平日の会議室。
ここに、4人の嘘つきが集まった。
ダ・ヴィンチ・恐山
嘘つき。
原宿
ホラふき。
ヤスミノ
虚言癖。
マンスーン
食わせ者。
「懐かしのアニメの話をするのって楽しいじゃないですか」
「楽しいですね」
「でも、世代とか地域が違うと共通の話題も違うし、盛り上がれるかどうかって運だと思うんですよ」
「うん」
「だからもう、全部ウソでもいいかなって」
「え?」
「ウソの懐かしいアニメの話でも、『あるフリ』をしてれば、なんか懐かしい気がしてくるんじゃないかなって思ったんです」
「なるほど」
「ウソって、全員に共通してウソだから、逆に共通言語なんですよ」
「コペルニクス的転回」
「やってみよう」
※これから出てくるアニメの記憶は
すべてウソです。人に言わないでください
機骨龍限界シンイチロウ
「僕の世代はロボットアニメがかなり流行ったんですけど、その中でも知る人ぞ知る作品だったのが『キコツリュウゲンカイ・シンイチロウ』っていう」
「キコツリュウ……?」
「文字の想像がつかない」
「『機骨龍限界 シンイチロウ』です。これは名作でしたね。」
「『シンイチロウ〜!』」
「『イエス、サー!』」
「あ、冒頭?」
「冒頭。龍の形のオーラが空に立ち上っていて、『シンイチロウ〜!』っていう女の人の声が響いて『イエス、サー』で出撃、で、ヘルメットの光がこうピカーンて輝いて……」
「♪夢に瞬く~」
「いや知らん」
「ロボットアニメってぜんぜん観てなかったんですよねえ。世代じゃないし」
「おい、ウソに話を合わせてくれる趣旨だろ」
「どういう話なんですか?」
「宇宙からロボット兵が侵略しに来て、シンイチロウが巨大ロボット『機骨龍』で戦うって話なんですけど、この機骨龍が要は化石なんですよ」
「化石に乗って戦うんだ。新しいな」
「古代文明が遺したロボットの化石ね。それじゃなきゃ戦えないし、新しく作れないオーパーツだから、毎回掘るところから始まるっていう」
「えっ、掘るの?」
「乗るたびに埋めてるってこと?」
「いや、機骨龍は使い捨てなのよ。一回で耐用限界に達してサラサラサラ……って砂になっちゃうから、毎回あたらしいのを掘るしかないの」
「めんどくさっ」
「だから機骨龍限界シンイチロウなんだ」
「だからもう永遠に掘ってるんですよ、シンイチロウとその財団みたいなやつらが」
「コスパわり~」
「いつも緊迫感がすごいわけ。『次の襲撃に我々の発掘は間に合うのか?』」
「緊迫するところそこなんだ」
「発掘もね、壊しちゃいけないからハケで少しずつ掘り出していくっていう……。シンイチロウは、ハケを使うのが速いっていうとこから博士に見初められた男なんで」
「ハケ持ってる主人公ほかにいます?」
「『君のハケは速いねえ…』」
「あ、博士のモノマネだ!」
「銀河万丈の声でね」
「パイロットとしての実力ではないのね。技師になればいいのに」
「冷静に考えるとそうなんだけど、シンイチロウはすげえ博士にハマってるんですよ。もうなんかシンイチロウじゃなきゃだめだわみたいな感じになってて。他のパイロット候補とかもいるんだけど、なんかやっぱシンイチロウだよね~っていう空気」
「なんか嫌な抜擢のされ方だな」
「で、ラストがすごい」
「どうなったんですか?」
「最終話『化石が足りない』」
「本当にラストだ」
「機骨龍を掘りすぎて、全部枯渇しちゃったんですよ。だからもう、戦えないっていう」
「環境問題みたいだ」
「今思うとそういうメッセージだったのかもなあ。石油がなくなるとか言われていたころだったし。で、最終回は敵のロボット兵のボスとシンイチロウがテーブルを挟んで対話するんです。30分」
「渋!」
「それなんか制作上のトラブルがあったんじゃないですか?」
「そうだったのかもしれない……。で、地球サイドとしては、こっちはもう機骨龍なくても素手で全滅するまで戦うぞと。対して宇宙人は、いや、それはちょっとこっちとしても都合が悪いぞと。じゃあもう少し時間かけて考えてきますみたいなグダついた感じで、解決とかないまま終わって……衝撃的だったよね」
「80年代衝撃的だったアニメ、イデオンかシンイチロウかっていうの、そういう意味だったんだ」
「『機骨龍ー!エンドレスチャイム!ポリーン』」
「何?」
