「おいなりさーん」
「ほいーーーーっす! ほっ、ほっ、ほいーーーっす!」
「何してるんですか?」
「おいなりの服にツユを染ませてるとこやで」
「定期的にやってるんですか?」
「やっぱり、いつだってツユは染ませとかなあかんからね。ビッチャビチャにしときたいからね」
「甘辛いおツユあってのおいなりさんですもんね」
「ごめん、何て?」
「甘辛いおツユあっての…」
ざばーーーーーーっ
「………」
「いやーっ、今日もよく染みたなー! 自分でも呆れるぐらい染みたわ。 ねぇ! そう思わん? ねぇ!」
「下の方のバランのマークは何なんですか?」
「え!? 自分このブランド知っとるの? もしかして『inart』とか読む系の人?」
「その『smart』みたいな雑誌はちょっと読んでないです」
「そっかー。まぁでも丸井とか行くと普通に売ってるけどね」
「丸井でいなり寿司の皮を売ってるんですか?」
「売ってるやん! タケオキクチの隣でよく売ってるやん!」
「見たことはないですけど、おいなりさんが意外ときれいめ好きな人なんだということはわかりました」
「よっと」
「あ、もう早速着るんですね」
「染みたての服は、一番気持ちいいからね。『Barran』の春の新作やし、きっと女の子ウケもいいと思うわ」
「そこまで普段との違いはなさそうですけど…」
「どお?」
「長袖?」
「どお?」
「バーバリー?」
「バーバイナリーや!」