生まれたのがこの『アクション仮面VSハイグレ魔王』です(監督もまさか毎年恒例のシリーズになるとは思っていなかったらしい)。
この映画が公開されたのは1993年。興行収入は22.2億円。これから毎年クレしん映画が制作されることになるのですが、この記録は20年以上破られることはありませんでした。
今でも興行収入だけでいうと歴代2位、観客動員数なら歴代1位の作品です。(映画クレヨンしんちゃん25周年公式ガイドブックより)
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また、原作者である臼井儀人の意思が最も込められている作品でもあり、シリーズ全体を通してもひときわ特別な存在感を放っています。
「ハイグレ魔王」なんて、常人じゃ思いつかないもんね。
上映時間のほぼ半分を日常シーンに費やしており、前半部分に関しては、レギュラー放送をシネマサイズで鑑賞しているような雰囲気です。
初期のしんちゃんらしいクソガキ感が健在だったり、今見ると「昔のクレヨンしんちゃんってこんなだったの!?」と驚くような場面が満載。
近年の理想化された野原一家とは一味違う“原液”のような雰囲気を味わってください。
【好きなシーン】
剣で勝負するって約束したろ? こんな風に勝ったって男らしくないじゃないか
(アクション仮面)
20位:激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者(2020年)
【あらすじ】
地上のラクガキをエネルギーに浮かぶ王国・ラクガキングダム。本作のカギとなるのは描いたものが動き出す王国の秘宝・ミラクルクレヨン!世界の平和はしんのすけと、しんのすけが描いたラクガキたちに託された!はたして、しんのすけとラクガキたちは世界をお助けできるのか!?
(公式ポータルサイトより引用)
夏休みにぴったりのクレしん映画!
他作品と比べると、野原一家やカスカベ防衛隊の活躍幅は少なめですが、その分「カリスマ5歳児の冒険譚」という原初の面白みが堪能できます。
しんちゃんが物語の主体となり、その創造性に由来した大きな影響力をもって物語全体を巻き込んで推し進めていくので、子ども目線で観るのが一番楽しめるはず。
シリーズの中でも子どもを楽しませるパワーがフルマックスな作品なので、ぜひお子さんに見せてあげてほしいです!
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子どもだけで大人を助け出したり、大人たちの汚さなどが描かれたり、その上で「子どもの創造力」で世界を救うシーンが描かれたりと、「子ども」の活躍を浮き立たせる要素が満載!
ちなみに、この作品は、原作コミックスのエピソードが元となっている映画で、臼井儀人が作ったストーリーが原案になるという意味では、実に25年ぶりの作品(3作目「雲黒斎の野望」以来)でした。
また、お馴染みのキャラクター「ぶりぶりざえもん」が21年ぶりに劇場版に台詞付きでカムバックしたこともあり、往年のファンにとっても存在感のある作品となっています。
ぶりぶりざえもんはかつて塩沢兼人さんが声優を担当なさっていたんですが、2000年に急逝されたためこの声は永久欠番とされていました。
監督が「ぶりぶりざえもんの声は塩沢さん以外ありえない」として代役が立てられることもなく、劇場版に登場しても台詞はなし…という状態が続いていたんです。
近年、神谷浩史さんが声優を引き継ぎ、劇場版最後のぶりぶりざえもんから21年が経ち、この「激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」でようやくスクリーンに戻ってきました。
シネマサイズの物語の中で、醜くセコく、そして可愛らしく躍動するぶりぶりざえもんが観れるなんて! 感無量!
こういったメタ視点がなくても十分に面白い作品なんですが、せっかくならそんな歴史に思いを馳せながら鑑賞するとより味わい深い映画になると思います。
【好きなシーン】
おたすけ料100おくまんえん。キャッシュレスも可。
(ぶりぶりざえもん)
19位:嵐を呼ぶ!歌うケツだけ爆弾(2007年)
今度の主役はシロ!? シロのおケツに、地球を吹っ飛ばすほどの爆弾がくっついちゃった! シロは誰にも渡さない…全世界65億人を敵に回した、ひとりと1匹の逃亡劇。
(公式ポータルサイトより引用)
シリーズ唯一! シロが主役の映画
しんちゃん&シロのコンビにスポットが当たった唯一の作品です。
「シロを犠牲にしなければ地球が滅亡する」というヘビーな設定のもと、しんちゃんがシロのために奔走するというストーリー。
一人でシロを守ろうとするしんちゃんの子どもらしいまっすぐな姿には目頭が熱くなります。
しんちゃんとシロの別れや、野原家を想うシロの健気な姿など、犬映画としての泣けるポイントもしっかり楽しめます。
幼少期を犬と過ごした経験のある人は、めちゃくちゃ刺さるのではないでしょうか。
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シロとしんちゃんの関係性を描いた作品は本作だけ。
しんちゃんのシロにかける想いがうかがえる名作なので、クレしん映画を一通り見てみようと思ったら忘れずにチェックしてほしいです。
いつもならどんな大仰な事態でもおバカなギャグで受け流すしんちゃんですが、シロの命がかかった本作ではいつになくマジ。
いつもと違うしんちゃんのストレートな姿が涙腺を直に刺激します。
また、本作において特徴的なのが『ミュージカル』です。
敵に宝塚歌劇団をモチーフにした軍団が登場するので、彼女らとの攻防ではミュージカルパートが展開されます。ここも忘れられない見所です。
特に、ストーリー中盤で披露されるミュージカルは必見。
カスカベ防衛隊を洗脳して、みんなで高らかに歌って踊って…というシーンなのですが、これがめちゃくちゃ怖いです。
3分にも満たない短いミュージカルシーンですが、敵組織のイかれ具合がこれでもかというほど伝わってくる名シーン。
僕も初見時には「コイツやっば…」という声が漏れました。
このシーンの不気味さをどう表現したら良いのか…。本当にここだけでもいいから見てほしいです。すごいですよ。
【好きなシーン】
よくって?
(お駒夫人)
18位:ブリブリ王国の秘宝(1994年)
映画第2作では、しんちゃんが二人になった!? 南の島のブリブリ王国で、しんのすけそっくりのスンノケシ王子とご対面。 ブリブリ魔人もあらわれて、もう大変!
(公式ポータルサイトより引用)
クレしん版インディ・ジョーンズ!
臼井儀人の『「インディ・ジョーンズ」みたいな映画を作ってほしい』というオーダーから生まれた映画。
シリーズ中でもひときわ映画然としており、『クレヨンしんちゃん外伝』という雰囲気が強い作品だと思います。
僕はこういう「クレヨンしんちゃんの世界観を前フリにしながら、別ジャンルのストーリーを展開させた時の『ギャップ』」がめちゃ好きなので、そういう意味でオススメです。
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シリーズ初期らしいカッコいい肉弾戦もさることながら、終盤の巨人によるバトルシーンは圧巻です。
ウルトラマンなど特撮ものを思わせるような重量感のあるド迫力のアクションは一見の価値あり!
