すべてをフラットにするマクドナルド
組み合わせ型の壁画を紹介しながら、ぼくはマクドナルド壁画のある特徴に気が付いてしまった。
それは、
フラットであること
だ。
先ほどから僕は「だまし絵」という言葉を使っているが、「だまし絵」というジャンルには本来フラットであるにもかかわらず、あたかも奥行きがあるかのように見せた絵があるる。
マクドナルド壁画も同じで、木目調の壁だって、スクリーンに映る影だって、あるいは壁だって、なんでも描いてしまうのだ。
それらは材質感があるホンモノの壁に見えるかもしれないが、実際はただのペラッペラの壁紙に過ぎない。
なぜそんなことをするかというと、たぶんその方が安く済むからだ。いたって合理的。
この「フラット」であるということが、マクドナルド壁画の大きな特徴の一つなのだと思う。
こんなことを考えたのは、これから紹介する新種の「統一型」を見てからのことであった。
椅子があるべき場所に、椅子が描かれたマクドナルド壁画だ。
これは椅子のようでいて、椅子ではない。哲学だ。
マクドナルドでは立体物たる椅子さえも平面上に描かれ、フラットになっているのである。
そしてこの壁画を擁する新しい統一型こそ、僕が言わんとしている哲学を体現するマクドナルド壁画なのだ。
“2010年型”の発見
このフラットな椅子が発見されたのは、マクドナルド浜松町店。
なぜこの店に行ったかというと、例のハッシュタグ#マクドナルド壁画で投稿があったからだ。
#マクドナルド壁画
@浜松町
モザイクなんてあったんだ pic.twitter.com/109pnAyGKZ— しお (@shiomoihs) 2019年2月8日
この壁画は見たことがなかったので、実際に浜松町店に足を運んでみた。
ポップ! 個室のようになっているテーブルもあって、普通のマックとは全然違う。
店内は全てこのテイストで統一されていて、前回の分類でいえば「統一型」に分けることができるだろう。
ガラスの入れ方も、普通のマックにはなかなか見られないタイプだ。
ネットで調べてみると、このタイプは2010年から外国人デザイナーの手によって日本に登場した5種類の壁画パターンのうちの一種類らしい。
表の中でその存在感が薄れていった「統一型」は2010年から実は様々な形で増えていて、組み合わせ型への逆襲を始めたのである。
この5種類をまとめて「2010年柄」と名付けることにする。
この2010年リリースの壁画は、
①「Edge(エッジ)」
②「Food(フード)」
③「Fresh(フレッシュ)」
④「Extreme(エクストリーム)」
⑤「Qualité(クオリテ)」
という5種類。
前掲した浜松町店は、何が食べ物要素なのかは判然としないが、「Food(フード)」に分類されるらしい。
というわけで、統一型に「㉚Food」を追加しよう。記念すべき30種類目だ。
では他の4種類はどんな柄なのだろう。ここからは謎多き2010年代シリーズを探求し、それの何が「フラット」なのかを説明したいと思う。
2010年柄はすごかった
2010年柄を判断するポイントとして、浜松町店であったように個人スペースが集まっている独特の店舗構造がある。
例えばこんな感じ。
31. Edge(エッジ)
マクドナルド新橋日比谷口店には、個人スペースがぎっしりと並ぶ。この店内のタイプは「Edge」というらしい。
「Edge」とは「ヘリ」とか「端」をあらわす言葉だが、一体なにがそんなにギリギリなのだろう。
どこかオトナっぽく、落ち着きはあるがアーティスティックなトーンで統一されている。
先ほどの「Food」がファミリー向けなのだとしたら、こちらはオトナ向けだろう。
それを証明するかのように、このタイプは大手町店などでも観測されており、オフィス街に多く見られる。
2010年柄を規定する条件の一つには、マクドナルドがある地域の雰囲気も関係があるようだ。
32. Extreme(エクストリーム)
では、こちらはどうだろう。
わお。
「フラット」を体現するかのような、だまし絵的な壁。これは、マクドナルド恵比寿店である。
アメリカかどこかのダウンタウンの様子を再現しているのだろうか、落書きがいっぱいある。
前に分類した柄に「グラフィティ」柄があったが、そのグラフィティ柄が進化したらこんな感じになりそうだ。
壁画による店内の統一感はハンパではなく、店内の至る所がこんな感じで飾られている。
これが統一型の本気か……!
