クイズ作家と話をしてみる

 

続いて、我々が用意したのはプロのクイズ作家と話す機会。

過去の苦い思い出から、クイズに対する不信感がマシマシになっているみくのしんに、今まで知ろうとしなかったクイズの世界に触れてもらいましょう。

過去のトラウマが払拭されるいい機会になるかもしれませんし、偏見が補強されてしまうかもしれません。

 

クイズクリエイターのリコさん

クイズ法人「カプリティオ」所属のクイズクリエイター。

テレビ番組やクイズゲームなどの問題作成しており、YouTube「カプリティオチャンネル」のメンバーとしても活動している。

今回のクイズ企画では、リコさんに問題制作をお願いしています。その打ち合わせにみくのしんも同席してもらう……というテイで会話する機会を作りました。

 

どうも、オモコロライターのみくのしんです

クイズクリエイターのリコと申します

ども

どもども

 

リコさんはクイズ作家さんなんですよね? ってことはクイズもめっちゃ強いんですか?

いや、そういうわけではないです。クイズプレーヤーとクイズ作家とでは求められる技術がちょっと違うんです

へえ〜。クイズ得意だったらどっちもできそうなのに

どっちもできますけど、トッププレーヤーにはとても敵わないですね

 

クイズを解く側は「どれだけ早く問題に答えられるか」、クイズを作る側は「どれだけ面白い問題を作れるか」が大事になってくるので

クイズに面白いとか面白くないとかあるんですか? 難しさが大事なんだと思ってました

もちろん難易度も重要ですけど、解いて面白いかどうかも気にしながら作ってますね

解いて面白い…ねぇ……

 

例えば…「西暦1860年に起こった出来事といえば?」みたいな問題があったとするじゃないですか

……ッ

 

……どうしました?

ごめんなさい。クイズ始まる!と思ってビビっちゃいました

すみません。続けてもらって大丈夫です

 

で、「その年に起きたのは桜田門外の変」だ! と答えられたとしても、それはまあ普通というか……

それだと、クイズというよりテストですもんね

僕のイメージするクイズってそんな感じだけどなぁ。ちなみに、リコさんが実際に作ったクイズってどんなものがあるんですか?

そうですね。例えば……

 

 

 

 


???

え? 僕に聞いてます?

みくのしんしかいないだろ

分からないです。ごめんなさい

いえいえ、謝ることないですよ

 

ちなみに答えは「ゴルフ」なんですけど……

ティーショットとか3番ウッドスプーン って言いますもんね。謎掛けみたいで面白い問題だ

面白い…? ちょっとごめんなさい、僕ゴルフが分からなくて

まあ、知らないと解けないのでそれはしょうがないですね

知らないと解けない…?

 

じゃあ無理じゃん! 俺は何も知らないんだから!

そんな悲しいこと言うなよ

出たよ! クイズのこういうところ! もうやだ!!!

さっそくクイズの拒否反応が出てる

 

ごめんなさい。正直に言います。僕クイズが苦手なんです

そうなんですか?

苦手というか、もっと正直に言うと嫌いなんです。ごめんなさい、プロの前でこんなこと……

いえいえ。正直なのはいいことです

※リコさんには事前に企画趣旨を説明していますが、ここでは初耳みたいな顔をしてもらっています。

 

クイズって凡人には参加できないイメージあるもんね

そうそう、天才が集まって知識を披露しあってる場所だから、僕がどうこうできるものじゃないと思ってて

なるほど…。たしかに、クイズプレーヤーって天才とか超人だと思われがちですよね

 

よくある誤解なんですけど、いわゆるクイズ王と言われる人でもこの世の全部を知ってるわけじゃないんですよ。クイズプレーヤーがやっているのは、知識自慢じゃなくてクイズ勝負ですから

え〜? でもどんなクイズにも答えてるじゃないですか

クイズの強さは「知識の深さ」ではなく「広さ」にあるんです。全てのジャンルを日本人の平均くらい知ってたらクイズ王になれます

クイズ王だからって、平均以上の知識を備えてるとは限らないのか

そうです。なので、かなり専門的な知識を問われると「それは分からない」ってクイズプレイヤーは全然います

 

例えば「科学」のジャンルで科学者に負けるのはしょうがないんです。でも「歴史」や「芸能」など他のジャンルでは科学者に絶対に負けない。それがクイズプレーヤーの強みです

「何でも知っている」と言っても、専門家に勝てるような知識が必要なわけじゃないんですね

そうです。なので、みくのしんさんの詳しいジャンルから出題されたら、みくのしんさんがプロに勝つことも全然ありえます

僕の詳しいジャンルか……

 

「マルエツプチ中目黒4丁目店」とか?

