読書感想文が書けない!
うーん……ナイアガラか、それともイグアスか……。
どうしたんだい、ケビンくん。
あっ、ベルガモットおじさん! 実はもうすぐ夏休みが終わっちゃうんだけど、読書感想文の宿題が完全に手付かずだから、あきらめて滝壺に身を投げようと思っていたところなんだ。
そんなことのために前途ある命を無駄にしたらもったいないよ。よし、おじさんが読書感想文の書き方を教えてあげよう。
やったー!
書かない
まず「書かない」という選択肢が挙げられる。
前提を覆すんだね……。
ぶっちゃけた話、学校の宿題をやらなかったぐらいで今後の人生がどうこうなるもんでもないからね。
そうなの?
なにごともハンパにやるのが一番よくない。「学校の宿題はあえて意地でもやらず、授業中は勝手に株式投資を勉強していた」とか、そんなレベルまでいくと逆に武勇伝になるのでおすすめだ。
ほんとだ早熟の天才っぽくてカッコいい! 読書感想文なんかやめて株式投資の本買ってこよっと! 将来はベンチャー企業を設立してテレビ局とか球団を買収するぞ!
ただ、これは「他にすごい才能がある」「できるけどあえてやらないだけ」という地頭のいい子どもだけが使える方法だ。
ケビンくんのような凡夫(ぼんぷ)が宿題あえてやらなかったとしても、ただ自分がよくいるグズなガキ、ノーマルグズガキであることを証明しているにすぎないと肝に命じてくれ。
トホホ……。この年にして凡夫(ぼんぷ)と呼ばれる日が来るとは。
なぜ書けないのか考えてみよう!
どうして読書感想文が書けないのか、その理由は主に2つある。ひとつずつ検討してみよう。
その1 読んでない
もっとも多いとされる理由がこれだ。ケビンくんはもう課題図書を読んでいるのかな?
実は……課題図書は『坊っちゃん』に決めて何ページか読み進めているんだけど、まだ読み終わってないんだ。
THE・凡夫。
でも、さっき検索したら、「読書感想文なんて1行読めば想像で書ける」って書いてあったんだよ! 「存在しない本の感想文を捏造して先生をダマした」って話も読んだよ。そういう裏技を教えてよ。
ダマされるな!!!!
!?!?!?
いいかい。たしかに、想像でなんとなく無難な感想文を書きあげることはできる。いや、できる人はいる。
でもそれは君じゃない。なぜなら君は凡夫だからだ。
凡夫と何度言えば気が済むんだ。
そういう、先生を煙に巻いたりダマしたりするテクを伝授する人はね、最初から作文が得意なんだよ。読もうと思えばいくらでも本を読めるし、感想だってすぐ浮かぶ人種だ。
いわば彼らは曲芸を披露しているのであって、本当に困っている子どもを助けたいわけじゃない。「読まずに感想文を書く」なんてシニカルで痛快だけど、君はそんな逆転劇を演じられるほど聡明でも器用でもないと思い知れ。
こんなにメンタルにヒビを入れられるとは思ってなかったよ。つまり、ぼくみたいな凡夫は地道に読むしかないってことだね?
そういうコト。
その2 感想がない
でも、読み終わっても書ける気がしないよ。いつも、何を読んでもなんの感想も湧いてこないんだ。「素直に思ったことをそのまま書きましょう」って言われてるんだけど、完全なる無なんだ。
そう。それこそが読書感想文が書けなくなる第2の理由「感想がない」だ。
で、思ったんだけど「読んだけど特に何も感想がありませんでした おわり」で済ませたらダメかな?
だって「読書”感想”文」なんでしょ? そしたらぼくの作文だって立派に認められると思うんだよ。
ボケナス。
もうただの罵倒じゃない?
そういう屁理屈を思いつくやつが学年に何人、全国に何千人いると思ってるんだい?
読まされる先生は「はいはい(笑)感想がないっていう感想ね(苦笑)」と思いながら再提出のハンコを押すだけだよ。「感想文」の真の意図を察した上で合わせていかないと。
真の意図って?
「感想」は捏造するもの
そもそも、全国読書感想文コンクールで入賞するような子どもが本当に、本を読みながら手に汗を握り、展開に心臓がどきどきして、ページをめくる指先がふるえ、本を閉じてから「はあ」と深い溜め息をついていると思ってるのかな?
