それと初めて出会ったのは2018年1月10日のことだった。
ティンバーランドのブーツに植木鉢が刺さっていた。
思わず花壇の前で立ち止まってしまった。あまりにもブーツだったから。
いや待てよ、もしかしたらブーツ風の植木鉢なのかもしれない。そう思って近づいて見たが、まぎれもなくティンバーランドのブーツだった。
なぜ……? 最初に思い浮かんだのはブーツの防水機能だ。それを植木鉢の受け皿として利用しようということなのだろうか。なんて大胆な活用術なのか。
ティンバーランドのブーツが園芸の世界で第二の人生を歩もうとしている。私は花壇の前でしばらく唸ってしまった。
2018年4月27日
3か月後、たまたま花壇の前を通りかかって、植木鉢が刺さったブーツのことを思い出した。
ブーツの様子が少し変わっていた。植木鉢がブーツに隠れるぐらいコンパクトになって、ほんのりおしゃれな雰囲気に。このサイズ感ならけっこう自然に見える。
これからティンバーランドブーツはどうなっていくんだろうか。本格的に気になってきたので、定期的に観察していくことにした。
2018年5月10日
2週間後に見に行くと、植物の茎がめちゃくちゃ伸びて花をつけていた。
ティンバーランドのブーツが小さな黄色い花を咲かせた。ティンバナだ。何だか分からないが感動してしまった。
調べてみると、どうやらこれはエケベリア属「養老」という多肉植物らしい。養老。すごいありがたい名前。
2018年7月10日
夏になった。ティンバナは落ちてしまったが、葉は青々と茂り、今にもブーツから溢れそうだ。
見慣れたからだろうか、ティンバーランドのブーツから植物が生えていることにだんだん違和感がなくなりつつある。
そういえばアイスが好きなのでよく食べるのだが、チーズタルト専門店でソフトクリームを注文したら、思ったよりそのまんまのチーズタルトが突き刺さってきたのでびっくりした。
あの時と同じだ。植木鉢が突き刺さったティンバーランドのブーツを初めて見た時と同じ衝撃。
私の生活の中にもティンバーランドのブーツは潜んでいる。
2018年7月19日
新たな花が出現した。小さなひまわりだ。寄せ植えしたのだろうか。前に咲いていたティンバナも黄色だったし、黄色いひまわりがとても合っている。
2018年9月11日
2か月後、多肉植物の株は減っていたが、ひまわりはまだ咲いていた。ひまわりって生命力があるんだな。
改めて近くで見たらめちゃくちゃ造花だった。ウワー! と声を上げそうになった。いや、造花でも全然いいんだけど、なんかショックだった。
2018年12月21日
秋が過ぎ、冬になった。
クリスマスムードの中で咲くひとりぼっちのヒマワリ。たくさんの植木鉢が並ぶ中の孤独なティンバーランドのブーツ。どこか寂しげだ。
だけど周りに流されない、そういう芯の強さも感じる。
真冬でも震えながらアイスを食べていると、クリスマスムードの中で平然とヒマワリを咲かせるティンバーランドのブーツが思い浮かぶ。何度励まされただろうか。私も寒さに負けず力強くアイスをかじった。
2019年5月8日
春になった。色とりどりの花で賑やかな花壇。
そういえばこのブーツと出会ってから1年ちょっとが過ぎた。ブーツの表面も苔むしている。もうすっかり花壇と馴染んでいるように見える。
2019年6月18日
そういえば去年の今頃は小さなティンバナを咲かせていたが、今年は見かけない。その代わりなのか葉が大きく育っている気がする。
2019年7月8日
夏になった。造花のひまわりと本物のひまわりの共演。1年経ってついに季節が追いついた。クリスマスに造花のひまわりを孤独に咲かせていた頃が懐かしい。
2019年7月12日
ひまわりが枯れた。季節が去っていった。
2019年8月16日
台風10号の影響で突風が吹き荒れている。ブーツ自体は重たいから大丈夫そうだが、造花のひまわりは今にも飛ばされそうだった。なんとか持ちこたえてほしい。
2019年9月3日
夏が終わった。造花のひまわりは無くなってしまったようだ。
いつの間にかメインの植物が変わっていた。ツヤのある丸っこい葉っぱで「金のなる木」という植物に似ている気がするが、親しみをこめて勝手に「ティン葉(バ)」と呼ぶことにした。
以前の寄せ植えしていた頃に比べると土部分に余裕がある。植物がシンプルな分、ブーツが強調されてこれはこれで趣があって良い。
そういえばスシローで「きのこ党いちごパフェ」の隣に「追いきのこ」があるのを発見して、ワクワクしながらセットで頼んだのだが、
造形がこわくなっちゃった。なんでも寄せ植えすれば良いわけじゃないらしい。
ティンバーランドのブーツのように、時には余裕をもって引き算する勇気を持ちたい。