「『機骨龍エンドレスチャイム』っていう技だったんですよ、シンイチロウの。それを聞くとロボット兵たちは苦しんで、ビビビビってなって、倒れていくっていうね」
「あ、音で戦うんだ……音で!?」
「機骨龍は毎回ティラノサウルスタイプとかプテラノドンタイプとか変わるんだけど、技は全部チャイムですね」
「早くスパロボに参戦してほしいな」
ひとみ☆コンストラクション
「僕はこれ、たぶんリアルタイムで見てたやつなんですけど、『ひとみ☆コンストラクション』っていうのがありましたね」
「はいはいはいはい」
「見てたかも」
「コンストラクションって工事という意味なんですけど、まあ、土木施工管理技士のひとみの話なんですよ」
「コアなテーマ」
「大手ゼネコンが出資したアニメでして、土木業っていわゆる『3K』みたいなね、苦しい、汚い、キツいみたいなイメージがあるので、印象アップのために作られた10分アニメですね」
「まあ基本的には、工事の大変さとその意義深さを伝える内容だったんですけど、記憶に残ってる回もあるんですよ。橋梁点検士の資格をとる回とか……」
「キョウリョウ……?」
「橋を点検する資格です。橋梁点検士の資格ってめっちゃくちゃ取るのムズいんですよ。でも、ひとみの先輩がそれを取って『先輩スゴい!』ってなるんだけど、実は偽造免許だったっていう」
「すげえな、まじの犯罪だもんな」
「後輩に良い姿を見せたいっていう気負いが不正を生んでしまったという悲しい話でしたね。よく覚えてます」
「めちゃくちゃ罪重いですよ、市民の命かかってるのに」
「なんかリアル志向なアニメなんだ」
「そうですね。ひとみは富山県の工事会社で働いてるんですけど、冬場は雪が降るんで工事できなくなるんですよ、だから高速道路の除雪車に振られるんですよ、バイトで」
「うんうん」
「除雪車の仕事ってその専門でやってる人は少なくて、冬場に仕事がなくなったいろんな会社とか農家の人が、詰所に集まって来るんですけど、農家の人とめちゃくちゃ揉めるっていう回もありました」
「よく知らないけどありそうで嫌だな」
「アニメで見たくないな~」
「絵柄は『Piaキャロットへようこそ!!』みたいな感じなんですけどね。声優も主演が椎名へきるで」
「そこはストレートなのに物語が変化球すぎるな」
「今思うとコンセプトが早すぎたのかなって思います。今だったら『SHIROBAKO』とか、お仕事系のアニメっていっぱいあるから」
「たまに、工事現場にいるおじさんのトラックに『ひとみ』のストラップついてたりするよね」
「経年で色が落ちて白くなってるやつ」
「パチスロにもなってたりするので、意外と人気はあったのかな……?」
首少女ニラ
「ちょっと古いんですけど、キッズステーションでやってた世界名作劇場のアニメに、思い出深いのがあります」
「あったねえ、ペリーヌ物語とか」
「ラスカルとか小公女セーラとか。で、あんまり語る人いないんですけど『首少女ニラ』ってのがあって」
「首少女…?」
「首少女ニラ?」
「ニラは女の子の名前です」
「タイのホラー映画?」
「貧民街出身の孤児の女の子のニラが、上流階級の召使になったところからどんどん成長して、結婚相手を見つけるみたいな話なんですけど」
「いかにも名作劇場っぽい」
「そうそう。ニラは元気だけが取り柄で、教養もないしガサツな子なんですけど、一個だけ、目に見えて人と違うところがあって」
「あの、首がめちゃくちゃ強いんですよ」
「はははは」
「だから首少女」
「首が異常にたくましいんで、町のみんなには首少女って呼ばれてる」
「だからってそんな通称」
「捨て子だったころ、子供だけを集めた労働施設みたいなところでめっちゃ働かされるシーンから始まって、大人からすごい暴力とか受けるんですけど、ニラだけはこう……殴られても全部首で受けるんです」
「すごいなー、普通、急所だよ」
「『なんだオマエは!』『こいつ、首が強いんだよ!』って罵られて。」
「言われたニラも自分で驚いて、『首が!?』効果音が反響して、ターンターンターンターン…」
「自分にはなにもないと思ってたけど、個性に気づくターニングポイントだ」
「『1820年、少女ニラは、自分の首が強いことに気づいたのです』」
「ナレーションだ」
