描くぜ

 赤、黒、黄色で描けるもの。何があるだろうか。

 思案していると部屋のフィギュア棚が目に入った。

 あーーーーーー!!!!

 これだー!!!!

 絶対これだー!!!!

 ヘドラだー!!!!

 公害怪獣ヘドラ。ゴジラシリーズに登場する怪獣で、デザインの素晴らしさと映画の内容の強烈さで一部の層にめちゃめちゃ人気がある。もちろん俺も大好き。めちゃめちゃ有機的なデザインは微生物アートの題材として完璧だ。しかも都合よく黒(グレー)のボディに赤と黄色が差し込まれている。

 よし、ヘドラを描こう。ヘドラを生きた絵にしよう。

 iPadで撮る。かわいいぜ。

 写真をおおざっぱになぞりながら、3色の雑菌を塗るラインを考える。ヘドラはどれだけ自由に描いても良い。

 せっかく赤い雑菌が取れたし街をボーボー燃やそうかな。

 こういう透明のトレーを熱湯やシートでできる限り除菌し、でかいポカリ培地を作っておく。これがキャンバスになる。

 iPadでさっきの絵を表示して、その上にトレーで作ったポカリ培地を載せる。都合がいいサイズのトレーが売っていてよかった。

 使う雑菌をちょっと滅菌綿棒につけて

 培地の上を絵に従いながらなぞる。この段階では色がつくわけではないので、どこまでやったのかすぐにわからなくなる。不安なら同じところを何回もなぞってしまおう。かえってその荒さが良い感じになるかもしれないし。

 描いていると培地からポカリスエットの良い香りがする。絵を描いているときに飲食物の香りがすると小学生の頃香り付きねりけしがめちゃめちゃ流行ったのを思い出す。あれちょっと食べてるやついたな。まあ今は本当に飲食物で絵を描いているのだけど。

 赤も

 大丈夫かこれ、本当についてる?

 黄色、お前が一番不安だ。

 不安だよ。頼むからもっと元気を出してくれ。

 終わった。iPadからおろすとこう。まだ現時点では無のゼリーだ。本当に不安だ。ずっとこのまま透明だったらどうしよう。

 上から雑菌が降ってこないようにカバーで覆って室温で放置する。あとは待つことしかできない。記事の締め切りが近いぞ。上手くいかなかったらどうしよう。もう祈るしかない。

できた……

 翌日。

 あ、なんかもううっすら見える。頑張れ! その調子だ! 締め切りまでに育って! 頑張れヘドラ! 大きく育って街をめちゃめちゃにして!!

 さらに翌日。

 ウワーーー!! だいぶ絵になってきた!! 絵だ!! 生きた絵だ!!

 なんとなくカッコつけていれたサインもバッチリ育っている。
 ……黄色はどこにいったんだ。拡大してよく見てみよう。

 あー、黄色もちゃんといるといえばいるな。よく見たら黄色を塗ったところに明らかに主線とは質感が違う雑菌がいる。でも色が似すぎていてイマイチ見分けがつきにくいな。場所の奪い合いでも負けているように見える。

 せっかくだからもう数日放っておいてみよう。むしろここからが生きた絵の本番だ。

 オラーーーーーー!!!!

 俺の生きた絵の生き生きっぷりを見ろ!!!!

 見たか俺の生きた絵。もう俺の絵が生き生きしていないとは言わせないぜ。なにせ本当に生きているからな。

 この段階では毎日「今日はどれくらいヘドラ育ってるかな〜」と思いながら生活していた。こっそり怪獣を育てて街をめちゃくちゃにすることを企んでいる特撮に出てくるヤバい人みたいな思想だ。

 我ながらとてもいい絵な気がしてきた。このまま飾っておけないのが残念だ。どんどん育って最終的にメチャクチャになる絵だから。でもそれも楽しみだな。

 アップにするとこう。ゾワゾワした雑菌の生命力がより感じられる。

 記念撮影しておこう。こうしてみると俺はヘドラ似かもしれないな。

 背景を紫にしても雰囲気出る気がする。

 こうして生き生きした絵を描くことには成功した。どうだ、見たか。生き生きしているだろう。

 成功したけど、どう考えても「これで俺もイラストパワーでライター力アップだぜ」とはいかない。ちょっと記事に添えるには面倒くさすぎるから。やはり落書きからはじめて地道に練習するしかないのかもしれない。

 それはそうと微生物アート描きマンになるのはアリかもしれない。意外と簡単だからみんなもやってみてね。

 くれぐれも自己責任でね!

 

 

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