No.1 恐山の「真夜中の本」
まずは恐山が選んだ本を紹介します。
『ホラーの哲学』
(ノエル・キャロル, 高田敦史 ・フィルムアート社)
なぜ、「怖い」のに「見たい」のか?なぜ、存在しないものを怖がるのか?ここから、ホラーの哲学は始まった。ホラーの哲学を初めて理論化した革新的著作が、待望の邦訳!
私は4階に根城を立てたんですが、そこで見つけた本です。
夜っぽい!
ホラーについて、なぜ怖いのに見たいのか。なぜ存在しないものを怖がるのか。ホラーがなんで面白いのか…みたいなことを、かっこよく書いてそうな本です。
ホラーの本質とは何か…
真っ黒なカバーがまさに真夜中。
哲学って切り口を出されると気になりますね。
で、もう1冊は、これもある意味怖いということで…
『面白くない話事典』
(伊藤竣泰・飛鳥新社)
実際に街中で著者自ら収集したリアル「面白くない話」を10余年分を完全収録。
面白くない話?
夜のファミレスとかで、隣の席がしゃべってる大学生の面白くない話とかを、ずっと収集してる人の本なんです。
そんなん収集すんな。
例えばどんな話が載ってるんですか?
えっとですね….
….
本当につまらないから、声に出したくない。
そんなに?
すみません、ちょっと本当に読めないです。
なんで買ったんだ。
寝る前にひとりで読みたいと思って…..じゃあ読んでみますよ。いいんですか?
これはドトールで、20歳前後の大学生4人組が喋ってた会話らしいのですが…
「マーズは火星だろ」「ゲームで得た知識ドヤるなよ」「隣の星は青いんだ」「地球以外の星の視点だろ」
??
「地球儀、買ってもらえなかったから地球グミで代用してんだもんな?」「視力良すぎだろ」「隣のグミも青かった?」「てか、地球グミの海の部分ってソーダ?」「ソーダよりの青リンゴ」「柑橘系ね」
…という感じです。
ずっとなに?
本当に、耳にしたことをそのまま書き起こしてるんだ。
面白くしようともしてない。落ちのない話をこれだけ克明にまとめているのは、偉業ですよ。
なんか、もはや怖い。
この怖さ、ホラーの哲学で説明されてないんですか?
セットで読むといいかも。
最後はこちらです。
『人間の許容・適応限界事典』
(長谷川博,村木里志,小川景子・朝倉書店)
人間の能力の限界を解説した研究者必携の書を全面刷新。
でっっか!
以前ネットで見かけて、読んでみたいと思ってたんです。最後ずっと探してたのですが、工学の棚で見つけました。人間工学ってことらしい。
それにしても分厚い。
だめだ、見た目で眠くなってきた。
まだ開いてないのに?
こんなの、ガチのお医者さんが読むやつじゃん。
実際そうだと思います。
どんなことが書いてあるんですか?
人間の、いろんな限界がまとまっていますね。
人間のいろんな限界?
例えば気圧とか痛みとか、変わったところだと恋愛とか。いろんな尺度について、「人間はどのぐらいまでだったらいけるのか?」っていうのがまとまってるみたいです。
目次を開くと…
文字ちっちゃ!
「排便」という章がある!
排便の限界が載ってるってこと!?
544ページへいそげ!
文字ちっちゃ!
「便失禁」に関するデータがあるな。
便をどこまで我慢できるか、限界の統計がまとめてあるのか。
この本の夜に一ページずつ読んだら、人間のあらゆる限界を知れてよさそうです。
限界を知ることで、逆に人体の奥深さを感じられそうですね。
No.2 マンスーンの「真夜中の本」
二番目は本を入れまくっていたマンスーンです。
僕はまずこちら….
『東京夜行』
(マテウシュウルバノヴィチ・エムディエヌコーポレーション)
東京の夜を巧みな水彩画で描き出す。
おい、いいなあ!