調子に乗ってもっと恵比寿店の中を見てみよう。
これなど、まるで本当に壁紙がはがれているかのようであるが、実際には完全にフラットな壁なのである。
かつて、2010年柄がリリースされたときに、その柄について説明したサイトがあるのだが、そこにはこんな一言が書かれている。
1番オシャレ!? グラフィティに彩られたアンティークレンガ調の壁面の「エクストリーム」は、「原宿竹下通り店」や「赤坂駅前店」の内装に。
“ブルックリンのデザイナー達が集まる地元のカフェ”をイメージした店内は、刺激的でオシャレ。
“ブルックリンのデザイナー達が集まる地元のカフェ”
僕たちはマックをそんな気持ちで利用しないといけなかったのか。
というか、逆にこのマックにいけば、ブルックリンのおしゃれなデザイナーと同じ気持ちになれるということなのか。
確かにおしゃれではあるけど。
余談だが、この恵比寿店の窓からは、こんな風景が見える。
ブルックリンのカフェから、肩こりをほぐすマッサージ店が見えるのだ。
このマッサージも、考えようによってはブルックリン式のマッサージかもしれない。
2010年柄の特徴の一つとして、異様なまでの統一感によって組み合わせ型に見られたようなごちゃごちゃした感じが取り去られ、店内の雰囲気までフラットになっているということが挙げられるだろう。
33. 野菜、改め「Qualité」(クオリテ)
こちらは前回の記事で取り上げた「野菜」である。
この野菜柄は「Qualité」(クオリテ)という、2010年柄の一つだったのだ。店舗は渋谷センター街店。
「Qualité」とは、「品質」を表すフランス語である。品質の良さをアピールした柄、ということなのだろう。
店内には、奥に謎のソファスペースがあったりして、明らかに普通のマックとは違う。
ちょっと違うといえば、この「Qualité」という名前、他の4種類がすべて英語なのにこれだけフランス語である。
フランス語にするだけでオシャレ感が増すから不思議なものだ。
前回の記事で、「渋谷の地域性は野菜なのか」と、僕はこの渋谷センター街店の壁画を見ながら疑問を抱いたわけであるが、この答えがこれで分かる。
つまり渋谷の地域性とは、野菜そのものにあるのではなく、野菜の柄を店内に貼りつけて「Qualité」(クオリテ)とフランス語で表現する「やってますなあ」という感じのことなのだ。
恐らく。
34. Fresh(フレッシュ)
これで2010年柄のラストである。東京スカイツリータウン・ソラマチ店から。
カラフルなペインティングが施されていて、店内も見通しがよく、くつろげるような仕様になっている。
「Fresh」という名前らしいが、一つ前に紹介した野菜の「Qualité」の方がどうもフレッシュな気もする……。
マクドナルド壁画フラット化運動
というわけで、2010年柄を一つずつ確認した。
これら2010年柄は、当初、東京都の渋谷区や港区といった限られた都心のエリアのみに実験的に作られ、この壁画が貼りつけられた店舗には(ぼくが大好きな)100円コーヒーの提供などが行われず、通常のマックよりも高級感を出そうとしたのだという。2013年頃に顕著になった、いわゆるマクドナルドの高級化である。
そして、ぼくが現在テーマにしている「フラット」という視点で見るならば、こうした2010年代柄の壁画はさらに全国に拡散していくことになるのではないか?
