吹替版ダジャレを作ってみよう

あらためて説明しますと、

 

出題者: 

①「シーンの流れ」「原音のセリフ」「直訳した意味」を紹介します。

回答者:

② それをもとに、その場にあった「吹替版ダジャレ」を考えてもらいます。

評価者: 

③ 2人が考えたダジャレが実際に使えそうかを評価してもらいます。

 という流れになります。

 

紹介する作品は既に世に出ているものなので、当然実際に使われた吹替版のセリフが存在します。が、それを当てるわけではなく、お2人が思うベストな吹替版ダジャレを作ってもらえればと。

ダジャレにベストもクソもあるか。

では始めます!

 

第1問 チャーリーとチョコレート工場

まずはこちら、映画『チャーリーとチョコレート工場』の一場面です。

【シーン】
チョコレート工場の主・ウォンカ(画像の男)は、少年・マイクから「特別な賞品とは何か?」と聞かれ、答えたくないためダジャレを言ってはぐらかす。

【セリフ】
(原語) Mike: What’s the special prize, and who gets it?
(直訳) マイク:特別な賞品って何?誰が貰うの?

(原語) Wonka: The best kind of prize is a surprise!
(直訳) ウォンカ:一番いい賞品サプライズさ。

【解説・考えるポイント】
原音では、「prize(プライズ)=賞品」と「surprise(サプライズ)」が韻を踏んでいるが、直訳では成立しない。「賞品」やその類義語を使ったダジャレが必要である。質問をはぐらかすためのセリフなので、文脈は無視してOK。

いやいやいや! これ考えるんですか? めちゃくちゃ難しいですよ。

TOEICの奇問か?

これは確かに、難しいかもしれないですね……。

問題出してる僕も素人なので、難易度調節はよくわかってないです。

 

 

この映画って歌のシーン多いですよね。そういう場合って吹替版の制作がより大変だったりするんですか?

そうですね。その場合、音楽部分だけ専用のスタッフが担当することになります。

映画なんかで、あらかじめミュージカルシーンがあるとわかってればまだいいんですよ。難しいのが、普通のTVドラマなのに、突然1話だけミュージカル回が入ってくるときですね。

ありますね。

声優さんによっては「歌だけは絶対NGです」って方もいるんです。その場合、似た声の歌手の方を見つけてきて、歌だけお願いするなんてこともあります。

 

なんて話を聞いたところで……

 

お二人いかがでしょうか?

時間稼ぎも十分にさせてくれないのか。

もう勢いでいくしかない! この問題は僕が答えます!

おおっ!

ここまでプロの話を聞いた上で発表するのマジで恥ずかしいんですが……

そういう予防線はいいから。早く早く。

厳しいなコイツ。

 

 

マイク:特別な賞品って何?誰が貰うの?

ウォンカ:賞品は天ぷらだね。アゲて嬉しいものなのさ。

おおー!!

なるほど!! 面白い!

いいですね! 本当に使うネタとして、全然ありだと思います。シーンとしては十分完成できますね。

通じてよかったー! 今までの人生でこんなに脳みそ使ってダジャレ考えたことなかったな。

ちなみにこの場面、プロのお2人ならどうしますか?

「賞品」という言葉を拾うんだったら、賞品をもらう子はそんな質問をしない”上品”な子だよ」とかですかね……。

なるほど……!

でも面白さで言えば「天ぷら」の方が好きです。

嬉しいけど、これめちゃくちゃ照れますね。

 

 

■ちなみに、実際の吹替版で使われた「吹替版ダジャレ」はこちら!

あー! こういう訳し方もあるのか!

韻を踏むことを優先したんですね。

さっきの話で出た、声優さんの力で押してる感じもしますね。

でも僕は「天ぷら」の方が好きです。

うれしっ!

 

 

第2問 ピクセル

つづいてはこちら、SFコメディ映画「ピクセル」から出題です。

【シーン】
ラドロー(画像左)
というオタク青年に「妄想の彼女との生活」を描いたイタイ自作同人誌を見せられ、主人公のサム(画像右)が悪態をつく。

【セリフ】
(原語) Sam: You should sell that at Barnes & Unstable.
(直訳) サム:そんな本バーンズ&不安定で売れよ。

【解説・考えるポイント】
米大手書店「バーンズ&ノーブルズ」のノーブルズと「アンステーブル(不安定)」をかけたダジャレ。日本人になじみのある書店名に置き換えつつ、ダジャレにしなくてはならない。セリフの意味は、悪態にさえなっていればOK。

こういう場合って、実在の店名とか大手企業の名前出しちゃっていいんですか?

基本的には出さないですね。許可を取る手間が発生するので、名前を出すメリットと天秤にかけます。

ブランド名や商品名も同様でしょうか?

ブランド名も避ける傾向はありますね。テレビでオンエアされるものだと、スポンサーがらみもあるのでライバル企業の名前を出すわけにはいかないんです。逆に、スポンサーの商品名をあえて使うパターンもあります。

大人の事情だ。

あ、私思いつきました。いいですか?

速い!

 

サム:そんな本、ゴミックマーケットでしか売れねえよ。

すごい!

素晴らしいです!そして出るまでが速かった!

オタク的なモチーフともかかっているのがいいですね!

日本人的に、同人誌なら「コミケで売れよ」の方が感覚的に合うかなと思いました。

成り立ちがわかりやすくて、おもしろいです。

じゃあ、一応僕もいきます。

 

サム:こんな本、キノドクニ屋で売れよ。

なるほどー!

紀伊国屋書店とかけたパターンですね!これもいいです!

