最後の挑戦者:原宿
僕、むかし本屋で働いていたことがあるんですよ。
え、書店員だったんですか!?
だから今日は当然のようにいい本と出逢いながら、宝箱も見つけて、完璧な本屋巡りをしたいと思います。
宝箱については、ぜひお願いします。
10個置いたのに、まだ1つしか見つかってない。
期待が高まる中…
まずはここを見ないとですね。1Fの新刊コーナー。
今日はじめて見てくれた…。
僕も書店員だった頃、こんな感じで並べてました。新刊の底に箱を挟んで、底上げするんです。
いきなり書店員目線だ。
あ、この本はすごくよかったですね。
『苦しかったときの話をしようか』
[森岡毅著・ダイヤモンド社] 稀代のマーケターが、大学生になった我が子のために、就活・昇進・転職・起業などキャリア形成について書きためていた文書。
著者が娘さんに語りかけるように書いてらっしゃるんですけど、なんかもうそれがね。ものすごい入ってくるっていうか。僕にも娘がいるんで、すごく共感できます。一番近い人に向けて書いてる本っていうのは、良いなと。
書店員の紹介を聞いてるみたいだ。
そして出た出た、話題書のタワーですよ!
ここですよね、やっぱりね。もうジュンク堂池袋本店といえば、このタワーです。みてください、この立体的な美しさ。
本屋のレポートがうますぎる。
これなんかも、かなりおすすめです。
『たったひとつの冴えたやりかた』
[ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア著・早川書房] 16歳の少女コーティー・キャスは、誕生日にもらった宇宙船で、未知の宇宙へ大冒険の旅に出る。
マジで泣けますよ、これ。
レポートは上手いけど、さっきから読んだ本ばっかりだ。
なんか年をとると、若いときに良かった本を何度も読んじゃうんだよな。昔の記憶を噛み締めて生きていく。
今日は新しい本と出会ってください。
そうだな…
こういうポップの紹介文は、やっぱり読んじゃいますよね。
書店員さんの本への偏愛を感じ取れるっていうのが、本屋に来る醍醐味の一つだと思うんですよ。多分みんなめちゃくちゃ本を読んできた人なんで、そんな人がここまで推してくれるなら……と納得しちゃう。
(目の前に宝箱があるのに、全然気づいてない…!)
そういう風に熟練者の熱を感じることで、どんどん購買意欲が湧いてくるのも、本屋の面白いところですよね。
あの、何か見えませんか?
え? あ、10倍ポイントフェアをやってますね!
そうじゃなくて、宝箱的な…。
え…? あ、あるじゃん!!
本に夢中で、マジで気づかなかった。
宝箱の中身は…
「ヒント」って書いてありますね。
「財宝は、社会の案内人が持っている」
え?
これは、一番大きな財宝…つまり予算が増えるアイテムのありかを示したヒントです。
なるほど、予算が増えるのはありがたいですね。「社会の案内人」って誰だろう…。
気になるけど、このタワーが面白くて出られない。
『くじ引きしませんか? ― デモクラシーからサバイバルまで』
[瀧川 裕英 編著・信山社] 人生に対して運が作用することをどう評価するか。運の平等主義と結果の不平等を多角的な視点から考究する。
「くじ引き民主主義」って考え方があるんですけど。例えば、マンション理事会ってくじ引きで決まるんですが、それでもちゃんと議論ができる。政治もそうあっていいんじゃないか? という問題提起なわけです。これからの時代に重要な概念じゃないかと思っていて、この本はぜひ読んでみたいですね。
『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』
[クリステン・R・ゴドシー著、河出書房新社] 旧東側の女性は西側の女性に比べセックスの満足度が高かった!?時代の閉塞感を打破する一冊。
これもすごく興味深いですね。なんか最近、「セックス」っていうものが社会の表側で語られなくなっている気がして。本来は人間の幸せの根本に関わる重要なものなのに、避けて通る人もかなりいるよなと。例えば、僕と岡田さんも、セックスの話をしたことがないわけじゃないですか?
