皆!ご飯食べるの好き?
俺は見ての通り大好き!美味しいものは無限に食べられちゃう!
嘘だ。無限には程遠い。
一般的には大食漢の部類に入るだろう。いわゆるデカ盛り系としてポピュラーな「ラーメン二郎」の大も(ホームの店では)完食する事は出来る。いや、出来た。
ずっと遠いものだと思っていた齢30。そこに到達した俺に見え始めた陰り。
ずっと右肩上がり、あるいは横ばいだった折れ線グラフが、ポキリと頭を垂れたような実感。
感じ始めている。胃腸の衰え。
俺の身体のピークがいつだったかは分からない。だが、これから先に待ってる事は有り得ない事だけは確か。
……だとしたら、明日の俺よりも今の俺の方が強いとも言える。常に今日がベストの身体。常に今日が最安値のデュアルランドと一緒だ。
だったら今測ってみるべきだろう。俺の全力。
そして食いしん坊の全力の測定方法と言えばアレしかあるまい。
わんこそばだ。
わんこそばを食べに行こう。
わんこそばと言えば岩手の名物だが、関東圏でもわんこそばを提供するお店はある。新宿なんかには回転寿司の要領でセルフわんこそばが出来る店舗もあるらしい。
一時間程電車に揺られ、目的地である横浜が近づいていくにつれてわんこそばへの思いも膨らんでいく。
そして最寄り駅のホームに降り立った時、ついにその思いが口から溢れた。
「行きたくねぇな……」
そばを食べたくない訳ではない。むしろ好物だ。
だが、わんこそばに行き、記事にする。当然、何杯食べたかという「記録」が残る。
期待が、プレッシャーとして押し掛かる。「頑張れ」なんて背中を押すものじゃない、「出来て当然」という負の期待。
冒頭から登場している俺の姿を見て、こいつなら何杯行けそうだと思うだろうか。
「まぁ100杯は行くだろう」と、100杯は通過点と思わなかっただろうか。
だが、一度立ち止まって考えてほしい。わんこそば1杯は10~15gとされる。100杯なら少なく見積もっても1kgだ。
この記事が掲載されている「オモコロ」の編集部には「マンスーン」という男がいる。彼は大食漢で有名で、牛丼4杯くらいなら悠々と平らげる事が出来る。一目見た印象からそこまでいけるとは思わないだろう。
一方で、俺が「牛丼4杯いけますよ」と豪語したらどうだろうか。
「ふーん」で終わりだ。
こういう体型をしてるんだから、「ある程度は喰えて当然」と、評価基準は平均値に下駄を履かせた状態からのスタートとなる。
その自然と高くなった基準が、高いハードルとして俺に立ち塞がる。
「やれるでしょ?」は期待とも取れる。「俺、やれます!」と胸を張れるなら、それを背に受け推進力に変えられる。
でも、俺は出来ない。他ならぬ、俺自身が「やれるのか?」と疑っているから。期待を受け止める帆を張れない。
俺は本当に100杯も喰えるのだろうか。
やれなかったらどうなるのだろうか。
思えばオモコロの記事もそうだ。
「記事を楽しみにしています」というネット上のコメント。嬉しい。そんな期待を寄せてくれる事は確かに励みになる。
だが、同時に「俺は面白い記事を書けるのか」というプレッシャーにもなる。俺が俺を信じていないから、期待として受け止めるべき風で自分をひしゃげさせる。
「喰うぞー!」
「しゃー!よろしくお願いしまーす!」
「みくのしんさんの声上のホームまで響いてましたよ」
「しゃっ!やるぞ!」
そんな後ろ向きな俺の思いも知らず、わんこそばに同行するオモコロ編集部の面々が集合した。
元々は「一人だと撮影大変だし誰か来てくれると嬉しいな」と声をかけたのだが、いつの間にかオモコロの中枢から4名+カメラマンの編集長が駆けつける大所帯となっていた。
この日は会社の定例会議があったにも関わらず、その日程をずらしてまで。
皆、わんこそばというものを体験して見たかったらしい。
編集部と筆者の連絡チャットから抜粋して切り貼りしたもの
そして、ついでに俺をぶちのめすつもりらしい。
登場人物紹介
ストーム叉焼……俺(筆者)。さっきからナイーブになっている男。
永田……俺に勝ちに来た。
恐山……俺に勝ちに来た。
マンスーン……俺に勝ちに来た。
みくのしん……俺に勝ちに来た。
原宿編集長……俺に勝つつもりだったが、泣く泣くカメラマンに回って貰った。
今回は神奈川県の「わんこそば たち花」様を予約した。
創業50年近い、通常のメニューや宴会プランも美味しそうなそば屋だ。
それではお店に向かいますか。1分もかからないですよ。
近っ!
