2005年に更新を開始し、今や月間2000万PVを誇る人気Webメディア「オモコロ」。近年では大規模なリアルイベントを多数開催したり、公式YouTubeチャンネルの登録者数が30万人を突破したりと、Web記事のみにとどまらない活動を展開する今もっとも勢いのあるメディアです。
そんなオモコロは2023年1月現在、在籍するライターの数が100人を超える大所帯でもあります。今回はその中から、密かに人気を集めている新人ライターにインタビューを決行! 貴重な初出し情報や、普段は聞けない真面目な話などをたっぷり掘り下げていきたいと思います。
さて、気になるその人物とは……?
???「どうも、よろしくお願いします」
彩雲さんだ〜〜〜!!
●彩雲(さいうん)
オモコロ杯2021にて、金賞(原宿賞)を受賞しオモコロに加入。「オモコロ極右」とも評されるナンセンスで空想的な作風が特徴。代表作に「イルカの赤ちゃんにジャンプスケアを見せたい」「星に願いを」「一人で座談会をやるわけにはいかないのか?」など。
昨年12月に開催されたイベント「オモコロカジノ」にも出演し大きな反響を呼ぶなど、新進気鋭の若手ライターである彩雲さん。2023年の最注目株である彼に、早速お話を伺っていきましょう!
オモコロライターになるしかなかった
───本日はよろしくお願いします。早速ですが、彩雲さんがオモコロを知ったきっかけは何だったのでしょうか。
2016年くらいに、当時オモコロで描いてた漫画家さんの作品をTwitterでたまたま見たのが最初ですね。そこからオモコロにたどり着いて、一気にハマりました。
───漫画がきっかけだったんですね。ということは、もともとWeb漫画とかをけっこう読んでいた?
いや、それがそんなこともなくて。そもそも僕、オモコロを知るまでインターネット的な文化に触れたことがほとんどなかったんですよ。匿名掲示板とかニコニコ動画とかも特に見てなかったし、もちろんテキストサイトも通ってなくて。ネット特有のおもしろ文化みたいなものは全然知らなかったです。
───じゃあそのまっさらな状態で、いきなりオモコロのユーモアに触れることになったんですね。
まあそういうことです(笑)。でもその分すごくのめり込みましたね、こんな世界があるんだ! って。多分、その当時でサイトに残ってた特集記事は全部さかのぼって読んだんじゃないかな。
───それはすごいハマり具合ですね。
で、そこからは毎日特集を読んでラジオを聞いて、オモコロライターのTwitterとか個人ブログも一通りチェックして……あとはイベントにも行ったりしてましたね。普通のオモコロファンでした(笑)。
───では、そんなオモコロファンだった彩雲さんが、オモコロライターを志すようになった理由は何だったんでしょうか。
それはやっぱり、いち読者としてオモコロを見ていて「すごく楽しそうな場所だな」と思ったからです。記事を書くことには最初そんなに興味はなかったんですけど、自分もこの一員に加わりたい、と思って。というか僕、オモコロライター以外になりたいものがなかったんですよ。
───そんなことあります?
僕がオモコロにハマりだしたのが高校3年生のときで。自分の進路について真面目に考えなきゃいけない時期だったんですけど、何度考えても本当になりたいと思えるものがオモコロライターしかなくて……。
───オモコロライターって、そんな一生を賭してなるようなものじゃないでしょ。
もちろん僕も、オモコロライターになればそれで食っていけるとは思ってなかったですよ(笑)。でも、今後自分がどんな職業に就いてどんな人生を歩むにしても、まずはとにかくオモコロライターにならないことには始まらない、話はそれからだ、と。
───すごい人生設計ですね。先ほど、「記事を書くことには興味がなかった」と仰ってましたけど、ライターとして活動していく自信はあったんですか?
自信というほどではないけど、学校で国語の成績は良かったのでなんとかなるだろうと思ってましたね(笑)。まあ、全然向いてないってことはないだろうと。
───なるほど。じゃあそこからオモコロに入るために記事を書いてオモコロ杯に応募したと。
はい。でもやっぱりそううまくはいかなくて。オモコロ杯でも一回落ちてるんですよ、僕。
───あ、2021年のオモコロ杯が最初の応募じゃないんですね。
最初に応募したのは2018年にあった第5回オモコロ杯です。まあそのときは全然、箸にも棒にもかからなかったんですけど。
───ちなみにそのときはどんな記事を?