ないです。
話す内容がセクハラ的になると問題ですが、もっとオープンかつ理性的にセックスの話を、できないものですかね? この言い方自体がなんかキショくなっちゃうんですけど。
『私たちはなぜ犬を愛し、豚を食べ、牛を身にまとうのか: カーニズムとは何か』
[メラニー・ジョイ 著・青土社] カーニズムの成り立ちを、社会心理学的視点から分析し、その仕組みを解き明かす書。
確かになんで? なんで犬を愛し豚を食べるの? なんでだろう。
ずっと素直に気になってる。
このタワー、一冊一冊がめちゃくちゃ刺さってきます。ずっといられる。
このタワーだけで終わりそう。
やばい、どうしたらいいんだこれ。このタワー、マジで終わらないじゃん。
宝箱のこと忘れてません?
いや、宝箱はさっき取ったし…
あ!? また目の前にあった。びっくりした…
本に夢中になりすぎてる。
マジでわかんなかったな。今回の宝箱は…「召喚」って書いてある。
ベテランの書店員さんを召喚して、原宿さんの興味のありそうな本を紹介してくれます。
じゃあちょっと趣向を変えて、「リトルプレス」を読んでみたいです。
1Fのタワーで長時間を過ごした原宿。書店員を召喚し、その横にある「リトルプレス」の棚に移動します。
リトルプレスの担当者です。
リトルプレスって、個人で作ってる本ですよね?
そうですね。最近は個人で作るのが楽しい、という動きが広がっているんです。個人制作とは思えないほどクオリティが高い本が、たくさんありますよ。
『LOCKET 第5号』
編集者・内田洋介による独立系旅雑誌
これ個人で作ってるんですか!?
やばすぎる。こういう本はどうやって見つけてくるんですか?
例えば文学フリマを見に行って、お声がけしたりしてます。
文フリルートがあるのか。
この本なんかもそうですね。
『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』
[植本一子/滝口悠生著] 写真家の植本一子と、小説家の滝口悠生の往復書簡
そして『すばる』最新号に、文フリの会場でこの本が販売された様子が紹介されてます。
『すばる 2022年8月号』[集英社]
流れるように本を紹介される。
これがプロの紹介か…。
こちらの本なんかは、原宿さんにおすすめですよ。
『大人ごはん Vol.4』[Incline]
食を通して人・社会・文化を考えるリトルプレス『大人ごはん』。最新号は「いろんな状況で食べる」
え!?黒沢清監督のインタビューが載ってるの!? 僕、めちゃくちゃ好きなんですよ。
黒沢さんが、食事についてここまで話されることは滅多にないと思います。映画関連のライターの方が、ツテでお話を伺えたらしくて.…..これもある意味、リトルプレスならではかもしれません。
これ絶対買います。
一撃で仕留めた。
やっぱりこういう棚から、次の業界を担う人材が出てくる気がする。読者としても、あのリトルプレスのときから知ってたよ..…みたいな顔ができて、要チェックのジャンルだと思いました。
まだ1Fしか見てない。
キープした本は10冊近くありますね。
三千円じゃ全然足りないんだけど。
宝箱を見つければ、買える本も増えますよ。
そうだった。「社会の案内人」って誰だろう….ひろゆき?
違います。フロアマップをよく見てください。
…あ、5Fは「社会」のフロアだって書いてあるな。
そうです。だから5Fに行きましょう。
謎解きが投げやりになってない?