また、敵役が手加減なしの悪なのも特徴的です。
クレしん映画における悪役は、おバカな動機で悪事を働いていたり、最終的に改心してエンディングを迎えたりと、子ども目線のキャラクターであることがほとんど。
ですが、本作の敵は(珍しいことに)あのしんちゃんが震え上がるほどの存在感を持ち、悪にふさわしい壮絶な最期を迎えるまで、徹底して悪者を貫いてくれます。
今となっては見られない純粋な悪役なので、クレしん映画を見こなしてお約束に慣れた頃に本作を見返すと、一層楽しめると思います。
シリーズ初期ということもあって、しんちゃんたちはそこまでド派手な行動をとらず、あくまで一般庶民としてのポジションを守っています。
そのため、「しんちゃんや野原一家の活躍が見たい」という気持ちで鑑賞すると、やや物足りなさはあるかもしれません。
そういう方には別の作品をオススメしますが、「トンデモナイ物語にしんちゃんが巻き込まれる」という原初の楽しみ方ができるという意味では随一の作品なので、ぜひ一度ご覧ください。
【好きなシーン】
小宮悦子「来日の目的は?」
(小宮悦子)
17位:嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ(2004年)
ケツ作おバカロニウエスタン! 風間くんもマサオくんもネネちゃんも、記憶を失って西部劇の世界の住人になっちゃった。 もとの世界に帰りたいけど…けっこう楽しいゾ!?
(公式ポータルサイトより引用)
唯一無二の雰囲気が漂う異色作
シリーズ通してもひときわ異質な作品です。
しんちゃんたちが西部劇の世界に閉じ込められるというストーリーなのですが、おバカなノリも少なめで全体的に殺伐&荒涼とした独特の空気が流れています。
当たり前っちゃ当たり前なのですが、クレしん映画では、どれだけ大げさなストーリーでもあくまでクレヨンしんちゃんの世界観に従属する形で物語が展開されるのが常です。
しかし、この『嵐を呼ぶ! 夕陽のカスカベボーイズ』の物語は、そのクレしん的な世界観を飲み込み、あの野放図なしんちゃんすら支配してしまうほどのシリアスさを湛えています。
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監督・脚本は、『ガールズ&パンツァー』や『SHIROBAKO』などでも知られる水島努監督。
そういう背景もあってか、この作品でしか見られない名シーンも多く、個人的に作家性を強く感じる一作です。
特徴的なのは、しんちゃんが10代前半ほどの女の子に本気の恋をするあたりでしょうか。
いつもは年上のおねいさんに一目惚れする軟派なしんちゃんが、等身大の恋愛対象に真剣な恋心を抱くのはかなり珍しい展開です。
ともすると、「いつものクレしんじゃな〜い!」と言いたくなりそうなものですが、人々を閉じ込める西部劇の世界観が徹底しているためか、全く気になりません。
お約束をガン無視してもおかしくないほど異世界として確立されているので「こんなハードな世界ならこういうことも起きうるよな…」と安心して身を委ねることができます。
シリーズ中でもかなりの異色作でありながら、それを気にせず異色な部分の旨みだけを味わえる。
他作品じゃ見られない唯一無二のクレしん映画としてオススメです。
【好きなシーン】
しんちゃん…我が友!
(ボーちゃん)
16位:爆睡!ユメミーワールド大突撃(2016年)
劇団ひとり×「ロボとーちゃん」髙橋 渉がタッグを組んだ脚本でお送りする、不思議な物語。 「夢」の世界で待つのは楽しい未来か、悪夢か?いざ、おやすみなさい!
(公式ポータルサイトより引用)
子どものうちに見てほしいクレしん映画!
異世界の描写に定評のあるクレしん映画が『夢の世界』という分野に挑んだのですから、それはもう水を得た魚のように表現力がほとばしっています。
その一方で、子どもが鑑賞するにはちょっと怖すぎるシーンもあり、また夢世界の舞台設定が少々難解なため、シリーズ中でもやや大人向けという位置付けをされることが多い作品です。
ただ、こういう懸念はたいてい大人の取り越し苦労で、子どもたちはすんなり楽しんでたりするんですよね。
個人的には、その辺はあまり気にしなくてもいいんじゃないかと思っています。
むしろ、本作は、後述する理由から「一番子どもに見てほしい映画」ですらあります。ぜひ親子で楽しんでみてください。
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クレしん映画には「大人になって見返すと、子どもの頃には気づかなかった見所を再発見できる」という作品が数多くあります。
そんな「大人になってから見返したい」系クレしん映画の中でも、No.1はこの「爆睡! ユメミーワールド大突撃」だと思います。
僕は、公開時すでに大人になってしまっていたので、いま幼少期を謳歌している子どもたちが本当に羨ましいです。
今のうちに絶対観といて! そして、20年後にもっかい観て!
本作は、サキちゃんという転校生がふたば幼稚園にやってくるところから物語が始まります。
余談ですが、このサキちゃんがもう可愛いすぎるのでそれだけでも一見の価値ありです。クレしん映画史上一番可愛いキャラといってもいいくらい。
いつもなら、年上のおねいさんにそそのかされるなど不純な動機づけで映画のストーリーに参加することが多かったしんちゃんですが、本作では純粋にこのサキちゃんを助けるために行動します。
シャイで斜に構えがちなしんちゃんが、物事を茶化したりスカシたりもせず、友だちのためにひたすらまっすぐ突き進む姿には、童心につき刺さるストレートなアツさがあります。
ひょっとしたらシリーズ史上一番カッコいいしんちゃんなのでは?
その一方で、大人目線の見所もしっかりカバー。
中でも、ラストシーンにおけるみさえの言葉は、本作を観た人の全てが記憶に残す名言なので、文字通り必見。
「クレヨンしんちゃん名言まとめ」みたいな場所ではなく、劇中のセリフとして必ず見てほしい!
これまでみさえが見せていなかった角度から吐き出される言葉は、子どもよりも大人の方がドキッとさせられるのではないでしょうか。
「みさえもそんなこと思ってたんだ」と思うと、クレヨンしんちゃんという作品の見え方にも新しい色が加わるような、鋭くて優しいセリフです。
余談ですが、近年のクレしん映画では、旬の芸能人がゲスト出演するのがお決まりになっています。本作では、当時一斉を風靡していたとにかく明るい安村さんが登場します。
本作は、(劇団ひとりさんが脚本に参加しているからでしょうか)このゲスト芸人の扱いが完璧です。
映画の流れを切らず、ストーリーを推し進める役として登場させつつ、それでいてちゃんと笑えるポイントにもなっているというよくできたシーンなので、個人的な見所として推させてください。
【好きなシーン】
最近お孫さんが生まれたそうで
(ボーちゃん)
15位:バカうまっ!B級グルメサバイバル(2013年)
みんな大好き「B級グルメ」に、消滅の危機!? 庶民の味を守るため、カスカベ防衛隊が伝説のソースを運ぶ、運ぶ、運ぶ。 燃えよ!やきそば!!焦がせ!友情!!
(公式ポータルサイトより引用)
カスカベ防衛隊大活躍!
