再会
待ち合わせの場所であるショッピングモールの「ゆめタウン」に辿り着いたころ、
お母さんからのメールが届いた。
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●お母さん→柿次郎へのメール
車で、すぐ近くまで来ています。柿次郎は、どのあたりにいますか?
●柿次郎→お母さんへのメール
今、ゆめタウンのレストラン街に来ました。入り口近くのタリーズコーヒーに入っておきます。
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そういえばめちゃめちゃお腹が空いていたことを思い出し、
カフェでサンドイッチとドリンクのセットを頼んだ。
正直、実感がなかったのか緊張することもなく
お母さんがお店に来るのを待っていた。
どんな人なのか?
会ったときにうまく話せるのか?
一生で一度の経験だし、ものすごい瞬間に立ち会ってるんじゃないのか?
どこか客観的に捉えている自分がいる。
12時を少し過ぎたあたりに、
「トントン!」と窓ガラスを叩く音が聞こえた。
僕に向かって「あー!」と指をさして、
ほほ笑みながら店内に入ってくる女性がいた。
あ、お母さんだ!
その場で立ち上がり、お店に入ってくるのを待つ。
心臓がバクバクと高鳴り、一気に緊張感が走る。
うわああああ、なんだこの感じ……。
「あー、柿次郎? おおきなったねぇ~」
満面の笑みで再会を喜ぶお母さん。
僕は、「う、うん」と小さく応えることしかできなかった。
なぜかというとお母さんの隣に2人の女性がいたからだ。
その女性2人も「柿次郎、おおきなったねぇ~」と、声を合わせていた。
え、誰なの? こういうのって一人で来るもんじゃないの??
どうやらお母さんの姉にあたる伯母さんと、
その伯母さんの娘。つまり僕の従姉妹にあたる女性のようだ。
理解に少し時間がかかる中、お母さんと伯母さんと従姉妹が
僕に向かって矢継ぎ早にいろいろと話しかけてくる。
熊本の女性はこういう性格なのかもしれない。
「あんな小さかったのに、こんなにおおきくなって!」
「柿次郎が幼稚園のころ、一緒に遊んでたんよ?」
「え、何も覚えとらんの!? こっちはよう覚えとるよ!」
「あら、ホントに目元はお母さんソックリやね!」
「こんな良い男に育って、やっぱり東京は違うんかね?」
「あんた想像していたお母さんとどう? キレイかい?」
底抜けに明るいこの女性3人は、
誰が見ても「同じ家族なんだな」と思えるほどそっくりだった。
遺伝子ってすごい。
お母さんは僕の顔をマジマジと眺めながら、
「良かったねぇ、良かったねぇ」と繰り返し呟いていた。
そして、その目にはうっすらと涙が溜まっていて、
時折、鼻をすするような仕草を見せた。
きっと、お母さんもひとりで会うのが怖かったのだろう。
僕にとっては予想外だったけれど、
勢いよく会話が飛び交うこの明るい雰囲気は、
しんみりとした再会にならずに済んで良かったのかも。
そこから約1時間。
僕の近況やこれまでに起きた出来事など、
口がカラカラになるまで言葉を交わした。
もうこれだけでも、
熊本まで会いにきた甲斐があったと思う。
20年間どこかで感じ続けていた寂しさが、
たった60分の間にゆっくりとゆっくりと溶けていく。
勇気を出して会いに来て、本当に良かった。
