こんな本を買った。
追悼文大全。
共同通信が1989年から2015年までに配信してきた著名人770人の「追悼文」だけを集めた本だ。
読んでいて飽きないし、読みきれないくらいボリュームがある。
社会に何かを残してこの世を去った人に、私たちは様々な感慨を抱く。悲しみや無念だけではなく、感謝やねぎらいの気持ちもある。どの人生も唯一無二のものであり、生きている人の記憶に刻まれている限り、その人生は消えることがない。(p.Ⅰ)
とあるように、追悼文は現世に残った人々に亡くなった人の記憶を強くとどめてくれる。
この本をしばらく読んでいたら、フツフツと
追悼文を書きたい!
という欲望が湧き上がってきた。
別に「誰か死ね」と不謹慎なことを思っているわけではない。今のままだと、家族、同僚、友人……いずれ「その日」が来たとき、自分がうまく言葉を紡げないような気がしたのだ。準備できる結婚式などと違ってこういうのは突然である。
告別の場で読みあげる追悼のスピーチ。いまのうちに練習しておくことはできないか。
とはいえ、生きている知り合いの追悼文を勝手に書いたりしたらこっちが殺されそうだ。
そうだ。
スーパーマリオの追悼文を書こう。
まずは追悼の心得を知る
マリオはよく死ぬ。しかし、その死が顧みられることはほとんどない。
いくら生き返れるとしても、たんなる残機の増減としてしかマリオの死をとらえられないのはマリオに対して失礼ではないか。
というわけで、マリオの追悼文を考えてみたい。
しかし書き方がわからない。
千葉葬儀社アスカグループ|追悼文の心得
https://www.asuka.gr.jp/sougi/kihonchisiki/okuyami_reibunshuu/tsuitoubun/
「追悼文 書き方」で検索してみたらこちらの記事がトップに出てきた。
悔やみ状に込める内容
1 逝去を知った驚きや悲しみの気持ち
2 故人の人柄や功績を偲び死を惜しむ言葉
3 遠方等のため、告別式に参列できない(なかった)お詫び
4 同封した香典をご霊前に供えるお願い
5 遺族の気持ちを慰め、励ます言葉
6 故人の死を悼み冥福を祈る言葉などを書きます。引用元
(https://www.asuka.gr.jp/sougi/kihonchisiki/okuyami_reibunshuu/tsuitoubun/)
これは悔やみ状なので少し追悼文とは違うが、なるほどという感じだ。
他にもいろいろなサイトや本を参考にしてみて、以下のことがわかった。
追悼文やスピーチの心得
●基本的に定形はない。自分の心境を率直に書くのが大切
●訃報に触れた自分の感情を表現する
●その人が遺してくれた業績を伝える
●自分にとって、その人がどういう人だったのかをエピソードを交えて伝える
さっそく、書いてみようと思う。
マリオの追悼文を書く
最初は、マリオの訃報に触れたときの気持ちを正直に書くべきなのだろう。
マリオの死を知った時、私は何を思うだろうか。
書いてみよう。
故・マリオさんによせて
マリオさんが崖から転落して息を引き取ったという報を受け、「ミスった」と思いました。
違う。
こういうことじゃない。たしかに正直ではあるが、これはお悔やみではない。悔やんではいるが。
マリオの場合、自分が操作するから感情移入のあり方が独特になってしまう。いったん、マリオを他者として捉えるべきだ。
マリオさんが崖から転落して息を引き取ったという報を受け、「早すぎる」と思いました。ステージは2-1でした。
こういう感じか。
誰しも、大切な人を亡くしたら「早すぎる」と思う。遅すぎるということはない。マリオだってそうだ。まだ2-1だし、そういう意味でも早すぎる。
次は、「故人の人柄や功績を偲び死を惜しむ言葉」を考えたい。功績に関してはいくらでも語れそうだが、意外とマリオの人柄についてよく知らないことに気がついた。
私はマリオのゲームを累計1000時間くらいは遊んでいると思うが、腹を割ってマリオと向き合い、酒を酌み交わし、語り合った経験は皆無といえる。