まあなんというか……方向性としては今やってることとそんなに変わらないですね(笑)。まあ今思えばこれが受賞するわけないだろって感じの記事ではあるんですけど、当時はすごくショックでしたよ。半年くらいオモコロにアクセスできなかったですし。
───そういうものですよね。で、そこから実際にオモコロに加入するまで数年のブランクがあるわけですが。
落ちたのがトラウマになったわけじゃないですけど、2年くらいは何もアイデアが思いつかなくて……でも2020年頃に一念発起して、もう一度本気でオモコロライターを目指してみようと。それでオモコロの有料コミュニティのプロフェッショナルコース(ほかほかおにぎりクラブ・いくらコース。現在はサービス終了)に入って、記事の添削をお願いしたりしてましたね。無職なのに毎月3000円をオモコロに払って(笑)。
───その努力の結果、2021年のオモコロ杯で金賞を受賞と。結果発表を見たときの気持ちはどうでしたか?
もちろん嬉しかったですけど、それ以上にほっとする気持ちが強かったです。これで駄目だったらいよいよどう生きていけばいいかわからないぞと、それくらいの思いで臨んではいたので。その覚悟というか、執念が通じたのかもしれませんね。
「自分のつまらなさ」と向き合った記事
───さて、彩雲さんがオモコロに加入してそろそろ2年近く経つわけですが、率直に言って今はどんな感じですか?
率直に言うなら……記事がウケてないなって感じですよ(苦笑)。
───はははは、けっこうそういうの気にしてたんですね。
そりゃ気にしますよ! 特に僕と同時期に入ったライターは人気のある人が多いので……。
───いやいや、彩雲さんもけっこう評価されてると思いますよ。記事もコンスタントに書いてますし。
確かにオモコロライターの中では、僕は締切をちゃんと守ってる方だと思う(笑)。まあ、そこは評価されていいかもしれないですね……。
───今までに彩雲さんがオモコロで発表した記事の中で、特に気に入っているものはどれでしょうか。
そうですね……今ぱっと思いついたのは「星に願いを」ですかね。
●星に願いを
2022年5月公開。Webライターを主人公とした創作記事。自身の書いたおもしろ記事を、意気揚々と編集長に見せに行ったライターを待ち受ける運命とは……?
───なるほど。自分も公開当時に読んで、「これはすごい記事だぞ!」と思った記憶があります。
ありがとうございます。あの記事は現時点では一番、自分の個性というか持ち味を出せた気がしますね。僕の記事の中では数字も伸びた方だし。
───最初に読んだとき、一切先の読めない展開で驚きました。どういうところから発想していったんですか?
あの記事のそもそものコンセプトは、「自分のつまらなさと向き合う」っていうことなんです。僕自身、オモコロに入りたての頃は自分が面白くてセンスが良い人間のような気がしてたんですけど、実際に活動していくうちに全然そんなことはないってわかってきて……だから、あの記事に出てくるクソ記事を書いてるライターは、紛れもなく僕自身なんです。
で、どうにかそんな自分を救済できないか、「つまらなさ」を描くことが意味のあることにならないかと考えていって。その結果、ああいう展開になったんですよね。なんでああなったのかは自分でもよくわからないし、改めて思うと別に何も救われてないような気もしますけど(笑)。
───いや、でも確かにあのラストシーンからは晴れやかさが感じられました。
そう言ってもらえるなら嬉しいです。あの主人公は記事の中で、ライターとして何一つ成長はしてないんですよ。彼は面白くないままなんだけど、でもそれを俯瞰して切り取ったときに、何か美しくて尊いものがそこに宿ってればいいなっていう……そういう祈りを込めた記事ですね、あれは。
───その話を聞くと、また記事の見え方が違ってくるかもしれません。他に好きな記事はありますか?
