コロナ禍もなかなか終わりが見えない中、飲食店の利用にも制限がありファーストフードの持ち帰りの利用など増えているのではないでしょうか。今回はそんなファーストフード店のお話。

皆さんもKFC、マクドナルド、吉野家などと並び日本のメジャーなファーストフード店としてミスタードーナツ(以下ミスド)を挙げても違和感はないかと思います。周りにもやたらファンが多いミスド、その魅力は日本人の好みに合わせて展開される様々な商品ラインナップなのかなと思っています。

 

元々はアメリカで生まれたミスドは日本全国で店舗数975(21年4月時点)、ドーナツに限らず飲茶や中華、ホットドッグといったランチメニューへ商品を拡大、多くの競合にも負けずに日本のファーストフードチェーンとしての地位を確立したと言っても過言ではありません。そんなアメリカ生まれのミスドですが、すでにアメリカにはチェーン店が一切存在しないという事実はあまり知られていないかもしれません。

 

アメリカにはミスタードーナツが存在しない!

しかしながら日本の街中には至る所に存在するあのミスドのチェーン店は実はアメリカにはもう存在しません。

アメリカに初めて来た日本人は本場のセブンイレブンが日本とは全く別物であることに驚き、そしてミスドがないことに更に驚きます。これだけ日本で愛されるミスドがその生まれ故郷には今ではチェーン店が存在しない。一体どうしちゃったんでしょうか。

 

アメリカで最もメジャーなドーナツチェーンはダンキンドーナツ。アメリカではそこら中にあります。

しかしこのダンキンが日本では殆ど知られていないように、アメリカの若者はミスドの存在すら知りません。ダンキンとミスドはまさに日米で逆転した存在。このダンキンとミスドの関係、歴史を紐解くとアメリカのドーナツシーン、そしてミスタードーナツという会社への理解が深まるかもしれません。過去この両者に何があったか少しだけ説明してみたいと思います。 

 

元々ダンキンとミスドは同じ会社でした。穴のサイズか砂糖の量か定かではありませんが経営陣の中にある時から互いのドーナツ観の違いからすれ違いが発生。やがてその溝は深まり一方が「ミスタードーナツ」として1955年に独立しました。

ダンキンから独立した後、ミスドは全盛期にはアメリカ・カナダで550店舗を展開するまでに成長しましたが、1990年に再びダンキンと和解したのをきっかけに再びダンキンに買収され、全米各地にあったミスタードーナツは次々にダンキンドーナツへと変わりました。

 

興味深いのはここから。ミスタードーナツチェーンの本体を失ってもなおダンキンになろうとせず「ミスタードーナツ」の名前を維持したミスドの残党の幾つかがゲリラ・ドーナツ戦争を続けました。そんな残党の中の数店舗は連携しいつしか協力して仕入れをし始め「ドーナツコネクション」というチェーン店になったものもあります。彼らはミスドの生き残りとして新しい名前で今もオリジナルのミスタードーナツ商品を売り続けてます。(実際に行った人曰くミスドとは全く味が違ったそうですが…)

※コロラド州の一部にMr.Donutの名前で3店舗だけのローカルチェーンが6年前に誕生してますがこれは元祖とは無関係のようです。

 

90年代にはアメリカのドーナツシーンには色んな事がありましたが基本的にはこの時期を境に米国ドーナツ市場をダンキンが制覇する形となりました。(カナダでは例外的にティム・ホートンが人気です)

では日本やアジア各国を中心にミスドが今もなお残っているのはなぜでしょうか。実は日本には1970年にダンキンが上陸、翌年71年に日本のDUSKINがフランチャイズ契約をし運営開始した日本のミスタードーナツがオープンしました。我が国においては米国流を貫いたダンキンより、日本市場に合わせた柔軟な商品展開をしたミスドが勝利したんですね。そして米国とは逆に日本ではミスタードーナツが生き残りダンキンはこの時日本市場から撤退しました。

 

「DUSKINがなぜドーナツを?」という疑問、ミスタードーナツに直接尋ねたところ当時日本で未熟であったフランチャイズビジネスを学ぶため社長がご縁のあったミスタードーナツと契約を結んだのが正しい経緯のようです。(ネットにあった「ダンキンと社名が似ていたので対抗してミスドと手を組んだ」というダジャレ起源説はガセでした)

日米の逆転を決定づけたのはこの時。本国アメリカでミスドが消滅した後はDUSKINが「ミスタードーナツ」の商標権を買いそれ以降は日本の会社へ。アジア諸国の店舗は日本法人が進出したものであると、かいつまんで説明するとこんな感じです。(なぜかわかりませんけどエル・サルバトルには現地資本の独自展開で16店舗もあるらしいです。アツいですね。)

 