しんちゃん・風間くん・マサオくん・ネネちゃん・ボーちゃんの5人が余すところなく活躍する作品です。
「カスカベ防衛隊が主役のクレしん映画」を見たければ、まずはこの「バカうまっ!B級グルメサバイバル」をオススメします。
焼きそばを巡って奮闘するというバカバカしくもアツいストーリーなので、子どもたちが一番に楽しめる映画なのではないでしょうか。
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「親に内緒でカスカベ防衛隊がグルメイベント会場に行く」という幼稚園児らしい冒険から始まるのが、個人的にとても好きです。
クレしん映画といえば、日常からかけ離れた映画サイズの冒険がほとんどなので、子どもたちが本当の意味での主役にはなりきれないという印象があります。
そんな中、「何かしらの特別なパワーを授かる」でもなく「別のキャラクターに戦闘を委ねる」でもなく、一貫して子どもたちの力で物語を切り拓いていく本作は、シリーズ中でも結構珍しいスタンスだと思います。
その分、物語の規模も子どもサイズに調整されているので、大人が見ると物足りなさはあるかもしれませんが、子どもたちの冒険や活躍を純粋に楽しめる作品なので、ぜひ一度ご覧いただきたいです。
余談ですが、本作のED曲はSEKAI NO OWARIの『RPG』。個人的に、シリーズ中で一番好きなEDです。
映画自体は焼きそばを巡るおバカな物語なのに、「RPG」のおかげで劇中にないファンタジーの要素がプラスされるのか、鑑賞後は壮大な冒険譚を終えたかのような気持ちになるから不思議です。
トコトコ歩くカスカベ防衛隊も可愛いし、大団円の様子も爽やかで後味もいいし、ラストカットのしんちゃんの表情もキュンキュンくるし…。
もし本作を観るなら、エンドロールは絶対に飛ばさないでください。あと、OPのクレイアニメもめっちゃ可愛いです。
【好きなシーン】
「オラたちまだまだ若いですから。そんな食えないモンしか持ってなくて」
「若いうちは誰でもそういうもんでごわす。頑張んな!」
(野原しんのすけ&フォアグラ錦)
14位:電撃!ブタのヒヅメ大作戦(1998年)
「このおバカ、恐るべし。」 巨大飛行船を舞台に、秘密組織”ブタのヒヅメ”を倒すため、カスカベ防衛隊が大暴れ! そしてカギを握るのは、あのぶりぶりざえもん!?
(公式ポータルサイトより引用)
カスカベ防衛隊初出動!
クレしん映画シリーズ第6作目にして、初めてカスカベ防衛隊にスポットが当てられた作品。そして、客を泣かせる感動シーンを明確に取り入れた初の作品でもあります。
「面白いクレしん映画って何があるの?」と聞かれたら、決して忘れてはいけないエポックメイキングな名作です。
そういう御託を抜きにしても、高水準のアクションあり笑いあり感動ありで、とにかく映画としての見所が満載。
見て損はしないので、気になったらぜひ観てみてください!
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物語序盤で、ひろし・みさえが「しんのすけは敵組織の攻撃に巻き込まれて死んだ」と誤解するシーンがあるんですが、ここを個人的な見所として挙げさせてください。
いつもは能天気なみさえが取り乱す様子や野原家に漂う陰惨な雰囲気など、このシーンの描写には妙にリアルな肌触りがありゾッとします。
この後に見た人が絶対に笑ってしまう最高のアクションが続くので、そこまでシリアスにならずに済むのですが。
この擬似的な喪失体験を経ている分、その後のひろし&みさえは他作品にはないほどパワフルに物語に突っ込んでいくことになります。
この親目線のアツさも、この「電撃! ブタのヒヅメ大作戦」の醍醐味だと思います。
また、本作では、ガンアクションあり・飛行船による空中戦あり・血汗飛び散る肉弾戦ありとアクションシーンがとても贅沢です。
特に、味方となる女性キャラの大立ち回りが惚れ惚れするほどカッコいい! 彼女のアクションシーンはとにかく必見。めちゃくちゃ興奮します。
・カスカべ防衛隊による子どもたち目線の冒険
・みさえ・ひろしによる親目線の奮闘
・映画オリジナルキャラによる映画映えする立ち回り
3層のアクションが堪能できる満足度の高い映画です。
【好きなシーン】
マサオ「本当にここどこなんだろ。こんなに寂しい景色みたことない」
ボーちゃん「どこでもいい。ここは地球の上。怖がらなくて大丈夫」
(マサオ&ボーちゃん)
13位:爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜(2018年)
春日部にある中華街”アイヤータウン”で、食べた人が凶暴化する恐ろしいラーメンが大流行。このラーメンパニックに、カスカベ防衛隊が伝説のカンフー”ぷにぷに拳”で立ち向かう!! 全篇ノースタントで贈る、おバカンフーアクション超大作!
(公式ポータルサイトより引用)
クレしん的、正統派アクション映画
この記事を書いて初めて知ったんですが、『全篇ノースタントで贈る』とか言ってたんですね。面白っ。
近年のクレしん映画では希薄になりつつあった『アクション』要素が満載。
拳と拳がぶつかり合う純粋な格闘シーンなど、痛快なアニメーションが楽しめる娯楽作が、2018年に久しぶりに登場しました。
本作では、しんちゃん本人もガッツリ肉弾戦を繰り広げます。
これが個人的に画期的だと思っています。クレしん映画で未踏のままであった境地を切り拓いた作品と言ってもいいくらい。
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しんちゃんをはじめ、カスカベ防衛隊の子どもたちも、これまで格闘シーンや乱闘劇を繰り広げたことはあります。
…が、やっぱり、しんちゃんが敵を殴る蹴るという描写はふさわしくないので、クレしん映画において子供たちを積極的に戦闘に参加させるようなテーマは描かれにくかったように思います。
いつもなら、敵との追いかけっこなど肉弾戦以外のシーンにアクションの見せ場を委託したり、他のキャラが代わりに肉弾戦を担うなどの展開が主です。
そんな中、本作では『ぷにぷに拳』というおバカな拳法のおかげで、直接的な暴力表現を伴うことなく、しんちゃんたちが敵と格闘することが可能になっています。
実際、それでも戦いの描写は少なくはあるのですが、しんちゃんたちも主体的にアクションに参加できる舞台設定としては十分。
そのおかげで本作は、『修行を通して子供たちが強くなり、敵を打ち倒す』という王道だけどクレしん映画では手付かずであったストーリーを堂々と展開させることができています。
過去作と比べても新鮮に、かつストレートに楽しめる作品です。
敵役は食べた人を凶暴化させる商品で金稼ぎをするラーメン屋「ブラックパンダラーメン」の社長。
『いきすぎた中毒者を生むラーメン』という設定もさることながら、クレーマーをガン無視して「うちは、ノーコンプライアンスラーメンだ!」と言い放ったり、テレビCMで「ブラックパンダラーメンを食べたら過払金が戻ってきたんです!」というセリフを言わせていたり。
クレしんらしいシニカルなギャグもキレッキレです。
ただ、拳と拳のチカラ勝負に対し、クレしん的解答を見せつけるラストシーンは、良くも悪くも衝撃的。初見の方はそこだけご注意ください。
本作は一貫してわかりやすく楽しめるのですが、このラストシーンで一気に「???」となります。僕も当時、劇場で見ていましたが、館内一帯がハテナに包まれていました。
多分、あの展開についていける人は一人もいないんじゃないでしょうか。
【好きなシーン】
特撮好きの大人…。信用できる!
