「インプット」とは……
直訳すれば入力。知識を身に着けることを、意識高く言い換えたもの。
この記事では、特に映画を観たり、本を読んだりすることを指す。
今日はこの「インプット」について語り合うべく、4人の男たちが集まった……。
【登場人物紹介】
ダ・ヴィンチ・恐山:オモコロ編集部員。本をたくさん読んでそうなので呼ばれた。
まきのゆうき:Webディレクター。映画をたくさん観てそうなので呼ばれた。
原宿:オモコロ編集長。本も映画もたくさん摂取してそうなので呼ばれた。
加味條:この記事を書いているライター。映画をたくさん観たいし、本をたくさん読みたいと思っている。
今日はなんで集まったんだっけ?
私事ですが、実はこの夏に本を出させていただくことになりまして……
創元ホラー長編賞を受賞しまして夏に小説が出版されます!出たら買ってください!
このあいだYouTube観ていたら、MGSシリーズの小島秀夫監督が年間読書量を聞かれて「今年はあまり読めてなくて100冊ぐらい」って答えてたんですよ。僕も書くからにはそれぐらいインプットした方がいいんだろうなと思いつつ、全然できてなくて。
その話をしていた動画
小島監督、ただでさえ忙しいはずなのに……。
まさにそこなんです! 普段の仕事からして僕より忙しそうな人が、僕よりたくさん作品に触れてるなと感じるので、今日は「どうやってるんだ?」という知恵を借りられればと思います。
僕らもそんなにたくさん観てるわけじゃないけどね。
その前に、一ついいですか?
「年間100」とか言ってるやつ、正直ちょっと醒める。
なんてこと言うんだ。
年始に「今年は100本観るぞ」って目標立てちゃう人とかってことでしょ?
念のため言っておきますけど、小島監督のことではありませんからね!
小島監督はきっと「100冊になっちゃった」人ですから。読みたいもの読んで、振り返ったら100だっただけ。
僕が言いたいのは、数字が主語じゃなくない?ってことなんですよ。まっさきに数字を出されると、「こいつヤバいかも」って疑っちゃう。
たしかに、手段と目的が入れ替わってるのかも……。
私はそう思われないように、「どのぐらい読んでるの?」って聞かれたら「数えてないですね」って答えるようにしてます。
数えきれないくらい読んでるんだ!って思うかも。
そうやっていち抜けを狙ってます。いち抜けしつつ、「もしかしたらこいつ300冊いってる?」みたいな感じも出せておトクです。
そんなこと言われた後で出しづらいんですが、今日のトークテーマ1つ目がこちらです……!
年間どれぐらいの作品に触れてる?
:数えてないです。
さっそく使ってる。
多ければ偉いんですか? なあ?
いや、数が問題ではないですけど、皆さんのような表現で飯食ってる人ってどれぐらいインプットしてるのか、みんな気になるはずですから!
原宿さんはどうですか?
これはポーズとかではなく、本当にわからないんだよね。本も映画も、まったく数えても記録してもいないから。
Filmarksとかの記録アプリも?
やってないですね……。ああ、でも感想を残したくなったら、日記とか、ラジオとかでちょくちょく話してはいる。
何となく感想は残しといた方がいいかなって思うんですよね。「こう感じたんだ」って自分で整理できるというか。ただ、観たもの/読んだもの全部は網羅してないなぁ。
観た/読んだ記録を残したい気持ちとか、残してた時期とかって無いんですか?
無いです。すべて砂となって消えていくのが美しいのだから。
どういうこと?
まきのさんはいかがでしょうか。
逆に僕は、全部記録してます。Filmarksでメモしてるので、本数も調べられました。
※Filmarks……映画情報・レビューサービス。まきのは鑑賞した映画をすべて感想付きで記録して公開している。
全盛期、子どもが生まれる前の2019年は映画200本観てました。去年は減って44本かな。
1年で200!? すごいですね!
数を誇る人間がここにも……?
ちょっと醒めるかもな……。
「200本観るぞ」って走ったわけじゃないから! 1年経って振り返ったら200本だっただけ!
