俺らはインターネットばかりしてるよな。
インターネット大好きですからね。
どういうところが好きなの? インターネットの。
……改めて聞かれると難しいですね。
どういうところが好きなんですか?
すぐには出ないなぁ……。
ですよね。
じゃあ「インターネットの大好きなところを思い出したら挙手して発表するやつ」をやろう。
やるっきゃない。
今はインターネットが生活に溶け込みすぎてて、一緒にいて当たり前になってるよな。結婚して、家族になったみたいな。
それはもう、大好きというよりも、愛ですね。
そう。大好きっていうのは、付き合いたてのカップルが四六時中交わす言葉でしょ。
人によります。
だから「大好きなところ」は、自分のインターネット史をさかのぼってみると見つかりやすいかもしれない。
なるほど。
インターネットに触れ始めた時期にさ、大好きと言わないまでも、そういう感情を抱いた瞬間があったと思うんだよな。
たしかに。人生の前半は身の回りにインターネットがなかったから、ゼロがイチになった衝撃もありましたよね。
そうそう。
インターネットをやり始めたのはいつですか?
いつかなぁ……。
高1でポケベルを持って、すぐポケベルの時代が終わって、ケータイを持ち始めて。それで学校で「Eメール」が流行って、毎日メールしてたな。
Eメールは、インターネットですよね。
そうなんだけど、Eメールは当時、俺にとってはインターネットって感じがしなかったんだよな。ポケベルの延長みたいな。「漢字使えるのかよ!」とはなったけど。
ポケベルは漢字使えなかったですもんね。
そう。Eメールっていうより、いつでもどこでもケータイで電話ができるっていう高揚感のほうが強かったな。
となると、俺にとってのインターネットは……iモードからだな。
iモードって、ドコモ専用のGoogle検索みたいなやつですよね。
うん、端的に言うと。Webページの閲覧ができるからね。
やっぱりインターネットって、検索したり、オンライン上の何らかのサービスに登録して利用したり、そういう行為を指すことが多いんじゃないかな。
当時はiモードで何をしてたんですか?
当時かぁ……
高3の頃、出会い系サイトにハマってた。
まさかの。
『ホットドック・プレス』っていう雑誌に「これからは出会い系の時代だ」みたいなことが書いてあって、真に受けてやり始めたんだよ。
ありましたね、ホットドック・プレス。
田舎の高校だったから、出会い系に手を出してるヤツは周りにいなくてさ。「アイツ、最先端のことをやってるぞ」って、出会い系の始祖みたいな扱いを受けてた。
それで、始祖は出会えたんですか?
出会えた。たしか、1年で10人とか。
出会いすぎ。
出会ったところで何をするわけでもないんだけど。奥手なチェリーボーイだったし。公園でちょっと話すだけとか。ほとんどそんな感じ。
田舎の高校の奥手のチェリーボーイで。
うん。
最先端を行く出会い系の始祖で。
うん。
……二重人格?
最初に会えたときは、「本当に会えるんだ。インターネットすげえ!」ってなったよ。他校の生徒とばかり会ってたんだけど、本来、他校の生徒とはほとんど接点を持てなかったからね。それをいとも簡単にさ。
あっ!
インターネットの大好きなところ、見つけた。
なんですか?
出会えるところ。
ちょっとその文脈だと「おお〜!」とはならないですね。下心が前面に出過ぎというか。
違う、そうじゃないんだよ。
人と人とがオンライン上で気軽にやりとりできるようになって、そこから新しい関係性が生まれて。そういう出会い、めぐり合わせの機会はアナログの時代と比べて圧倒的に増えたと思うんだよね。出会い系に限らずさ。
たしかに。インターネットがなければ僕らも出会ってないでしょうしね。
うん、オモコロも存在してないからね。
「もしインターネットがなかったら」って想像すると、好きだなって実感できますね。
わかる。それは、インターネットのない時代をそれなりに長く過ごしていたからこそなのかもしれない。スマホネイティブ世代よりは、インターネットのない世界をリアルに想像できるから。
もしインターネットのないパラレルワールドに迷い込んだら、不便すぎますね。
今のところ、出会い系の話しかしてないです。なにか他にエピソードないですか?
インターネット・エピソードかぁ。
思い出した。
なんですか?
