「おいなりさーん」
「おいなりさーん」
「おいなりさーん」
「………」
「あ……」
「………」
(澄んだ川の流れに足を浸し、宇宙の摂理に思いを巡らせているかのようなおいなりさん。今日のおいなりさんは深遠な問い掛けにも答えてくれそうな、哲学的な雰囲気を身にまとっている…!)
「フッサール……」
(おいなりさんが現象学的哲学を確立した哲学者の名前を呟いている…! おいなりさんという意識現象は、背後においなりという事物がなくても生じるのか!?)
「ル……ルビィ・モレノ…」
(なんだ、人名しりとりをしてただけか)
「ん…? なんやキミ、おったんかいな」
「おいなりさん、考え事ですか?」
「『自分の内に安らぎを見出せない時は、外にそれを求めても無駄である』」
「え…?」
「ラ・ロシュフコーの言葉や」
「なるほど…」
「ラ」
「ロシュフコー!」
「二回言わなくてもわかります」
「わかる…? わかるって一体、なんやろね?」
「それはだから…僕がおいなりさんの言葉を…」
「言葉? 言葉って一体なんやろね? 『ここにある』ってなんやろ。『ここにない』ってなんやろ。『ない』状態は、『ない』っていうものが『ある』ってこと?」
「それは…」
「『ない』っていうものが」
「『ある』!」
「おいなりさんにはそれがどういうことだかわかってるんですか?」
「なんや、聞きたいんか」
「まぁ」
「おいなりの考えではなぁ…」
「………」
「………」
「………」
「そういうので誤魔化さないでください」
「ガリを食べないでください」