2日目

朝起きると猛烈にお腹が痛い。急いでトイレに駆け込むと藻みたいなウンコが出た。緑色のウンコを見て、「ああ、これはウサギのウンコ色だ」と、ひとりごちる。

 

 

めまいでフラフラ、視界も黄色く点滅している。手足が震え、謎に脈も速い。部屋にはハヤシライスの匂いが立ち込めている。ここは地獄か。何気なくテレビをつけると、

 

 

 

 

 

18_バナナの消費

 

バナナの消費量かなんかのグラフが映されていて、テレビを殴りそうになる。バナナ食いてえ。やはり草だけではカロリーが足りない。早急にカロリーのある食べ物を摂取しないと死んでしまう。とりあえず昨日のスギナ、ギシギシが余っているのでこれをマヨネーズで和えて食べる。

 

 

 

 

 

19_スギナのマヨ

 

 

スギナのマヨネーズ和えというよりは、マヨネーズのスギナ和え的な分量でマヨネーズを食べる。完全に人生で一番うまいマヨネーズだった。久々のまともな油分に胃袋が歓喜する。そしてこれほど腹が減っていてもスギナがマズいことに驚く。ウサギがグルメだなんて誰が言ったのだろう?

 

マヨネーズが効いてきたのか大分動けるようになってきた。テレビではヒルナンデスがやっているが、こいつらグルメしかやることないのかってぐらい飯の映像が出てくるので、目の毒だ。このままではテレビ局にクレームの電話を入れかねないので外に出た。いざ、食材探しの旅へ。

 

 

 

 

 

20_豊平川

 

やってきたのは豊平川の河川敷。天気はドシャブリの雨。湿った空気が先の暗鬱とした未来を暗示する。

 

 

ここでもひとまず最寄りの区役所に雑草を取っていいか電話で聞いてみる。食べるために取るとか言うとまたキチガイ扱いされそうだったので、「ボランティアで草むしりしているんです」と申し出るとあっさりOK出た。最初からこう言えばよかった。嘘は言っていない。

 

 

というわけで草むしり開始。

 

 

 

 

 

 

21_クローバー

 

昨日は採取できなかったクローバー

 

 

 

 

 

 

22_タンポポ

 

タンポポ

 

 

 

 

 

 

 

23_ねこじゃらし

 

ネコジャラシ

 

 

 

 

 

 

 

24_笹

 

ササ

 

 

 

 

取れる取れる。やはり河川敷は正解だった。あれほど渇望していたクローバーも山のように生えている。「うひょー!」と言いながら夢中でクローバーをむしっていると、近くのバスケットボールコートで遊んでいる高校生どもが不審そうにこちらを見てくる。「あ? お前らこそなんでこの土砂降りの中バスケなんかしてるんだ?」と言った体でしばらく視線を合わせていると、イケナイものを見てしまった風に目をそらす高校生達。なんかごめん。

 

その後もひたすら歩いて上物の雑草を探していたが、本格的に貧血っぽくなってきたため、草を持って自宅に戻る。牛脂が食いたい。なんだったらサラダ油をそのまま飲みたい。とにかくカロリーのあるものだったらなんでも構わない。取ってきた雑草を洗いながら足りない頭で今日の晩飯を考える。

 

 

 

そうだ! 天ぷらを作ろう!

 

 

 

我ながら名案。天ぷらなら大量の脂肪を摂取でき、カロリーも高い。何より天ぷらにすれば何でも美味くなるはず。さっそく天ぷらの作り方をググる。なになに? マヨネーズ、水、小麦粉を適量混ぜて? それを具につけて高温の油で揚げるだけ? これは簡単。というかここでもマヨネーズ登場。マヨネーズどんだけ万能なんすかって話。

 

 

 

 

26_てんぷら

 

ジュアアアアア。

 

 

 

 

 

 

27_てんぷら完成

 

ででーん! 「タンポポとクローバーと笹と猫じゃらしとスギナのかき揚げ」が完成!

 

 

食欲を誘う香り。なんだこれなんだこれ。確実に雑草生活史上一番のごちそうできちゃったわこれ。不味いはずがない。

 

 

 

 

 

 

28_たんぽぽ天

 

まずはタンポポの葉を……

 

 

 

 

 

 

 

29_たんぽぽうま

 

ウマすぎるでしょ。

 

 

え? 何コレ? 人生で一番うまい天ぷらなんですけど。はなまる寿司の天ぷらよりダンゼン美味い。

 

 

 

 

 

 

30_すぎな天

 

あれほど不味かったスギナも……

 

 

 

 

 

 

 

 

31_すぎなうま

 

 

うっま!