だって誰も見つけてくれないから。
スタート付近で30分を過ごした原宿。キープした大量の本を抱え、最後に予算を増やすべく5Fへと向かいます。
ビジネス書がたくさん並んでる。
本屋で働いていた時は、僕もビジネス書担当だったんですよね。で、こんなふうに、背表紙を棚にピッタリ合わせろって言われてたんです。全部揃えると、めちゃめちゃ綺麗に見えるので、徹底してやってました。
本をちょっと手前に持ってくるってことですよね。お客さんが触るたびにずれるから、揃えるのが大変そう。
それがポイントなんですよ。お客さんが一度手に取った本は、奥まで凹んでる。それでどの本が人気なのか、このテーマがきてんのかな、みたいなのが視覚的にわかるんです。
買われるまでいってないけど、「気になられてる」本がわかるんですよね。
アナログだけどすごい。
あとは財宝を見つけるだけなのに、「案内人」がわからないな…。案内人って何!?
やっぱひろゆき?
違います。案内してくれる人ですよ。
案内…
地図をよく見てください…
あ!
「ご案内カウンター」だ!!!
やっと気づいてくれた!!
ご案内カウンターへ急げ…!
ここか…?なんもないけど…
あ、この本、なんか怪しいな…
本型の宝箱になってる!!!
おめでとうございます!図書カードの贈呈です!
よっしゃあああ!
原宿さんが3人分を総取りです。9千円プラスで、予算は1万2千円になりました。
引くくらい金が増えた。
っしゃあ!
書店員時代を懐かしみながら、見事「ご案内カウンター」にて図書カードをゲット。足を運んだ階こそ少なかった原宿ですが、多岐にわたる本を手に取りました。
本を買う
大体買える。こんな豪遊が許されるなんて…。
最高。
感想戦
やっぱり本屋に来ないと、こんなにいろんなジャンルの本を手に取らないんで、本屋は日常的に行った方がいいなと思いましたね、マジで。
ネットだけだと、こんなにいろんな中から選ぶってことはないんで。分母を広げる意味でも、本屋っていうのを絶対使った方がいいなと。
選んでる方の熱も感じられる本屋があるっていうのは、本当に社会の財産ですよ。公共資本ですよ。コモンズですよ。
本がいっぱい買えて上機嫌だ。
あと、宝箱はまじで気づかない。
本屋では本に目がいく。
大量の本を抱え、満足げに帰宅していきました。
終了後…
ご協力ありがとうございました。
我々も非常に勉強になりました。今後の棚づくりの参考にしたいと思います。
宝箱は全然見つからなかったですが、それくらい本に集中してもらえるのは、嬉しかったです。
でも、誰もダンジョンの最深部、「ふるさとの棚」までは辿り着きませんでしたね。
9Fの最深部には、「ふるさとの棚」というコーナーがありました。
洋書コーナーの奥にあったんですよね。
みんな洋書が見えた途端、引き返してました。配置を考え直した方がいいかな…
あそこに一番大きな宝箱を用意してたのにな。
なんのアイテムでしたっけ?
「停止」です。終了までずっとふるさとの棚の前で停止してもらう予定でした。
めちゃくちゃ罠だ。
今回は撮影の都合上、制限時間がありましたが、本屋ってゆっくり過ごしたい場所ですよね。一日中だっていられます。だからちょっと、立ち止まる時間もつくりたいなと思って。
「知らない棚を歩く」という話がありましたが、そういう普段知らない場所で立ち止まるのも、本屋の魅力だと思います。
これからも、いろんな「宝」との出会いを楽しんいただきたいですね。
立ち止まるのも、ただ歩くのもいい。巨大書店も、街の小さな本屋もいい。
みなさんも、ふらりと近所のダンジョンへ、冒険に出かけてみてはいかがでしょうか。
お知らせ:本屋と本を語るイベントをやります
本屋のことをもっと語りたいので、トークイベントを開催します!
今回ご協力いただいたジュンク堂書店池袋本店にて、本の魅力から自慢の積ん読本の紹介まで、本に関するいろんなことを岡田と原宿が話します。オンライン配信チケットが500円で販売中です!安すぎる。よければ是非!
*追記:会場チケットは好評につき完売となりました。