皆さま、買い物での失敗、したことありませんか?
例えば、筋トレのために買ったが1週間で飲むのをやめた
プロテイン1㎏。
休日の趣味にと買ったが、1枚も描かずに放置している水彩絵の具。
Amazonで買った4000円のデカいダンベル。
金銭に余裕があった、気分が乗っていた、めちゃくちゃ安い、こういった理由で買ったが消費できずに、ずっと冷蔵庫や押入れに鎮座し続ける負の産物の数々。
ふと自宅を思い浮かべると誰もが心当たりがあると思います。
私にもあります。
冷凍したコンニャク芋2㎏です。
このコンニャク芋との出会いは、ちょうど1年前、私が三重県にて一人暮らしをしていた時です。
2021年10月凡日。休日。すっきりと晴れた朝空を前に、私は休みを満喫しようと、ある場所に向かいました。
曽爾高原
奈良県にある高原で、秋になると一面に生えたススキに穂が実り、あたりを金色に染め上げる光景が見られます。
そこで美しい高原の景色を楽しんだその帰り、車道脇にあった無人販売所にて私は奴と出会いました。
その販売所は木造建築の倉庫のような建物で、周囲に田んぼと森しかないような場所でひっそりとあります。
中を覗くとプラケースの上に板を載せて作られた台に、買われた痕跡のあるサツマイモ数袋と、触れられた跡のないコンニャク芋十個程が乗っており、興味をひかれた私はコンニャクイモに貼られた値札を見ました。
私はその驚愕の値段の前に、迷わずジャムの瓶を応用したお金入れに300円をぶち込みました。
買ったコンニャクイモ。1個で4㎏。
「コンニャク4㎏ぐらい頑張ったら食べれる。」
そう思いながら意気揚々と巨大な芋を持ち帰り、そういえばコンニャクの作り方を知らなかったと気づいた私は、適当にスマホで作り方を調べました。
「へー。コンニャクて、製造過程で四倍に膨らむんだ……」
コンニャクイモが4kgあるのでその四倍の16㎏。
私は一人で16㎏のこんにゃくを消費しないといけないことになりました。
だが、そんなことでへこたれる私ではありません。
私は料理には自信があります。
月の食費を1万5千円に抑えるため自炊を心掛けていた私は、毎日弁当を作り、週末には常備菜を調理していたおかげでたいていの物は作れます。
コンニャクだって朝食の目玉焼きのように簡単に作れるでしょう。
だめでした。
店頭に置いてある四角いコンニャクを作ろうとしましたが、鍋の中でくっつき巨大な塊になり、ひどく不格好なコンニャクに。
コンニャク作りは2回行いましたがどちらもこんな形になりました。
味は大変美味しかったですが、消費するのに1か月以上かかり、朝昼晩おやつのこんにゃく生活を続けコンニャクの夢を見るような事態に。
それ以降コンニャク作りに気乗りがせず1年間、月一の楽しみである業務スーパーでの爆買いを犠牲に冷凍庫に保管していました。
そして私は今実家で暮らしています。
残り2㎏のコンニャクイモは実家の冷凍庫にあります。
以前は一人暮らしで自由に冷凍庫を使えましたが、実家の冷凍庫は同居人の共有財産、家族に迷惑が掛かります。
冷凍庫の管理者である母親は優しいので
「コンニャク芋のせいで冷凍庫が狭い」
等口に出すはありませんが、月に一度の楽しみであるコストコでの買い物時、いつもより小さく膨らんだエコバックを持ってどこか悲しい顔をしていました。
毎回買っていた冷凍ブルーベリー1㎏も買ってきていません。
だから私は8㎏のこんにゃくを作ります!!
家族の平穏を守るため!
母親のブルーベリーを取り戻すため!
そして1年に渡るコンニャクとの因縁に決着をつけるために!