アメリカに唯一残るミスタードーナツに8時間かけていってきました

「アメリカではミスタードーナツが消滅しました」

日本のミスタードーナツに直接問い合わせてもやはりこのような返事がきましたが僕たち素人の味方wikipediaで調べるとそこにはこう書かれています。

なお、2014年現在、米国内で(ダンキンドーナツにFC加盟せず、前述のドーナツ・コネクション・ブランドも掲げず)ミスタードーナツブランドのままで営業している店舗は、イリノイ州の1店を残すのみである。

引用元:ミスタードーナツ-wikipedia

Google Mapで調べると確かに広いアメリカに1か所だけ、存在しないはずのミスタードーナツがヒットします。調べを進めると実際にはフランチャイズとしてのミスタードーナツが消滅しただけで実は今も「ミスタードーナツ」を名乗るドーナツ屋がたった1店舗、今もアメリカの片田舎に存在し続けているというのは正しい情報のようでした。

それはかつて米国を席巻した栄光のドーナツ帝国のロゴ、看板、オリジナル商品を頑なに継承し本体が消滅した後もミスタードーナツの個人商店として営業を続けるアメリカのミスド最後の1店舗だったのです。

前置きが大分長くなりましたが、今回僕はアメリカに今も残るこの国唯一の「ミスタードーナツ」へ行ってみたいと思い、3つの州を越え車で8時間かけてその場所へ行ってきました。そこまでの旅に少しだけお付き合いください。

 

僕んちからミスドまで距離にして片道約850㎞、ざっくり東京から広島あたりまでの距離ですね。「ちょっとミスドにドーナツ買いに」がこの距離になるわけです。地図上で見るとちょっとの移動ですが分かってほしいのはめっちゃ遠いという事です。

 

東京-広島間というとものすごい長旅に聞こえますが、だだっ広い道がずっと真っすぐで渋滞も殆どなくみんな大体120㎞/hぐらいでずっとぶっ飛ばしているので日本の車移動より大分楽に感じます。

 

ちなみにアメリカにおけるコロナ問題はワクチンの急激な広まりにより徐々に制圧への道筋が見えてきた印象があります。主に都市部では移動や宿泊に制限がありまだまだピリピリした印象ですが、感染者数の少ない田舎の地域は殆ど制限もなくこうして自由に出入りができる状況です。

 

そんなわけで国内旅行はかなり自由にできる状況になりました。

大半がこのような何もない同じ景色の田舎道をひたすら走り続け、

 

時々大きな町が現れたりしつつ、

 

目的のゴドフリーを目指します。

 

ラスト3時間は全く何もない一直線をひたすら走ります。

≪いいことあるぞ、ミスタードーナツ≫

かつてミスドのCMは僕たちにそう説いてくれました。わざわざ行くからにはいいことがあって欲しい。いいことがあるに違いない。

 

途中なんか知りませんがトラックがめっちゃ燃えていたりもしましたが、とても快適な

 

オエエエーーーーー、ゴホッゴホッ、オエエエエエエーーー!オエエエエエエエエ!!!!!

 

そんな感じで8時間、大していいこともなくついに全米で唯一ミスドのある町ゴドフリーにやってきました。とてものどかな良い雰囲気の町。典型的なアメリカの田舎町です。

 

ついに発見!ミスタードーナツ!

探し求めていた全米唯一のミスドは町の中心部から少し外れた落ち着いたエリアにありました。めちゃくちゃ普通にありました。田舎の隅っこでひっそり営業しているイメージでしたが割ときちんと、何なら車2台で精力的にデリバリー対応すらしていました。

日本だとどこにでもあるこの看板がその何倍もの国土を持つこのアメリカではこの場所にだけしかないと思うととても感動します。

 

こちらが公式にはアメリカから消滅したとされるミスタードーナツ。しかし確かにこの場所で存在していました。

 

かなり年季は入ってますが看板も立派なものです。かつて全米のあちこちに立っていたであろうこの看板。今やたった一店舗だけがここで守り続けているわけです。

MULTIFOODSというのは1970年にミスドを創業者から買い取った食品メーカーの社名で彼らの下でチェーン店を更に増やしたとされています。

 

お店のすぐ隣は落ち着いた静かな住宅地。この地域では昔から変わらないミスドのある風景なのでしょうか。

 

営業時間は朝4時から昼3時まで。モタモタしていると閉まってしまいますのでドキドキしますがお店の中に入ってみましょう。

 

お店の中はこんな感じ。古いですがきれいに手入れがしてあります。 

 

この時は休日の午前10時ながら大繁盛。地元のお客さんでにぎわう店内は店員さんが各テーブルの常連と思しきお客さんとの雑談を楽しむ姿が。

客層も様々でお年寄りの社交場でもあり、学生が勉強する姿も。地域の生活に密着しているような温かい雰囲気。無くならなくてよかったですね。

 

カウンター席とテーブル席というレイアウト。今では見られない昔は日本でもそこら中にあった懐かしいミスタードーナツの店内です。

 