僕がよく行くスーパーです

それをクイズの問題にするのは難しいな

 

実は今度、クイズの企画に参加するんですけど、そもそもクイズが好きじゃなくて…。解ける解けないの前に、まず楽しむ気持ちになれるかすら怪しんです

なるほど…。でも、気持ちは分かりますよ

 

そもそも、僕もクイズ苦手でしたから

え? 今はプロなのに?

リコさんがクイズにハマったきっかけって何なんですか?

学生時代に、古川さんという先輩に誘われたのが始まりでしたね

 

「クイズ王」古川洋平

「アタック25」高校生大会優勝、「タイムショック21」高校生大会優勝、学生日本一決定戦「abc」で3連覇を達成しているクイズ王。

クイズ法人カプリティオを立ち上げ、バラエティ番組の制作協力・出演などで幅広く活躍している。

当時からクイズ王と言われていたすごい人だったんですけど、彼に気に入られて「君もクイズ強くなってみない?」と言われまして

その世界のトップから誘われたんだ。漫画の第1話みたいですね

「とりあえずこれ覚えてきて」と言われて、クイズの問題集を10冊読む羽目になりました

最悪だ

最悪です

 

でも、1冊読み終える頃には自然とクイズが強くなってましたよ。クイズにも基礎練ってあるんだな〜と思いました

それは、ただリコさんの頭がよかったからじゃないですか?

どうでしょう。みくのしんさんでも同じことはできると思いますよ

僕でも…?

 

それは脳みそがあと8個ないと無理です

まさか外付けの脳みそが必要とはね

そこまで大げさに考えなくても……例えば、みくのしんさんは「芸術は爆発だ」という名言で有名な人を知ってますか?

 

岡本太郎ですよね。太陽の塔とか作った人だ

そうそう。そんな感じで、中にはそもそも知ってる知識からクイズが作られていることもあるんです

そっか、全くのゼロからじゃないんだ

今まで生きていれば、クイズに答えられる知識のタネは誰だって持っているものですよ

 

でも、せっかく問題集を覚えてもその本以外から問題が出たら意味ないですよね?

わかる。せっかく丸一冊覚えても、それは全部の知識のうちのほんの一握りだもんね

僕もそう思ってました。でも、2冊目の問題集を覚え始めると「あれ? これ1冊目でもやったな」という問題に出くわしたりするんです

進研ゼミじゃん

 

クイズのお題になるような知識には、ある程度傾向があるんです。それに気付いてからは楽しくなって、問題集を覚えるスピードもあがってきて

すげ…。クイズそのものを攻略してるみたい

10冊読めと言われてましたが、4冊目を終えたくらいで気が付いたら身内の中では一番クイズが強い人間になっていました

 

かっけェ…!

染み入ってるなあ

青春映画の予告編を聞いてるみたいだった。これ映画化した方がいいですよ!

恐縮です

 


クイズへの態度に変化がうまれたみくのしん

クイズって努力してるんですね…! 考えたこともなかったな

まあ、友だち同士で遊ぶタイプのクイズではこういうことはないですよね。我々がやっているのは競技クイズですから

僕、「クイズを解くためのトレーニングがある」というところから知らなくて…。そう思うと、何も知らないのに適当に嫌ってたんだ。よくないな、これは

 

話を聞いていて気付いたんですけど、僕ってクイズのことを「天才たちのお遊び」だと誤解してたみたいです

天才たちのお遊び?

もともと頭の良い人たちが、いつのまにか解けるようになってるものなのかなって。お勉強の片手間でクイズやって頭の良さを見せびらかしてるんだと思ってました

それは全然違いますね。少なくとも「競技クイズ」をやっている人たちは、クイズのために真剣に努力をしてきた人ばかりですよ

なんかもう、本当にごめんなさいだ

 

僕にとって「頭が良い」って仕組みがわからないというか、魔法みたいなものだと思ってて

そこに努力があるなんて考えもしなかったんですね

はい。だから、クイズも下積みとか練習とか関係ない才能だけのイヤミな世界なのかと思ってました

(なるほど。クイズへの苦手意識はこういう誤解にもあったのか…)

 

でもそうじゃなかった!! この人、頑張り屋さんでした!!

頑張り屋さん、て

僕、頑張る人って好きなんです! かっこいいから!

照れますね。クイズやっていて知識量とかじゃなく努力を褒められることってあまりないから

 

努力でいうと……クイズでは知識を覚えるだけじゃなくて、ボタンを押す技術も重要なんですよ

押す技術? 連続で2回押したらキャンセルできるとか?

エレベーターの裏技じゃねえんだぞ

 

例えば「日本で一番高い山は富士山ですが…」みたいなクイズがあったとしますよね

でた! 「ですが…」ってやつ! あれ意地悪だから嫌いなんだよな〜

 

クイズプレーヤーは「山」の途中くらいまで読まれたら早押しで正解を答えることができます

この後どういう文章が続くか分かってないのに?さすがにヤラセでは?