 

 

昨日までのクソ不味いスギナが嘘のよう。こいつ、火を通せばおいしかったんだ。適切な調理をせずに悪口ばっか言って本当にごめん。

 

 

満腹である。正直、この挑戦で満腹になれると思わなかった。天ぷらってすげえのな。こんなにも人を笑顔にさせてくれる。雑草でもうまくなるってんだからほんと天ぷら考えた奴は天才か。天ぷらの考案者に感謝をしつつ寝床につく。あと1日。この分なら超余裕だなと思いながら夢の世界に旅立つ。本当の地獄はここからだとも知らずに……。

 

 

 

 

体型の推移:

 体重58.8kg → 57.4kg→ 56.8kg (-2.0kg)

 体脂肪17.3% → 17.3%→ 17.1% (-0.2%)

 

 

 

 

3日目

朝起きると屁が大量に出た。挑戦中初めての屁だった。天ぷらが効いてると思われる。感動。屁が出ない状態ってやばいんだなと、テレビに映るアイドル達を見ながら思う。

 

 

 

 

 

31_めしをくれ

 

茶太郎が「飯を食わせろ」というポーズでこちらを見てくるが、確実に俺のほうが食ってない。

 

 

昨夜の天ぷらでかなりエネルギーは取ったつもりだったが、相変わらず貧血がすごい。もはや立ち上がれないレベル。ソファーで涎を垂らしながら寝そべっているとテレビでは相変わらずグルメ番組。もはや怒りすら湧いてこない。何か食べないと死ぬ。しかしもう外に出る元気もない。

 

 

震える手で茶太郎のエサ箱をまさぐる。茶太郎が「エサなの!? エサなの!?」と大はしゃぎするが構う気力もない。おもむろにウサギのエサを取り出し、皿に出してみる。

 

 

 

 

 

 

33_ペレット

 

俗に言う「ペレット」というやつだ。正直言ってウサギのエサには手を出したくなかったが、歩行困難なほど貧血がヤバいので仕方ない。無心で口に運んでみる。エグい。ナッツを不味くしたような味。ただ食べられないほどではない。雑草よりは確実にうまい。ボリボリとビールのツマミみたいに食べ進める。

 

 

 

 

 

 

 

34_エンハンサー

 

次にエンハンサーに手を出してみる。エンハンサーはウサギの食欲増進に使うエサだ。いわばウサギ界のフリカケ的な感じ。ペレットとともにエンハンサーを食べてみる。

 

 

エグい。味の変化は感じられなかった。何がエンハンサーやねん。しかしこの味の違いが分かるとはやはりウサギはグルメなのかもしれん。海原雄山ウサギ。エンハンサー、ペレット、ともにお椀にいっぱい盛って食べた。

 

 

————

 

昼。ペレットで力が出ると思いきや、状況は当然のごとく悪化していた。体もあれだが、気分の落ち込みがひどい。連続テレビ小説「まれ」がやっていたので観る。オープニングで美味そうなケーキが映り、土屋太鳳がケーキに指を突っ込みクリームを舐めあげるというフェラチオ的シーンがあるのだが、それを見ながら小声で「くたばれ」と呟いていた。呪詛を吐けるぐらいには体力が戻ってきたと肯定的に捉える。しかし精神がヤバい。

 

 

美味いものを食べるってのは人間にとって重要なことだと切に思う。不味いものを食べ続けると精神がおかしくなる。ここは一発美味い物を食べねば……! と天ぷらを作ろうとする。が、目眩がひどくてキッチンに立っていられない。

 

 

 

仕方がない。ここは……

 

 

 

 

 

36_ブロ葉&パパイヤ葉

 

茶太郎のオヤツをいただくことにする。天日干しにしたパパイヤとブロッコリーの葉だ。

 

 

言うてもオヤツですから。うまいに違いない。茶太郎が「俺のオヤツだー!」とケージをガシャガシャやるが「君にはあげませーん! ビローン!」と見せつけつつ、ブロッコリーの葉を食べる。性格が悪すぎる。いや、性格が悪くなったというのが正確。

 

 

 

 

 

 

37_ブロ葉パパ葉

 

肝心の味であるが、ブロッコリーの葉は口に入れた瞬間ブロッコリーの香りが口いっぱいに広がり鼻から抜けていくのが心地いい。味は無味に近かったが、風味がいいせいか食が進む。改めて食べ物って香りが重要なんだなと感動する。

 

 