俺にとって20歳くらいの頃が、人生で最も沈んでた時期なんだけどね。
そうだったんですね。
とにかく金がなくて、麦ふぁ〜1袋だけを、1日3回にわけて食べているような生活で。
おまけに借金してて、家賃も滞納してて、グッドウィルっていう登録制のアルバイトで食いつないでるような状態で。希望の光が1ルーメンも見えなくてさ。
あらら。
その頃の唯一の楽しみが、しりとりだった。
まさかの。
iモードで、しりとり専用の掲示板か何かにアクセスしてさ。夜な夜な、部屋の電気を消して、布団のなかで、ハンドルネームさえもない相手と、延々としりとりして。
僕、そのインターネットは経験したことないです。
いま思えば、けっこう病んでたよな。
でも、しりとりってコミュニケーションだから。自分の出した単語が、相手の単語にとてつもない影響を与えるわけでしょ。
まぁ、相手の1文字目を強制的に決められますからね。
相手が何者なのかわからないし、しりとりに何人が参加してるのかもわからない。でもそこには、世界のどこかで誰かとつながっていて、自分が影響を与えている事実があって。
たまに、ウケねらいの単語とか、それ単語じゃねえだろってレベルの長文を書き込んでみたりして。そしたら「ウケる」とか「笑った」とか、しりとりではない反応があってさ。
しりとりの国に、会話が生まれた。
すると「ああ、こんな俺でも、画面の向こう側の人間を笑わすことができるんだな」って実感して。ちょっと自分を肯定できたというか。
ちょっといい話。
そういうゆるいつながりに、俺は何気に救われていたのかもしれない。
まぁ、借金あって家賃も滞納してるのに、なんでパケット通信料使って、呑気にしりとりやってんだよって話ではあるんだけど。
……あっ!
はい、どうぞ。
インターネットの大好きなところ、「ゆるいつながりに、救われる瞬間がある」。
それだ。
今はスマホでインターネットをする時間が増えましたけど、パソコンでずっとインターネットしてた時代がありましたよね。
あった。俺はADSLが世の中に普及し始めた頃だな。ネット使い放題の、定額プランに入って。
接続スピードが上がって、ネット閲覧が快適になりましたよね。
mixiを始めたのも、大体その頃かな。当時22歳とか。しりとりしてた頃よりはまともな暮らしになってて。パソコン買って、プロバイダー契約して。
mixiなつかしい。って、まだありますけど。
俺はmixiがなかったら、ライターをやってなかったかもしれない。
その話、詳しく。
mixiで日記を書くと、いろんな人からリアクションがある。それが楽しかったし、うれしかったんだよね。ウケねらいの日記を頻繁に書いてたよ。
ウケてたんですか?
それが、割とウケてたんだよな。日記を全体に公開したら、知らない人から「面白い」ってコメントがついたりして。
なるほど。それが、今のライターの活動につながってる……みたいな?
そうそう。本当にそれ。「作家になれば?」とか言われて、真に受けちゃって。
親に「あんた吉本入れば」って言われて、本当に入っちゃうパターンだ。
まだアカウント残ってますか?
いや、当時のは消しちゃった。でも、将来なにかのネタになると思って、スクショをとって保存しといたはず。
見たい。
ちょっと待って。探してみる。
……あった!
おっ!
豆腐を喰らう。
これはキツイ。
夕飯は、冷やっこともずく酢しか食べてないらしいです。
何を目指してるんだよ。
豆腐を、喰らう。
やめろ。
グルーポンだ。スカスカおせち騒動の。
インターネットで世の中がよくなっていってると思うけど、一方で、スカスカのおせちみたいな、ネットを介した悲しい事件も増えてる気がする。
ネット絡みの、もっと酷い事件も起きてますよね。
インターネットは大好きだけど、そういう好きになれない側面もあるよな。
完璧な人間がいないように、完璧なインターネットも存在しない。
話が逸れちゃったけど、mixiを28歳までやって、その間にブログもやってて。それで29歳からオモコロで記事を書くようになってさ。
はい。
そこから今までライターの活動を続けてるわけじゃん。それで、ライターの仕事がきっかけで、Webコンテンツを作る編プロに就職してさ。
僕もそうです。無職でWebライター始めて、その流れで就職して。インターネットがなかったら、僕たぶん、まだ実家暮らしで無職ですね。
親御さんも心配で胃に穴があいてただろうよ。
レンコンみたいになってたと思います。
そう考えると、俺らはインターネットの恩恵を、すごく受けてると思うんだよな。だからこそ、インターネットが大好きと言えるのかもしれない。
インターネットが「ただの通信手段」だと、「大好き」とはならないですもんね。
どうぞ。
インターネットの大好きなところ、「職を与えてくれた」。
わかります。
俺ばっかり「大好きエピソード」話してるけど、そろそろ何か出てこないの?
もう少し時間をください。
あっ!
大好きなところ、見つかりました!
きたかっ!?
【かわいい】鳥羽水族館のアイドルが放水訓練にチャレンジ!一日消防隊長はラッコhttps://t.co/6ycQxcs8Ti
市民の防災意識を高めたとして、地元の鳥羽市消防本部から大好物のイセエビが入った氷の感謝状が贈られた。 pic.twitter.com/537CwfDAB3
— ライブドアニュース (@livedoornews) November 16, 2020
こういうかわいいニュースが、Twitterのタイムラインに流れてくるところです。
間違いない。
ちす。
いやぁ……さすがに目が疲れたな。
ずっとパソコン見てましたからね。
We love the internet.