腹ごなしが出来ない
駅に近過ぎるのもなんかな。徒歩10分はあるべき
そんな理不尽なクレームあります?
だが、確かにその短すぎる道程は、俺の覚悟を決めさせる時間をも与えなかった。
見よ俺の表情を。これから飯を喰うとは思えない死んだ目を。
期待に答えなくては。せめて100は喰えなくては。そんな重圧が背中に伸し掛かる。
……撮影時点で読者は企画の存在を知り得ない。俺は今この瞬間には存在しない、未来からの期待を勝手に感じ取り、気が滅入っている。
飯くらいで何を言ってるんだ、と訝しむだろうか。誰もそんな事思ってないのにバカな事を、と笑うだろうか。
だが、俺がそう思う以上そうなってしまうのだ。
プレッシャーを生み出すのは他ならぬ自分自身だ。
既に用意されたお椀と薬味を前に座し、我々は否応無しに緊張感に包まれる。絶叫マシンに並ぶ列のような、あるいは部活動の大会当日の会場のような。
皆朝ごはんって食べてきました?
いや、食べてない。
私は紙パックのザバスを飲んだ位ですね。
ハムカツサンドを……
ガッツリ行ったな!
俺はくったくたに煮たうどん食べてきました。
そば食べるのに?!
同系統の食い物じゃん
勿論、昼にわんこそばを食べる予定を忘れてうどんを食べちゃったうっかりミスという訳ではない。
このような大食い系のチャレンジをする場合、お腹を空かせる為に絶食をしてしまうとかえって胃袋を縮めてしまうという。恐らく日常で似たような経験をして共感出来る人も多いだろう。
そこで、当日朝にはちゃんと胃が膨れるもの、それでいてすぐ消化出来て昼には胃の中を空けられるものとしてうどんを食べた。最早これは楽しむ為の食事ではなく、身体のパフォーマンスを限界まで引き出す為のストレッチに近い。
たかがメシに何を必死に、と嘲笑されるかもしれない。だが、こんな付け焼き刃に頼りたくなる程に、俺は重圧に押し潰されそうになっていたのだ。
それではおそばをご用意しますが、その前にお飲み物をお持ちします。おそばを食べてますと口の中がしょっぱくなって辛くなってきますので……
(確か、大食いYouTuberが本当にしんどくなるまでは水やお茶を飲まない方がいい、って言ってたな)
オレンジジュースやりんごジュースがあると助かる、という方が多いんですよ。どういたしましょうか?
え、ジュース?
そばにジュース。おおよそ老舗のそば屋で提示されるとは思えない食べ合わせ。
だが、わんこそばの店として多くの挑戦者を受け入れて来たこのお店のおすすめともあれば、その言葉に説得力があるのも確か。飲み物の候補にはウーロン茶もあったが、全員がオレンジやりんごジュースを選択した。
異質だがどこか食前酒のような風格すら見せるそれぞれのジュース。
結果から言えば、このジュースには大いに助けられる事となる。
そばに先立ち、天ぷらなどを載せたおかずのセットが配膳された。
薬味も合わせ、これだけで「そば御膳」が成り立つ位にはバリエーションが豊か。
おそばが来るまでに食べ始めても構いませんし、おそばに飽きてきたら食べる、というのでもいいです
取っといて残してもだし喰っちまおう
思い思いにおかずに手を伸ばす面々。
一方で俺はほぼ手をつけなかった。
ジュースしかり、これを出された時の言葉しかり、味への「飽き」がわんこそばでの最大の敵のようだ。
いわばこれは対策札満載の手札。辛くなってくるまでこいつらは温存しておくべきと判断したからだ。
お待たせしました。それでは始めますね。もう食べられなくなったらお椀に蓋をして下さい。それで終了となります
5名での予約という事で、給仕の方は二人付き、筆者、永田、マンスーン組の3人、みくのしん、恐山の2人と分かれて担当するようだった。
(3人を1人で、って間に合うのか……?)
