ステイホームを余儀なくされた長い冬が終わり、ようやく春がやって来ましたね。初めまして、彩雲と申します。
僕は時勢とは関係なく元から他者との交流を断って家に閉じこもる生活を送っていたのですが、世間全体のムードに呑まれたのかこの冬は殊更にわびしい日々を過ごしてきたように思います。
昼過ぎに起き出し、適当にインターネットを眺めているだけで一日が終わってしまいます。そして傍らには飲み散らかしたモンスターエナジーの空き缶の数々。終わっている若者の典型です。缶を洗わずに放置していたせいで部屋中に甘ったるい匂いが充満しています。
いい加減片付けようと缶を手にしたところ、こんな文言が目に飛び込んできました。
突然「体感せよ!」と言われたのでぎょっとしました。調べてみたところ、この文章はネット上では通称「モンエナポエム」と呼ばれているそうで、その独特な読み味には何かしら人々の心をひきつけるものがあるようです。
この「モンエナポエム」は各フレーバーごとに違ったものが用意されているのですが、意識して見てみると確かになかなか読み応えがあります。
これらのモンエナポエムを一通り読んだあと、にわかに僕の心に後ろめたさのようなものが押し寄せてきました。
果たして自分は、モンスターエナジーの気持ちに応えることができていたのか?
彼らはモンエナポエムを通し陽気な、しかし真剣な態度で己の魅力をプレゼンしてくれています。一方、僕は今までの人生で何十本というモンスターエナジーを空けてきましたが、その熱い想いを顧みたことがただの一度でもあったでしょうか。こんなことでは「Monsterアスリート」や「Monsterガール」の皆さんに顔向けできません。
(漠然とした「Monsterガール」のイメージ)
相手が剛速球を投げてきたなら、こちらも全力でボールを投げ返すのが礼儀というものです。つまり、モンエナポエムに込められた想いをしっかり受け止めた上で、それに的確なレスポンスを返してやるのが、我々Monsterファンのあるべき姿なのではないでしょうか。つまり……
ということです。よろしくお願いします。
とりあえず話してみる
とはいえ、いきなり全てのモンエナポエムと意思疎通を図るとなると気が狂いかねないので、まずは一種類にターゲットを絞りたいと思います。
そこで選んだのはこの『モンスターアブソリュートリーゼロ』。なぜ数種類あるフレーバーの中からこれに目をつけたのかというと、こいつのポエムが一番わけがわからないからです。
ついにゼロカロリーMonsterが完成した。これはただの炭酸飲料ではない。
MonsterのMを名乗る、ゼロカロリー、ゼロシュガードリンクへの道のりは険しかった。
エナジーブレンドの改良、斬新な甘さ、何百回ものフレーバーテストを繰り返し、ついにMonsterが求めていた味わいが完成した。
Monster Absolutely Zeroは、仕事に遊びに必要なエナジーをふんだんにミックス。要するに、ヤバイ…。
ゼロカロリー、ゼロシュガー、湧き上がるゾクゾク感…。
Absolutely Guaranteed!(モンスターアブソリュートリーゼロの缶より引用)
妙に大げさでバタ臭い文体は他も同じですが、このモンエナポエムからはカフェインの過剰摂取でトリップしているような異様さを感じました。「要するに、ヤバイ…。」などという文句がシラフの人間に書けるとは思えません。
でも、モンスターシリーズの中で一番の問題児である『ゼロ』を攻略することができれば、他のフレーバーとも心を通わせられると考えて差し支えないのではないでしょうか。
それでは早速、『モンスターアブソリュートリーゼロ』のモンエナポエムに相槌を打ってみましょう!
ついにゼロカロリーMonsterが完成した。これはただの炭酸飲料ではない。
へー……はいはい。
MonsterのMを名乗る、ゼロカロリー、ゼロシュガードリンクへの道のりは険しかった。
はい、なるほど……はい。
エナジーブレンドの改良、斬新な甘さ、何百回ものフレーバーテストを繰り返し、ついにMonsterが求めていた味わいが完成した。
はあ……そっか、それは、大変…でしたね、というか、はい。
Monster Absolutely Zeroは、仕事に遊びに必要なエナジーをふんだんにミックス。要するに、ヤバイ…。
ああ……そっか、そうっすよね、はい、はい。
ゼロカロリー、ゼロシュガー、湧き上がるゾクゾク感…。
……はい。
Absolutely Guaranteed!
