サークル設営をしよう
「一方そのころ」
【Sideサークル】
一昔前のSSみたいな場面転換をしましたが近所のレンタルスペースに移動しただけです。
空調服を脱いだ途端、それまで空調服で軽減されていた分の猛烈な疲労感が襲いかかってきました。文明に頼り切った代償ですね。
コミケでは各サークルで頒布物をやりとりする「サークルスペース」が割り当てられますが、サークル側は自分で設営作業をする必要があります。
なので、サークル参加者は待機列に並ばず優先入場する「サークル入場」を行います。故に朝早く起きなくていいし元気な状態で会場に向かえるのですが、今日の俺は待機列で数時間野ざらしになっているので開幕から何故か満身創痍です。猫火事場でも狙ってるんでしょうか。
サークル入場するとこんな感じにパイプ椅子が折りたたみ机の上に乗った状態になってます。(実際の机のサイズ・椅子の数とは異なります)
本来はこんなのがずらーっと何百も並んでいるので壮観です。
ちなみに一部の大規模サークルや合体スペースを除いて、1サークルあたりに割り当てられているスペースは机の半分です。
なのでこっちはこうしときましょう。
これで隣は誰も来ません。
スペース設営に関してですが、勿論机に本直置きのストロングスタイルでも問題はないんですが、多少は体裁を整えたいというのがサークル側の心情でもありますよね。
まぁ俺は売れっ子サークルって訳でもないのでそれなりに……
まず運営提出用の見本誌にシール貼って
参加登録カード書いて
敷布引いて
印刷してきた本積んで
コピ本だけだと寂しいので既刊も乗せちゃって
来場者から見やすいように目立つお品書き立てといて
お釣り用意して(コピ本なので100円玉多めに)
値札書い……
やべ……いくらにするべきだ……?16Pだがコピ本だし原価的には100円貰えばなんとかなる……でもそれは全部捌ける前提の皮算用だしそもそもイベント参加費を考えたら印刷代以外では大赤字だ……
そもそも文字書きのコピ本いえど16Pで100円はあまりに安すぎるか……?相場を下回るような価格設定は他サークルに迷惑をかけてバッシングされる事もある……俺達弱小サークルならまだしもオモコロというメジャーなメディアで「コピ本は100円が相場」みたいに受け取れる記事にしてしまうと総スカンを喰らうかもしれない……記事を掲載してもらう立場で学級会の火種をバラ撒くのは避けなくては……
じゃあ……300円か?いや~でもな~文字で300円はな~……いやイラスト・漫画と比較して文字書きが下等という意味では決してないけどやっぱ絵と文字で1Pあたりの労力は違うし自分のテキストに300円出してくださいって言えるかっていうとな~……そもそも相場はいくらなんだ……?オフセかオンデマンドでしか刷った事ないからコピ本の相場気にした事ないな……推しサークルの本なら300でも500でも気にしないけど自分が頒布する側となるとな~……
う~~~~~~~~~~~ん
値札を書いて
出来ました。ポスタースタンドとかはないですけどまぁ標準的なピコ手スペースにはなったでしょう。
設営出来た……
サークル参加者としてはこの設営を終えて開場を待つ時間に、高揚感と同時に得も言われぬ不安感も味わいます。
もし誰も俺のサークルに来なかったらどうしよう。
「新刊ください」って一度も言われなかったらどうしよう。
コミケに至るその日まで漠然と抱いていた恐怖も最高潮になります。
場合によっては「30部搬入して35部持ち帰る」なんて事すら起き得ますからね(印刷所に同人誌の印刷を頼むと予備の部数が上乗せされて注文より増える事があります)
そして開場の時間です。
一人コミケ開場!
【一般参加Side】
「ふう~~~~~っ。ようやく入場出来たぜ。コミケは室内に雲が出来る位地獄って有名で実際男性向けジャンルの日の東館はサウナみたいになるけど、西館や南館はギリギリ空調の存在を感じなくはない位で比較的快適なんだよな~~~~」
「さて……」
「まずはあのサークルから回らないとな……」
(お、あの人お品書き見てんな……声かけてみるか)
「どうぞ見本ご覧になってください」
「大丈夫です!新刊と既刊一部ずつお願いします!」
「え……っ!ありがとうございます!1200円です!」
「はい、ちょうどです」
「1、2……はい!ではこちらどうぞ!」
※逆に閉会間際の万札は貨幣圧縮の点から喜ばれる事もあります
(あれ……?この既刊もしかして前のイベントで買ってたっけ……?)
(まいっか!コミケで1000円位ケチケチしたってしょうがないしな!)
「ありがとうございます!あの……Twitterでフォローしてますストーム叉焼って者です!いつも楽しませて貰ってます!」
「え~ストーム叉焼さん……あー!」
「Twitterのアイコンお見せしましょうか?」
「いや、思い出しました!ロコPの人ですよね!この前のガシャで悶絶しながら天井してませんでした?!」
「そうですそうです!」
「フォローっていうか相互じゃないですか!もー!先言ってくれればタダで渡したのに~!」
「いやいや!せっかく作った新刊なんですから!……あ、そうだ」
「これ差し入れです!これからも頑張ってください!」
「うわー!ありがとうございます!すげー嬉しいです!」
「ホントはチャーシューでも差し入れようかと思ったんですけど(笑)」
「それ皆にめっちゃ言われるんですけど、実は特に叉焼が好物って訳でもないんですよね」
「……え?!そうだったんですか?!」
「……それじゃ、これからも応援してます!頑張ってください!」
「……ありがとうございました!」
コミケ中止から早1年、1人コミケを決行する事により久々に薄い本を手に入れる事が出来ました。
勿論通販や電子書籍で購入する事は出来るのですが、実際に作者から新刊をゲットすると唯一無二の「熱意」が受け取れます。やっぱり対面の頒布じゃないと摂取できない栄養素ってありますよね。
そして薄い本を発行して手渡し頒布するのも久々でした。
同人誌を作る時って、スケジュールや金銭の問題は勿論の事、
「俺の本を欲しい人はいるのか?」
という不安が付きまといます。
これって面白いのか?考証が甘くて設定と食い違ってたりしないか?当日誰も手にとってくれなかったらどうしよう……
そんなもやもやとした黒い感情が、「新刊ください」の一言で綺麗サッパリ吹き飛んでいきます。自分の本が人の手に渡っていく瞬間は「同人やっててよかった」と心の底から興奮します。今日は家帰ってから死ぬ程エゴサして感想を漁りたいと思います。
いやー一日がかりの大仕事でしたが、嬉しさのあまり疲れも吹っ飛んでしましました。
やっぱり同人イベって最高!
虚し。
すみません、滅茶苦茶ウソ付きました。
やってみたはいいもののあまりの虚無感に全ての気力を失いました。
何が「新刊ゲット」だよ。
内容一言一句知ってるよ。俺が書いたんだから。
何が「自分の本が人の手に渡っていく瞬間」だよ。
所有権移ってねぇよ。発行した分全部お持ち帰りだよ。
この後レンタルスペースの原状復旧も一人でやるのでこの辺で失礼します。
撮影を手伝ってくれる友達もいなかったので。
それでは皆さん「本物の」コミケで俺と握手。
あ~~~~~~~~
早くコロナなんとかなってくれ~~~~~~~~
作中で作った芋煮の同人誌はこちらから読めます
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