給仕の方がお椀を満載のお盆を手にポジションに入る。
いよいよ戦いの火蓋が切られた。
差し出したお椀に放り込まれるそば。若干のそばつゆを纏っており、このまま口に流し込める。
(つゆは余るので溜まってきたら用意された器に捨てる)
普通のそばと比べ柔らかめに茹でらr
はいどんどん!
わ
驚いたのはその人肌程の温度。てっきり冷やs
はいよいしょー!
あ、ちょっ
テンポが早すぎる。そばを貰い、口に入れ、体感その3秒後にはもう器にそばが入っている。繰り返すが3人に対し1人からの提供であるにも関わらずだ。
一杯あたりは普段の一口より少ない量だが、日常では体験する事のない圧倒的スピードで口に運ぶ為、とてつもない勢いでそばを飲み込んでいく事になる。お盆上のそばがなくなり、それを取りに行く間はインターバルとなるが、そのせいぜい十数秒の隙間を「休み」と認識してしまう程のリズム。
死ぬまでウェーブが続くタイプのゲームみたいですね
これもう自分のペースとかないね!
多分、このそばは美味しい。だがそれを文字通り噛みしめる猶予はわんこそばにはなかった。
別にこちらが構えていないお椀にまでねじ込んでくる訳ではないので、ある程度自分のペースで食べる事も不可能ではない筈だが、参加者の全員が為すがままに任せ、黙々とそばをかきこんで行く。皆が「この無茶こそがわんこそばだ」と本能的に理解しているようだった。
そして5杯食べるたびにおはじきを1つ取る。おはじきの数で累計で食べた杯数をカウントしていくこの店独自のシステムだ。
50杯まではあっという間だった。わんこそば一杯あたりの量は店によって違うらしいが、概ねかけそば4~5杯分には相当する量。
ここまで全員難なく達成し、そして恐ろしい事にまだ10分も経っていない。
5、60杯位から急に来ますから、飽きないように間に色々食べて下さいね~
確かに若干腹に溜まってきた気配はあるが、まだまだ余裕はある。合間合間に天ぷらを一齧りしたり、漬物のシャキッとした食感と塩味で味覚に緩急をつけていく。
そうして80杯に差し掛かろうという頃、急にそいつは「来た」。
うわ、急に来る!
喉がこれ以上飲み込むのは辛い、と拒否し始めるような感覚。
なるほど、こいつは「飽き」だ。それも夏休みにそうめんを食べ過ぎて嫌気が差す、みたいな生半可なものではなく、本能的な何かが働いている強烈なブレーキだ。
「すみません、私ギブアップです」
恐山さんがそっと椀に蓋をする。フフ、これはおそばのおかわりは欲しくないのサインだよ。ここに来て初の脱落者が出た。
急に来ましたね……
ちなみに何杯まで行った?
ちょうど100です。
え!?
すご!
恐山・みくのしん組には2人に1人の給仕が担当についていた。単純計算で3人グループの1.5倍のペースで食べ進んでいたのだ。「脱落」というよりは「一抜け」と表現するべきだろう。
一足先に目標まで到達される様を見せつけられたが、不思議とプレッシャーはなかった。始める前の「俺は100杯行けるだろうか」という不安も感じなくなっていた。
何故なら。
数が分かんなくなっちゃっていたからだ。
忙しなくそばを口に運び、「飽き」に対処する為に数秒の隙を突いておかずに手を付けてる内に、数を数えるという単純な行為がおぼつかなくなっていた。
5杯でおはじき1つ、というルールを守る為には自分で1から5までのカウントアップをループし続けなくてはならず、それと並行しておはじきの数に×5をする計算は食事中の緩慢な脳みそには複雑過ぎた。
あれ?!これ2杯目?! さん?!