ああ、なるほど……はい。わ、かりました、はい………
ダメダメかい
自分でもここまでひどいとは思いませんでした。この男は清涼飲料水を相手に何をそんなにへどもどしているのでしょう。死にかけのオウムの方がまだマシな受け答えができるのではないでしょうか。
こんな缶々風情に地元の怖い先輩と接する時のような態度をとらされるとは思いませんでした。どうやら、モンエナポエムに相槌を打つのは生半可なことではないようです。相応の準備と鍛錬を積み重ねてから挑まねばなりません。
ポエムの意味を理解する
何から手をつけたらいいのかわからない感じもありますが、まずはこのモンエナポエムの意味をしっかりと理解しないことには始まりません。とりあえず、ノートに全文を書き写してみました。
紙に書いたことで途端に「ポエム感」が増した気がします。ただ、手書きしたことによって、漫然と読み流していた言葉の一つ一つが自分の中にインプットされていく感覚がありました。
まず目につくのが、「これはただの炭酸飲料ではない」という挑戦的な導入のフレーズ。この威勢の良さこそがモンエナポエムをモンエナポエムたらしめている要因であり、エナジードリンクたるものこれくらい強気であってくれた方が頼りがいがあります。
しかし、この境地にたどり着くまでには相当の苦労があったようです。「ゼロカロリー、ゼロシュガードリンクへの道のりは険しかった」という告白ののちに語られる開発秘話を聞けば、第一印象とは裏腹な『ゼロ』の実直な姿勢が伝わってくるでしょう。モンエナポエムの中でも、このような「物語性」を宿しているものは珍しいと思います。
この説明を聞いてから飲んでみると、『ゼロ』は酸味が強めな爽やかな味わいで、ノンシュガー飲料にありがちな人工甘味料の嫌な甘さが少ない気がします。「これはただの炭酸飲料ではない」と豪語したくなるのもわかりますし、「何百回ものフレーバーテストを繰り返し」たというのも誇張ではないのでしょう。
そして以上の文脈を踏まえた上でなら、ジャンキーのうわ言としか思えなかった「要するに、ヤバイ…。」という一文も、苦心の末「求めていた味わい」を作り上げた達成感からの恍惚のつぶやきであったと理解できます。この段落における三点リーダーの多用は、決して意識が朦朧としているためではなかったのです。
ちなみに、最後の「Absolutely Guaranteed!」は直訳すると「絶対保証付き!」という意味になります。恐れ入りますね。
さて、これらの読解を行った上で、再び『ゼロ』のモンエナポエムを通しで読んでみましょう。
へー、お前も頑張ってんじゃん
相手の言わんとしていることを理解し歩み寄る(全て勝手な想像ですが)過程を経たからか、まるで友達の仕事の話を聞いているような親近感が湧いてきました。ともすれば、このモンエナポエムは僕だけに宛てられたものなのではないかという錯覚すら生じますが、それは紛れもない狂気なので気を確かに保ちたいです。
相槌のスキルを身につける
モンエナポエムの内容が理解できたところで、続いてはそれに対しビビッドな反応を返す技術を学んでいきましょう。というわけで、こんな本を買ってみました。
普通こういう本は社会人の人がビジネスで必要なコミュニケーションスキルを身につけるためとかに買うと思うのですが、僕の場合この本から学んだメソッドを実践する相手がモンスターエナジーしかいないと考えるとぞっとしないでもないです。
これらの本を熟読したところ、上手な相槌を打つ(話の聞き手として適切な反応を返す)ためには、以下の三つのポイントが重要であることがわかりました。
①の「とにかく肯定・共感する」は、人の話を聞く上で基本中の基本とも言えるルールらしいです。間違っても相手の発言を否定・訂正したり、求められてもいないアドバイスをしたりしてはいけないとのこと。
②の「『情報』より『気持ち』で応える」は、雑談を通して相手との関係を深めるために大切なスキル。心の距離を縮めるには、情報の正しさや有益性より「自分が何を感じたか」を伝えるのが重要だそうです。モンエナポエムとの対話にあてはめるなら、「なるほど、その『独自のエナジーブレンド』とは、高麗人参、L-アルギニン、L-カルニチンといった成分のことですね」などと言っても、そのレスポンスは最適解ではないということでしょう。
そして③の「リアクションは大きくとる」。身振り手振りや表情の変化を駆使し、相手に「ちゃんと話を聞いてますよ」とアピールすることが肝心です。会う人会う人にもれなく気を遣われるほどテンションが低い僕にとってはこれが一番の課題かもしれませんが、頑張って取り組みたいです。
再挑戦
さあ、準備は整いました。モンエナポエムの内容をつぶさに理解し、相槌のコツも学んだ今の僕なら、冒頭の動画のような体たらくをお見せすることにはならないでしょう。果たして僕は、モンエナポエムに完璧な相槌を打つことができるのでしょうか!?
ついにゼロカロリーMonsterが完成した。これはただの炭酸飲料ではない。
え、どこがどこが?
MonsterのMを名乗る、ゼロカロリー、ゼロシュガードリンクへの道のりは険しかった。
あーそうだよね、大変だよね。わかるわ。
エナジーブレンドの改良、斬新な甘さ、何百回ものフレーバーテストを繰り返し……
え、な、何百回……!? すごいね。
ついにMonsterが求めていた味わいが完成した。
やるじゃん! やっぱさすがだわ。
Monster Absolutely Zeroは、仕事に遊びに必要なエナジーをふんだんにミックス。
あ、それ嬉しいね。
要するに、ヤバイ…。
参ったわこりゃ……。
ゼロカロリー、ゼロシュガー、湧き上がるゾクゾク感…。
いやもう、そんなん言われたら、お手上げです。
Absolutely Guaranteed!