ポーランド人の著者が描いたイラスト集です。日本の風景を色々描かれている方なんですが、これは東京の夜、という切り口のイラストを集めた一冊のようですね。
あ、僕この著者の『東京の店構え』って本持ってます。近所にありそうな景色が、めちゃくちゃ細かく描かれていて良いんですよ。
この本だと有楽町とか、秋葉原とか….色んな街の夜景が描かれています。
いいなー!
この薄暗さで眺めると、より幻想的でいいですね。
排便からトーンが一転した。
次は、夜寝る前に詩集を読むのにハマってるので….最近読んでよかった詩集を紹介します。
『する、されるユートピア』
(井戸川射子 ・青土社)
ありきたりな日常に根ざし、その細部を見つめ、次々とつむがれていった言葉。
表紙がかわいい!
例えば、これはおそらく漫画喫茶にいる場面の詩なのですが…
「ゆがんだ体でそそり立つ壁、目の前にパソコン画面と、映る僕の顔だ」
漫喫の個室かな。
「となりの部屋が声をあげて笑った せまい地下では音も特濃で みんなに空気がいかなければいいと思った」
狭い個室の夜のイメージが、ぐわっと湧いてきますね。
あとこの本の詩、急に「ヤフーニュース」とか出てくるんですよ。不思議な言葉の羅列の中で、急に身近で現実的な言葉が出てくることで、一気に引き込まれるんです。表題になってる『する、されるユートピア』って詩にも…
「回転しながら立体的に輝く Windows7の字を眺めている」
面白い。
7なのがいいな。
他にも詩集だと、
『小笠原鳥類詩集』
(小笠原鳥類 ・思潮社)
反抒情の極北を指す、ことばの未知の光景へようこそ。
小笠原鳥類さんの詩も好きで…
私もこの本持ってますが、めちゃくちゃすごいです。でも、すでに絶版じゃなかったでしたっけ?
そう。これは紹介したくて家から持ってきました。
本屋に泊まるのに、家から本を…
どんな詩なの?
「軟骨 足 とても健康だ どこまででも歩いていける」
ほお….
「軟骨 —— 足 —— とても健康だ レタス 幸運な子ども達 歩いている」
いまレタスが通った?
たしかにすごい。
「レタス」みたいな関連のない単語が、急に入ってくるんです。どういうこと!?ってなる。
「ゼリー」もめっちゃ入ってきます。
もはや意味とかを排除してるんじゃないかと…音の連なりとして読んでみると、とても面白いです。
どちらの詩集も散文的で、意味が掴めない箇所も多いんですけど、別に意味を追わなくても、自分の中で「これいいな!」って思える言葉を探す、っていう読み方をしています。小説とかだと続きが気になっちゃうから、僕は詩集のほうが心地よく眠りにつける。
夜に詩集、かなりいいかもしれない。
No.3 原宿の「真夜中の本」
次はダンジョン下層を行き来していた原宿です。
僕はこれ。
『夜の訪問者』
(キューライス・ポプラ社)
「ピンポーン」。夜に鳴り響く玄関チャイム。郵便ポスト、和風ハンバーグ、死神、イチゴ大福…今夜も不思議なヤツらがやって来る…!
あ〜!
キューライスさん!!