私が卒業後の進路について悩んでいたとき、相談した相手はマリオさんでした。マリオさんは、思いつめた私に笑ってこう言ってくれましたね。
「人生はハテナブロックと同じ。叩くまで何が出るかわからないもんさ」
そのまま終電が終わるまで私の話を聞いてくれました。胸がジーンとしたのを覚えています。これが目指すべき人間か、と思いました。
いや、そんな経験はない。マリオとサシで飲むわけがない。
やっぱりエピソードを捏造するのはよくない。深い間柄でなくても追悼文は書けるはずだ。
最初にマリオさんの声を聞いたのは、『スーパーマリオ64』を起動したときです。マリオさんは、こう言ってくれましたね。
「イッツミー マーリオ」
そのまま私はマリオさんの顔を歪ませるゲームに熱中しました。胸がジーンとしたのを覚えています。これが64ビットマシンの性能か、と思いました。
知らない人に説明すると、マリオ64は起動すると顔だけのマリオが出てきて、顔のパーツを引っ張ったり縮めたりして遊べたのだ。私はあれが好きだった。
今でこそ3Dゲームがあたりまえの時代だが、当時は「ポリゴン」というだけで目新しかったのだ。マリオに声がついたのも革新的だった。
思い出すことがたくさんある。
こういう個人的なマリオのエピソードが記憶となり、人々の心に刻まれるのだ。
マリオさんは、成長をやめない人でした。ドット絵だった頃には想像もできないようななめらかな立体になって、みんなを驚かせていましたね。
それでいて、つねに天真爛漫、初心を忘れない人だったと思います。そういうところは、最期まで変わりませんでした。
もうあの「マンマミーア」を聞けないと思うと、残念でなりません。
いいんじゃないだろうか。
マリオという存在とこんなに真正面から向き合ったのは初めてだ。
他にもマリオの長所を探してみよう。なんだろう……「ジャンプ力」?
「ジャンプ力」かな。マリオといえば。
マリオさんは跳躍の人でした。
マリオさんのジャンプ力は私のあこがれです。身長の何倍もの高さを軽々と飛び越えるマリオさんを見て、なんてすごいジャンプ力なんだろう、私もああなりたいと思ったものです。
ジャンプしているときに鳴る「ポイーン」という音は、結局どこから出ていたのでしょう。今となっては、その謎を解くことも叶いません。
初めて気づいたが「ジャンプ力」って言葉、告別式には不釣り合いだな。
あと、マリオはなんでもやれるところもすごい。
マリオさんほど好奇心旺盛で、何にでも手を出して、それを形にした人はいません。
配管工として、カーレーサーとして、テニスプレイヤーとして、ゴルファーとして、医師として……。
共通しているのは、人々を笑顔にしたいという動機だと思います。そんなあなたにとって、職業などというくくりは些末なものにすぎなかったでしょう。
「マリオの職業って、一体なんなの?」と問われたら、私はこう答えます。
「マリオの職業は、スーパーマリオだよ」と。
ところで、マリオの告別式には誰が来るのか。
ルイージやピーチ姫は当然として、ヨッシー、キノピオ、ドンキーコング(※)、ワリオ、デイジー、ロゼッタ姫なども当然、参列するだろう。
※葬儀仕様の黒いDKネクタイをつけている
クッパ大王は来るだろうか?
来るにちがいない。ちょっと遅れて来る。クリボー、パックン、ノコノコ、ヘイホーなどのクッパ軍団も引き連れて来る。テレサがいると空気が読めていない感じになるので辞退していただく。
そうだ。クッパとの確執について触れないわけにはいかない。
マリオさんとクッパさんは、ほんとうは憎み合ってはいなかったんじゃないでしょうか。勝手なことを言ってごめんなさい。でも、お互いにとって本気で戦える相手は、人生でとても貴重だと思うんです。しっぽを掴んでフルスイングで爆弾にぶち当てられるような関係って、私には少し羨ましかったりします。
マリオさん。
彼がまたピーチ姫をさらったら、取り戻しに駆けつけてくれますか?
