ギリシャに行きたい

 

 

「ギリシャ」

 

 

人はその響きに並々ならぬ期待を持つ。広々としたエーゲ海に、大理石の彫刻群、そして堂々とそびえ立つギリシャ神殿。

 

いま、日本はギリシャの話題で持ちきりである。いや、本当にそうなのか分からないが、少なくとも私はギリシャに憧れを持ち、その地に足を踏み入れたいと願っている。なぜ主語が「私」から「日本人」になったのかよく分からないが、とにかくそうに違いない。そうなのだ。

であればもう行くしかない。行くのだ、ギリシャに。いま、「Google」で「ギリシャ 旅行」とおもむろに調べてみると、某有名旅行会社のサイトがヒットする。そこにはギリシャへのツアープランが、スケジュール表や費用と共に掲載されている。

 

「ターキッシュエアラインズビジネスクラスで行く!憧れのエーゲ海リゾートへ サントリーニ島&アテネ8日間」

 

▲こんなイメージ

いい。なんたって「憧れの」だ。私はギリシャに憧れている。しかしツアー料金に驚愕する。

 

「749,000円~1,199,000円」

 

高い。高すぎやしないか。最低料金がほぼ75万円からなのだ。最高料金に関してはコンマが2つもある。そんな旅行代金見たことがない。つまり、こういうことである。

 

「ギリシャへの旅は難しい」

▲遠のいていく、憧れのギリシャ

 

そんなことは最初からわかっていたはずである。ギリシャだろうが、トルコだろうが、アフリカだろうが、どこだって海外旅行に行くのは大変なのだ。料金の問題だけでない。時間だってすごくかかる。同じサイトでギリシャへの所要時間を調べてみたところ、「14~17時間」だという。その幅はなんなのかわからないが、とにかく物凄い時間とお金がかかるのだ。

 

やはり、ギリシャへの旅行は諦めるしかないのだろうか。そう考えた瞬間。私の目に一つの柱が映る

 

これは。

 

ギリシャだ!!!

 

 

ギリシャの神殿でよくある、「あの」柱ではないか。

 

ギリシャ神殿の柱。まさにこれだ

 

この柱に出会った瞬間、私の周囲にはギリシャの風が吹いてきたのである。

 

青々としたエーゲ海、

 

生い茂るオリーブ、

 

そして神殿の柱……。

 

気分はすっかりギリシャ。

ギリシャに行かなくたって、ギリシャ気分は味わえるのだ。では、この写真が撮られた街はどこか。

 

「新宿」

新宿だ。もう、みんなおなじみの、あの新宿である。試しに私の家から新宿までの所要時間と費用を調べてみた。

 

「170円で10分」

 

いい。安くて、早い。吉野家と同じだ。美味しくはないが。もう一度、念のため、ギリシャ旅行の所要時間と費用を書いてみる。

 

「1,199,000円で17時間」

 

だめだ。高くて遅い。吉野家ではない。美味しくもない。もはやこれらを比べることの意味がよく分からないのだが、ざっと計算すると同じギリシャの柱を見るのに対して、ギリシャは新宿の7053倍の費用がかかり、102倍の時間がかかる。

こうなればもう、ギリシャと新宿、どちらがギリシャを感じるのにより適しているか一目瞭然だろう。たとえば、「新宿だって行くのに時間がかかるんです」と言った反論がくるかもしれない。しかしこの柱、新宿だけではなく、都内の至る場所にあるのだ。

 

 

これらは全て東京で撮られたものだ。東京はギリシャにあふれている。

そうなのだ。つまり、東京でギリシャに行くことができるのだ。

こうしてギリシャへの旅路は思いがけない形で始まる。

 

 

ギリシャの柱はたくさんある

さて、そんなわけで私は意気揚々と街に繰り出した。

今までそんな視点で街を見たことはなかったけれど、意外にも街にはギリシャの柱が溢れている。

“それ”は突然出現する。

 

もっとズームアップすると……

 

もっともっとズームすると……

 

あった!ナイスギリシャ!

ギリシャは不意に出現する。

こんなところにも。

 

ナイスギリシャ!

しかしこうして見ていくと、こんな疑問が湧いてこないだろうか。

 

「ギリシャの柱とは何か」

 

問題はここである。

私はなんとなく、ギリシャの神殿っぽい柱を見つけては「ギリシャだ〜」とギリシャの風を感じていたわけだが、本当にそんな感じ方でギリシャを感じていいのか。ギリシャに失礼ではないか。もう一度、問う。本当にそれでいいのか。

 

いや、よくない。

 

ギリシャの柱には種類がある

実は、私が「ギリシャの柱」と呼んできたものには、3種類の決まった形とその「名前」がある。

少し見てみよう。世界史でやったことがある人もいるかもしれない。

 

ドーリア式

例えばこの柱……

これは、「ドーリア式」というらしい。

非常にシンプルな造りの柱だ。

ドーリア式の特徴をまとめてみよう。

 

なるほど、柱にあまり装飾がなく、質素なデザインがドーリア式というのだそうだ。

ギリシャで有名なパルテノン神殿はこの柱の様式である。

例えばこれもそうだろう。

 

ナイスドーリア!ナイスパルテノン!

いい質素加減だが、よく見るとどこかおかしい。

 

「柱の上だけある…?」

 

もっと近くで見てみよう。

 

美しい青空、そして柱の上だけ。

柱の下には、別の色の柱があるのだ。ということは、これは完全なドーリア式柱ではない……?

こうした、ギリシャの柱を少し逸脱しているものについては後でじっくり触れることにしよう。

 

イオニア式

次なるギリシャの柱の形は、「イオニア式」である。

ドーリア式に比べると、かなり装飾が派手になっている。

これも検索しながら特徴をまとめてみた。

 

左右にグルンとロールケーキのようなものが柱についているのが、イオニア式と言うらしい。

 

 

この壁画など、イオニア式まんまだ。

立体でもイオニア式はたくさん見つけられた。

 

 

 

街を歩けば、ふとした瞬間にこうやってギリシャが見つかる。

やはり日本はギリシャなのかもしれない。

 

コリント式

最後はこちらである。

柱の上にごちゃごちゃしたものが載っている。

これがギリシャ様式の最後の一つである「コリント式」だ。この特徴はなにか。

 

イオニア式よりも、さらに複雑になった装飾。

植物がモチーフらしい。これも街の中で観察してみよう。

 

 

すごい、細部まで精密だ。

柱頭に植物を模した装飾が、確かに載っている。これで「サウナ」「仮眠室」「カプセル」「コミック・ネットカフェ」なのだから驚くしかない。

きっとこの仮眠室では、ギリシャの風を感じながらゆっくりと眠れるのだろう。

 

以上、

 

シンプル=「ドーリア」!

 

クルクル=「イオニア」!!

 

ゴチャゴチャ=「コリント」!!!

 

この3種類が柱の種類である。つまり、これがギリシャだ。この柱でなければ、ギリシャを感じてはいけないのだ。

そしてこうした柱は、街の至るところにある。

しかし皆さんは覚えているだろうか。先ほど、イオニア式の話をしているときにこんな柱があったことを。

 

「上だけある」

 

 

日本にあるギリシャの柱は、ときにこうして逸脱する。

それでギリシャを感じていいのかどうか? そこが問題だ。

次のページからはそんな逸脱した柱を見ていくことにしよう。

 

 

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