(ボーちゃん)
12位:雲黒斎の野望(1995年)
こんどは戦国時代へタイムトリップ。 歴史を変えようとしているニオウやつ、「雲黒斎(うんこくさい)」の野望を止めろ! カンタムロボも活躍するゾ。
(公式ポータルサイトより引用)
ABBAAB→→←!
しんちゃんの味方側となるゲストキャラにおいてシリーズ史上一番人気の「吹雪丸」という剣士が登場します。
「アンケート調査したわけでもないのに勝手にそんなこと言っていいのか」と言われそうですが、このキャラに関しては大丈夫です。
劇中も吹雪丸を引き立てる名シーンが満載で、もはや彼が主役と言っても過言ではありません。野原一家が添え物にすら見えます。
脚本を担当した原恵一さんも「なんでしんのすけがメインなんだ!?」「吹雪丸のドラマを作りたいんだ!」と言いながら絵コンテを描いていたそうです。
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舞台が戦国時代ということもあり、呼吸をためらうほどの緊張感が漂う真剣勝負や敵を蹴散らす馬上の戦いなど、日本人のDNAにぶち刺さるケレン味たっぷりのアクションシーンが観られます。
「一面に広がる菜の花畑」とか「水しぶきが舞う川」という舞台も最高ですし、緩急の効いた剣戟もカッコよすぎて、もはや『殺陣』の域に達しています。
個人的に大好きなのが、早朝の境内で吹雪丸がひとり剣を振るうシーン。
これがもう息を飲む美しさ。
吹雪丸に関するストーリーは「胡蝶の夢」を下敷きにしているため、ふっと消え入ってしまいそうな儚さが常に漂っています。
そんな吹雪丸のたゆたう運命を象徴するような切なくて美しい場面。アニメの1シーンとしてではなく、一枚の絵として記憶に残ると思います。
僕が『雲黒斎の野望』を思い出す時、真っ先に頭に浮かぶ名場面なので、ピンとこない人はぜひ一度観てほしいです。
吹雪丸が観客を虜にする一方で、野原一家の活躍も描かれているので、いつものノリが置いてけぼりになる感じもありません。
時代劇の硬派なドラマが観られるだけでなく、おバカでアツい野原一家を通して、SF作品の美味しいところや、ロボットアニメの要素まで楽しめます。
クレしん映画の中でも、特に「ストーリーの密度」と「鑑賞後の満足度」が高い作品なのではないでしょうか。
【好きなシーン】
「愛してるぜみさえ!」「知ってるわ!」
(野原夫婦)
11位:爆発!温泉わくわく大決戦(1999年)
伝説の温泉”金魂の湯”(きんたまの湯)は、なんと野原家に涌いていた! 6本のショートムービーが楽しい「クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉」も同時上映。
(公式ポータルサイトより引用)
もはや本格怪獣映画とも言える作品
興行収入だけでいうと、クレしん映画シリーズ最下位になってしまうこの作品。
なんで? こんなにすごい映画なのに。
ヒロインがエッチすぎるからでしょうか。だとしたら納得です。
本作において特筆すべきは、怪獣映画にも比肩しうる大迫力のロボット描写。
敵の巨大ロボットが埼玉を破壊しながら横断するシーンから県民のパニック描写、カッコいい自衛隊の交戦まで、手加減ナシの完成度。
現代人が観れば脳裏にハッキリと『シン・ゴジラ』がよぎるレベルです。
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劇中でも、自衛隊の指揮官が「景気付けにミュージックだ」と言って怪獣大戦争のテーマを流したり、敵の巨大ロボットがゴジラのテーマを流したりと、もうやりたい放題。
『シン・ゴジラ』の監督でも知られる樋口真嗣も、当時これを見て「やられた!」と地団駄を踏んだそうです。
それも、このシーンが元ネタに依存しきった単なるギャグに留まらず、もはや「モンスター映画」としても確立されうる描写が伴っているからこそだと思います。
余談ですが、クレヨンしんちゃんの重要な要素の一つに『パロディ』が挙げられます。
本作におけるゴジラだけでなく、スターウォーズや特撮ヒーローなど、クレしんはこれまでに様々な有名作品をパロディしてきました。
一般的にパロディといえば、「わかる人にはわかる」という種類の笑いをもたらす・世界観にギャップが生まれ、その落差でナンセンスなおかしみをもたらすなどの効用があるかと思います。
ただ、『爆発!温泉わくわく大決戦』などで見られる本気のパロディからは、一般的な効用を越えて“大人のアツさ”や”血が滾るような表現欲”を感じます。
大人たちがクレヨンしんちゃんを通して「俺たちはこういうのが好きなんだ! どうだ! カッコいいだろ!」と教えてくれているような気がして、子ども心に嬉しかったのを覚えています。
【好きなシーン】
ぞ〜うさん。ぞ〜うさん。
(丹波哲郎)
10位:オラの引越し物語〜サボテン大襲撃〜(2015年)
ありがとうカスカベ。さようならカスカベ。野原家がお引越し!?行き先はなんと…!
(公式ポータルサイトより引用)
クレしんシリーズ史上、興行収入No.1!
野原一家が引っ越しをして、メキシコで新生活を始める…というストーリーなのですが、シリーズ史上最強のツカミです。
予告編を見るだけでもうイチコロ。そのおかげもあってか、他のあらゆる名作をさしおいて一番売れたクレしん映画です。
映画序盤で、しんちゃんたちがカスカベの人たちに別れを告げる場面をしっかり描いているんですが、これがもう擬似最終回と言ってもいいくらい泣けます。
開始15分で、即クライマックスを迎える贅沢な作品です。
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お別れの後は湿っぽくならず、新天地メキシコの風景を引っ越したてのワクワク感と同時に、カラッと楽しげに見せてくれます。
過去作でも海外はおろか別の惑星・異世界など、数々の大冒険を経験してきた野原一家なのに、今さらメキシコという現実感のある舞台でここまでワクワクできるとは…。これは、いちファンとして驚きでした。
カスカベとお別れするシーンを丹念に描いてもらっているからでしょうか、「野原一家が新しい世界にやってきた!」と強く感じます。
いつものクレしん映画なら、困難を乗り越えて感動のラストシーンを迎えるところですが、本作は、最初に大きく感動させて、それを原動力に困難を乗り越えていく形。
冒険パートにカスカベ防衛隊が一切登場しないという近年のクレしん映画にしてはかなり思い切った構成なのですが、冒頭の15分のおかげで彼らの不在を感じることはありません。
いつものしんちゃんのノリで、メキシコの住民を巻き込みながら物語を展開させていく一方で、「カスカベで過ごした日々があるからこそ、世界のどこにいてもしんちゃんはしんちゃんなんだな」という爽やかな感動を覚えます。
【好きなシーン】
しんのすけ君。またね。
(園長先生)
9位:嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード(2003年)
「野原一家、大疾走!!それは、すべて最高級ヤキニクのため…」焼肉を楽しみに、夕食を待つ一家。 ところが、みんな指名手配されるし、謎の組織に追われるし…
(公式ポータルサイトより引用)
シリーズ史上一番笑えるのはこれだ!
