MTG未経験者にも伝えたい寿司ドラフト
2023/02/02
By Roastpork Storm
当企画は「マジックを知らないプレイヤーでも、もっと身近な題材でならドラフトの楽しさを味わえるはず」という理念の元、マジック史上伝説と言っても過言ではない名企画【寿司ドラフト】のルールをお借りする形で開催された。
まずは寿司ドラフト開催にあたり、環境を定義するパックの選定からお話したい。
今回の寿司ドラフトはGP千葉で開催された物と比較し、以下のルールの相違点が存在する。
1・ドラフトブースターのランダム性を表現する為、寿司パックはそれぞれ別店舗のものを使用する
2・ピックされた寿司、卓上の残寿司は全て公開領域として扱う
3・最終的にジャッジによる評価を行う
1に関して、主催である筆者が当日にパックの選定を行った。パックの選定にあたり留意点が2つあり、1つが意図的にパック間のレア寿司の価値に差を付ける為、あえて値段の高いパックと安いパックを用意した事、もう1つが「可能な限りMTGの5色を取り入れる事」だった。
千葉GPの寿司ドラフト関係者であり、当日寿司パックの封入内容を決定した「カマニキ」氏は後の振り返り記事でこのように語っていた。
事実、千葉GPの寿司ドラフトではウニやいくらといったメジャーなレア寿司を押し退け、「なす」や「高菜」等、寿司ネタとしてはマイナーなネタの封入が目立った。
そして筆者のパック選定時も、この5色要素を取り入れる事に非常に苦心する。特に緑に関しては後に苦肉の策を以て対応する事となった。
寿司ドラフトの環境は白赤が圧倒的多数を占める。マグロやいくらを擁する赤、白身魚やえんがわ、いかの存在する白、ボロスカラーのサーモンやエビと、これらのカラーは強レアから優良コモンまで目白押しなのに対し、その他の3色はかなり意識しないと封入すらされないパックが存在する。
青はいわしやアジ、ブリなどの青魚を、黒は海苔巻きや軍艦を採用する事でなんとか確保したが、緑に関しては最後まで解決策を見い出せなかった。
当初の計画では《かっぱ巻/Cucumber Roll》の封入によってバランスを取る目論見だったが、寿司専門店のパックには案外かっぱ巻が搭載されておらず、結果として4パックの中に含まれた緑の要素は「ねぎとろのネギ」「いくら軍艦のきゅうり」「バラン」のみとなり、単一の緑のネタは一つも存在しなかった。
開催時のスタンダード環境(脚注・当ドラフト時の最新セットは兄弟戦争)の緑の苦心を象徴するように、寿司ドラフトでは一歩先に「一人去る時」が訪れているのかもしれない。
それではあまりにも緑の立つ瀬がない為、基本土地枠の「醤油」「わさび」「ガリ」の中に単品の「かっぱ巻」を加える特別ルールを制定した。
この「基本かっぱ巻」ルールは好評で、最終的に3名のデッキにかっぱ巻が採用される事となり、彩りとしての緑の面目躍如となった。
そうした思慮を経て選定された4パックを用いて、いよいよ寿司ドラフトが幕を開けた。
筆者のファーストピックは《うに/Sea urchin》。寿司における不動の人気レア枠の1つであり、デッキの主軸として個性を発揮する。ダブルマスターズもかくやというレア封入率の高い今環境においても役割を持てると判断した。
筆者の下家のみくのしんのピックに会場は騒然となる。
その初手は《サラダ軍艦/Salad of Sea》。環境での評価値の低いSoSを初手に選んだ衝撃と、その軍艦に隣接した《コーンサラダ軍艦/Salad of Corn》が付着するエラー寿司であった事から「反則ではないか」と糾弾される一幕があった。
会場の寿司ジャッジの判断により、このピックは適正と認められ、シーサラダ軍艦はエラー寿司でありながらSoSとSoC両方の効果を持つカードとしての採用が認められた。
後にみくのしんはこのピックを振り返り「色味が混ざって見栄えが悪いから(コーンサラダの混入は)正直要らなかった」と語った。
パックを回し、2手目のピック。
上家の永田のパックはうに、《いくら/Ikura》、《中トロ/Chuutoro,Medium fatty tuna》とレアの大盤振る舞いであり、それらの金脈がほぼ手つかずのままこちらに流れてきた。
