冷え込んできました。

この時期になると私は、とある欲望に心を占領されてしまうのです。

それはとてもとても歪な欲望であるため、皆さまからの軽蔑をおそれるあまり、申し上げることすらためらわれるのですが、勇気をもってここに告白させていただきます。

 

 

私は、風邪の少女を看病したいのです。

 

 

いえ、決してやましい下心などはございません。弱った少女を男の力でどうこうしようとか、そんなことはひとかけらも思ってはおりません。

ただ、どういうわけか、私は風邪気味の、儚げな少女にこの上なく惹かれてしまう性分なのでございます。

顔の火照った少女が私の布団で体を休め、十分に健康になったあと、礼もなく、なにも残さず去っていく。ただそれだけのことで、私はどれほど幸福になるでしょう。

 

 

しかし、私のなりをご覧になればお分りいただけますように、この世に私に看病を求める少女などいるはずもありません。

途方もない夢に胸を焦がしながら、冬が去るのを待つばかりでございます。

 

 

しかし……

 

そんなある日のことでございました。

 

そのアイデアは突如、私の脳内に閃き、その後数日私にとりついて離れませんでした。

 

 

それは、一種の禁忌のようでもあり、しかし、ごく簡単で、なおかつこの上なく魅惑的なものであったのです。

 

 

こらえきれず私は、ほうぼうで材料を買い集め、ほんの数十分で”それ” を作り上げてしまいました。

 

 

それはテクノロジーと言っても過言ではない、まったく新しいタイプの………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———ここは…いったい…?

 

 

 

———お目覚めですか?

 

 

———きゃっ!!

 

 

———驚かせてしまってすみません。道であなたが倒れているところを偶然通りかかりまして、だいぶお熱があるようでしたので、私の家にお連れしたのです。

 

 

 

———あなたは…誰?

 

 

 

———私は雨穴と申します。決して怪しい者ではありません。

 

 

———どうか遠慮なさらず、具合がよくなるまでゆっくりお休んでいってください。

 

 

———ありがとう…。

 

 

———食欲はありますか? 今、ご飯を用意しますから、少しだけ待っていてください。

 

 

 

 

 

———…ありがとう

 

 

 

 

 

 

(あつい)

 

 

(頭がぼーっとしてて、よく考えられない)

 

 

(ここは、どこなんだろう)

 

 

 

 

 

 

———お待たせしました。

 

 

 

———今ちょうど食材がなくて、残り野菜の雑炊しか作れませんでした。

 

 

———ふうううふううう

 

 

———熱いから気をつけて下さいね。

 

 

———……おいしいわ。野菜が細かくて食べやすい。

 

 

———ふううふううう

 

 

———みじん切りだけは得意なんです。

 

 

 

 

 

 

 

———はあはあ、顔が火照ってあついわ…

 

———それは大変だ。ちょっと待っていてください。

 

 

———これは私が考えた治療方なんですけど、

 

 

 

———こうやって、外の空気を顔に当てると気持ちいいでしょ?

 

 

 

———ふう…、気持ちいい。少し灯油のにおいがするけど、冷たぐで気持ぢいい。

 

ずず……ずずず……ずずずずずず……

 

 

 

———おや、だいぶ鼻水がたまっているようですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

———失礼します。

 

———よっと

 

ちゅううううぅぅぅぅうううううううううう

 

 

ずずずずずずずずずずずずず

 

 

 

ずうううううううううううう

 

 

 

 

 

 

 

 

———これも私が考えた治療法でしてね

 

 

———こうやって、むき栗を等間隔で並べて

 

 

———熱を吸わせるんです。

 

 

———本当は生栗のほうが効果があるんですが、安いし皮をむく手間がはぶけるので、私はいつもむき栗を使ってます。

 

 

———しばらくするとコメカミのあたりが、内側からじわーっとしてくると思うんですけど、それは効いてる証拠なので、少しだけ我慢してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———だいぶ熱、下がったみたいですね。よかったよかった。

 

 

———…色々ありがとう。これ以上いたらご迷惑だから、そろそろ帰ります。

 

 

 

———それは無理です。

 

 

 

———え?

 

 

———あなたは、帰れません。

 

 

 

———……なんで?

 

 

———だって…あなたは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おわり)

 

 

1.濡れるための傘