断言しますが、この「嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」はクレしん映画の中で最も面白い映画です。
シリーズ通しても、この作品だけギャグのキレも質もリズムも段違い。一体、何が起きたの??
この前作まで「大人も泣ける」感動作が続いていた反動なのか、とにかくバカバカしさに全振りした「大人も笑える」娯楽作となっています。
クレしん映画の「面白さ」を見くびっている人がいたら是非観てみてください。
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敵組織に追われる中で野原一家が離れ離れになったり、親友であるはずのカスカベ防衛隊に裏切られたり、ジェットコースターに乗りながらスリル満点の攻防を繰り広げたり…と、手に汗握る逃走劇はそれだけでも見応えがあります。
そして、その逃走劇で積み上げられたテンションがおバカな方向にドンドン出力されていきます。
全編通して上質なギャグシーンのオンパレード。とても贅沢なクレしん映画です(余談ですが、裏切りシーンのボーちゃんがめちゃくちゃカッコいいのでそれも注目してほしいです)。
中でも白眉の名シーンといえば『ヒッチハイク』のくだりでしょう。
おバカな中にも哀愁と漢気が匂うキャラクターが登場するんですが、これがもう一度見たら絶対に忘れられない名脇役です。
本作には、僕らが勝手にクレしん映画に期待してしまいがちな「親子の絆が云々」とか「大人も泣ける要素」とか、そういう説教臭さが微塵もありません。
あくまでヤキニクのために家族が団結するというバカバカしさを貫いていて、これがもう痛快!
特に、臨界点を突破したかのように一気にナンセンスが爆発するラストバトルは必見。
この映画で描かれる全てが「観客を笑わせる」ためにある…そう思わせる凄まじい映画です。
何も考えずに笑いたい日は「嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」で決まり!
【好きなシーン】
ひろし「よし! 合言葉! カルビ!」
みさえ「ロース!」 しんのすけ「ハツ!」 シロ「タン!」 ひまわり「キムチ!」
(野原一家)
8位:嵐を呼ぶジャングル(2000年)
「野生のおバカが目をさます!」 豪華客船にこどもだけで取り残されてしまったカスカベ防衛隊のみんな。 さらわれたアクション仮面たちのために、ジャングルを探検だ!
(公式ポータルサイトより引用)
大人も叫ぶ! 頑張れアクション仮面!
カスカベ防衛隊によるジャングル横断の大冒険あり、大人たちのバカバカしい逆襲劇ありと、映画らしい見所が盛りだくさん。
そして、それらの展開を一貫してしんちゃんが自らの意思と漢気とおバカなノリでグイグイ引っ張っていく構成になっています。
しんちゃんが映画オリジナルキャラのサポート役に落ち着いていたり、一連の冒険をかき乱すコメディリリーフにあてがわれたり…という扱いをされることも多い中、終始しんちゃんの活躍によって物語が進行する「嵐を呼ぶジャングル」は、シリーズ中でも一番王道のストーリーと言えるのではないでしょうか。
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そして、この作品の隠れた主役はアクション仮面。
憧れのアクション仮面のためにしんちゃんが奮起し、それに呼応するようにアクション仮面も立ち上がる!
元ネタの特撮ものとも一味違う、等身大の一人の男が躍動する熱いヒーロー映画としての側面も持ち合わせています。
特に、みんなの声援を背にボロボロのアクション仮面が立ち上がるシーンはゲキアツ。
頬にほんの一瞬だけ映る一筋の涙と、それを見せまいとするかのように咆哮するアクション仮面の姿に、大人である僕たちも思わず拳を握り叫びたくなります。頑張れアクション仮面!
汗が飛び散る肉弾戦や手に汗握る空中戦、ラストシーンの決死のダイブなど、クレしんならではの痛快なアクションシーンも圧巻。
アニメーションの気持ちよさを存分に堪能できる最高のヒーロー映画です。
【個人的に好きなセリフ】
まともじゃ王様は務まらねえ。
王様ってのは欲張りで、気まぐれで、残酷で…退屈してるんだ。
(パラダイスキング)
7位:嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦(2002年)
戦国時代に野原一家がタイムスリップ。 しんちゃん乱入で、歴史が変わる? 合戦あり、許されない愛ありの戦国スペクタクル。 実写映画化もされた話題の作品。
(公式ポータルサイトより引用)
クレしん映画の限界を越えた大傑作!
文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞をはじめ、数々の賞を総なめにし「大人も泣ける」というブランドを決定づけた、クレしん映画を語る上で外せない一作です。
「クレヨンしんちゃん」という枠から大きく逸脱したラストの展開はわりと賛否両論です。監督も裏話として、制作段階では大人の事情で猛反対を受けたと明かしていました。
最終的に原作者・臼井儀人の「このままでいきましょう」という鶴の一声で満を持して世に出すことができたそうな。
「映画クレヨンしんちゃん」のあり方について限界まで挑戦し、その結果生まれた不世出の大作。それが「嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦」です。
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この映画では、いつものクレしんらしいおバカなテンションはナリを潜め、徹底して時代劇と悲恋の人間ドラマを展開しています。
そのせいか、この辺りのクレしん映画を「感動路線」などと揶揄する人もいるんですが、とんでもない。
この作品の何がすごいって、その「感動させるに至るまで」の物語の描写力です。
徹底した時代考証に裏打ちされた合戦の描写は、素人目にも「子ども映画でここまでやるのか!?」と驚かされます。実際、時代劇としての資料価値も高いそうですよ。
個人的に「嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦」の最大の魅力はここにあると感じています。
隅々まで行き届いた時代考証と舞台演出の結果、この映画には全編を通してどこか“乾いた空気”が漂っているように思います。
現代とはかけ離れた戦国時代の自然豊かな情景は、一見のどかなようでありながら、その中に不条理ともいえる無常観を孕んでいるようでもある。
そこで生きる人々はもちろん、迷い込んだ野原一家すらも戦乱の時代のほんの一部であると強く感じさせる、この突き放したような“空気感”が僕は本当に大好きです。
【好きなシーン】
金打(きんちょう)…。
(野原しんのすけ)
6位:嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲(2001年)
クレしん映画ブームを巻き起こした一作。 レトロの世界に大人がハマりすぎて、帰ってこなくなった… このままじゃ、未来がなくなっちゃう!? 走れ、しんのすけ!
