「いや、正直意味わかんないですけど笑」
場が凍りついた。将軍は「え?」と漏らしたあと、頬を引き攣らせた。
「意味がわからない、と申すと」
「だって、私に頼むようなたぐいの問題じゃないですよね。絵から虎が飛び出すんですか?今そこに居ますけど。ピクリとも動きませんけど」
「うーん。なんか違うな」
「なにがですか?」
「見事な切り返し、を期待していたのだが」
「どういうことですか?」
「あの、ほら。そちはとんちで有名らしいから。無理難題を突きつけられた時の切り抜け方を楽しみにしているわけであって。そんな虎?虎が屏風から飛び出してくる?そんなことある?」
「えっ?嘘なんですか?」
「嘘に決まっている」
空気が、より一層ひりついた。遠くから、川のせせらぎさえもが聞こえてきた。
「ちょっともう、勘弁してくださいよ。どういう集まりなんですかこれ。いい大人が集まって。ただの嘘聞かされて。飯食って解散するんですか?我々はいいですけど、みんなやりたいことがあったと思いますよ。本来。この時間で」
ただ、気まずい時間だった。屏風はいつの間にか撤収されていた。
次の日、一休は処刑された。
ついでに師匠も。
ーーー
一休は死の間際「思ったことを正直に話せたんだし、それで殺されるなら本望。というか、生きてたってしょうがないか。くだらないっすわ」との諦念を抱いており、達観した様子だったと伝えられる。
「ねえ、あの時のあれって上手いこと進んでるんだっけ?」
「ああ、あれですか。順調ですよ。話通しておいたんで、問題ないです」
「それなら良かった。基本的に任せておくから。何かあったら連絡してね」
「OKです。お疲れ様です」
一休の非業の死に恐れ慄いた者たちによる、このような「身を守るための空疎なやり取り」が、都から、日本中にじわりと蔓延したのだった。