これ、いいですよね。
本当、いいんです。
この漫画、毎回一コマ目が好きなんですよね…主人公が家でわけわかんないことしてる時に、インターホンが鳴って、いろんな変なやつが来て、主人公がそれに応対する。キューライスさんって、「近い」んですよね。不思議な世界観なのに、生活感があるというか。
この漫画はキューライスさんの中でも、すごく読みやすくて、かつキューライスさんならではの世界観も味わえます。オモコロで読んだ人も、改めて本で読んで欲しいなと。
手書きの水彩なんですよね。
タッチもね、素晴らしい。
他に、「夜」というキーワードで言えばこれとか…
『他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え』
(裏モノJAPAN編集部 )
立ち飲み屋や大衆酒場に足を運び、そこで出会ったオッサン200人に尋ねてみる。「長年生きてみて知り得た人生の教訓とは?」
これ企画がいいというか、市井の人の地に足のついた人生哲学が聞けて面白い本でした。「春の夜はやけにソワソワしてあせるけれど、みんな意外とセックスしてないから安心せよ」とか、「なんだよそれ」って思うけど、どこか本質的というか……。「B級グルメに高級食材を使うな」とかも「そうそう!」と思いましたね。裏モノJAPANだけにエロネタも多いんで、苦手じゃない人だけ…
あとはスズキナオさんの…
あ、僕もスズキナオさんの本選びました。
『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』
(スズキナオ ・スタンド・ブックス)
現代日本に浮かび上がる疑問を調査し、記録する、ザ・ベスト・オブ・スズキナオ!『家から5分の旅館に泊まる』
(スズキナオ・太田出版)
それでもこの世界をもう少し見てみたいと思う小さな旅の記録。
どちらもテーマの半径の小ささがいい。
いいですよね。
手が届くところの面白さが、しっかりと文章になっているんですよね。
No.4 みくのしんの「真夜中の本」
最後は漫画と絵本を中心に見ていたみくのしんです。
僕はね、これ。
『クイックオバケの動かない漫画』
(クイックオバケ・トゥーヴァージンズ)
なにげない日常の中に在る、ささやかな光やどきりとする暗闇……ふとした瞬間に抱く感情を切り取った、ノスタルジックな短編集。
クイックオバケさんは、Twitterでおすすめに出てきて、そしたらGIF漫画がすごい可愛くてびっくりして。
動く漫画を作られてるんですよね。
紙の漫画を出してることは知らなくて、今日地下で見つけてびっくりしました!
ふだん動くGIF漫画を作ってるから、紙は「動かない漫画」なのか。
逆に動かなさが珍しくなるんですね。
GIFアニメだと、オバケっぽくコマを飛び越えてワープしたりするんです。そういう表現が、紙の漫画でどうなってるのか気になります。
あ、これ白黒じゃないんだ!
ちょっと暗めなカラーがついてる。いい色だ。これは気になる本です。
もう一冊は、これ。
『パパ、お月さまとって!』
(エリック・カール ・偕成社)
ある晩のこと、窓の外にお月さまが見えました。「パパ、お月さま とって!」すると、パパはながーいながいはしごをもってきます!
月を食べに行く話だと思ったら、月を取りに行く話だったんですけど。
エリックカール、『はらぺこあおむし』の著者ですね。
読んでみよう。
子どもが手を伸ばして、お月さまを取って!ってパパにお願いしてる。
子供のあるあるだ。
パパがいいよって言って、空に登るためのハシゴを取りに行って…あれ、ページに仕掛けがある?
え!?
え〜!?
すっげえ長い梯子になった!
おもしろ!
エリックカールの絵本って、どれも仕掛けがワクワクするんですよね。
これ、印刷所に発注するとき楽しかっただろうな。「開いたらめちゃくちゃ長い梯子にしたいんです」って。
そんで梯子を持って山に登って、お月さままでたどり着いて…
あれ、月にも仕掛けがある?
おいおいおい!!!!
すっげえでかい月になった!!
面白い!
楽しすぎんだろ、この本!!!!!
かなりいいな。
こんな仕掛けだらけの絵本だったんだ。
図書館に置いたら、一年と無事ではいられなそう。
セロハンテープがたくさん貼られそう。
こういう絵本は、買うに限りますね。
やっぱ絵本はいいなあ!ワクワクするね!