号泣するクッパを想像したら、自分まで無性に悲しくなってきた。
そろそろ締めに向かおう。
私には、いまだに信じられません。
もうマリオさんがいないという実感が湧きません。もう残機はないというのに。
今にもあの土管から元気なマリオさんが飛び出してくるのではないかと、そう考えてしまいます。
悲しいな……。
それもこれも、生前のマリオさんが放っていた圧倒的な存在感ゆえでしょう。
たとえスターを取らなくても、あなたはスターでした。無敵で、光り輝いていました。
マリオさん。あなたのジャンプが描いた軌跡は、今も、そしてこれからも残り続けています。
できた。
書いてたら、なんか普通に泣きそうになってしまった。
いろいろ整えて全文を載せてみる。参考になれば幸いだ。
故・マリオさんによせて
マリオさんが崖から転落して息を引き取ったという報を受け、率直に言って「早すぎる」と思いました。ステージは2-1。パタパタをよけようとしての、不幸な事故だったと聞いています。
最初にマリオさんの声を聞いたのは、『スーパーマリオ64』を起動したときです。マリオさんは、こう言ってくれましたね。
「イッツミー マーリオ」
私はマリオさんの顔を歪ませるミニゲームに熱中しました。胸がじん、としたのを覚えています。これが64ビットマシンの性能か。
マリオさんは、成長をやめない人でした。ドット絵だった頃には想像もできないようななめらかな立体になって、みんなを驚かせていましたね。
それでいて、つねに天真爛漫、初心を忘れない人だったと思います。そういうところは、最期まで変わりませんでした。
もうあの「マンマミーア」を聞けないと思うと、残念でなりません。後悔ばかりです。
無限1UPをやっておけばよかった。ついそんなことを考えてしまいます。
マリオさん、あなたは跳躍の人でした。
マリオさんのジャンプ力は私のあこがれです。身長の何倍もの高さを軽々と飛び越えるマリオさんを見て、なんてすごいジャンプ力なんだろう、私もああなりたいと思ったものです。
ジャンプしているときに鳴る「ポイーン」という音は、結局どこから出ていたのでしょう。今となっては、その謎を解くことも叶いません。
そして、マリオさんほど好奇心旺盛で、何にでも手を出して、それを形にした人はいません。
配管工として、カーレーサーとして、テニスプレイヤーとして、ゴルファーとして、医師として……。
共通しているのは、人々を笑顔にしたいという姿勢。そんなあなたにとって、職業などというくくりは些末なものにすぎなかったのでしょう。
「マリオの職業って、一体なんなの?」と問われたら、私はこう答えます。
「マリオの職業は、スーパーマリオだよ」と。
マリオさんは、そこにいるだけで人が集まってくる不思議な魅力がありましたね。告別式にも、こんなにたくさんの人が集まっています。マリオさんの人望ゆえだと思います。
最後の「マリオパーティ」がこんな形になるなんて思いもしませんでした。
ほら、マリオさん。見えますか?
クッパさんも来てくれましたよ。カートで。
マリオさんとクッパさんは、ほんとうは憎み合ってはいなかったんじゃないでしょうか。
勝手なことを言ってごめんなさい。でも、お互いにとって本気で戦える相手は、人生でとても貴重だと思うんです。しっぽを掴んでフルスイングで爆弾にぶち当てられるような関係って、私には少し羨ましかったりします。
マリオさん。
彼がまたピーチ姫をさらったら、取り戻しに駆けつけてくれますか?
そうそう。この音楽が聴こえますか。式が始まってからずっと、あなたの好きだったメタルマリオのBGMを無限ループで流しています。マリオさんは湿っぽいのが苦手でしたから、明るい曲のほうがいいだろうというルイージさんの気遣いです。
「兄さん、ルイージマンションの続編に出てくれないかな」なんて、彼、泣き笑いで言ってましたよ。
ほんと、早すぎますよ。
私には、いまだに信じられません。もうマリオさんがいないという実感が湧きません。もう残機はないというのに。
今にもあの土管から元気なマリオさんが飛び出してくるのではないかと、そう考えてしまいます。キノコ王国はずいぶん寂しくなってしまいました。
それもこれも、生前のマリオさんが放っていた圧倒的な存在感ゆえでしょう。
たとえスターを取らなくても、あなたはスターでした。無敵で、光り輝いていました。
マリオさん。あなたのジャンプが描いた軌跡は、今も、そしてこれからも残り続けます。それはきっと、後続のプレイヤーたちの道標となり、攻略を手助けしてくれるでしょう。
最後のあいさつです。マリオさん、本当にありがとうございました。またリセットして会いましょう。
おわりに:ワリオの追悼文を書く
その肉体とともに常識では考えられないほどの凄まじい生命力の持ち主で、『ワリオランド』シリーズでは、ショルダータックルやヒップドロップなどを駆使する一方、外敵からの攻撃によって様々な変身を遂げる(ワリオ自身は「死にたくないから不死身になった」と説明している[7])
引用元(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%AA%E3%82%AA#cite_note-a-7)
ワリオは「死にたくない」という理由で死なないので、追悼文は必要なかった。
(おわり)
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