純粋に「200」ってすごいな。
感想を全部に付けてるのも真似できないです。昔からマメですよね、メガネバリヤーのときから。
※メガネバリヤー:まきのがかつて運営していたテキストサイト。
感想書くのが癖になってるのかも。書き方も決めていて、ファーストビューで見える最初の段落にあらすじを書いて、タップして開いたところに感想が出るようにしてます。
←あらすじだけ見える状態 感想も見える状態→
ネタバレにも配慮してるんですね。
いかにあらすじを8行ぐらいでまとめるかを考えるのも楽しいんですよ。好きな映画は他の人にも観てもらいたいので、「惹き」になるような言葉を選んでます。
読者にやさしい。それが続くなんて大したもんだ……。
……と、しみじみ言ってる恐山さんはどうでしょう?
映画はそんなに見てなくて、月1で何かしら観てるかなぐらいです。
本はどうですか?
本は異常に買いまくってるんですけど、ほとんど最後まで読まずに積んでいて、読破できてるのは10%ぐらいかな。それでも3~4日に1冊は読んでると思うので、年にすれば100冊前後は行ってるのかも。
そう言われてみると、同じくらいのペースかも。3~4日に1冊。
100冊ってすごいですね……。小島監督クラスだ。
新書とか短編とか、簡単な本ばっかり読んじゃうんですけどね。骨太な本はどんどん奥に追いやられていっちゃう。
読書量が多い人って積読もめっちゃしてますよね。
ちなみに僕は、ここ数年は映画も本も4~50ずつでした。
映画も小説も50ずつなら、結構多いですね。
いや、作家にしちゃあ少ないかもなぁ!
どの立場からの物言い?
でも作家がたくさん読んでるかと言えばそうでもなく、小説家の森博嗣は「本を読んでる暇があれば書けばいいのに」って言ってましたよ。
そういう人はきっと、幼少期から死ぬほど浴びてるから、もう土壌が出来上がってるんじゃないですかね……?
それはそうかも。
ちなみに調べたんですけど、47%の日本人は1ヵ月に1冊も本を読まないそうです。映画に関しては、6割が年に1度も映画館に行かず、年に2度以上映画館に行く人は全体の2割程度になるそうです。
出典:文化庁「国語に関する世論調査」(2018年)、第8回「映画館での映画鑑賞」に関する調査 (2019年)
まあ、そうだよね。僕らの実感からすると少なく感じるけど。
その貴重な数回の映画で、『キングダム』とか観るのかぁ……
『キングダム』観たって別にいいでしょうが。カルチャー野郎のイヤな物言いだ。
データで見ると、ここにいる4人は異常に観てる/読んでる側と言えそうです。
上位数%には入ってるのかも。
ただ上を見上げると500本とか観てる人もいるから、あまり大きな顔はできないですが。
だから、数じゃないんだって!
記録はどうしてる?
続いてのテーマはこちらです!
さっき少し話しちゃいましたけど、原宿さんは記録していない、まきのさんはFilmarksに全て記録している、ということでしたね。恐山さんはどうでしょう?
小中学生のときは、図書館で本を借りたときのレシートをスクラップブックに貼って記録してました。その頃はすごく読んでて、1日1冊ぐらい何かしら読んでたんじゃないかな。
今はもう記録してないんだ?
いつからか止めちゃいましたね。何を見ても自分という存在は何も変わらないよなって気付いてしまって。
このしょうもない皿に何を盛り付けても同じだろうと。
なんらかの悟りを開いてしまった……?
たまに、日記にその日読んだものを書くぐらいで、網羅的な記録はまったくしてないです。読書記録アプリを試したこともありますけど、そういう公開本棚だと見栄が生じてしまうんですよね。
わかるかも。「俺、こんな本も読んじゃうぜ?」っていうね。
本棚って、心の中を覗かれるみたいで、人に見せたくないんですよね。
同じ理由で、他人の本棚を見るの好きです。
そう言う加味條さんは何か記録してるんですか?
一応やってまして、今日持ってきたんですよ。非常に恥ずかしいですが。
お! 気になる!
このノートなんですけど……
あっ! 表紙に「インプット」って書いてある!
うわーーーー最低!醜悪!きっつ~~~!
恥ずかしすぎる。云年前に書いてたやつなので、若気の至りということで……。
まずはこれが2016年くらいに書いてたやつです。この頃はただ感想を書いてました。
またびっしりと……。
手書きっていうのがすごいね!
ただ、こんなものが続くわけもなく……
あっ、ノートの真ん中ぐらいでもう白紙に!
