「ハムスターが自ら手をのせてくれる時、こいつは安全な奴だという信用の証なんですよね」

 

「あの子が初めて手をのせてくれた時、私は今までにない幸せを感じました」

 

「あの時のあの瞬間、初めて小さな生き物が自分の意志で乗ってくれたあの感動、それを求めるために続けてきたって感じはありますね」

 

 

 

 

 

 

 

フェルトを張り付けた謎の仮面の下で、男は幼少時代を語る老婆のような笑顔で語った。

 

 

 

 

 

 

 

彼は 齧歯瓦 公太郎 げしがわら こうたろう(34)。

ハムスターお手々職人と知られ、日々ハムスターの手を自室の工房にて制作している。

そのクオリティは高く、あるハムスター界隈において人気を博しています。

 

齧歯瓦 公太郎 げしがわら こうたろう(34)

1989年生まれ(34歳)。3年ほど前から仕事の傍らハムスターの手を作っており、そのクオリティと絵面の猟奇さから一定の人気を得ている。現在は脱サラしハムスターお手々職人一本で生計を立てている。

 

本日は齧歯瓦公太郎さんが作るハムスターの手について詳しくインタビューしていきます。

 

きっかけは失敗から

 

───ハムスターお手々職人として知られる齧歯瓦さんですが、何故ハムスターの手を作り始めたのですか?

 

きっかけは3年前、インターネットで見た羊毛フェルト作品からですね。リアルに作られたハムスターの作品でそのクオリティに驚いたのもありますが、以前ハムスターを飼育していたこともあり、私も作ってみたいと思いました。早速材料を買ってきて作ってきたのはいいものの

 

こんなかんじでかなり不格好な出来になっちゃいました。

 

けど、妙に手だけうまくできたんですよね。

本当に異様に。

 

それからハムスター本体は作るのをあきらめて、手だけ作るようにしていたら、いつの間にか職人と呼ばれるようになっていました。

 

───もともとは手だけではなく全身を作ろうとしていたと。独特なきっかけですね(笑)。

初めてハムスターの手を作ったのは3年前と聞きましたが、今まで何個ぐらいのハムスターの手を作ってきたのでしょうか。

 

はっきりと覚えてはないんですけど3年間で2000本ぐらいにはなるかな?

まあ人にあげちゃったりもしてるから、手元に残ってるのは200本ぐらいかな。

 

 

───2000本!とてつもない数ですね……

制作するハムスターの手に種類は決まっているのでしょうか。

 

ほとんどはゴールデンハムスターの手ですね。以前ゴールデンハムスターを飼育していたのであの子の手を再現したい、そういった気持ちが強いです。

後ろに置いているのはその子を飼っていた水槽ですね。

片付けようと思ったこともあるんですけど、なんか手が動かず、亡くなってから3年以上ずっとここに置いています。

おかげで少し机が狭いです(笑)

 

 

 

 

 

ハムスターの手にそそぐ情熱

 

───ハムスターの手を作るときのこだわりなどはどのようなものがありますか。

 

出来るだけハムスターの手の特徴を再現しようとしていますね。ハムスターを含むげっ歯類の仲間は哺乳類の中では霊長類の次ぐらいに手先の器用な動物で、両手で物を持てるのはもちろん、片手でも持てるぐらいの複雑な手を持つ種類がいます。

ハムスターの指は4本で人より少ないですが、小指に当たる指が短く握ると、手のひらが器のような形になります。また指先と手のひらに柔らかく大きな肉球があり、これも握りやすさに一役買っていると思います。ハムスターは1日で20km走ると言われるほどよく走る動物なので、肉球はクッションとしての役割も大きそうです。こういったところをできるだけ再現しようとしていますね。

 

そうそう、ハムスターの手って種類によっても違いがあって、そこも面白いんですよ。

例えばジャンガリアンハムスター。

彼らはカザフスタンやシベリアとかの寒い場所にすんでいて、熱を足の裏から逃がさないようにするため毛が生えてるんですよ。

同じような寒い場所に住むロボロフスキーハムスターも足の裏に毛が生えていますね。

 

これは世界最大のハムスター、クロハラハムスターをイメージして作った手です。ヨーロッパからロシアにかけての広い範囲に住み、気性の荒いハムスターでお腹の模様を見せながら後ろ足で立ち、威嚇する姿が好きですね。

クロハラハムスターは日本ではほぼ飼われていないハムスターで情報が少なく、手を作るときはいつも苦戦しています。

 

 

 

 

時にはこんな道具も使う。ハムスターお手々づくりは自由だ。

 

 

 

お手々はなんだってできる。自由だ。

 

 

───齧歯瓦さんはハムスターの手の販売もされているようですが、購入される方はどういった方が多いですか?