(公式ポータルサイトより引用)
「大人もハマる」というイメージを築き上げた中興の祖
子どもに付き合って映画館に行ったはずの大人が号泣して帰ってきた。上映最終日にはリピーターの大人たちでいっぱいだった。などの逸話を残す作品。
監督をして『これを作ることで「しんちゃん」チームから外されても、このシーンを作れるなら「それでもいい」と思った』と言わしめるラストシーンも含め、クレしん映画シリーズで最も有名な作品なのではないかと思います。
続きを読む
・大人たちがいなくなってしまう恐怖演出
・子どもだけで生き抜くサバイバル描写
・クレしんらしいおバカなテンション
・涙腺を直搾りしてくる感動シーン
・タマタマがヒュンとなるアクション
・しんちゃんの漢気とアツさ
・カリスマ性のある魅力的な敵キャラ
クレしん映画に期待されるほぼ全ての要素が、高水準でびっしりと敷き詰められたエンタメ満漢全席。
というより、この「モーレツ! オトナ帝国の逆襲」がすごすぎて、この作品が持つあらゆる要素を他のクレしん映画にも求めてしまっていると言った方が正しい気がします。
物語自体の導入の力強さ、展開力、そして決着のつけ方まで、その一部の隙もない構成にはもうメロメロです。
それにつけても、見れば見るほど「オトナ帝国」という舞台設定が完璧だと思い知らされます。
カリスマ性のある敵とオトナに置き去りにされるという根源的な恐怖演出を通して物語をシリアスに展開しつつ、敵となるオトナたちが子ども返りしていることでどれだけハードにぶつかってもテンションはおバカを保てるという奇跡のバランス。
大人だけが楽しめる、なんて言いますけど、僕自身10歳の頃にこれを劇場で見て大笑い&大泣きしたので、間違いなく「親子で楽しめる一級品の娯楽作」だと思います。
【好きなシーン】
小堺一樹「おしりをぎゅー!」
関根勤「ケレル!」
(劇中のTV番組)
5位:伝説を呼ぶ!踊れアミーゴ!(2006年)
カスカベの都市伝説、「そっくり人間」。 しんのすけに迫る、みさえそっくりのニセモノ。 ホンモノの家族を守るため、おケツに力を込めて、ダンスバトルがはじまる!
(公式ポータルサイトより引用)
子どもは見ちゃダメ! 最恐のクレしん映画
あなたがインターネット大好き人間なら、風間くんのお母さんがバケモノの顔になって七面鳥を丸呑みしてる画像を一度は見たことがあるかと思います。
あまりの怖さにテレビ放映時にはカットされたという、この映画の印象的なシーンです。
「伝説を呼ぶ! 踊れアミーゴ!」は「クレしん映画×ホラー」に挑んだ怪作。
春日部の住人がいつの間にかドッペルゲンガーと入れ替わっていき、徐々に町が乗っ取られていく…というストーリーなのですが、そのホラー描写はもはや子どもでは耐えられないレベル。
クレヨンしんちゃんのレギュラー放送でも、たまに子どもたちにトラウマを植えつけてくるホラー回があったりしますが、この映画はほぼ全編それで構成されています。
軽い気持ちで見始めたらビックリすると思います。
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僕はこの映画が大好きなのですが、一般的には評価が分かれる作品でもあります。
ホラーテイストとはいっても大人が耐えられるレベルではありますし(僕はホラー映画が大の苦手なのですがそれでも鑑賞できる程度です)、そういう意味で物足りないと思われても仕方ないのかもしれません。
ただ、そのホラー描写における『ケレン味あふれる表現力』こそがこの映画の真髄だと思うので、「別に怖くないじゃん。子供騙しだわ」という角度から評価を落としているのは非常にもったいない! 未見の方はぜひ一度見てみてください。
特に、映画開始直後によしなが先生がドッペルゲンガーに襲われるシーンがあるのですが、この4分間だけでも一見の価値あり。
子供騙しなんてとんでもない!
クレヨンしんちゃんのおバカな世界観をフリにしたケレン味たっぷりのカメラワークで、観客に「この映画はただごとではない」と強く感じさせます。なんて美しいオープニングだ!
日常系アニメとしての強固な基盤があるからこそ、こんなに自由な表現ができるんだな…と感動します。
「伝説を呼ぶ! 踊れアミーゴ」にはそういった「作り手のエゴが詰まった本気の描写」が満載。これを観ると「怖い」というよりもはや「カッコいい…!」とすら感じます。
とはいえ、そういった僕の主観的なひいき目を抜いても、大人も騙されるミスリードあり、見返すたびにハッと気づかされる細かな伏線ありで、何度見ても楽しめる作品だと思います。
何と言っても『サンバ』というテーマ選びが本当に見事!
本来は陽気な踊りであるはずのサンバが、ホラーな雰囲気下では不気味で奇怪な挙動に見え、気を抜けば笑える愉快な動きにも見え、物語終盤には情熱を燃やす熱いダンスにも見えます。
クレしんらしい縦横無尽な演出力の賜物だと思うので、これを機にこの世界観に存分に浸ってみてください。
【好きなシーン】
僕、本当に本物のまさおかな…。もしかしたらそっくりさんかも…。
(まさお君)
4位:ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん(2014年)
ある日、とーちゃんがロボットになって帰ってきた!動き出す巨大な陰謀。 しんちゃん映画史上もっともアツイ オヤジの戦いに、日本中の家族が涙する…!
(公式ポータルサイトより引用)
クレしん映画の全てが詰まった禁断の作品
近年のクレしん映画シリーズは、常にオトナ帝国・戦国大合戦の2大傑作と比較されるという絶望的に高いハードルが課せられています。
何を見てもどこかで「でも戦国大合戦と比べると…」「やっぱりオトナ帝国の方が…」と思ってしまう呪いにも近い固定観念が僕にもあったのですが、それを塗り替える快作がとうとう2014年に現れました。
それがこの「ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん」です。
僕が言えたことではないのですが、オトナ帝国・戦国大合戦の2作で満足してしまっている人がいたら、せめてこの作品だけでも観ておいた方がいいです。腰を抜かすと思います。
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脚本はアニメ『天元突破グレンラガン』や『キルラキル』で知られる中島かずき。
その甲斐あってか、この映画は物語の展開力がとにかく凄まじい!
導入を見て「なるほどこういう話ね」と半ばたかをくくっていると、瞬く間に作品テーマがすげ変わるほどの急展開を見せ、こちらが「クレしん映画でこれをやるのか!?」と居ずまいを正す間もなくガツガツと次のステージに爆進していきます。
それでいて、最後にたどり着くラストバトルのバカさ加減と言ったらありません。腹の底から特大の呆れ笑いが出ます。
そして、こちらの感性がすっかりバカになった隙をついて、アツい親子の共闘シーンすらも描いてみせる手際の良さ…。
こんな贅沢なエンタメありますか?
そして、物語が迎えるのは『クレヨンしんちゃん』ではあってはならない禁断のラストシーン。
ある映画オリジナルキャラとの別れを描いた場面なのですが、劇場版とはいえクレしんでこれをやったらお終いじゃないのか!? と息を呑みます。
ここで涙を我慢できる人はいるのでしょうか?
聞くところによると、このシーンを演じた声優の方には、泣きの芝居ではなく、野原一家が日常に早く戻れるように潔さを全面に押し出すという演技プランがあったそうです。
曰く、情緒的になり過ぎないように心掛けたとのこと。
それを踏まえて、改めてこのシーンで注目してほしいのは「肝心のしんちゃんはここでは涙を流していない」ということ。
観た人全員が号泣したであろう名場面ですが、この5歳児はこみあげる涙を振り払って毅然とした眼差しで相手を見送っているんです。なんてカッコいい…。
【好きなシーン】
ひろし「こんなとき! しんのすけなら!」
しんのすけ「いつもの!」
(野原親子)
3位:ヘンダーランドの大冒険(1996年)
みんなで遠足に行った「群馬ヘンダーランド」は、実は地球制服をもくろむ魔女のアジトだった! アクション仮面やカンタムロボ、ぶりぶりざえもんといっしょに悪を叩け。
(公式ポータルサイトより引用)
忘れるな! これがクレヨンしんちゃんだ!