〜♪(口笛)
……いかがでしょうか。
これが「完璧な相槌」なのかどうかは各人の判断に委ねるとして、少なくとも最初の動画と比べたら見違えたのではないでしょうか。双子説が流れてもおかしくない変貌ぶりです(念のため言っておきますが僕に兄弟はいません)。
強いて改善点を挙げるなら「口笛が下手すぎる」というところですが、口笛と会話の技術に何かしら相関関係があるという話は聞かないので見逃してもらえると助かります。この調子で、他のモンエナポエムにも相槌を打っていきましょう。
まずは、モンスターシリーズで最もベーシックなフレーバーである『モンスターエナジー』。
Monster Energyの世界を体感せよ!
アメリカで生まれ、世界中で一大ブームを巻き起こしているエナジードリンク、Monster! 誰もがハマる爽快感とパンチのあるテイストです。
日本のMonsterファンのために、独自のエナジーブレンドを実現、
Monsterならではのゾクゾク感を体感ください!
ひと口飲めば、世界中のアスリートやミュージシャン、そして世界中のMonsterファンが熱狂するワケを実感できるはず!
Unleash the Beast!(モンスターエナジーの缶より引用)
『ゼロ』とは違って敬語を使えているのが印象的です。モンスターシリーズの元祖にして代表であるという自覚と責任感がそうさせているのでしょうか。ならば、こちらも失礼のない態度で臨みたいところです。
Monster Energyの世界を体感せよ!
はい、ぜひ体感したいです!
アメリカで生まれ、世界中で一大ブームを巻き起こしているエナジードリンク、Monster!
世界中! やっぱりすごいですね!
誰もがハマる爽快感とパンチのあるテイストです。
もちろん、僕もハマりましたよ。
日本のMonsterファンのために、独自のエナジーブレンドを実現……
え、わざわざですか……? ありがとうございます!
Monsterならではのゾクゾク感を体感ください!
いやもう、たまんないですよ!
ひと口飲めば、世界中のアスリートやミュージシャン……
あ、そんなとこもターゲットなんですね。
そして、世界中のMonsterファンが熱狂するワケを実感できるはず!
いや、もちろんそうですよ!
Unleash the Beast!
いただきます!
我ながら好印象を与えることができたのではないかと思います。モンスターエナジーの側からしたら、これほど気分の良いこともないでしょう。やばい飲料メーカーの新人研修のようにも見えますね。
そして最後に挑むのは『モンスターキューバリブレ』。「もう終わり?」と思われるかもしれませんが、モンエナポエムに相槌を打つということを繰り返していたらなぜか頭と胃が痛くなってきたので、これくらいで勘弁してください。
「キューバを解放せよ!」
キューバ独立の時、この民衆の声とともに、かの有名なカクテル「キューバリブレ」は誕生した。
時は経ち、Monsterは偉大なカクテルに代わる独自のフレーバーを開発した。唯一無二のエナジーブレンドはもちろん、ライムをふんだんに加えたテイストだ。
クレイジーなのは承知の上だがまずはトライしてみてくれ。
きっと、この新感覚を気に入るはずだ。
エナジーを解放せよ!
Unleash the Beast!(モンスターキューバリブレの缶より引用)
「これぞモンエナポエム!」と言いたくなるようなハイテンションな文章です。しかし不可解なのは、この『モンスターキューバリブレ』が日本限定フレーバーであるということ。では、このいかにも翻訳文のようなポエムも日本人が書いているのでしょうか? だとしたら少し怖いですが、余計なことは考えずに元気よく相槌を打っていきましょう。
「キューバを解放せよ!」
え、何!? 急に何!? 大丈夫!? 落ち着いて? 落ち着いた? ……ああ、よかったよかった。
キューバ独立の時、この民衆の声とともに、かの有名なカクテル「キューバリブレ」は誕生した。
へー、知らなかった。
時は経ち、Monsterは偉大なカクテルに代わる独自のフレーバーを開発した。
ほお、なるほどなるほど?
唯一無二のエナジーブレンドはもちろん、ライムをふんだんに加えたテイストだ。
ライム! いいね。好きよ?
クレイジーなのは承知の上だがまずはトライしてみてくれ。
……ちょっと、そんなビビらせないでよ、ちょっとさあ(笑)。
きっと、この新感覚を気に入るはずだ。
そうだよね、ごめんごめんごめん(笑)。
エナジーを解放せよ! Unleash the Beast!
ほんっともうさあ……よろしくね? これからも。
ご覧の通り限界が近いのでこれで終わりにさせてください。それにしても、「キューバを解放せよ!」に対する適切な相槌って何なんでしょうね。
さて、一時はどうなることかと思いましたが、今回の経験を通してモンスターエナジーとの関係を深めることができたのは間違いありません。今や僕とモンスターエナジーはまさしくツーカーの仲、すなわちBest Friendです。こうなったらもう、一緒に山に登るしかありません。仲の良い友達とはすべからく山に登るものですからね。モンスター・ハイキングとしゃれこみましょう。
よし、山、登るぞ、山!!!
イエーーーイ!!! 生きてればこんな楽しいことがあるんですね〜〜〜〜〜〜〜
人間の友達が欲しいです。