コンニャクを作る
今回コンニャクを作るにあたっての目標です。
それではコンニャクを作っていきます。
まず、コンニャク芋を解凍し火を通すため鍋で煮ていきます。
そのために用意したのがこちらのデカい鍋です。
買ったものの、使い時がなく物置に数年放置していた鍋。こちらも失敗した買い物の一つです。それを今、生かします。
こちらにお湯を沸かし
2kgの芋をドン
菜箸が楽に刺さるぐらいまで煮ていきます。
20分ほど茹でた結果がこちら。表面が粘液でぬるぬるしコンニャクになる片鱗を感じさせます。
茹で上がったらざる上げます。
茹でたコンニャク芋がこちら。
黒い部分がコンニャクの皮。これがコンニャクの黒い粒になります。
ちなみにコンニャク芋、シュウ酸カルシウムという針状の形をした毒を含んでおり、手に触れるとかゆみや痛みなどを伴うので触る時は絶対にゴム手袋をしてください。
ところでコンニャク芋、一体どんな味がするのでしょうか?
試しに食べてみましょう。
ぱく
うーん意外と大丈夫。
味はコンニャクじゃないな。少しシャリシャリしている。長芋に近いかな。
ん?
あが
あがが
あががががががががががあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
すみませんあまりにもの不快感に山形コロッセオ剣闘士おばあちゃんが出てしまいました。
何でしょうこの感覚、トウガラシやワサビのような刺激ではなく、後からくる小さなとげが無数に突き刺さるようなえぐみ。呑み込めずに吐き出しましたがそれでも喉や舌に不快感が残ります。
なんでこんな物を食べれると思ったんでしょうか?先人の偉大さを感じます。
ただ1年前、生で食べた時と比べたらだいぶ弱いです、熱を通したからでしょうか?
ちなみにこのシュウ酸カルシウム、最強の痛みといわれる尿路結石の主成分らしいです。なんなんだよこいつ。
とりあえず、絶対に真似しないでください。
つづいてミキサーを使ってコンニャク芋をすり下ろします。
この時芋の3倍の量のぬるま湯が必要になるので6㎏のぬるま湯を用意します。
ミキサーに適量のこんにゃくと、500mlのぬるま湯を入れ。
ミキサー
これを12回繰り返します。
12回摺り終わったものがこれ。あまりにも量が多く、鍋からあふれたので一部ボウルに移しました。
次にすりつぶしたコンニャクイモを練っていきます。
ここで良く練り粘り気を強くすると、固いコンニャクが出来るらしいです。
今回は煮物用の固めのコンニャクを作る予定なのでしっかりと練ります。
煮たアツアツのコンニャクイモと、ぬるま湯が入っているので結構熱いですが気合で我慢します。
練り終わり程よい粘り気になったら、凝固剤としてアルカリ性の薬品を入れ固める工程に入っていきます。
コンニャクにはグルコマンナンという水溶性の食物繊維が含まれており、これがアルカリ性と反応することで不溶性の食物繊維になり固まるらしいです。
以前この作業を行ったとき重曹(炭酸カルシウム)という薬品を使ったのですが、固まりが悪かったので今回はよりアルカリ性が強い別の薬品を用意しました。
こちら消石灰(水酸化カルシウム)1㎏です。
これを20g計りお湯に溶かします。
残った水酸化カルシウム980gは使い方がわからないので押入れにしまっておきます。
次に用意した消石灰を溶かしたお湯を、先ほど練ったコンニャクに注ぎながら勢いよく練るように混ぜていきます。
ここで練りが甘いと固まらないので本気で手を動かします。
毎度思うんですがコンニャクを作る時に一番大変な作業はこの工程だと思います。
コンニャクを混ぜるのは力がいりますし、均一にしないといけないため10分ぐらい練り続けなければなりません。
しかも混ぜる途中、ゴム手袋を雑につけたせいで腕にコンニャクが付きひりひりしてきます。正直しんどいです。
ちなみにYouTubeで「コンニャク 作り方」と検索すれば、これ以上の量のこんにゃくを素手で混ぜる、おばあちゃんの動画があります。
奴らは超人です。
コンニャクを練り終わったら型に入れ30分から1時間ほど放置します。
時間がたったら、型から取り出し
沸騰した熱湯に入れ茹でます。
コンニャクに含まれているシュウ酸カルシウムは熱に弱いのでここで除去されます。
コンニャクを入れるときは熱湯がはねないように注意しましょう。