5までの数字が数えられなくなっている人もいた。俺も途中、何度も怪しくなっていたので笑えない。多分最終的な数に多少誤差は出ていると思う。
この局面で俺を助けてくれたのがりんごジュースだった。そばを引き立てるような味ではない。が、それが役立ってくれた。
ジュースで飲み込み辛くなってきたそばを押し流す。口の中がりんごの甘みで上書きされ、そして後を引きすぎない。それから数口、「飽き」の存在を忘れられる。
これが蕎麦の味を邪魔し過ぎないであろうウーロン茶ではこうはいかなかった筈だ。甘みで全てを上書きするジュースだからこその仕事。そういえば昔、大食いの際に砂糖水を飲んでいる選手がいたのを思い出した。
わんこそばにはジュース。新しい常識が俺に刻まれた瞬間だった。もしかしたらマックシェイクとかでもいいかもしれない。
ストチャーさん何杯ですか
え?
110ですね
うん……?まぁ、多分……?
いつの間にか100杯を超えていた。ぬるっと目標を達成していた。
数を数えるリソースすら残っていなかったので、並んだおはじきを見ても「いっぱい食べた」以上の得られなくなっていた。
っし……100で。先に行く目標を見失ってしまった。
僕も終わりにします。お腹はまだなんだけど飽きだなぁ……101かぁ!
永田さん、マンスーンさん共に100を超えた時点で蓋を閉じる。
ちなみにここまで15分ほど。人体は15分もあれば1kgのそばを飲み込めるのだ。
このお店では100杯を超えると記念品が贈呈される。他のお店でも同様に記念品を貰える事もあるようで、わんこそばにおける「100」は明確な区切りの数字だ。
これから先のキリがいい数字……200や150にどう足掻いても届かないのなら、ここで終わりにするのもちょうど良いだろう。
だが俺は進む。ここまで来たら、俺の限界を見てみたくなった。
110杯から先には明確な壁を感じるようになった。
蕎麦を咀嚼してしまう。噛まずに飲める程の硬さなのに、噛み締めて、口の中に溜め込んでしまう。
容量の限界を迎えた胃の方からせり上がってくる……のではなく、喉が飲み下すのを拒否している。多分、身体を維持する為、同じものを食べ続けるのはよろしくないという生物的なリミッターが「飽き」として機能している。
味の濃いおかずは使い果たした。薬味のねぎや鰹節ではどうしようもない段階まで来た。
――ならば、最後の切り札を切る時だ。
おかずの中で存在を主張していたオレンジ。
実は給仕の方が「辛くなったら食べて下さいね」と再三アドバイスをくれていた。
甘さと酸味がもたらすリセット効果はりんごジュースで実証済みだ。
行くか……!オレンジブースト!
オレンジにかぶりつく。酸味の迸る果肉は、それまでそばを押し留めていたのが嘘のようにあっさり飲み下される。
これなら行ける!
リセットされた口は容易くそばを飲み込んでいく。俺の箸はかつてのテンポを取り戻す。これがオレンジブーストの力だ。
そしてブーストは5杯で力尽きた。
既にだいぶしんどくなっている。1杯に30秒とか1分近くかければダラダラ続ける事は出来そうだが、多分それはわんこそばのルールに反する気がするし、仮に許されるとしてもそれは「ダサい」というプライドのようなものがあった。
手元のおはじきは23個。ここまで来たら、切りよく120杯で終わりにしよう。
これで限界かもしれないです。
最後の1杯。口に流し込み、飲み下し、
おはじきを取る。これで24個。120杯。
はいどーんどん
あっ
それは数秒の油断だった。
食べ切って、当然空になったお椀に、スッとそばを差し込まれた。
これテレビとかで見たヤツだ。
そうか、わんこそばは「終わったらお椀に蓋をする」んじゃなく、「お椀に蓋をしたら終わる」んだな。
些細なようで大きな違い。それがお椀につがれたそばとして俺に立ちはだかる。
ちなみにこれは俺が悪い。そばをスムーズに入れて貰うには入れやすい所にお椀を差し出す必要がある訳で、その動作を120回繰り返している内にすっかり身体に染み付いていた。おかわりを待つ、いわばホームポジション的な位置に無意識に手を伸ばしていたのだ。
蜃気楼のようにゴールが逃げた。42kmのつもりで走っていたら42.195kmになっていてぶっ倒れたマラソン選手の事を思い出した。
注がれたからには食べる。そしてどうせ食べるならおはじきが1つ増えると5杯いかないともったいない気がする。おはじきカウントシステムすら牙を剥く。
無理はしないで下さいね~
「じゃあ入れないでくれ」という言葉は飲み込んだ。そばは飲み込めなかったが。
ただ、目標のない中で闇雲に数を伸ばしているのと違って、「あと5杯」というゴールが目前にあると頑張る気力が湧いてくる。もうサライの三番が聞こえている。
あれ、海苔入れてたら何杯目かわかんなくなった
ん?これ今いくつですか?