「気の毒」とかけたらいけるかな〜と思って。たださっきの話だと、紀伊国屋さんに許可を取るのが大変になりますよね。

そのハードルは確かに生まれちゃいますね。でもお2人とも素晴らしいです。

 

 

■ちなみに、実際の吹替版で使われた「吹替版ダジャレ」はこちら!

 

思わず笑ってしまう一同。

そんなんアリかよ。

まあ強引というか……。

正直これはちょっと力技かもしれないです(笑)

ちなみにこのシーン、僕的には字幕版の方がしっくりきてるので、そちらも紹介します。

 

三省堂とかけてるのか。確かにこっちの方がしっくりきますね。

 

 

最終問題 ヒューマンズ

最後は海外ドラマから出題です。「ヒューマンズ」シーズン3エピソード1のこの場面!

【シーン】
小売店店主のジョー(画像)は、客に野菜のおいしい食べ方を教える。その場面を見た息子のトビーに「野菜に詳しいね」と野菜のダジャレでからかわれ、別の野菜ダジャレを言い返す。

【セリフ】
(原語) Toby: Wow, Dad. You really know your onions.
(直訳) トビー:父さん、本当に商品のことをわかってるんだね。

(原語) Joe: I’m the king of the green-grocer puns around here. Always have been. “Bean”. See? “Bean”?
(直訳) ジョー:俺は野菜ダジャレ王だぞ。いつもな。豆だけに。

【解説・考えるポイント】
トビーのセリフ「know one’s onion」は「~に詳しい」という意味になり、「野菜に詳しい」というために「onion=玉ねぎ」を使った表現で褒めるというジョークになっている。そこへ、ジョーが対抗しようと「Been(ビーン)」と「Bean(ビーン=豆)」をかけた苦しいダジャレを返している。原語では「たまねぎ」「豆」が使われているが、何の野菜でも成り立つ場面。

これ難しい。

プロから見ても難しいですか?

難しいですね。

 ダジャレのクオリティが1つはちゃんとしたもの、2つ目は苦し紛れのもの、と使い分けないといけないので難易度高いと思います。

プロでも難しい悪問を作ってしまった。

私、全然思いつかないです。

方法としてはとにかく野菜の名前を思い浮かべてダジャレを作っていくしかないですね……。

ちょっと問題が悪かったかもしれないので、先に実際の吹替版で使われたセリフを発表しちゃいましょうか…?

あ、そしたら一個出していいですか?

おおっ!

実際のセリフを見ちゃったら、二度と言い出せなくなりそうなので。

お願いします!

 

トビー:父さんのおかげで、ベジタブル無事食べることが出来そうだね。

ジョー:ちゃんと野菜を食べやさい、つってな!

 

いいなー!

2つのクオリティ差がちゃんと出てていいですね!

2つ目のしょぼさを意識してみました。

これはそのまま使えるレベルだと思います。

僕はお手上げかも。トビーのセリフだけ思いついたので、それだけ発表してもいいですか?

 

トビー:そんなに野菜に詳しいなら借金取りもできるんじゃない? ”とりたて”がうまいからね。

すごい。落語だ。

これもいいですねえ! 正直、僕は全然思いついてないです。宇出さんどうですか?

私も出ないですね……。お2人ともすごいです!

 

■ちなみに、実際の吹替版で使われた「吹替版ダジャレ」はこちら!

あー!このカタカナでダジャレを表現するやつ、たまに字幕で見る!

これだとジョーのダジャレも割と完成度高くないですか?

たしかに。あとアメリカ人って水菜食べるんですかね?

いずれにせよ、プロは短くてきれいだな

ちゃんとオニオンも拾ってますもんね。

 

まとめ

問題は以上になります!

恐ろしい時間だった。プロはいつもこんな思いをしているのか……。

いやあ、お2人ともすごいです!この短時間で考えたとは思えないクオリティでした。最初にも言いましたが、仕事としてやるときは翻訳者さんにも1週間とか、ある程度の時間をかけて作ってもらうものなので、今の時間でこれだけのものを出されるのはすごいと思います。

本当に、2人とも凄かったです。

ダジャレでここまで褒められるって人生で二度とないな。

いや、でも思ったより答えが出なかったですね。自分ではもっとできるかと思ってましたが、原語のニュアンスを残して、とか考えることが多くて大変でした。これを日常的にやってるプロの方はすごいです。

 

では最後に、佐倉さん、宇出さんから読者の方に伝えたいことはありますか?

吹替版はセリフを日本語に置き換えてはいますが、向こうの文化を勉強するためにも役立つはずです。「Me too運動」だったり人種問題だったり、アメリカの作品は時代をダイレクトに反映するものが多いんですね。それだけリアルタイムで観ないと受け取れないメッセージも多いので、そのときそのときの最新作をぜひリアルタイムで追いかけてほしいなと思います。

映画もドラマも字幕版、吹替版選択できる作品が増えています。もちろん字幕は字幕の良さがありますし、吹替版は理解しやすくて「ながら見」もできる良さがあります。ただ、どちらも違う作品ではなく、あくまで同じ作品の別バージョンです。それぞれの違いを比べて観られる良い時代になっているので、そんな違いも楽しみながら映画やドラマを楽しんでいただけたらと思います!

ありがとうございました!

 

* * *

 

というわけで見てきました「吹替版ダジャレ」

皆さんもきっとどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。

もし「これはいいぞ!」という吹替版ダジャレを見つけたら、ぜひ僕までお知らせください。

それではみなさん、

 

(加味條)