僕がオーダーする番。ミスドでのバイト経験もあるミスド好きの妻に写真を見せるとメニュー表には今はなき恐らく30年前あたりのミスタードーナツにあったような懐かしい商品が多いのだそう。ここだけ時間が止まっているかのようです。

 

商品棚、商品はドーナツだけ。飲み物の種類も極めてシンプルです。飲茶はありませんね。ねえんだわ普通のドーナツ屋には。

 

※口コミサイトみたら恐らく日本かアジアのどこかでミスタードーナツを食べたと思しき男性が「ミスドなのにMochi Donutsがない」という理由で低評価。日本ミスド逆輸入の瞬間。

 

今回は日本のミスタードーナツではあまりなさそうなザ・アメリカという感じのものを選びました。なんつーか、全体的にめちゃくちゃデカいです。

 

こちらは昔はミスタードーナツにあったとされるツイストというもの。素朴な味、そしてちょうどよい甘さです。チョコレートの方は日本の味付けより大分甘いですが、いい意味で垢ぬけてなくておいしかったです。

 

記念品が欲しいなと思い店内を物色するもお店に売ってあった唯一のグッズがこちらのオリジナルTシャツ。「これ買います」と名乗り出るとレジの女性がビビってましたが初めて売れたのかもしれないです。

イリノイ州の地図とこの店舗の位置を示すラメ入りのなかなか汎用性の低そうな一着でしたが8時間かけてせっかく来たので購入します。

 

他にも何かグッズが欲しくて勇気を出して店長に質問。店長、あのマグカップが欲しいのですが…。

「あれは使い古しだしお客さんには売れないな。ていうか君たち日本人?ミスドを求めし日本人はるばるここへめっちゃ来るんだよね、ちょっと待ってて。アレよりいいもんあるから。」 

 

「どうこれ。Tシャツ。店員用。

なんと奥から大量のミスタードーナツ店員用Tシャツが出てきました。店員用。その名の通り完全に店員が仕事で着ているやつです。

「日本の人昨日も来たんだよ。Tシャツ欲しいっていうからコレ見せたらスゲー喜んでたよ。」

 

「15ドルで売っちゃうよ」

なんと1枚15ドルで売ってくれるというのです。いやあ、はるばる来たのだからという気持ちが全てに先行しもはや欲しいのかどうか、高いのか安いのか判断がつきません。しかし先ほどのラメのやつよりどう見てもこちらの方がよいですね。すでに買ってしまったオリジナルのラメTシャツは立つ瀬がありませんが、まあこれも買いましょう。

 

「オレンジが昔から使われていたオリジナルカラーね。これ洗うとビビるぐらい縮むからマジで君はXLにしといたほうがいいよ。」

店長は接客そっちのけでやってきた謎の日本人相手にTシャツ選びに付き合ってくれます。我々のやり取りを近くで聞いていたアメリカのお客さんが興味深げに聞き耳を立てる中ミスタードーナツ・イズ・ベリー・フェイマス・イン・ジャパン!と叫ぶ謎の東洋人。店内で半笑いで記念写真を撮らされる謎の東洋人。

 

アメリカで唯一ミスタードーナツというマジックワードに惑わされて全色爆買いするところでしたがミスドでバイトするとき以外でこれをどこで着ればいいのだろうと我に返り最低限にとどめました。

 

ところでこの店長のシーザーさん、米国海軍として沖縄に20年以上いたことがあるそう。既にミスドのフランチャイズがアメリカから消滅していた2004年にアメリカに戻りこの店舗を先代のオーナーから引き継いで今も営業しているとのことです。

「日本にはスタバみたいにミスタードーナツがあるよな、アメリカでは信じられないことだよ。」

営業時間やレシピは先代からのものを引き継いでおりレシピなどもオリジナルのミスタードーナツのものから変えていないのだそうです。僕が食べたのはアメリカ各地でかつて食べられていたオリジナルのミスタードーナツの味だったのかもしれませんね。

 

日本ではなぜか飲茶が売られていることもご存じのシーザーさん。最近では陳健一プロデュースの四川担々麺がイチ押しであることも教えました。

「日本人のお客さんが来て日本のミスドの事を色々と教えてくれるので大体何でも知ってるよ。日本の皆さんにこの店紹介しといてね!」

というわけでこのようにして日本のインターネットで堂々と紹介させて頂くこととします。

「マグカップ、新しいの作るから次来てくれた人には10ドルで売ります!

Tシャツを3枚買った僕に、最後に力強く両手で10を作ってそう答えてくれました。というわけでシーザーさん、突然やってきたのに素敵な歓迎どうもありがとう!また来ます!

 

まだまだ外で過ごすには大変な時期は続きますが、日本のミスタードーナツに行った際は今もアメリカの片隅で地域の皆さんを相手に楽しそうに営業しているこの国で唯一のミスタードーナツの事をぜひ思い出していただければ嬉しいです。

これからもミスタードーナツをどうぞよろしくお願いいたします。