「あんたは急に、インポって叫ぶんだから」
ある日、母にそう言われて思い出した。僕は小4の頃、スーパーの駐車場で、突然大声で「インポ」と連呼して、母に怒られたんだった。
母いわく、「やめなさい」と言ったら「なんで?」と食い下がってきたので、「それは言ったらいけない言葉だから」と説明したとのこと。なぜかインポが差別用語みたいな扱いになってしまった。母はこう続けた。
「家に帰ったら教えるって言ったら、やっと収まってね」
僕は腑に落ちない表情を浮かべながらも、渋々了承したらしい。なんなのだ、その状況は。
「周りの人にジロジロ見られて、本当に迷惑だったんだから。知らずに叫んだんだろうけどさ」
母の言うとおり、おそらく僕はインポの意味を知らずに叫んでいる。知っていればわざわざ出先で叫ばないだろう。それはわかる。
わからないのは、どうして「インポ」なのかだ。
「なぜ叫ぶのか」は「そういう年頃だから」で無理やり納得するとして、なぜチョイスしたワードが「インポ」だったのかは不可解だ。なにせインポを知らない人間の口から、インポが出てきているのである。
考えた結果、「1文字変える遊びをしていた」が最有力候補にあがった。「クッキングパパ」を「ピッキングパパ」に変えるみたいな、Twitterのハッシュタグで盛り上がりそうな遊びだ。
僕は多分、「ちんぽ」と叫ぶつもりだったんだ。しかし、そこは広いスーパーの駐車場。周りには人もいる。そんな言葉を叫べば周囲の人たちに白い目で見られるだろう。僕の理性がすんでのところでブレーキをかけたのだ。
そしてその時、脳裏に1文字変える案が浮かんだ。
ちんぽの「ち」を「い」に置換してみた。
しっくりきた。
だから叫んだ。
「インポインポインポ〜〜〜!!!」
これだ。ギリギリ下ネタにならないラインを狙ったのだ。「ちんぽじゃなくてインポです。そんな言葉があるのかしらんけど」と。
結果、ギリギリセーフのつもりが完全にアウトだった。これが事の真相に違いない。
僕は大人になった今でも、「JKリフレ」を「TKリフレ」に変えて、「小室哲哉(TK)がリフレクソロジーしてくれるサービス」などと妄想して遊んでいることが多いので、今回の推量には自信がある。こんなことに自信を持ちたくもないんだけど。
ちなみに、「家に帰ったら教える」と母に諭された僕だったが、家に帰る頃にはすっかり忘れていたらしい。ああ、俺ってそういうところあるわ、と妙に納得してしまった。