他だと、「きっとあなたは隠しキャラ」もけっこう気に入ってます。
●きっとあなたは隠しキャラ
2021年5月公開。街中で突然声をかけてきた不審な男との、一日限りの奇妙な交流を描く。
───これは彩雲さんがオモコロに入って2本目の特集記事ですよね。
今思うと、よくこれを2本目で出したなという内容ですけど(笑)。でもこの記事は、編集部に初稿を見せたときの反応がけっこう良かったんですよ。それに自分でも良い記事が書けたなっていう実感があって、その評価の一致が自信につながりました。
───先ほど「記事に祈りを込めた」と話されていましたけど、この記事も彩雲さんの「祈り」が感じられるような内容になっている気がします。
やっぱり気付きましたか(笑)。確かにこの記事の登場人物が言っている、世界のバグがどうこうという理論は僕が本当に考えてることなんですよ。だから最初は、こんなこと書いたら本当にやばいやつだと思われるんじゃないかって不安もあったんですけど(笑)、Twitterの反応を見てると意外に好意的な感想が多くて。だから、「本当に思っていること」っていうのは何かしら人の心を打つ力があるんだなってことがわかりました。
───それは確かにそうだと思います。
やっぱり、自分が本当に思ってることを書けた記事が良い記事だと思いますね。僕、あんまり自分の記事は読み返さないんですけど、この記事はたまに読み返しては「ああ、良い記事だな」って思ってますもん(笑)。
───はははは。あと、個人的には彩雲さんの記事だと「風船を100個ふくらませてみた」がかなり印象に残ってるんですけど。
●風船を100個ふくらませてみた
2022年2月公開。タイトルの通り、彩雲が風船を100個ふくらませ続けるだけの記事。
あの記事の話は……しなくていいでしょ(苦笑)。
───いやいや、制作秘話とかがあったらぜひ聞きたいです。
制作秘話も何もないですよ(笑)。まあでもこの記事も、さっき言った「自分のつまらなさと向き合う」ということの一環ですよね。オモコロ杯を獲っていい気になってるけど、お前にできることなんてこれくらいだぞっていう。一回そこに立ち返って、自分をリセットしたいっていう気持ちはあったかもしれません。
───でも確かにこの記事以降の彩雲さんは、どこか吹っ切れたような印象を受けます。
まああんなことをした後だったら、もう恐れるものはないですからね(笑)。そういう意味では良い転機になった記事です。あとこの記事に関して言っておきたいのは、こんな内容だけどちゃんと考えて書いてるってことですね。構想期間も含めたら、完成まで2〜3週間はかかってますから。
───ウソでしょ(笑)! それを聞いて、よりあの記事のことがわからなくなりました。
締切の直前に慌てて書いた記事だと思われるかもしれないけど、一応真面目に構成を練ってるんですよ。それは覚えておいてほしいですね(笑)。
救済のために記事を書く
───これまで彩雲さんの過去、そして現在のことを語っていただきましたが、最後は「未来」について聞いていきたいと思います。今後、ライターとして活動していく上での目標や展望はあるのでしょうか。
やっぱり一回くらいはウケてみたいと思いますね。大バズとまではいかないまでも、オモコロのトップにある「最近の人気記事」のコーナーに表示されるくらいには……。
※オモコロの「最近の人気記事」のコーナー
僕は基本的にそこまで数字は気にしてないし、「好きなように記事が書ければいい」と自分に言い聞かせてはいるんですけど、やっぱりどこかで一度も記事がウケてないことを引け目に感じてるんです。だから一回ちゃんとそこに向き合わないと、なんかずっと負け惜しみしてるような状態になっちゃう気がして。
───彩雲さんがバズってるところは、確かに見てみたいです。
バズねえ……一体どうやったらバズるんでしょうね(笑)。でも正直、いきなり言い訳するようであれですけど、実際にバズるかどうかはそこまで重要じゃない気もするんです。
───というと?
結果がどうというより、今まで避けてきたことに挑戦することに意味があるんじゃないでしょうか。もしそれで全然ウケなくても、「これは向いてなかったんだ」ってわかるだけでも収穫だと思うし。自分に何ができて何ができないのかわからないままなのが一番嫌ですからね。だからそれを知るためにも、一度真っ向から「ウケる記事」に挑んでみようと思います。
───なるほど。では、それが今後の目標?
まあそうですね……いやでも、一番の目標は長くオモコロで記事を書き続けることかな。やっぱり僕にとってオモコロっていうのは特別な場所なので、そこからなんとなくフェードアウトしていくようなことにはなりたくないですね。
───まあ、定期的に記事を書き続けるだけでも大変なことですからね。
本当にそう思います。でも、記事を書かなかったら忘れ去られていく一方だし。あと、それこそ「星に願いを」の話じゃないですけど、おもしろ記事を書くっていうこと自体が、人生における一種の喜劇とか救いになりうると僕は思ってるので。そういう意味でも記事は書き続けていきたいですね。
───「救済のために記事を書く」、ということですか。
そう言うとかっこいいですけど、今言ったことをまとめると、記事を書き続けてそのうちウケればいいなっていう、めちゃくちゃ平凡な目標ですからね(笑)。まあでもそのくらいの方が身の丈に合ってますけど。専業のライターになってそれで食っていきたいみたいな野心も今のところ無いので。
───あくまでオモコロライターとしての活動に専念するって感じですかね。
そうですね。あとは他の人の記事とかイベントに呼んでもらったりもしたいですけど、そういうのもまずは自分の記事を書いて、そこで認められてからの話だとは思うので。だから今はとにかく、頑張って記事を書いていきたいです!
───今後も彩雲さんの活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました!
「子供が使うフォークだ……」
「子供が使うような……」