私は勢いよく投入したため熱湯が飛び出しやけどしかねました。
後はじっくり1時間ほど茹で、
灰汁取りのため煮汁を捨て、もう1時間湯でたら。
出来ました。調理時間約6時間。コンニャク8㎏です。
キッチンに佇む得体のしれない岩のような何か。食文化の違う異世界に迷い込んだ気分になります。
皿に移してみました。
現場にいるとコンニャク独特の土のような芳ばしい香りがしておいしそうなんですが、写真で見ると食べ物とは思えません。
まあ一応四角くは出来たので目標達成です。
ジャムとバターを置けば狂ったお嬢様が作った、初めてのパンケーキみたいになるかと思いましたが駄目でした。
コンニャクを食べる
さて、料理は作って終わりではありません。おいしく食べてこそ料理の完成です。
というわけで8㎏のこんにゃくをおいしく調理していきます。
今回私がコンニャクを作るにあたってどうしても作りたい料理が一つあります。
奈良県黒滝の道の駅にある串コンニャクです。
手作りだと一口でわかる大雑把な食感に、しみしみに染みた醤油ベースのピリ辛煮汁。
山間のきれいな空気も合わさってまさに絶品の味です。そしてお値段驚きの100円。
小学生の頃初めて食べた時から、この味の虜になり近くを通るたび買っています。これを目標に作っていきます。
まず醤油に白出汁、酒とみりんにトウガラシ。
これらの調味料を適当に水に注ぎ、こういうのが一番うまい煮汁を作っていきます。
次にコンニャクを切り分け
用意した煮汁に切り分けたこんにゃくとゆで卵を加え90分ぐらい煮ます。
適当に火の番をしながら90分。出来ました。コンニャクの田舎煮です。
からしをつけて頂きます。
それではいただきます。
うん!おいしい。
長時間煮込んだことで煮汁が染みこみ濃い醤油の味わいに。トウガラシの辛みがアクセントになって食が進みます。
酒のつまみとしても良さそうです。
ただこれで終わりではありません。
「煮物って明日から本気出すマジのやつ」
一晩おけば味がより染み更に濃厚なコンニャクを味わえます。
楽しみですね。
他にも
もつ煮込み
を15人前ぐらい作ったり
刺身コンニャク
田楽コンニャク
炊き込みご飯
コンニャクのおかか煮
コンニャクの赤ワインコンポート(砂糖煮)
と多くの調理を楽しみました。
どれも美味しかったです。コンポート意外とありです。
こうして2週間。家族の助けもあり。あれだけあったコンニャクもすっかりなくなりました。
一人暮らしの時は消費に1か月もかかったのに、同居人がいるとこんなに早く消費できるとは。
家族って良いですね。
そして最後に残ったコンニャクがこちら
2週間冷蔵庫に寝かせたこんにゃくの煮物です。
さて、これを今から食べようと思いますが、どうせなら最高のコンディションで。
というわけで
山に来ました。
大阪府六箇山。標高395mと低い山ですが小腹を空かすには丁度良いです。
近くにあった手ごろな机の上で、アウトドア用ガスコンロを使って温めていきます。
鍋の中で沸騰する煮汁、そこから漂う湯気が濃い醤油の香りをまとい鼻腔を突きます。その場でいるだけで食欲が沸きます。
温めを終わったら串に刺して食べやすく
完成しました。うまい煮汁に2週間で寝かしたこんにゃくです。……いや1年間、共に暮らしたコンニャクです。
このコンニャクは食べ物にしては思えない長い付き合いでした。
曽爾高原での出会いから始まり、1か月のこんにゃく生活で絶望し、冷凍庫にしまった後は、毎月買ってきた冷凍肉をしまうスペースを開けるためのコンニャクの位置決めに悪戦苦闘していました。
生クリームを作る時、冷やすために氷として利用したこともありました。
オモコロのライターになれたのもこのコンニャクのおかげなだったが気します。
これは手間、暇、時間、足すべてを懸けた人生最高のコンニャクです。間違いなくうまいです。
だったらやることは一つ。
即、齧り、咀嚼し、あの言葉をいう。それが食べ物への最大の賛辞。
それでは
いただきます
……
……
うまい!
こうして私の1年に渡るコンニャクとの因縁は決着しました。
冷凍庫も、すっきりとしたスペースが開き、ブルーベリー1㎏は余裕で入りそうです。
これで母も満足な笑顔でコストコに行けます。
最後に一つ
一人暮らしは
コンニャクイモを買うな!
以上ビタパンの記事でした。