そういえば僕、この本も気になったんですが…
その後も、真夜中の読書会は盛り上がりました。
外では夜がどんどん濃くなっていき…
ようやく街が寝静まったころ、店内でもひとり、またひとり寝床へと帰っていきます。
本のタワーを見上げながら眠りにつき、
あるいは哲学書と段ボールに包まれながら夢の世界へと落ち、
あるいは布団にくるまって絵本を、
あるいはテントで詩集を読み耽りました。
そして向かいのカラオケ館も消灯して、本屋が分厚い闇に包まれたとき……
僕(岡田悠)の、ひとり本屋ダンジョンが始まります。
これまでの記事では、いつも撮影側に回っていました。だから自分の企画を、自分でやったことがなかったのです。
せっかくの機会だし、寝る前にこの巨大な本の館を歩き回ろうと思います。
—— 皆が寝たあとの真夜中の本屋は、本当に静かだ。
足音すらも本に吸収されて、まるでこの世に、自分と本しか存在しないように思える。
灯りを手に、暗闇を歩いていると、この本を手に取りたくなった。
『夜のピクニック』
(恩田陸 ・新潮社)
全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通す「歩行祭」。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。
それぞれが秘密を抱え、一緒に歩く高校生たち。
かつてこの本を何度も読み返しては、みんなで歩く夜があったらなと憧れたけど、今夜は本屋をひとり歩いている。
めっちゃ寝てる人もいる。
灯りを照らすと、本棚の一部が姿をあらわす。灯りを移動させると、棚が次々に変化していく。
昼間に書店を歩き回ると、視界いっぱいに広がる本の数に圧倒される。
だが夜中にこうして一部だけを見ることで、むしろその巨大さが際立つ。
『ワンルームから宇宙をのぞく』
(久保勇貴・太田出版)
「地球と宇宙とで空間自体の根本的な性質が異なるわけではなくて、それらは連続した一つの空間である。だから、地球の外に宇宙があるというよりも、地球はそのまま宇宙である。(本文より引用)」
ワンルームが宇宙に繋がっているように、ライトで照らされた本棚の一部は、本の宇宙に繋がっている。
150万冊のひとつひとつに、何万字もの字が詰められていて、棚は毎日入れ替わっていく。
この途方もない深淵こそが、本屋がダンジョンたる所以である。
誰かの靴下も落ちてる。
『鳥の足型・足跡ハンドブック』
(小宮輝之,杉田平三・文一総合出版)
日本で見られる野鳥318種の足型・足跡をすべて原寸大で掲載し、足跡の持ち主を探すための特徴を解説。
世の中には本当にさまざまな本がある。鳥の足跡だけを集めた本もある。
鳥の足跡から鳥を類推するように、落とされた靴下から持ち主を想像し、限られた視界の本棚から、世界の広さに思いを馳せる。
眠くなってきた。ほかの人たちがあまり訪れなかった、医学エリアで寝床を探すことにした。馴染みのないタイトルがずらりと並んでいる。
適当に棚を照らしていたところ…
『頭蓋骨ペーパークラフト』
(高柳雅朗 ・中外医学社)
ペーパークラフトで頭蓋骨を学ぼう!実物大の頭蓋骨のペーパークラフトです。
悲鳴がでた。この本屋には、なんともうひとつドクロがあったのだ。
予測のつかない、一寸先は闇の世界。
そんな不安と好奇心をかき立てられるような、偶発性に満ちた体験こそ、本屋の醍醐味なのかもしれない。
寝転がる。
目を閉じる。
本当の真夜中が訪れる。
そして数時間後….
夜が明けた……
おはようございます….
眠すぎる。
明るすぎる。
暗がりが恋しい。
みなさん眠れました?
やっぱり床が固くて、眠りが浅かった…
僕は結局、朝方まで本を読んじゃいました。妙に落ち着いちゃって。
恐山さんは哲学書に囲まれて、どんな夢を見ました?
ルパン三世の夢を見ました。
関係ねえ〜。
自分でも夢の中で「これ哲学と関係ないな〜」って思ってた。
ちなみに皆さんが眠っている間に、書店員さんたちが、カゴに入れた本をすべて陳列してくれました!
壮観だ。
どこまでやってくれんだよ。
本棚をつくるのが仕事なので、楽しくて徹夜で作業しちゃいました。
ずっと思ってたけど、書店員さんが一番元気だ。
そして最後に本を購入して….
真夜中の本屋ダンジョン、完了です!
ご来店ありがとうございました!!!
お知らせ
ジュンク堂書店池袋本店では、本日より「真夜中の本屋ダンジョンフェア」が始まっています!
記事に出てきたあの本たちが、原宿の寝た1Fタワーにずらり並んでいます。
ぜひ覗いてみてください!