プラレールに顔面をつけてお芝居をやってみました。
それでは、ご覧ください。

 

 

第一章 事件

 

ーーー その夜は満月だった

 

 

ーーー 電車の矢助は車庫にむかって急いでいた。隣村まで客車を運んだ帰りだったのだ。

 

 

ーーー 時刻はすでに11時をすぎていた。矢助は夜の仕事が嫌いだった。

 

「薄気味わりいなあ。バケモンでも出てきそうな雰囲気だ。」

 

 

ーーー 峠を越え曲がりくねった線路を進むと、やがて小さな沼が見えてくる。

 

 

 

 

 

その沼で30年前に起こった悲劇を、
矢助は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

ーーー 沼のすぐわきを通る線路で、矢助は何かに気づいて急停車した。

 

 

「あれは…なんだ?」

 

 

ーーー 前方に見慣れない電車が止まっている。ずいぶんと古い車種のようだが、暗くてよく見えない。

 

 

「お…おい、あんた……このへんじゃ見ない電車だが…誰だい?」

 

ーーー 矢助はおそるおそる声をかけた。

 

 

ーーー しかし相手はなにも答えない。

 

 

ーーー 矢助は妙に怖くなって、震える声で叫んだ。

 

「お…おい!!あんたは誰だって聞いてんだ!!……さっさと返事をしろってえ!!」

 

 

ーーー そのときだった。月明かりが相手にさし、その顔があきらかになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ!ああ!!!……あああああ!!!!」

 

 

 

「うわああああああああああ!!!!!!ばけものだあああああああ!!!!!」

 

 

ーーー それからすぐあと、巨大な水しぶきの音があたりに響いた。いったい何が起こったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー 翌日の早朝、矢助が沼に沈んでいるのを整備士が発見した。すぐに大がかりな引き上げ作業が行われたが、矢助は助からなかった。

 

 

オープニング

 

 

第二章 車庫にて

 

 

ーーー 矢助がいなくなり、車庫の仲間たちは深い悲しみに沈んでいた。

 

 

ーーー矢助の兄貴分、熊五郎はひときわ悲しんだ。

 

「矢助は……臆病者だが、よく働くかわいいやつだった…。クソッ…なんでこんなことに…!!」

 

 

「………沼坊じゃ」

 

ーーー ものしりの一目入道が低くつぶやいた。

 

 

「沼坊?それはなんのことだ、入道」

 

 

「沼坊は…このあたりに住む幽霊電車じゃ」

 

ーーー 一目入道はゆっくりと語り出した。

 

 

「30年前の満月の晩、一台の電車が脱線して沼に落ちる事故が起きた。まだ出来て間もない子供の電車じゃった。それからというもの、満月の晩になるとそいつの幽霊が沼のほとりにあらわれるようになった。誰がつけたか、幽霊は”沼坊”と呼ばれるようになった」

 

 

「沼坊を見たものは、沼にひきずりこまれる…奴は道連れをさがしておるんじゃ。」

 

 

「矢助は知らんかったようじゃな。わしが早くに注意しておくべきじゃった。すまんことをした…」

 

 

「そうか…。俺も沼に幽霊が出ると聞いたことはあったが、まさか本当だったとはな。」

 

 

「よし!次の満月の晩、俺が沼へ行ってその沼坊とかいうバケモノを退治してやる!矢助の敵討ちだ!」

 

ーーー 熊五郎が鼻息を荒くして言った。

 

 

ーーー そのとき、

 

「危ないことはやめなされ、熊五郎さん。悔しい気持ちはわかるが、お若い命を無駄にしてはいかん。」

 

ーーー 最年長の種吉じいさんが口をひらいた。

 

 

「そうですよ。熊五郎さんまでいなくなってしまっては、わたしら老いぼれは悲しくてどうしてよいやら」

 

ーーー お富ばあさんがつづける。

 

 

「なにを言うか。俺はそんなバケモンなんかにやられたりはせん。それに、沼坊がいなくなればアンタらも安心して夜道を走れるだろう。俺にまかせておけ。心配するな。」

 

ーーー それから一か月間、熊五郎は怒りの火をたやさず満月の晩を待ちつづけた。

 

 

 

 

 

最終章 沼坊

 

 

 

ーーー ついに満月の晩がやってきた。

 

 

 

「本当に行くのか?」

 

 

「あたりまえだ。矢助の仇、かならず奪い取って来る。」

 

 

ーーー 熊五郎はうなりを上げて走り出した。

 

 

 

 

ーーー 曲がりくねった線路を進むと、やがて例の沼が見えてくる。

 

 

ーーー しんと静まり返った沼のほとりに熊五郎のブロア音だけが低く鳴り響く。

 

 

「おい!沼坊!出てこい!」

 

 

ーーー 熊五郎が大声で叫んだ。

 

 

 

そのとき…

 

 

 

 

ーーー 前方にぼんやりと、奇妙な影があらわれた。

 

 

 

「出たな?クソッたれの化け物め!そうやってほっつき歩けるのも今日で最…

ドンッ

 

ーーー 突然、熊五郎の背後になにかが激突した。

 

 

「な…なんだ!!誰だ!?俺にぶつかったのは!?俺のうしろにいるのは誰だ!?」

 

 

「……………やめなさいと言ったのに…」

 

ーーー うしろから声がした。聞き覚えのある声だった。

 

 

「沼坊を……見てしまったね…?」

 

「その声は…!お富ばあさん…!?」

 

 

ーーー 前方から別の電車が来た。

 

「沼坊はな?わしらのせがれなんじゃ…」

 

 

「沼に落ちて死んだかわいそうな子じゃ。満月の晩に出てきてなんにもせんとうろつきよる。ほんとに、沼坊はなあんにもせんのよ。誰も傷つけたりせん。優しい子じゃ。」

 

「種吉じいさん…!」

 

 

「だからな?わしらが沼坊を守らにゃならんと決めた。沼坊を見た奴はわしらがみーんな沼に沈めてきた。どれもこれも沼坊を守るためなんじゃ」

 

「な…なにを言っている!?どういうことだ!?意味がわからんぞ」

 

「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

 

ーーー おぞましい声を上げながらふたりはにじり寄ってくる。


「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

 

ーーー まるで年寄りとは思えない力だった。

 

「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

 

ーーーやがてこらえきれず熊五郎は脱線した。

 

「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

 

「クソッ……どうしてこんなことを……!!!」

 

「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

 

「クソッ………!!!!!!」

 

「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」
「落ちてくれえぇ熊五郎」
「死んでくれえぇ熊五郎」

 

ーーーあの晩と同じ、巨大な水しぶきが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとうございました。

 

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