5までの数字もろくに数えられない男達の戦いだ。
125杯目。口に入れる。飲み込む。おはじきを取る。
はいじゃんじゃん
やべ
ごめん、サライの三番もう一周してくれ。
でも、ここまで来てしまったからやり遂げる。5杯なんて誤差だよ誤差。
口の中にねじ込み、迅速に蓋を閉じ、あとから落ち着いておはじきを取る。
最終記録、130杯。
数百杯を難なくこなす大食いファイターには遠く及ばない。が、目標の100杯は越えたし、まぁ恥ずかしくない数字ではあるだろう。
最後の10杯は強引にねじ込んだが、苦しすぎて吐きそう、という不快感はなかった。「そばは」もう食べられないというだけで、胃の容積にまだ余裕はある気がする。
……一方で、孤独な戦いを続ける男もいた。
ちょっ!この『1』多くないですか!?これで3だけど4って事になりませんか?!
わんこそばでゴネる人初めて見た
未知の光景を目の当たりにすると同時に、参加者の間には「わかる」という共感が生まれていた。
そばを小分けにするのも人間なので、1杯のそばの量に体感0.75~1.5倍のブレが生じる事がある。数グラムの誤差だが、下ブレした1杯を引くと内心「ラッキー!」と思うし、後半に上ブレを引くと結構ダメージがでかい。普段の飲食店とは価値観が逆転する。
ちなみに冒頭にも使ったこの写真はやや下ブレした量。こういうのばっかり来てほしい。
……これで終わりにしようかな
でも蓋間に合わないと差し込まれますよ
……
ちょお!次の手に持たないで下さいよ!
こうして最後のランナーであるみくのしんさんが蓋を閉じ、俺達のわんこそばは幕を下ろした。
……135杯!
優勝!
凄い。卑しさで超えた
後出しで超えてくるのずるいわ
正直それはある。
結果的に、今回の参加者で一位は俺ではなかった。が、そこに悔しさはない。
俺が戦っていた重圧は、殆ど独り相撲由来の物だった。自らが背負ったプレッシャーに打ち勝つには、自分にさえ勝てれば十分だ。
100杯を超えた記念品を全員が受け取り、達成者達が名を残せるノートに名前と記録を書き記す。
我々はこのお店の歴史の一片となった。
お店入ってから30分位しか経ってない。
普段のランチの方が長居してる時もありますよ
皆もう限界、という所を超えるまでそばを食べた。今回食べた量をもりそばとして一度に出されたら、多分誰も完食出来ない量を食べている。が、苦しくて吐きそうな者は誰もいない。
全員が、笑顔を浮かべていた。
それはそばの胃袋への負担が少ない、という事でもあるだろうし、3桁の大台に乗れた、という清々しさもあるのだと思う。
店を後にする俺の顔は晴れやかだった。
目標の100杯を悠々と超えてみせた。俺はやれるヤツだ。
飯喰ったくらいで何を言ってるんだ、と訝しむだろうか。誰も期待なんてしてないのにバカな事を、と笑うだろうか。
だが、俺がそう思う以上それでいいのだ。
自己肯定感を生み出すのは他ならぬ自分自身だ。
じゃあ、帰りますか。
やっぱり駅近過ぎ。腹ごなしに一駅歩こう。
いいですねぇ!
皆、満腹とは思えない軽やかな足取りで帰路についた。
撮影協力
わんこそばたち花様
〒221-0065
横浜市神奈川区白楽5−13