違う? ぼくは読みながらほぼ心が動いてないから、そういう感情豊かな作文を読むと不安になるんだ。
賞をとる子どもでも、きっと読んだときの心の動きはケビンくんとたいして変わらないはずだよ。ただ、ヤツらは賢いから、読み終わったあとに「さてと、どう”感動”したことにしようかな?」と考え始めるんだ。
ええ! そんなのウソじゃん! ズルいよ!
ウソでもズルくもないよ。いいかい、社会において「感想」や「気持ち」なんてものはね、いろいろなしがらみを考慮した上でひねり出すものなんだ。
「言葉」というモノが社会をうまく回すために生み出されたシステムである以上、むき出しの本音はサザエのフタほどの価値もない無だ。「読みながら思ったこと」なんてあとからいくらでも捏造していいし、むしろ捏造しなければ原理的になにも書けない。世界は欺瞞に満ちている。それを最初に学ぶのが読書感想文なんだよ。
ぼくは今日、この世界が少し嫌いになったよ。
同級生に、やけに作文を書くのが得意な子はいないか? あれは、息をするように意志を捏造していることに自分でも気づいていない、最も大人に近い生き物だ。気をつけたほうがいい。
イヤだな~。
どういう感想文を書けばいいの?
で、どういう感想文を書けばいいの? ベルガモットおじさん。
まず知っておきたいんだけど、ケビン君は先生に気に入られたい? なんなら賞とかとりたいタイプ?
うーん、まぁ、どっちかといえば気に入られたいし賞も欲しいかなあ。
だったら、本にかこつけて自分のことを書くのがいい。
え? 本の感想は?
同じ国に生まれて同じような教育を受けてきた凡夫の小童(こわっぱ)の感想なんて、どうしても似るんだよ。
コンクールで入賞した作品を読めばわかるけど、彼らは感想を人と差別化するために文章のほとんどを自分の体験談に費やしている。本のことは最後に無理やりこじつければいいんだから。
なるほどね。具体的に自分の何を書けばいいの?
ケビンくんの周囲に弱者はいないかな? 年老いたおじいちゃんとか、病気がちな弟とか。家がびんぼうだったり、シングルマザーのお母さんが毎日残業してるとかでもいい。とにかくそういう人の苦労話を書くんだ。
なんで?
ウケやすいからね。
なるほど。
作文の構成はかんたんだ。まず「ぼくは今まで○○(家族や社会的弱者)に対して、こんなに無理解でした」という話を書く。ここは過剰に自分を無知に描いたほうがいい。
なんで?
大人は生意気な子どもが嫌いなんだ。多少はアホなくらいのほうが安心して読めるし、成長ストーリーを作りやすい。
なるほど。
それから課題図書に出会い「こういう考え方もあるんだ!」と驚く。さらに「この読書体験を活かして、今までよりも○○(家族や社会的弱者)に優しく接するようになった」とか「深く考えられるようになった」とか、とにかく「人生が変わりました」みたいなことを書けばいい。「これからもあの本の誰それのような視点を持って生きていきたいです」
生き方の話になってくるの? 読書でそう簡単に人生なんか変わる?
だからめちゃめちゃ捏造して人生変わったことにすればいい。ためらうことはない、ヤツらは平気で「それ」をしているんだ。
読書感想文は「評論」と「エッセイ」が混ざりあったような立ち位置にいるんだけど、賞レースでウケるのは圧倒的に「ほっこりエッセイ」だから、こちらの認知を先方の嗜好に合わせて歪めていく必要がある。
でも年老いたおじいちゃんも病気がちな弟もいないんだよなー。こないだお父さんにNintendo Switch買ってもらって死ぬほどマインクラフトやって幸せだし……。
そういうときは架空の病人を捏造しよう。どうせ身辺調査なんてされないし。
なんか書く前から虚しくなってきた。
・先生にひと泡吹かせたい場合は?
そういえば。なんでさっき「先生に気に入られたい」かどうか聞いたの?
ああ、それはね。読書感想文を自己表現のフィールドとして使うこともできるからだよ。
どういうこと??????