文字だけで見ると、まだ答えようがないタイミングに見えますよね

 

ここまでだと、次に続く文章は「1番低い山は?」「世界で1番高い山は?」「2番目に高い山は?」と3パターンくらいはありそうです

あ〜。じゃあ、その3択に賭けてボタンを押してるってことですか?

いえ、クイズプレーヤーは1行目を聞いただけでこの先に続く文章が分かるんです

??? 魔法みたいなこと言い始めた

 

問題を読みあげている人の声をよく聞くんですよ。すると、例えば、日本で「一番」高い山は……のように、わずかにイントネーションで強調される箇所が分かります

 

もし「一番」が強調されていたら、次に続く文章では「一番」と対になる部分を問われるはず。なので続く文章では「2番目に」高い山は? がくるだろうと予想して、ボタンを押すことができるんです

 

日本で一番高い山は富士山ですが
 世界で一番高い山は何でしょう?

▼日本で一番高い山は富士山ですが
 日本で2番目に高い山は何でしょう?

▼日本で一番高い山は富士山ですが
 日本で一番低い山は何でしょう?

こんな感じで、出題者の読み方だけで最終的に何を聞かれるのかを先読みするんですよ

 

!?

なんか、今すごい裏側の話しませんでした??

それもう答えを知ってる知らないどころの話じゃないですよね

知識は知ってる人には平等なので。その中で誰よりも早くボタンを押すにはこういうテクニックが必須になりますね

 

こんな感じで、競技クイズは知識だけじゃなく、早押しの反射神経やテクニックを競う場所でもあるんです

すごい世界だ…! 他にもそういう技があるんですか?

そうですね。よく使うのは「読ませ押し」かな

 

例えば、こういう問題があったとします。最後まで読んだらみくのしんさんも答えが分かりますかね?

トリュフですよね。食べたことないんだよな〜。一回食べてみたい

この問題に誰よりも早く答えたいと思ったら、みくのしんさんならどこでボタンを押しますか?

どこだろ…。あまり早く押しすぎても「キャビア、フォアグラ、トリュフ」の順番が分からないと、3つ目にくる答えが分からないもんな

 

じゃあ……2つ目の最初の文字が聞こえたくらい? フォ…が聞こえたら3つ目にトリュフがくるって分かりそう

いいですね。みくのしんさんも早押しが分かってきたんじゃないですか?

へへっ

 

でも、クイズ王はもっと前で押します

 

ここです

 


なんで?

まだ1つ目しか聞いてないのに、3つ目が分かるの? まじで魔法じゃん

ここでも、問題を読み上げている人に注目するんです

 

問題を読んでいる人からすると、ボタンが押されたからって急に読むのを止めることはできませんよね。「キャビア、」で言葉を止めたとしても、その口は次の単語を言おうとしてるはずです

……嘘でしょ?

なので、「キャビア、」の「、」の部分でボタンを押せば、その後に出題者の口から思わず漏れてしまった「フォ……」を聞き取ることができます

マジで言ってんの!??

 

ここで「フォアグラ」になりかけの音を聞いてるってこと???

そうです。「かすかにフォが聞こえたな→2個目はフォアグラか→じゃあ3個目はトリュフだ」と判断するんです

 

すごすぎる

RTAのスゴ技を聞いてる気分だ…。クイズってすげぇ……

 

こんな日本語のバグを利用するみたいなことやってたんだ

 

すみません! この人、すごい人でした!!!

恐縮です

こんな裏側しゃべっていいんですか? 大丈夫ですか? クイズに消されません???

大丈夫です。誰でも使っている有名なテクニックですから

 

クイズにまつわるテクニックを教えてもらうみくのしん。

競技に特化したクイズならではの本格的な技術ですが、その分、クイズの世界の奥深さを感じ取ることができたようです。

 

みくのしんは、どうやったらクイズが楽しめると思う?

正直に言うと楽しみたくない。クイズが解けないままでいいと思ってる

つい先日はこんなことを漏らしていましたが……

 

すごい世界だ! かっこいい!!

数分前と同じ人間とは思えないな

俺もやってみたい!!!

会話ってこんなに効果があるものなんだ

 

プロのクイズ作家と会話することで、クイズへの偏見・誤解を改めることができたみくのしん。

あんなに忌み嫌っていたクイズに対して、ここまで態度が変わるとは思いませんでした。

まずは相手のことを知るのが大事。何事もそうなのかもしれません。

 

休憩スペースで雑談しながらこの日の撮影は終了。

今のみくのしんなら「クイズって面白い!」と思える体質になっていることでしょう。

 

 

>>いざ! クイズ勝負!<<

 

この記事は「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」の提供でお送りしています。