知り合いのライブを見にライブハウスへ行った。

開演の5分前に着いたものの、お客さんの入りはまばらだった。

120人ほど入るフロアが半分も埋まっていない。この分だとスタート時間が押しそうだ。

待ち時間の穴埋めに、カウンターで注文したウーロン茶を1人でちびちびやる。

ふと見覚えのある女の子が目に入った。

私の友達の友達の彼女、エミちゃんだ。

遙かに遠い間接的な知り合いなので、声をかけるか迷う。

モジモジしていたら、エミちゃんのほうから話しかけてきてくれた。

「かとみさん! お久しぶりです!」

驚いた。名前まで覚えてくれてたなんて。モジモジしてる場合じゃなかった。

 

エミちゃんはとても可愛い女の子だ。

いつも笑顔でほんわか穏やかなオーラをまとっている。

話しているとつられて笑顔になってしまう。

私たちはニコニコしながらウーロン茶で乾杯した。

寄りかかれる壁際は人が固まっていて、自然と私たちはフロアの真ん中に行き着いた。

所在なくクラゲのように漂うのも2人なら悪くなかった。

開演時間になったが、フロアのDJは音楽を止める様子もない。

「ライブ始まらないですねぇ」

なんて言いながら、私たちのおしゃべりが始まった。

お互い近すぎない関係だからか、赤裸々な恋話で盛り上がった。

ウフフエヘヘと話し始めて15分ほど経った頃だろうか。

そろそろステージのサウンドチェックも終わりそうだ。

エミちゃんの子供のようにキラキラした瞳は、ステージに釘付けになった。

あぁ、なんて素直でかわいい子なんだろう。

私はすっかりエミちゃんのことが大好きになっていた。

たった15分間だったけど、楽しく過ごした時間を噛みしめる。

 

……言わないといけない。

 

私はエミちゃんに隠していたことがあった。

どうしてもひとつだけ話せずにいたことがあったのだ。

 

 

「エミちゃん……」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 

「私の足、ずっと踏んでない…?」

 

 

エミちゃんは「ギャア! 」と悲鳴を上げて足を持ち上げた。

「すいません! すいません!!」

私の肩をガクガク揺らしながらエミちゃんは謝り倒している。

違うの、エミちゃん。私はね、ずっとゾクゾクしていたんだよ。

15分間ずっとスマートな感じで足を踏んでくるから、すごく良かったんだよ。

……いや、私の気持ちはどうでもいい。

エミちゃんのほうは足裏に違和感はなかったのだろうか。

気になって尋ねると、エミちゃんはこう答えた。

 

 

「ずっとカーテンかと思ってました……」

 

 

私は思わず天井を仰いだ。

フロアの真ん中にカーテンはない……!

 

 

 

 

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