ここで筆者の選択はまたもや「うに」。順当なピックを行えば真っ先に枯渇するレア枠であり、環境に6貫存在する「うに」「いくら」を集める事で《はらわた撃ち/Gut Shot》をデッキコンセプトとして組み立てる事を画策した。
なお、このピックを見た永田により「うに」はカットされ、次手に回ってくる事はなくなる。ドラフト未経験者に駆け引きを簡単に楽しんでもらう為の特別ルール「ピックは公開情報」が牙を剥いた。
また、同卓の原宿が「いくら」を連続ピックし、卓内のいくらを掌握する方向性を見せた事で「いくら」のピックも絶望的となる。
これにより《はらわた撃ち/Gut Shot》の成立が難しくなる外、うに→いくら→たまごとサイズアップを狙う《出産の殻/Birthing Pod》コンボも狙えなくなり、筆者の寿司タクティクスは既に瓦解していた。
3手目のピックは《いか/Squid》。うにをデッキの主軸とする方針は変えず、アーキタイプをプリン体ビートに転換する事で巻き返しを図る。その後合間に《たまご焼/Japanese omelet》を挟んでホタテ、かに、えびと続く。
なおピック基準は「プリン体が高そう」であり、実際に高いかはその場で知る由もない。(ドラフト中の電子機器使用は重大な反則となる)
ここでみくのしんが「カットしろ!」の怒号もものともせず「あんまり心惹かれない」という理由で下家に流した為、原宿が驚異の4連「いくら」ピックを達成。千葉GPにてコハダ8貫ピックを成し遂げた八十岡翔太を彷彿とさせる剛腕が唸りを上げた。卓のいくらを独占し、赤単いくらスライの基盤を盤石にした原宿の脅威が見過ごせなくなった。
一方で永田は非常にバランスの取れたピックが見て取れた。
注目するべきは《サーモン/Salmon》のピック。寿司環境頻出でありベストコモンとして名高いサーモンサイクルだが、今回の4パック内にサーモンが少ない事を見抜き、トロを始めとしたレアネタを差し置いてサーモンを早急にピックする頭脳プレーを見せる。MTGアリーナでもミシックランクに到達するドラフト力が見せた慧眼と言えよう。
一方で、サラダ軍艦のピックで参加者を驚愕させたみくのしんのピックも見逃せない。
サラダとコーンサラダを早めの手番でピックした特異性が目立つが、中トロ等のパフォーマンスの高いレアも着実に集めており、総じて受けの広いピックを成している。
ドラフト後半。
ドラフト初心者の原宿より「もうあんまり欲しいのないな……」と早くもドラフトのあるあるを体感する言葉が漏れながらも、残りのネタにもマグロやエビ等優良なカードは残存している為油断は出来ない。
筆者はここで《蒸しエビ/Steamed Shrimp》→《甘エビ/Sweet Shrimp》とエビの連続ピック。
下家の原宿のデッキは既に4連いくらによって十分な火力を有しており、ここでエビを流す事で受けの広さまで与えてしまうのはまずいと判断、積極的なカットを断行した。
が、その結果筆者の手元に残るネタが非魚系のみで固められてしまい、「寿司の盛り合わせに魚がない」というリミテッドでノンクリーチャーデッキを組むが如く愚行を犯す結果となった。
近年ではヘイトドラフトは勝利に結びつかないという説もあり、「人を敗北に導く前にまず自分の勝利をイメージせよ」という戒めを痛感した。
ゲーム終盤につれ、これ以上は必要ないという原宿がマグロを流し基本土地枠である《ガリ/Pickled ginger》をピックする等の奇策を見せ、ドラフトフェイズは終了。
当初のイメージでは寿司でいうハズレ枠と扱われるもの……かっぱ巻や稲荷寿司、タマゴ寿司等の非魚介ネタが最後の最後まで残るかと予想された。
が、今回の寿司パックの価格帯(1000円前後の3パック+1800円の当たりパック)においては露骨な弱ネタがそもそも封入されておらず、また平均P/Tの高い魚介中心環境においては「飽き」対策にタマゴがシルバーバレットとして重用される等予想外の活躍もあり、ラストピックまで《メバチマグロ/Bigeye tuna》等が回ってくる展開となった。
また、ハズレとして扱われるであろうとサラダ/コーンマヨを意図的に仕込んだが、こちらは参加者のみくのしんの好物であるとして早々にピックされる結果となった。
「このルールだと奪い合いになると思ったから早めに取った」と語る彼を前にすると、寿司ネタに勝手に優劣を付ける己の生き様を恥じるばかりだ。