映画『スプリット』の途中で力尽きたみたいです。
わかりやすく投げ出してるな。
数年あいて、2019年にもう一回書こうと決意したのがこっちです。「ストーリーを分解しよう」という試みで、良かったシーンを書いて、具体⇒抽象に直して応用できるかみたいなことを考えてました。
また複雑なことを……。
ただこれも死ぬほど続かなくて、10作品くらいで挫折しました。結局、今はこれです。
映画館で観たものにだけ★マークを付けている。
感想は諦めて、タイトルだけ記録してます。
そもそも、どういうモチベーションで記録してるんですか?
観た映画、読んだ本をすぐに忘れちゃうので、あとから思い出せるようにですかね。あとは年末に見返して、「ああ、こんなの観たな」と振り返ったり。
「いつか有名になったら、取材とかで『こういう読書ノートつけてました』って見せよう」と思って書いてませんでした? 今このノートを見て、逸話のために行動する自意識を感じました。
ひどい言いがかりです。
私は疑ってますからね。
いやいや、それにしては続いてなさすぎるし、感想の内容も人に見せるのを想定してない浅さなので!
感想書いたりって、続く人は勝手にやるから続くんだよね。まったく無理してない。
まきのさんのFilmarksとか、正にそうですね。
でも感想書こうとすると、映画を観てる最中に頭の中で「ここをこう書こう」って考えちゃいません?
いや、それは無いよ。
思わないんですか!? 私めっちゃ考えちゃいます。観ながら「評論家はこのシーンのこと言うだろうな」て考えたり、惹句を脳内で140字にまとめようとしたり。
そういう目で映画観てるんだ!? 逆に新鮮かも。
そういう目でしか見られないんです。
悲しいモンスターだ。
でも確かに、表で話したり書いたりすることを仕事にしてると、「これ話せるな」みたいな視点が鑑賞中にも入っちゃうよね。
「こういう言い回しで褒めたらバズるだろうな」とか。
一億総評論家時代を象徴する話だ。我々は、純粋に作品を鑑賞できない”終わった時代”に入ったということ……。
急に大きい話にしないでください。
作品はどうやって探してる?
次のテーマです! 皆さんは次に読む本、次に観る映画を、どうやって見つけてますか?
これは1つルールがありますね。『自分のタイムラインに同じ作品が二回出てきたら、観るべき』。
『二回理論』ですね。たとえば原宿さんがある作品を褒めてて、同じ作品を別のコミュニティの個人的に信頼してる人が褒めてたら、「あ、なんかあるな」ってなるんですよ。
二つの線の交点に自分がいるとすると、これは観た方がいいんじゃないか?って思うんですよね。
それが3回、4回になってくると、もう「観なきゃ!」って思う。
自分から情報を獲りに行くことはないですか?
好きな監督だから観に行く、とかはもちろんありますけど、もっと経験則で感覚的に探してるかもしれない。
僕は結構、個人ブログとか見てますね。たとえば日本未公開の映画をレビューしてるブログをチェックして、いざ日本公開されたときに観に行ったり。
個人ブログ、最近は減っちゃって探すのが難しいんですよね。
だから今だと映画系インフルエンサーなんかで、自分の感性に近い人を見つけられると作品探しの参考になるね。
まきのがよく見るブログ「Tinker, Tailor, Soldier, Zombie Ⅱ」
私もだいたい同じですが、付け加えるなら本屋は「出会い」があっていいなと思いますね。欲しい本の隣に並んでる本が、強制的に視覚に飛び込んでくるので。
電子書籍ストアだと、似たような本ばっかりオススメされるからね。
動画配信サイトも同じような作品ばっかり勧めてくる。
我々はアルゴリズムに支配されている……。
僕もネットの評判を見て作品を観ることも多いんですが、少し難しいのがネットの評価が偏ってる作品なんですよね。
あまりに大絶賛されてたり、逆に酷評の嵐だったりとか?
そうです、そうなると作品を純粋に楽しむってよりも、「ネットの評判が本当か確かめに行く」みたいなマインドになっちゃうんですよ。最近だと映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』とかがそうでした。
前評判なしで観るって、なかなか難しい時代だよね。何かしら先入観が入ってきちゃう。
何も知らずに『大怪獣のあとしまつ』を観てたらどう感じてたのか、気になるけど、もう無理ですよね。
純粋に自分がどう感じたかを知るには、情報をシャットアウトして公開初日に行くしかないのかも。
いや……
私はもう自分がどう感じたかなんて、わからないですよ。
わからない!?
「みんながどう思うか」しかわからない。
すごい割り切り方だ……。
それぐらいの気持ちでいいのかもしれない。実際。