劇場版4作目にして、今もなお傑作として語り継がれるマスターピース。いまだにクレしん映画1位に選ぶ人も多い不朽の名作です。
クレしん映画史に残るアクションシーンもあり、スマートに描かれるしんちゃんの成長シーンもあり。
20年以上前の映画ですが、決して古さを感じることなく純粋に楽しめると思います。
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僕がクレしん映画を観ていて心惹かれる要素が2点あります。
それが「ホラー」と「粋」です。
本作はその2つの魅力がカンストしているすごい映画です。
■ホラー
シリーズ初期のクレしん映画で特に印象的だった要素です。
観ている人をびっくりさせるような怖さではなく、じわじわと感情が侵されていくような実に品の良いホラー演出。クレしん映画を語る上で、よく『日常が非日常に侵食されていく恐怖』と表現されます。
個人的には、かつて僕たちが子ども心に感じていたような根源的な恐怖を思い出させる…どこかノスタルジックな恐怖だとも感じます。
『ヘンダーランドの大冒険』は、この怖さの演出が格別です。
・遊園地で一人取り残されたときの言い知れない不安
・「自分のせいで何か悪いことが起きるんじゃないか」とほのかに自覚しながらも、それを気にしてないふりをして過ごす日常の後ろめたさ
・このパパやママは別人にすり替わってたらどうしよう…という怖れ
作中の美術やBGMの雰囲気もあいまって、そういった得体の知れない不安がまとわりつくような感覚を覚えます。
耐えきれなくなって「ワーッ!!」と叫んで走り出したくなるような…今となっては忘れてしまった、子どもの頃に感じていたあの怖さ。
大人になった今もそれをリアルに追体験できる凄い映画だと思います。
■粋
精一杯噛み砕いて言うと『悪役がめちゃ魅力的』って意味です。
『ヘンダーランドの大冒険』のボスを張るキャラたちは、単なる悪い奴ではなく、しんちゃんのおバカなノリにもちゃんとノってくれます。
悪役としての存在感も備えつつ、ユーモアを解す余裕も備えた彼らを見ると、おバカを超えて”粋だな〜!”と感じます。
普通の悪役なら、しんちゃんのギャグには「バカかお前!」とツッコんで終わりじゃないですか。もしくはそんなノリを一笑に付して、あくまで怖くて悪い奴に徹するか。
そんな類型的な悪党とは一線を画す『粋な悪役』に出会えるのはクレしん映画だけ! これがめっちゃ好きなんですよね…。
この二大要素が充実しきっているので、個人的にめちゃくちゃ贔屓してしまう名作です。
あと、さりげなく重要だと思うのは、劇場版の世界観に引っ張られすぎず、5歳児が主人公であるお話としてのリアリティラインも保っている点。
『等身大のしんちゃんよりちょっと背伸びした範囲での大冒険』というお話の組み立てがすごくいいんですよね。
【好きなシーン】
どこもかしこもお日様マークかよ。クソ面白くもねえ。
雪がいいよな…やっぱ…。
それも身も心も凍りつくような吹雪…。そう思わねえか…えぇ?小僧?
(ス・ノーマン・パー)
2位:謎メキ!花の天カス学園(2021年)
映画クレヨンしんちゃんシリーズ史上初の本格(風)学園ミステリー! 果たして、しんのすけたちは事件をおかいケツできるのか!?
(公式動画概要欄より引用)
最新にして最高! クレしん映画ランキングを塗り替える快作!
この「映画クレヨンしんちゃんランキング」の記事を執筆していた当時は、まさかトップ3が入れ替わるなんて思ってもいなかったんです。
毎年楽しみにしてはいるけど、「正直、僕の中でクレしん映画の上位は固まっちゃってるしな〜」なんて思っていました。
マジでビックリしました。今年、こんな作品が出てくるなんて。ぶったまげた。完璧です。
クレしん映画初の「ミステリー」をテーマにした作品なんですが、この謎解きが子供も楽しめるラインを保っている一方で、大人の鑑賞にも耐えうる完成度を誇っていて凄まじい!
なんなら、後述する理由から単なるアニメ映画ではなく「ミステリー作品」として高い評価を受けていいと思っています。
それでいて、「青春」という副テーマを通して、しんちゃんたちの「友情」や野原一家の「親子愛」などの見所も余すところなく詰め込まれていて満足感が桁違い!
「ミステリー」と「青春」なんていうと、使い古されたベッタベタなテーマのように思えますよね?
でも、これらがクレヨンしんちゃんの世界観にしっかり翻訳された結果、途方もなく上質でかつ見たこともない作品につながっているんです。
何はともあれ、とにかく観てほしいです。早く!
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正直、子ども向け映画が取り扱う「ミステリー」ということで甘く見ていたんですが、とても誠実な作りでビックリします。
謎解きに必要なピースは全てオープンにするというフェアな姿勢が徹底されており、「こんなの分かるわけないじゃん」と放り投げたくなるような後出し情報もありません。
「犯人はお前だ!」のタイミングで僕らも犯人が特定することが可能で、クレしんらしいコミカルな事件ではありながら「作者から観客への挑戦」としても十分に成立する骨太なミステリーでもあるんです。
また、子どもにもわかる「こいつ怪しいな〜」という分かりやすい伏線と、大人だけが気付ける細かい伏線という2層のミスリードが張られているため、子どもから大人まで等しく推理に参加できます。
こう言ってしまうと、主に「ミステリー好き」が楽しむタイプの作品なのか? と誤解されそうですが、それも全く違います。子どもにも分かるストーリーで思考がごちゃつくこともありません。
また、容疑者として浮上するキャラクターたちに一通り疑いの目を向けていくんですが、その謎解きの過程を経て容疑者であるキャラクターの魅力・可愛げがドンドン浮かび上がる仕組みになっています。
そしてラストシーンでは、それまでの謎解きを経て描かれたキャラクターたちの魅力がしんちゃんを中心に一点に集中し、まるで青春群像劇の爆発のような圧倒的なカタルシスにつながっていくんです。
「ミステリー」という枠組みを使って、謎解きの面白さよりもっと巨大なクレしんらしいメッセージを伝えてくれる最高の構成になっています(それなのに、ミステリー部分に一切の手抜きがないのも凄い!)。
あと、問答無用で泣けます。
この作品は、「カスカベ防衛隊が小学校に体験入学する」というストーリーです。優等生になろうと背伸びした風間くんや学生服に身を包むネネちゃんなど、普段は見られない姿がなんとも可愛らしい!
