「みく、めちゃめちゃうまい新メニュー開発したで!」
中一の頃、寝起きの僕にキラキラ眼で親父が話しかけてきたのを覚えている。
親父は自営業でBARの経営していて、そのお店ではお酒の他に様々な料理を振る舞うらしく、当時は母親がお店に手伝いに行き、そこで作ったおつまみ等もよくお店で出していた。
ただ、親父も一人の男として母親の手を借りずとも店を回していきたい。という想いから出た、新メニューの提案だった。
「へー!どんなの?」
僕は食べることが好きなので、寝起きでもその話題に食いついた。
「名前はなぁ…たこ焼きボールや!」
「たこ焼きボール?」
そういうと、親父は僕の目の前に真っ白いまんまるおにぎりを出してきた。
「これや」
「これが?」
中身がどうなっているのか大方の予想は付いたし、食べてみたら案の定、具はたこ焼きだった。そして、あんましうまくなかった。
「どや、ええやろ?」
食べた感想。正直かなり微妙だなぁと思った。しかし、こんなにイキイキとしてる親父を見たことがなかったのでつい、
「アツアツだったら美味しいね!」
と、どんな料理にも当てはまりそうなことを言ってその場を収めてしまった。
親父は「せやろ~?」とニコニコしながら、今晩の出勤を楽しみに寝室へ向かっていったが、僕はとても心配だった。
翌朝。
親父はBARで働いているため、僕が学校の支度をしに朝起きる時間のちょい前に帰ってきている。なので起きると親父が夕飯を食べていることが多い。のだが、
その日は親父はすでに寝ていて姿はなく、その代わりにリビングのテーブルには山のように積まれたたこ焼きボールの姿があった。
「重い…」
持ち上げたりした訳でもないのに、何故かその言葉が口からこぼれた。
一つ手に取ると、冷え切ったたこ焼きボールが僕の体温をじわっと下げ、それと同時に思わないようにしていた想いが脳内を駆け巡った。
「もうやめてくれ!」
「絶対に流行らない!」
「たこ焼きとご飯でしか無い…」
「そもそもたこ焼きボールって何だ。たこ焼きもボールだろ!」
「そのまま…食べたい!」
…僕はなんだか切なくなり、せめてもと全部食べようと思ったが5個食べた辺りでギブアップし、残りは弟が食べた(中のたこ焼きだけ)。
それから二週間はたこ焼きボールが食卓に並んでいた(長い)。しかしある日、親父の「たこ焼きボール…もうやめるわ」宣言の元、パタリと姿を消した。
あの冷めたたこ焼きボールの味は今でも覚えている。
もう二度と作らないと思うし、二度と食べないけど、あの日親父が僕に見せたキラキラした目の光は、また見たい。