一方で、パパイヤの葉は最低だった。噛めば噛むほど苦い汁がとめどなく出てきて慌ててお茶を飲む。が、舌に残った苦味が消えない。この残り味があまりに辛いので歯磨きをする。そこで気づく。歯磨き粉が甘くて美味しい。もう人として駄目かもしれん。

 

 

あと1日。正確にはあと残り10時間ぐらいだ。もうひたすら寝て持久戦に持ち込むことにした。ベットに寝そべり数分。夢の中で僕は高校生になっていた。

 

 

友人とカラオケで遊ぶ僕。友人の歌がひどすぎて不快に思った僕は何を思ったか友人に殴りかかっていた。だが僕のパンチを受けても友人は平気な顔をしている。「お前のパンチよっわ、よっわ」と馬鹿にしてくる友人。「だって貧血なんだもん! 貧血なんだもん!」と叫んでいる途中で起きた。夕方6時。夢の中でも貧血になっていた。

 

 

妻が帰ってくる。ハヤシライスを温めて食べる妻を横目にギシギシを口に運ぶ。苦い。苦いっていうか舌が痺れる。こんなに腹を空かしているのに相変わらずのギシギシである。毒草なんじゃないかと思う。レイプされた後みたいな目でソファに横たわっていると、見かねた妻があるものを持ってきた。

 

 

 

 

 

38_アクティブE

 

アクティブE

 

 

 

 

 

 

39_アクティブE

 

アクティブEはウサギのサプリメントである。ウサギは毛玉を吐くことができないため、毛繕いの際に口に入った毛が胃腸に詰まって毛球症という病気を引き起こす。アクティブEは、胃の中でウサギの毛を溶かしこの毛球症を予防する。いわば飼いウサギの生命線のサプリメントだ。

 

 

特に自分の毛を食べたりしていない僕がこれを食べたらどうなるか分からない。が、成分を確かめてみるとセルロースとか乳糖とか、何となく害がなさそうな気配。いけるかもしれない。迷わず口に運ぶ。

 

 

 

 

 

 

40_アクティブEうまい

 

 

うっま!!!

 

 

 

美味すぎて爆笑してしまった。正直、天ぷらに次ぐ美味さだった。味は甘みを抑えたラムネのような感じで、これは京都辺りで上品なスイーツになるに違いない。テンションの上がった僕はむさぼるようにアクティブEを食べまくる。「美味いよー美味いよー!」とむせび泣く僕を、妻はカメラで写真に収める。「こんな幸せ、ない! 甘いって偉大だよ! すげえ!! マジですげえ!!」と妻に力説。よく離婚されないものだと我ながら思う。

 

 

アクティブEを食べた後は再びベットに戻り、スマホで他人のブログの「1カ月コーラ生活」などを見ていた。世の中には僕に勝るキチガイなんてゴロゴロいる。自分はまだまだだ、次回は更なる高みを目指そうと誓う。でも、食べ物系のネタはもう二度とやりたくない。

 

 

夜22時。チャレンジ終了まで、あと2時間。おもむろに車に乗り込み、交通量の少なくなった道路をひた走る。アクティブEが効いたのか目眩が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

41_びっくりドンキー

 

23時。びっくりドンキーのテーブル席でひたすら突っ伏す。ときどき店員が来て「ご注文はお決まりでしたか?」と聞きに来る。「24時になったら頼みますので」とワケのわからない返しをする。店員が不審者を見る目で僕を遠巻きに囲んでいるが、関係ない。ただただ時間が過ぎるのを待った。

 

 

 

 

 

そして―― ついにその時が――――――

 

 

 

 

 

 

42_カウントダウン

 

24時まで3秒前。

 

 

 

 

 

 

 

43_カウントダウン

 

2秒前。

 

 

 

 

 

 

 

 

44_カウントダウン

 

1――

 

 

 

 

 

 

 

 

45_完結

 

びっくりドンキーさいこおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

 

 

 

3日間の出来事まとめ

3日間、ウサギの食べられる雑草とエサのみで生活すると……

 

 

・常に貧血になる

・区役所からキチガイ扱いされる

・鬱になる

・屁が出なくなる

・ボランティアで草むしりをするようになる

・天ぷらが世界一うまくなる

・朝ドラに毒を吐くようになる

・びっくりドンキーでバーグプレートを2皿行く

・その後、下痢になる

 

 

 

 

体型の推移:

 体重58.8kg → 57.4kg → 56.8kg → 56.4(-2.4kg)

 体脂肪17.3% → 17.3% → 17.1% → 16.3%(−1.2%)

 

 

 

 

 

地獄でした。もう2度とやりません。

 

 

 

 

 

(おわり)