つまり、地域の面においてもマクドナルド壁画はフラットになっていき、それは2010年代柄に席巻されていくのではないか、という予測が容易に立てられるのである。
この店舗を見てほしい。
マクドナルド西早稲田店。
ドライブスルーも併設された、いかにもなロードサイドのマクドナルドだ。
こんなところに、都心の一等地だけにしか見られないはずの2010年型のデザインがあるわけ……と思いきや、
あった。
これは、みまごうことなき「Edge」だ。
もう一度言おう。ここは、渋谷区でも、港区でもなく、西早稲田だ。
ちゃんと僕が大好きな100円コーヒーもある。
最初は東京都、港区・渋谷区の限られた店舗にしか無かった2010年柄も、徐々にいろいろな街に拡散していき、東京の限られたエリアだけでない郊外のマックでも使用されるようになってきていたのだ。
実際、Twitterでの報告でも東京以外の関西などで、2010年代柄の報告がある。
デザインだけで無く、まさに地域の面でも、マクドナルド壁画は均質化を志向している。
「マクドナルド壁画フラット化運動」ともいうべき事態が、2010年代柄によって発生しているのである。
ここで、2010年柄の特徴をまとめてみよう。
長い長い2010年代柄を求める旅も、なんとか決着がついたようだ。
今回のまとめ、そしてこれから
というわけで再度、分類表を更新する。
■新・マクドナルド壁画分類表。統一型が2010年型の到来によって伸長した。
こうした壁画タイプがさまざまな地域に拡散して、それぞれのマクドナルド壁画が生まれ出ている。
前回の記事を読んだ皆さんからの報告を元にアップデートしたわけだが、当然これでもまだすべてのマクドナルド壁画を網羅できているわけではない。
次回、僕はまた新しいマクドナルド壁画を訪ね、とうとう東京から地方へと赴くことにしようと思う。
というのもこんな事例がTwitterで目撃されたからである。
マクドナルド吉塚店。博多にほど近いパピヨンプラザという商業施設内にあったが、パピヨンプラザ自体の閉鎖に伴い今月末で閉店となった。ここは長く改築が無く、壁には謎の石が飾ってある。壁画ではないが、ここ以外で見たことなく、そして消えゆくということでエントリー。#マクドナルド壁画 pic.twitter.com/9frmiNH0Q4
— ゆめの (@ymn_EP) 2019年2月20日
こんな柄は見たことがない。
この壁画が発見された「マクドナルド吉塚店」は、2019年2月28日で閉店したという。
つまり、この壁画はすでに無くなってしまった壁画なのである。
そしてこれは、今まで僕たちが見てきた壁画よりも前のマクドナルド壁画、いわば「古マクドナルド壁画」とでも言うべきものではないのか?
東京にはこの、古マクドナルド壁画は無かった。
この数か月で幾多のマクドナルドをめぐった僕が言うのだから間違いない。なぜか。
それは、東京の再開発がものすごい勢いで進んでおり、昔のマクドナルド壁画がそのままの状態で残されていることが少ないからである。
多くの街がものすごいスピードで変化を遂げ、マクドナルド壁画フラット化運動が進む東京。
そんな東京では壁画は次々と更新され、2010年代柄が様々な地域へと侵食していきながら、地域差が均質化されていく。
しかし、地方には未だリニューアルされずにそのまま残っているマクドナルドが存在する。
そこには世界がフラット化する前の、かつての姿を残した古マクドナルド壁画が現存しているのではないか。
そして最早、古い世代のマクドナルド壁画は風前の灯火なのではないか。
だとすれば僕は、旅立たねばならないだろう。
題して、
である。
次回、僕たちはこの失われたマクドナルド壁画の姿を目にすることになる。
乞うご期待。
引き続き、
も募集中です。
特に、閉店間際のマクドナルド壁画は大大大募集中ですので、お気軽な気持ちで投稿ください!
もれなく谷頭が何らかレスポンスします(たぶん)。