ただ、クレしん映画で「進学」をテーマにするということは、「しんちゃんたちは幼稚園を卒業したらバラバラになってしまう」という部分に否応なく目を向けさせるということでもあるんです。
クレしん映画シリーズを通して、カスカベ防衛隊の友情を描いた作品はたくさんありますが、この「いずれ来る別れを描く」というアプローチは史上初。レギュラーアニメならいざ知らず、劇場版においては未踏の域でした。
本作はこれを真正面から逃げずに描き切っていて、これが本当にエゲツないくらい泣ける! なのに、これを「青春」というワードで包むことで、ただ待ち受ける悲しい運命に泣くのではなく、「だからこそ今のこの時間はかけがえのないものなんだ」というポジティブな涙に変えてくれるんです。
同時に、ひろしやみさえが今後経験することになる「親離れ・子離れ」についても描かれていて、本来なら一本の映画が抱えきれないはずのメッセージをしっかり内包するトンデモない作品になっています。
クレヨンしんちゃんの世界が常に孕んでいたはずの切なさと向き合うことで、これまでの、そしてこれからのアニメ「クレヨンしんちゃん」の見え方にも一層の彩りを加える…。
そういう意味では、「クレしんを知ってる人なら絶対見ておくべき映画」とまで言い切ってしまっていいと思っています。
最後に迎えるアツい勝負の決着の付け方まで、「子ども向け」という部分に甘えない誠実な脚本には感服しました。
最後にあえて余計なことを言うと、90年代のクレしん映画には何かとオカマキャラが登場していたり、今となっては抵抗を覚える描写の多い作品もあります。
『一部、現在では不適切と思われる表現がありますが、制作当時の時代背景も考慮して…』という注釈が必要なので、現代の親子が無邪気に楽しめるものではなくなってしまったのかもしれません。
その点で言えば、この「謎メキ!花の天カス学園」は現代に合わせてアップデートされた価値観で制作されています。
『万人にオススメ!』という意味ならクレしん映画ランキング第1位だと思います。
【好きなシーン】
マサ「ボー。泣いてんのか?」
ボーちゃん「違う。目から鼻水」
(鬼義理のマサ・ボーちゃん)
1位:暗黒タマタマ大追跡(1997年)
アクション満載の第5作。 暗黒魔人復活のカギとなる、2つの「タマ」…その一つをひまわりが飲み込んでしまった! 世界征服をめぐる戦いに巻き込まれた野原一家の運命は?
(公式ポータルサイトより引用)
このクレしん映画は二度と作れない!
妹ひまわりが初登場した記念すべき作品。そしてしんちゃんの「お兄ちゃんとしての成長」を描いた貴重な作品でもあります。
ひまわりばかりを気にかける周囲に対して「みんなひまわりのことばっかり心配してる。オラぐれちゃうゾ」と拗ねるイジらしいしんちゃんなんて今となっては見られません。
弟妹がいた人にはより刺さる内容なのではないでしょうか。
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クレしん映画談義でよく話題にあがるテーマとして「劇中でしんちゃんの成長を描いていいのか?」問題があります。
「映画の前後でしんちゃんの性格が変わっちゃったら、いつもの生活に戻れないよね。日常アニメの世界観に齟齬が生じちゃうよね」という主張です。
これは「物語を通して成長することが許されない」という厄介なハードルでもあります。
ただ僕は、この作品でしんちゃんが経験する「お兄ちゃんとしての成長」については、ひまわりが新しく家族の一員となる以上、描かざるを得ない…というより、むしろ描くべき成長だと思っています。
なので、その通過儀礼を劇場版というサイズで描いた「暗黒タマタマ大追跡」は特別視せざるを得ません。
しんちゃんが”兄として活躍する”映画は数あれど、“兄になる”というテーマはこの作品だけ。ひまわりの存在が当たり前になった今では、もう二度と同じアプローチはできません。
1997年のこのタイミングでしか作れなかった傑作として、個人的クレしん映画ランキング不動の1位となっています。
ただ、そういう僕の能書きは置いといて!
この「暗黒タマタマ大追跡」は問答無用でめちゃくちゃ面白いです。
劇中のほとんどが逃走シーンに費やされるのですが、場面がテンポよくポンポン展開され、全く飽きがこない作りです。
追いかけっこシーンで怒涛の展開を見せたかと思いきや、逃げた先の自然豊かな山里でジッと敵を待つ…。こんな感じで映画全体を通して緩急もキレッキレ。
まるで作品全体が一連のアクションシーンのようで、観ているだけで生理的に気持ちがいい!
それに輪をかけて、映画オリジナルキャラクターが揃いも揃って魅力的です。味方サイドはもちろん、敵グループのおバカ加減も最高。
双方の魅力がぶつかる名場面が、健康ランドでの攻防のシーン。
テキストではとても説明できないので未見の人はぜひ観てみてください。クレヨンしんちゃんらしい粋でナンセンスなギャグバトルが楽しめます。
その一方で、映画全体がおちゃらけた軽い雰囲気にならないよう、しっかりと楔を打ち込んでいるのがラスボスのヘクソン。
コイツがめっちゃ怖いしめっちゃ強い! 本作は一貫してアクションシーンが冴え渡っているんですが、このヘクソンの立ち回りはひときわ贅沢です。
その結果、しんちゃんが明確に敗北するというシリアスなシーンもあり、シリーズ通して見ても異様な存在感のある悪役だと思います。
それなのに、この男もおバカなノリを足蹴にするようなイケズではないのがまた粋なんですよね…。
『暗黒タマタマ大追跡』は、高水準のおバカとシリアスを矛盾なく両立させている奇跡のような映画です。
おバカなノリに対しツッコミを入れて終わりにするのではなく、そのおバカを受容して次のシーンにつなげていく粋な構成の賜物でしょうか。
バカバカしさがシリアスを塗りつぶす爽快なラストバトルまで、徹頭徹尾おバカでアツくてカッコいい!
このドライブ感こそが映画クレヨンしんちゃんなのではないかと思います。
各所ちょっとしたシーンのセリフにも丁寧にユーモアが詰め込まれていますし、本当に一部の隙もないエンターテインメントだと思います。
“兄になる”という特別なテーマを取り扱いながら、観客を楽しませるサービス精神もミチミチに詰まっている『暗黒タマタマ大追跡』は、僕にとってクレしん映画ランキングゆずれない第1位です。
【好きなシーン】
「タケシ。今度帰る時はさ、土産こ買って来い。おら、カヌレとか言う菓子くってみてえ」
「ああ、お尻の穴みたいなやつね」
(珠由良族)
筆者のおすすめ
「ゴタクはいいから一番おすすめのクレしん映画を教えて!」というあなたへ。
断言しますが、映画館で観るクレヨンしんちゃんが一番面白いです。
過去シリーズがどれほど傑作だろうと、子どもたちの笑い声に包まれながら観るクレしん映画には絶対に敵いません。
ということで、最後にイチオシのクレしん映画として、2021年7月30日に公開された『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』をオススメします。
過去の名作はいつでも観られますが、子どもたちと一緒に劇場で観るチャンスは年に一度しかありません。
IMAXや4DXより贅沢な環境なので、少しでも気になった方はコロナ対策を整えた上で、ぜひ劇場に足を運んでみてください。
なかなか「観に行ってください!」とオススメもしづらいご時世ですが、そんな時代だからこそ…というべきか、この本当に底抜けに明るくて元気な気持ちになれる映画を是非観てほしいです。
(おしまい)