小学校高学年から中学生くらいになると、早熟な子はもう「読書感想文なんてくだんねーよ」とか「読書感想文が子どもの読書嫌いを深刻にしてるんですが?」とか考えている。
でも宿題を提出しないわけにはいかない。そこでせめてもの抵抗として、わざと変な本を読んだり、変な感想文を書いたりして、爪痕を残そうとするんだ。将来、高確率でオタクになるよ。
オタクにはなりたくないなあ。どんな本を読めば爪痕を残せるの?
そうだなあ……パッと思いついたので言うと……。
●ドグラ・マグラ(夢野久作)
●我が闘争(アドルフ・ヒトラー)
●おぞましい二人(エドワード・ゴーリー)
●銀河英雄伝説シリーズ(田中芳樹)
主に「奇書」「思想書」「グロい本」「ラノベ」「異常に長い小説」で感想文を書くのがスタンダードだよ。ただなんとなくネームバリューで選ぶと「あえて『ドグラ・マグラ』を選んだはいいけど全然理解できない」みたいなことになって、結果的に死ぬほど苦しみがちだから注意したほうがいい。
それで爪痕は残せるなら頑張ってみる価値はあるかも……。
いや先生からしたら「ドグラ・マグラ(苦笑)」ってなるだけ。
厳しいなあ。
あと官能小説の感想文を提出すると死ぬほどスベるし怒られるからやめたほうがいい。
人に任せたらダメ?
いまだ全然書ける気がしないなあ。……そういえば最近は、メルカリで読書感想文が出品されてたり、宿題代行業者がかわりに書いてくれたりするらしいよ。そういうのに任せたらダメ?
まあ、夏休みの宿題くらいならいいんじゃないか?
『坊っちゃん』のAmazonレビュー切り貼りして完成させるのは?
やりたければやれば?
いいんだ。
法に触れるわけじゃないからね。
ただ、のちのち大学生になったときのレポートや論文で同じことやるとマジの大問題になるから気をつけて。あとそういうその場しのぎのクセってマジで大人になっても尾を引くからマジで注意したほうがいい。脳ミソの「がんばり筋」みたいな部位が発達しないまま大人になるとマジでヤバい。これはマジ。
今日一番のマジを感じる。
せっかく切り貼りするなら本気でやってみるのはどうだろう。
たとえば『坊っちゃん』のAmazonレビューをツールで300件ほど自動取得して
データ分析ツールに入力して
頻出単語をランキング化すると『坊っちゃん』にふさわしい感想がすぐ手に入るよ。
329レビュー中、最もよく出てくる形容動詞は「痛快」だから、この小説が痛快なのがわかるよね。あとは「単純」とか「純粋」とか「軽快」とか、そういう単語を散りばめればそれっぽくなりそうだなって察しもつく。これくらいバラせば切り貼りしてもバレないはず!
そんな遠回りするくらいなら普通に読んで書くよ。
まとめ
まあ読書感想文の書き方はこんなところかな。最後は自分でがんばって!
なんか具体的なようで全然具体的じゃない話ばっかり聞かされた気がする。ぜんぜん書ける気がしない。むしろ人生がイヤになってきた。
でもそんなに深く考えることないんじゃない? よく「感想文であらすじを書いてはいけない」みたいなこと言う人いるけど、その場をしのぐだけで本人がいいならそれでいいと思うし。
どうせ無理やりひねり出した気持ちとか感想なんてみんな捏造なんだから。じゃ、ケビンくん、がんばって!
…その「がんばって」は、本心?
……。
ねえ、答えてよ、それは本当の感想なの? 鬱陶しいとか思ってない?
……がんばって。
……やっぱりそうだ! ベルガモットおじさんも読書感想文も!
世の中ウソだらけだ! もう生きるのがいやになった!
ウワアアアアアアアアア!!!
あっ、待てケビンくん!
ドドドドドドドドド………
走り出したケビンくんは、イグアスの滝の急流に飛びこんで消えていった。
ケビンくん……。違う、違うんだ……。
たとえ言葉がウソでも、その欺瞞があってこそ、社会はうまく回る。読書感想文を書いて、それを学んでいれば、こんなことには……。
こんな悲劇を招かないためにも……
書こう!
読書感想文!
(おわり)
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