ここからはデッキ構築フェイズ。
筆者のピックしたネタはうにが2枚といか、かに、ホタテ、甘エビ、生エビ、蒸しエビに卵焼き。
豊富なエビのバリエーションからエビ部族デッキも考えられたが、エビロードである《有頭エビ/Shrimp,Crown holder》をピック出来ておらず制圧力に欠ける事、強力なレアであるウニとのシナジーも弱い事からやはりプリン体ビートへアーキタイプを委ねる事にする。
ウニは2枚投入、エビからは生エビのみを投入し、勝ち筋を絞ったデッキのシェイプアップを図った。一見シナジーのない卵焼きだが、これは寿司デッキビルダーとしての個性を出したいおしゃれ枠といった所。
「何故寿司を減らす?」「プリン体ビート?」と同卓者から疑問符のぶどう弾が止まらないが、こちらももう引けない所まで来ているので無視して押し通す。
ピックした寿司の一部をサイドアウトしたのは筆者のみ。それ以外の参加者は、基本土地枠のガリとかっぱ巻を追加し、デッキの完成となった。
それでは、参加者それぞれのドラフトデッキを見てみよう。
まずは原宿のデッキ。
4《いくら/Ikura》
2《穴子/Conger》
1《蒸しエビ/Steamed Shrimp》
1《いか/Squid》
1《たまごの握り/Japanese omelet Sushi》
1《ねぎとろ細巻き/Negitoro,Minced thin roll》
1《かっぱ巻/Cucumber Roll》
1《ガリ/Pickled ginger》
メイン12
サイド0
※寿司ジャッジの判断により、細巻きは2つで1貫扱いという裁定
やはり注目するべきは4貫の《いくら/Ikura》だろう。卓の全てのいくらを掌握し、いくらから入り、別のネタを経由してまたいくらに戻る形でゲームのテンポを握るゲームプランとの事だ。
また、同じく卓内で独占した《穴子/Conger》の存在も目立つ。あえてマグロや光り物等のスタンダードな魚の握りを排し、穴子や蒸しエビ、たまごの握りという構成からはどこか子供に向けた構築を感じ、彼の寿司は常に我が子と共にある事を思わせる。
続いてはみくのしん。
3《中トロ/Chuutoro,Medium fatty tuna》
1《マグロ赤身/Tuna》
1《メバチマグロ/Bigeye tuna》
1《いか/Squid》
1《あじ/Jack mackerel》
1《いわし/Sardines》
1《ねぎとろ軍艦/Negitoro,Warship roll》
1《サラダ軍艦/Salad of Sea》
1《コーンサラダ軍艦/Salad of Corn》
1《かっぱ巻/Cucumber Roll》
1《ガリ/Pickled ginger》
メイン13
サイド0
ドラフト中も話題になったマヨ系軍艦2種が目立つが、まず注目するべきは《中トロ/Chuutoro,Medium fatty tuna》を3つ確保している事だろう。
中トロはそれだけで盤面を制圧しかねないボムレアであるのは間違いないが、他の参加者がそれぞれの思惑の中で下家へと流したこれを着実に回収。気付けばパック内の全ての中トロを確保していた。
この時点で勝利を決定づけてもおかしくないデッキだが、それ以外も赤身や青魚も添えて非常にバランスよく仕上がっており、「誰でも美味しく食べられる」という彼のコンセプトが表現されている。サラダ系も子供層への色対策といった様相を呈しており、初手の印象と反して優勝候補のデッキとなっている。
続いて永田。
3《マグロ赤身/Tuna》
2《サーモン/Salmon》
1《赤貝/Ark shell》
1《うに/Sea urchin》
1《有頭エビ/Shrimp,Crown holder》
1《タイ/Sea bream》
1《ブリ/Yellowtail》
1《いわし/Sardines》
1《かっぱ巻/Cucumber Roll》
1《ガリ/Pickled ginger》
メイン13
サイド0
まず、ひと目見てその美しさの分かるピックだと言える。「The Deck」ならぬ「The Sushi」と評して差し支えないこれは構築戦の寿司デッキと言われてもおかしくない完成度だ。(単に寿司を綺麗に並べるのが一番上手かっただけの可能性もある)