「最初は人より首が強すぎるってことにやっぱ悩んだりするんですけど、やがて貧民窟を抜けて、富豪の召使として働き始めたときに、富豪の一人息子が『君の首は本当に強いね』」
「『そう?わたしの首って強い?』『すごく強じんな首を持っているよ』『ニラは、この時初めて恋に落ちました』」
「いいシーンですね。今まで、あんまり良く思ってなかったですからね」
「でまあ、その後は、富豪の財産を狙う悪党とかを、全部首の力でやっつけていくっていう」
「カッチカチなんだね」
「でもこれ悲劇なんです。最後、首が折れて死んじゃう話なんですよ、悲しいことに」
「限界を迎えちゃうんだ」
「ニラの首自慢があまりに有名になりすぎちゃって、なんか、ニラを地面に寝かせて馬車で轢いてみようっていうショーみたいなのをやらされることになって」
「倫理観のかけらもない」
「で、恋人は『やめろー!』って言うんですけど、『いいわ、わたしの首、強いから。だってあなた、首強いって言ってくれたじゃない』」
「愛を証明するためにもやっぱやんなきゃって気持ちになっていくよね」
「悲しいすれ違い」
「で、馬車がパカパカパカパカって迫って来て……『ニラー!』」
「で、普通にダメだった」
「馬車は無理だった」
「泣けますね」
「最終話のサブタイトルが『ニラ、馬車ほどでは』だったんで、見る前からわかってたんですけどね」
「力を持った者っていうのはそれを試したくなるっていうさ、そういう寓話でもあったよね」
「ほんとは違う結末だったらしいですけどね。放送中に、視聴者の女の子たちが『自分も首を強くしよう』って、壁に首をぶつけたりとか危ないことをしたから、スポンサーからクレームが入って。宮崎駿がしぶしぶ描き換えた」
「宮崎駿が関わってたの?」
「ニラの話されると機嫌悪くなるから、宮さんは」
「鈴木プロデューサーも止めに入る、その話題はちょっと……って」
バックステップ翔
「そういえば、最近『TENET』って映画を観たんですけど、昔見てたアニメとめっちゃ似てんじゃんと思って」
「なんだろう?」
「『バックステップ翔』です」
「あー!」
「『バックステップ翔』っていうSFギャグアニメみたいなのがあったんですよ」
「どういうアニメだったんですか?」
「主人公の翔はバックステップしてる間だけ時間が戻るんですよ。こう、普通に歩いてると時間が進むんですけど」
「バックステップすると周りの時間が戻るんですよね」
「言われてみればTENETそのもの。ノーラン監督……やったなあ!」
「ストーリーはあんなに重くないんですけどね。翔は悪いやつじゃないんで、友達がちょっとミスっちゃったら、自分がバックステップして時間を戻してあげるみたいな話をずーっとやってた」
「スケール小さいなあ」
「でも、バックステップをすると、逆行する時間と翔の間で時空のズレみたいなのが起こっちゃうんで。バックステップすればするほど翔の存在が薄くなっていくという不穏な要素もあります」
「どういう原理?」
「最終回はシリアスなんですよ。地球に隕石が落ちてもうダメだってなったときに、翔が覚悟を決めてバックステップし続けて、時間を戻すっていう」
「夕日をバックにバックステップをひたすら続けて、時間を戻していくシーンは圧巻」
「そうそう。長く伸びた翔の影がだんだん小さくなっていくのが泣けるんですよ。みんなと出会う前まで戻ったあとに翔は消えて、最初からいなかったことになる。誰も翔を覚えていないっていうラストですね」
「泣けるな~」
「サイドステップをする回もあった」
「あった」
「サイドステップの時は並行世界に行っちゃう」
「ボックスステップを踏む回もある」
「一歩踏むごとに過去・並行世界・未来・並行世界を行き来するから、映像が目まぐるしく変化してすごいんだよね」
「最終回で落ちた隕石も、実は本来は平行世界だったんじゃないか? 翔が隕石のある時空を選んでしまったんじゃないか? って考察もあって……」
「主題歌は誰でしたっけ」
「影山ヒロノブです」
「映像はダンサブルなのにあんまり合ってなくて……」
この後も「無いアニメ」の思い出話は続きましたが、キリがないので割愛いたします。
ちなみに、会話中で登場した『首少女ニラ』のキービジュアルはこちらです!
現在、Amazonプライムビデオ、Netflix、Hulu、U-NEXTでの配信等はしていません。無いので。
作画:ビュー