 

やっぱりハムスター好きの方ですね。特に最近は以前ハムスターを飼っていた方がその形見のような意味で購入されることが多いです。近年は高クオリティのハムスタ-人形を作られる方が多い中、手しか作れない私の作品を購入してくれるのは本当にありがたいです。使い方としては遺影の横に置かれたり、ストラップにしたり、スマホカバーにつけたり、様々な方がおられますね。

 

皆様各々の方法で大事にしていただき、うれしい限りです。

 

───ハムスターの手にそんな使い方が!

では、齧歯瓦さんのハムスターの手への気持ち、使い方なども教えてほしいです。

 

そうですね……

……私にとってハムスターの手って、あの子からの信用なんですよ。

 

あの子と暮らし始めた頃の話です。ハムスターってなかなか警戒心が強くて、思うように慣れてくれないんですよ。

あの子も警戒心が強い子だったので根気よく手からおやつを与えて徐々に慣れてもらいました。

そして飼い始めて1か月ぐらいかな。初めて手の上に自分から乗っておやつを食べてくれたんですよ。

 

 

ハムスターが自ら手をのせてくれる時、こいつは安全な奴だという信用の証なんですよね。

あの子が初めて手をのせてくれた時、私は今までにない幸せを感じました。

あの時のあの瞬間、初めて小さな生き物が自分の意志で乗ってくれたあの感動、それを求めるために続けてきたって感じはありますね。

 

 

 

そして、私が作ったハムスターの手の使い方ですが、

 

こちら、どうぞ

───これは!!!

ハムスターお手々ボールペン!!!!

 

紙に文字を書いてみてください。

 

何か見えませんか?

 

───別にただのハムスターの手がついた猟奇的なボールペンですけど…

 

 

 

───あれ?

一瞬、ハムスターが私の指を持っていたような……

 

見えましたか? それはイマジナリーハムスターです!

 

───イマジナリーハムスター!!なんですかそれは!?

 

そうですね……。少し外に出て話しますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしがハムスターの手を作り始めて、少し経ったぐらいですね。日々お手々を作ってあの子が消えて、覚えた悲しみを慰めていたんですけど、どこか物足りなさをかんじていました。

ある日作ったハムスターを手にのせて眺めているとふと、あの子が見えたんです。

 

私はそれをイマジナリーハムスターと言いました。イマジナリーハムスターではあの子とまた会うことが出来ます。

 

 

 

───ハムスターが花を持っている!

 

イマジナリーハムスターでは僕とあの子は、自由に外を散歩できます。

───ハムスターが木の実を持っている!!!

 

イマジナリーハムスターにおいて、ハムスターはなんだってできます。

 

───ハムスターがスズメバチを食べてる!!

 

───ハムスターがスズメバチを食べてる!!!!!!!

 

───ハムスターがスズメバチを食べてる!!

 

 

 

行きましょう!イマジナリーハムスターと会いに!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから私たちは一日中イマジナリーハムスターと遊んだ。

私たちのイマジナリーハムスターは野草を食べ、林を走り、木陰で昼寝をした。

そしてスズメバチを457匹捕食した。

イマジナリーハムスターは自由だった。

 

 

 

そして不思議な事が起こったのだ。

 

 

 

───本日はありがとうございます!

初めてイマジナリーハムスターを体験して、新鮮ではあるんですが、どこか懐かしい気持ちを感じることが出来ました!

それでは最後に記事に使う画像を何枚かとれせていただいてもよろしいでしょうか?

それでは、あの辺りで……そう!自然体な感じで……

 

───いいですね、その感じで別の場所でも何枚か……て、あれ?

なんか齧歯瓦さんの肩、変な物ついてません

 

え、どれですか?

 

これは……ハムスターの手!

 

 

───でかすぎません?

 

この質感、指の数、毛並み、間違いなくハムスターの手です!

 

───いやハムスターにしてはでかすぎますよ!熊ぐらいありますよ!!

って、齧歯瓦さん!まだ手!肩についてます!!!

 

え、うそ!!!

 

重みがすごい!!

 

爪が鋭いなあ……

 

───人殺せそう。

 

えっと……ところでこれどうします?

 

えっ……と……

 

 

 

 

 

……玄関に飾ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっきり言おう。

齧歯瓦公太郎は狂人である。

彼はハムスターの手を大量に作り、いるはずもない幻想を持ち続けた。

あの子が無くなってから3年以上、毎日、毎日、神仏にすがるように幻想を持ち続けたのであろう。

その結果何が起きたかは皆様ご覧になられただろう。

 

あの大きな手が何者なのかを、私は断言することはできない。

しかし一つ言えることがあるなら、齧歯瓦公太郎は、あの子と会うためこれからも”お手々”を作り続けるだろう。