彼の存在を初めて意識したのは、5年前だったと思う。
彼の名前は、ピーくん。パチンコ屋のピーアークのマスコットキャラクターだ。
駅前にいたので近づいてみたら、元気いっぱい手を振ってくれた。丸くて大きな頭にずん銅の体、愛らしい仕草に心が和んだ。
ピーくんかぁ、なかなかかわいい子に出会えたな。そんな印象だった。
それから半年後、たまたまパチンコ屋ピーアークの前を通りがかり、ピーくんと再会した。
コスプレをしていた。
私は声を上げそうになった。そういうプレイもしてくれるんだ……!
シーズン的に運動会を意識しているのだろうか。ちょこんと乗った赤白帽がたまらない。
あと、だいぶ体が痩せている。身長は着ぐるみと同じぐらいだがモデル体型だ。だからコスプレがすごく似合っている。
隣に目をやると女子もいた。2体いた! よっしゃー!
なにがよっしゃーなのか自分でも分からないが、この沸き上がる興奮は本物だ。
頭がつるつるなので帽子をかぶるのに苦労しているようだった。(このあと直してあげた)
さらに感動したのが店頭ディスプレイだ。小さなピーくんのぬいぐるみによるささやかなお祭りが開催されていた。
びっしりだ……思わず息を飲んでしまった。かわいらしいピーくんもびっしり貼りついてると圧巻である。
私は人生で一度もパチンコやパチスロをやったことがない。だからこれまでパチンコ屋の前で立ち止まることなんてなかった。
だけど、こんな素敵なお祭りを見せられたら、見に来ずにはいられない。
数日後にピーアークの店頭を訪れると、今度は一糸まとわぬピーくんと会えた。
コスプレ姿と違ってオフという感じでドキドキする。きっとこれが基本スタイルなのだろう。
だけど、やっぱりピーくんのコスプレが見たいというのが正直な気持ちだ。
私はこまめに店頭をチェックしていくことにした。
2017年6月
梅雨を意識してレインコートを着るピーくんに会えた。スレンダーなのでふんわりした服がよく似合う。
2017年7月
七夕風の衣装に身を包むピーくん。ワンショルダーの浴衣を見事に着こなしている。
ピーくんの後ろにまわってみると、服が前後に分かれていることに気づいた。
頭とこぶしが大きいので、たぶん頭から服をかぶって着たり、腕を袖に通したりできないのだろう。工夫して服を着せていることに初めて気がついた。
完全なる球体の頭にはハチマキを巻かずに貼り付けるスタイル。
努力がすごい。涼しげな七夕の衣装から「ピーくんに服を着せてあげたい」という店員さんの熱い思いがにじみ出ていて感動してしまった。
2017年9月
ドラキュラのコスプレをするピーくん。9月に入って間もないがハロウィンの衣装をまとっている。早い。ピーくんは誰よりも季節のイベントに敏感だ。
左右のピーくんで対称になっているのがいい。ドラキュラの歯も仲良く片方ずつである。
ぬいぐるみの小さなピーくんたちもハロウィンを楽しんでいた。
驚くことに彼らは回る、じりじりと。そんなことをされたら、しばらく目が離せない。
2017年11月
ハロウィンの余韻に浸っている暇はない。ピーくんのクリスマスはすでに始まっている。コスプレはナマモノだ。
いつもピーくんの像は2体仲良く並んでいるのだが、もう1体はお店の出入口のほうへ移動したようだった。
もちろん移動したほうのピーくんの像もしっかりチェックしていく。
───長い。あまりにも帽子が長すぎて絶句してしまった。正確にはあまりにも長すぎる帽子も似合ってしまうピー君のかわいさに絶句してしまったというほうが正しい。
店頭の飾りつけにも注目したい。サンタ帽をかぶった小さなピーくんがさらに小さなピーくん人形を抱いているのを見て、私の母性がぶるぶると震えあがった。このまま小さな2人を連れ帰っていっぺんに養ってしまいたい。
じりじり回るピーくんたちもクリスマスコスプレを楽しんでいた。
トナカイの角がすごくしっくりきている。普段は人間の服も着こなしているが、動物ものもいけるようだ。人とも動物とも言い切れないふんわりした立ち位置のピーくんだからこそ、コスプレの自由度が高いのかもしれない。
だから立派なヒゲも様になってしまうのだ、ピーくんは。
2017年12月末
はんてんを着たあったかスタイルでお出迎え。すっかり年末モードである。
立派な正月飾りを抱えこむピーくん。そして延々と回る。とにかく私はこの無限にじりじり回るピーくんを眺めるのが好きだ。