ピック戦略も非常に洗練されていた。
先に述べた《サーモン/Salmon》の確保だけでなく、その後も下家へのカットを行いながら卓内唯一の希少なネタをいくつもピック。これまた必須級と言える《マグロ赤身/Tuna》は、ドラフト後半に手付かずで回ってきたものを悠々と確保。先の先まで見据えた戦略により、永田は完全に寿司ドラフトを掌握。おしゃれ枠に特殊イラスト版のエビとも言える《有頭エビ/Shrimp,Crown holder》を搭載する余裕をも見せつけた。
最後に筆者のストーム叉焼。
2《うに/Sea urchin》
1《生エビ/Shrimp》
1《いか/Squid》
1《かに/Crab》
1《たまご焼/Japanese omelet》
1《ガリ/Pickled ginger》
メイン7
――――
1《蒸しエビ/Steamed Shrimp》
1《甘エビ/Sweet Shrimp》
1《ホタテ/Scallops》
1《マグロ赤身/Tuna》
サイド4
はい。
全員のデッキが出揃った所で、今回は寿司ジャッジによる判定により優勝者を決める特別ルールを設けた。
判定基準は「どのデッキを食べたいか」というシンプルなもの。寿司ジャッジが各ネタごとに加点、または減点を行い、その合計値が最も高いプレイヤーが優勝となる。
まず4位はストーム叉焼のデッキ。
「寿司が少ないから」というもうおっしゃる通りとしか言いようのない要因で敗退。早い段階で作戦が瓦解した時点で雌雄は決していた。
3位となったのは原宿。
焦点となったのはデッキの中心にもなっているいくら。
このいくらに鮭の卵ではなく鱒の卵のものが混合しているという点から評価を落とす事となった。
まるで『白枠のデュアルランドからはマナが出ない』の如き判定だが、寿司環境では《えんがわ/Engawa》を代表として「同名カードであっても性能の異なるネタ」が存在する事は周知の事実であり、寿司ドラフトの奥深さを体現する評価といえるだろう。
そして本大会の優勝は……
永田。ジャッジ曰く非常に僅差の争いとなった。
両者共にバランスのいい構築。特にみくのしんのデッキに入った中トロはジャッジも高い点数を与えた。
明暗を分けたのはマヨネーズ系軍艦の2種。本格派のジャッジによりこれらが減点とされ、一方で永田のデッキには一切の減点要素がなく、その僅かな差が勝敗を決するに至った。
しかし、勝者と敗者が決まったとは言えそれぞれのコンセプトがあまり干渉せず、約一名を除き概ね理想的なピックを貫く事が出来ている。
自由に好きな寿司を選べないドラフトという環境にあったからこそ、「理想の寿司とは何か」に改めて向かい合うきっかけになったのかもしれない。
一番どうしようもなかった人間が適当な事を言ってるなという感想は無視するものとする。
今回、「MTGを知らない人に、ドラフトというルールを楽しんでもらう」という試みだったがいかがだろうか。MTGというやや複雑な印象を持たれるゲーム、その中でも若干玄人好みのルールだが、寿司という身近な食べ物で噛み砕いて伝える事が出来たら、そしてそれに少しでも興味を持って貰えたら幸いだ。
こういう知らない人向けの謝辞は知らない人を置いてけぼりにしたテキストの最後に置くべきではない。
最後に。
当記事の執筆のきっかけとなり、多分に参考にさせて頂いた方への感謝を述べたい。寿司ドラフトという一見胡乱でありながらドラフトの本質を楽しめるイベントに関わった、カマニキ氏を代表とするGP千葉関係者、後年まで語り継がれる名カバレージを執筆された杉木貴文氏、及びプレイヤーの代表八十岡翔太氏にの皆様に、心よりの御礼とリスペクトを込め、GP千葉の寿司ドラフトを締め括ったジャッジの衝撃的な一言を当ドラフトでも引用し、カバレージの結びとする。
「You have 45 seconds to eat, You may begin.(45秒間の寿司を食べる時間があります。はじめてください。)」
参考記事
「八十岡翔太の寿司ドラフト」
https://mtg-jp.com/coverage/gpchi15/article/0015141/
「猫vs犬決戦と寿司ドラフト裏話」
https://mtg-jp.com/reading/kamaniki/0034259/
及び八十岡翔太氏各種ツイート